#42 体育館
前回ああいったのにまた更新が遅れてしまって申し訳ない...。
忘れるはずもないその顔を見てまず思ったのは、なんで煌成とあいつが一緒にいるんだ?という理解不可能な現状への疑問だった。確かに煌成は部内の誰とでも仲が良かった。あいつも例外じゃない。
僕が不登校になってからも仲は変わらずだったかもしれないけど、あいつは今僕を虐めていたのをきっかけに大変なことになってるはずだ。煌成とこうして会う理由が分からない。
動きが止まる僕を待ってくれるわけもなく煌成たちは歩き出した。
「.......ふぅ....」
深呼吸して、僕も足を踏み出した。
「ここは...」
着いた先は体育館。子の時期は締まっているのかと思ったが、案外そうではなかった。
鍵がかかってる様子でもなく、ぞろぞろと入りだした。
というか、他の人たちは誰?煌成は一向に何も話してないっぽいし。
バレないようにと、少し離れた自動販売機の陰からスマホのカメラを使って様子を窺っていたが、もう警戒している様子じゃなさそうだしと顔を覗かせる。
煌成に先に入るようにと促すためだろうか、手振りとともに彼ら全員が煌成の方を向いた。
後方の煌成に全員の顔が向いたことで、その時顔が見えた。
「....ぁ......っ.....!」
掠れた声が漏れ出てしまう。肌寒いわけでもないのに、手が震えてスマホを落としそうになる。
あそこにいるのは、全員虐めの当事者だ。
「はぁッ......!はっ.........」
呼吸が乱れて足元がぐらつく。おぼろげながら正面に目を向けると彼らは全員体育館に入っていた。
行きたくない。けど、煌成がなんで一緒にいるのか、それを確かめたい。
「.......ふぅ......」
柱に手を添えて深呼吸をする。気休め程度にしかならないと思ったが、そのおかげで現実ではなく夢の中のような浮ついた感覚から覚めることができた。
「....行こう」
扉を引く音が気付かれないようにある程度時間が経った後、僕は扉に手を掛けた。
「あ~つっかれたほんと」
ベッドに寝転がって天井を見つめる。居残って勉強しようかと思ったが、どうせ明日は日曜日だし嫌でも勉強すると思うのでこうしてベッドにいるわけだ。
今日のテストの出来は........まあうん。数学も政治経済もそこまで死んではないはず。
空欄自体はほぼないぞ。........解けたとかは別にしてね。
でもまあ、数学は毎日コツコツ問題解いてたし政治経済は暗記しまくってたおかげかな。
てか現時点で赤点確定って教科はないんだよな。
やっぱ勉強すればなんとかなるもんなんだな。うん、勉強大事。
「つっかれた~」
まだ丸一日勉強できる日が残ってるという心の余裕を持っていることで、ここからは少々自分をいたわろうとリビングでだらけようと扉を開けた。
既に昼食を作り終えたのか、テーブルで家計簿をつけていた母さんは音で俺に気づいたようだ。
「ご飯できたけどどうする?百華待つ?」
「あー........待つわ」
時計に目を見やりつつそう答えると、母さんは再度家計簿に目を落とした。
あと10分ぐらい待っとけば帰って来るかな。
俺はソファーに腰を下ろした。
テスト週間は午前中で帰れるから俺たち学生からすりゃ万々歳だけど、昼飯作らないといけない親側としては大変だよな。ありがたやありがたや。
昼頃のテレビ番組ってニュース多めだからあんまりおもしろくねえんだよなとスマホをいじっていると玄関が開いた音が聞こえた気がする。帰ってきたか?
「ただいまー」
直後、リビングに入ってくる百華に兄として迎えてやる。
「おかえり」
「あぁ......うん.....ただいま」
なんだその俺がいて気まずいみたいな反応は。お兄ちゃん泣いちゃうぞ。
「おかえり、ご飯できてるから手洗ってきなさい」
「はーい」
うぅ......妹が冷たいや。俺そんなにキモい兄なのかなぁ...。
「ほら、あんたも洗ってくる」
「うす」
世界は残酷なり。
「いただきまーす」
「いただきます」
兄妹2人そろっての昼食は久しぶりな気がする。昨日は百華は友達と食べたらしいし。
「........」
とはいえ会話がない。いや、別に話題がないわけじゃないんだぞ?話題だしてもスルーされるかなぁとか.....。ほらあたしって繊細だし、色々考えちゃうのよ。
いやまあいっか。スルーされても。
「なあ、テストどうだった?」
「どうだったって.....別に、普通だけど」
「赤点取ったら部活出れないんだっけ」
うどんを啜りながら質問を続ける。こういう、実は知ってるけど知らないふりして質問するっての結構有用だと思うんだよな。
「うん」
「今んとこ大丈夫そうか?」
「うん」
あ、まずいもう会話終わっちまった。やばいやばい、気まずすぎるってこの沈黙。
母さん、助け舟出してよ。この俳優老けた?じゃなくてさ。
「......ねぇ」
「ん?」
今度は百華の方から口を開く。
「そのさ、お兄ちゃんって英語得意だよね」
「あーまあそうだな」
軽く謙遜したものの、最近は英語の理解力がさらに深まった気がするしかなり自信はある。
てかコミュ英って何日目だっけ。......あ、4日目か。
「......ちょっと教えて」
「おぉ、いいぞ。いつやる?ご飯食べた後するか?」
「うん」
よし、そんじゃあいっちょお兄ちゃんポイントを上げますか。
「ねぇ」
昼食を食べ終わり百華の部屋で勉強の準備を進めている中、カバンから英語の教科書を取り出した百華はシャーペン片手に座った。
「ん?」
「今日もクラスの人と勉強したの」
実は、クラスメートと勉強しているという事は既に伝えておいたのだ。
.....伝えたっていうか、母さんに話してたところを聞かれてたから教えたんだけど。
「あーいや、今日は普通に帰ってきた。
いつも一緒に帰ってるやつが用事でいなくてさすげえ寂しい帰り道だったわ」
「ふーん......その人っていつもお兄ちゃんと一緒にいるバスケ部の人だっけ」
「そうそう、そいつ用事らしくてさー先帰ったっぽかったわ」
てか用事あるってことぐらい伝言頼むんじゃなくて俺に言いに来れるだろ。
横着をするなあの野郎。
「じゃ、やるか」
「...うん」
.........その人、学校で見た気がするんだけどな。.........気のせいか。
「で、結局何の用」
扉の前に立ちばがら俺を睨みつける5人に対して、毅然とした態度をとる。
こいつらにビビる理由なんて1つもない。
やがて先頭にいた3年の桑島先輩が腕を組んだまま口を開いた。
見下すようなその声は、野太く雄々しかった。
「てめえがチクったんだろ?」
「なんのことすか。チクったって」
そこそこ身長が高いと自負してたけどもこの人はもっと高い。
それでも、俺を見下ろす巨体にも怯むことなく素知らぬふりを通す。
「とぼけんなよ木場。
俺たちがあいつにやってた事、お前が教師どもの言いやがったんだろ?」
「あいつって秀一の事ですか?....知りませんよ俺」
んだよこいつら。こうやって呼び出すんならそもそも秀一の事虐めんなよ。
......何もしなかった俺が言うのはあれだが。
「嘘つくなって煌成、お前だろ?
あいつと仲良かったお前しかありえねーよ」
「だからちげえって吉井。
大方、他の生徒がたまたま目撃したのを言ったってだけだろ。
そもそも俺が言ったって証拠ねえし」
「......証拠ならこれだ」
吉井は俺に画面を見せるようにスマホを提示した。少し近寄ってその画面を覗くと、メッセージアプリのようだ。それが映っている。
「...これは」
「呼び出される前日、お前グループラインで訊いてきたよな。
最近おかしなこと起こってないかって」
「訊いたけど、それが証拠か?」
「ああそうだよ。
お前は蔭山を虐めていた俺たちに復讐でユニフォームをぼろぼろにして、最後に虐めの事を教師に報告した。こういうことなんだろ?」
んだよそのガバガバ理論。
そんな単純な思考回路の人間に見えるか俺は。
つーかこの日付あれだよな、秀一の家に零斗と行った日だっけか。
畜生、裏目に出ちまったな。
「それは俺も不審に思う事があったからお前らに――」
バンッ!!
俺の反論を途中で遮ったのは、今まで黙って俺たちの言い争いを聞いていた久場先輩。
他の先輩よりも背の低いということを感じさせないほどの威圧感を出しながらやがて口を開いた。
「うるせぇよ、木場。てめえがチクったせいで俺たちが出席停止になった。
俺たちがそう思ってんだ、言い訳は要らねえ」
「は?ちょっと久場先輩、あんた何言ってんすか!
俺はやってないし、その件も詳しく知らない!
......もう帰りますから、俺!」
このまま秀一の事を詳しく追及されたらいつぼろが出るか分からねえ。
ひとまずここから出て行かねえと。
前に立つ彼らの合間を縫って、ドアに向かおうとした矢先桑島先輩が立ちはだかる。
さっきとは打って変わってニヤついた薄気味の悪い笑みを浮かべていた。
「....なんすか、通してくださいよ」
「そんなら、蔭山に会うしかねえなあ」
「は?」
「いやさ、俺たち知ってんのよ。あいつがここ最近学校に来てること。
ま、教室にいねえって事は保健室とかどっかにいるんだろうけどよ」
「そーそー!別にここで帰ってもいいけどよ、その場合はもう蔭山本人に話聞きに行くけど」
「もしかしたら、話聞くだけじゃ済まないかもな~」
低俗で下卑た態度に反吐が出る。
でも、秀一の顔が脳裏に焼き付いている。あの日、俺と零斗に笑ってくれたあの顔が。
そう思うと途端に前に進む気が失せる。
観念した俺は、誰とも目を合わせず呟くに言った。
「....何が目的すか」
「いやあ、ただちょーっと俺たちの憂さ晴らしに付き合ってほしくてさ」
その言葉が向こう側から聞こえてきた瞬間、僕の体は強張った。
誰も助けてくれない、狭くて恐ろしいあの記憶がフラッシュバックし全身から変な汗が噴き出て体温が何十度も下がったような気がしてくる。
「....た、...助け呼ばなきゃ」
職員室にはまだ先生がいるはずだ。
それに保健室にも。
だが、足が思うように動かない。それどころか、腰が抜けたようにへなへなと崩れ落ちてしまった。
しかし、前に進むことができないもどかしさを、僕はどうすることも出来ない。
「な......なんで....動いてよ....!動けよ....!」
足を叩いてもびくともしない。鈍痛が走るだけだ。
「.......じゃあ俺が殴られればいいんすね」
「殴るとは人聞きが悪いなぁ。
ただの憂さ晴らしだって」
そうこうしている間にも、煌成に危機が迫っている。
その時、スマホがポケットから落ちた。
そんなの知った事かと、力ない自身の体を必死に起こそうとした。
が、僕はその手を止めてスマホを拾い上げた。
震える指でパスワードを入力し、メッセージアプリを開く。
ある人物のところで指を止めて開くと、彼との会話が表示された。
会話といっても数回ほどのラリー。
まだ出会って日も浅い人物。
....それでも、僕はこの人に救われた。
迷うことなく通話ボタンを押した。
「だからな、ここは不定詞なのよ。だからtoが入るってわけだ」
「うーん.......ちょっとやってみる」
再び1人で問題に取り組み始めた百華を見て、仰向けに寝転がる。
「ふぅ~~」
得意っつってもやっぱり抜け落ちてたな。まあ去年の復習とかしてねえもんな。
......てか受験でこの範囲絶対出てくるだろうし、今のうちにやっとかねえと。
あーめんどくせー。
受験なんてもの考えない!パンッと手を叩いて忘れたことにする。
よし、俺の辞書に受験という文字はない。世界は楽しい!
百華が解けるの待つまでQuitterでも見るか。
スマホを開いたそのタイミングで電話がかかってくる。
突然のバイブレーションに体が少し揺れて不機嫌そうな声が聞こえる。
「ちょっと、揺らさないでよ」
「わり」
えーと誰からだ......蔭山?へぇ珍しいな。
....百華はまだ解いてるし、出てもいっか。
「もしもーし。どしたー?」
「....あっ、れ、零斗君....え、その、」
その反応に若干の違和感を覚えるが優しく声をかける。
「ゆっくりでいいからなー。はい深呼吸ー」
向こう側からスーッハーッと呼吸が聞こえてくる。
...なんかあったか?いやでもこの時間に?
単にゴキブリが出たとかそういう類じゃなさそうだけど。
「....落ち着いたか?ゆっくりでいいから、話してみ。どうした?」
「そ、そのさ、煌成が今囲まれてて」
「...煌成が?誰に?」
囲まれてるって......ファンか?
いかんいかん、すぐそういう茶化す方面に持ってく性格やめねえと。
「ぼ、僕を虐めてきた奴らにっ...」
「は?」
自分でも驚いたぐらい低くて冷たい声が出た。百華は肩を震わせて俺の様子を窺っている。
すまん、今は気を遣う余裕ねえわ。
「今どこにいる?」
「た、体育館。煌成たちは部室にいる」
「わかった今から行くわ。
煌成は大丈夫なのか?」
「中の様子はあんまりわか、わかんないけどやばいかも......」
「すぐ行く、待ってろ」
蔭山の返事を待たずスマホを切って立ち上がる。
恐る恐るといった様子で百華は俺に話しかけた。
「ど、どうしたの......?」
「すまん、勉強教えるのまたあとでいいか?」
「うん....」
「ごめんなさっきは怖がらせちゃって。
ちゃんと勉強やっとけよー?」
ポンと百華の頭に手を置いて出ていく。
「ちょっと外行ってきまー」
リビングにいる母さんにそれだけ言い残して家を出る。
頭を回してあれこれ考えるよりも、今は一刻も早く蔭山のところへ。
自転車に跨って、学校へ向かう。
急いで学校に行く感じ、前も見たねー。
改めてなんですが、今回も期間が空いての投稿になってしまい申し訳ありません!
言い訳というかあれなんですけども、いきなり体調を崩してしまいまして中々きつい状況が続いちゃってたんです。ストックとかの計画性が無い人間だからとことん投稿できませんでした...。
皆さんも体調管理をしっかりして、健康に過ごしていきましょう!
ここまで読んでいただきありがとうございました!また次回!




