表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/41

#39 バトンタッチ

私があの人を初めて見つけたのは、バイトを終えていつも通りMouTubeをだらだら眺めていた時だった。


『おっけ後ろのやつ殺った、あとは前2人』


「....うま」

ある1本のショート動画が流れてきて、いきなりの派手なプレイングにスクロールしていた指が止まる。

それからも的確に敵を撃ち抜き不利な状況からの巻き返しが続く。


「...まじ...?これ勝つ...?」

最後の最後、ラスト1VS1というところで向こう側がロケットランチャー片手に突っ込んできた。

万事休す化と思いきや、次の瞬間画面一面に1位と表示されていた。


その事実に大声をあげながらどや顔をリスナーに向けるところで動画は終わった。プロゲーマーの人かな?と投稿主の名前を確認すると


「...え、普通の配信者なんや」

見たことも聞いたこともない配信者だった。彼のゲームセンスとトークスキルに無性に惹かれた私は、気づけば配信アーカイブを開いていた。


「...おっもしろこの人...」

他に誰もいない部屋で小さくつぶやかれた私の言葉は、壁に跳ね返って体に溶け込む。この人とゲームをしてみたい。この人と会話をしてみたい。そんな小さな希望の芽が新緑を抱き芽生えるのを実感した。


しかし普通に考えれば、そんなのは厳しいだろう。でも、この人と私には共通点が1つある。


そう、配信者という点だ。全体的に見れば無名だが私は一応そこそこのチャンネル登録者がいる。もしかしたらコラボ配信なんてできるのかもしれない。


それならばと、私はマネージャーとのメッセージを開いてコラボをしたい人がいる旨を即座に書き込み送信ボタンを押そうとした。

だがその指はあと数ミリのそれに触れず止まった。


「.....大丈夫かな...」

コラボと言っても、自分が希望したところで聞き入れてもらえるのかは微妙なところだ。それに思い立って急に連絡するなんて馬鹿な話と思われてしまうかもしれない.........まあ当たって砕けろの精神か。


ダメだったらしょうがない。いずれ奇跡的にコラボが実現するその日を待とう。というプラス思考の切り替えで踏ん切りがつき、敬愛すべき我がマネージャーへと伝えた。



数日後、マネージャーからコラボの依頼をしようとの返信が来たことで喜びよりも驚きが勝った。なんせこんなにあっさりとOKが出るとは思わなかったからだ。


今まで自分からこうして希望を伝えたことが無かったからマネージャーも面白いと思ったのだろうか。


「ま、いっか」

ひとまずマネージャーが連絡してくれるとのことなので私が出来るのはZer0さんからの返信を待つのみだ。


[じゃあ、連絡の方よろしくお願いします!]

果たして良い返事は貰えるのだろうか。無視されたりすぐに拒否されたりしたらどうしようか。

そもそも私のことを知らなかったら?今度は別のネガティブな未来を想像してしまう。悪い癖だ。


「...ま、待つしかないか」

その言葉を機に、私はパソコンを立ち上げて配信ボタンを押した。


[やっほ、みう。でーす!今日は新作のゲームを...]



「......え?」

マネージャーから送られてきたZer0さんとのやり取りを見ての第一声は空気が漏れ出たようなそれだった。

1回読んだだけではあまり理解できなかった私は今度は細かい部分まで隅から隅まで読み込む。



「えー.....すっご。よー思いつくわこんなん」

ようやく理解して出てきたのは賞賛の言葉。斬新すぎるこのアイデアが成功すれば、数字にそこまで拘っては無かったが中々の反響を意識してしまう。


こんなの断る理由が無い。


マネージャーに再度返信して、Zer0さんから送られてくる合図(メッセージ)を待つ。





[いやーまあ視聴者のみんなさ、何がどういうことかわかんねえと思うのよ。なんでコラボなのにコラボ相手無しで動画撮ってんのかって。

だからさ、今から説明してくわ!]

今回コラボで使うこのゲーム『MainCraft』通称メイクラは、未開の世界で自分が建物を建築したり冒険したりすることで切り拓いていくサンドボックス型のゲームだ。


そのゲーム性の通り、生成されたワールドを走り回ってまずは資材を掘り出していく。


[コラボ相手はなんとね!

ゲーム配信者のみう。さんでーす!そんで今回のコラボ企画説明してくんだけど...ズバリ!

『繋がってないけど繋がってる!?バトンタッチメイクラ』!]

そう、今回僕が提案したコラボ形態は配信ではなく動画。だがただの動画では無い。


それからも僕は企画の詳しい概要を視聴者へ伝えつつ作業を進めた。


[どういうことかっつーとな、一定時間このワールドを開拓したら次は相手がこのワールドを開拓する。

毎回毎回その繰り返しでゴールを目指すってわけ!

ちなみに同じワールド使えるようにワールドのコードは共有してるぜー!]

これが僕の提案したコラボ企画だ。


同期型でコラボをするというのは僕の体のことを考えると極めて難しい。ならば非同期型で不定期にワールドを開拓してけばそのネックも解消される。


しかも制限時間を設けることで企画自体に忙しなさを持たせ、バトンタッチ方式でお互いがワールドを開拓するこのやり方は視聴者を飽きさせないことが出来るだけでなく、この体でもコラボを可能にしている。


[だっからー最初はお家のために木を削ってるよん。

...てか素手で木削るとかこいつどんな手してんの?

ステンレスとかで出来てます?]

そしてこれを配信ではなく動画として上げることにも意味がある。最初は配信で非同期型としてゲームをするのも考えた。


でも僕はいつ目覚められるのかが全く分からない。ここ最近は頻度が高いが、今日みたいに思った以上に日が進んでる場合もある。


それを踏まえると不定期な配信だと視聴者を飽きさせてしまう可能性がある。なので日数が空いても一応取り返しのつく動画という形を取らせてもらっている。


[あ、そういや一定時間ってのは、1時間ね!

だから俺こんなにテキパキ動いてんの!

こんなに動いたら明日は筋肉痛だな!

あ、これゲームか!ガッハッハ!

......それでゴールはもちろんあれな、ドラゴン討伐!]

このメイクラの世界にはゾンビなどのクリーチャーが数多く存在するが、その中で無類の強さを誇るのが異世界に存在するドラゴンだ。


このゲームはそのドラゴンがラスボスとして扱われておりプレイヤーはそれを目指してワールドを進めていく。今回のコラボでも然りだ。


[時間も少ないからまずはお家建てなきゃなと。

アタシ、お花がいっぱいなのがいい!誰が頭もお花いっぱいだコラ。......そういや誰もいねえんだここ]

発言の通り、最初は僕がワールドを開始しているがこれも理由がある。もしもみう。さんから始めて、僕の続きを待つとなるこれまた僕の体に振り回されて企画が進まない可能性がある。


そういうことを踏まえて僕スタートという形を取っている。まあ目覚めないと言っても長期間空くなんて事は無いというのは今までの経験でわかっているが念には念をだ。



[ほんじゃこのベリーおしゃなお家も作れたから、

時間まで食料調達しときましょ]

スマホで残り時間を確認すると約5分ほど。

拠点は完成したのであとは食べるものだ。このゲームは食料ゲージが設定されており、何も食べないと一定時間で死に至る。



[......あー疲れた。もうファミレスでよくね?

ここらへんねえの?ドリンクバーでジュース飲みたい。あ、そうそうドリンクバーといえばこの前フランスで...ウワアアアアアア!モンスターだ!]

夜になり敵クリーチャーに遭遇するも、抵抗するための武器が何も無いので大人しく殴られるしかない。


[あ、痛いですお客様!おやめください!お触り厳禁ですわ!ちょっと爺や!?

今すぐこういい感じの謝罪を...あやべ死んだ]

タイミング良く死んだとこでスマホのアラームが音を立てる。すぐさまストップして動画の締めに入る。


[あ、時間きちゃいましたね。いやー良い終わり方だった!まさかこんなに食料が消え去るなんてね!

はい、終わりましょう!次回の動画は相手さんが上げてくださるので是非見てね!

いやーきっとこのワールド見て驚くぞー!]



動画を撮り終えてすぐ、編集に入る。

余分な部分を切り取って簡単なテロップを入れるという作業だが、これがまた時間がかかる。


「...次起きた時に続きしようかな」

黙々と作業を進めたがそれでも少し残っている。

いつもならもうそろそろベッドに戻る時間だが、踏み止まる。


「...でももしも、1週間後に目覚めたら?」

そんな疑問を口にする。さっきはああはいったものの、今日はいつもよりも長い期間が空いていたのだから。また長い期間空いてこれ以上相手に迷惑をかけたくない。...終わらせた方がいいな。



「........できた」

時間を確認するとすでに3:30を回っていた。大体十数分の動画にしようと考えていたが結局20分を超えてしまったが、まあコラボ企画だし特別に長くてもいいだろう。


すぐさま動画をアップロードしてQuitterを更新、そしてみう。さんにDMを送る。


[1本目の動画上げたので2本目お願いします!]


「.....ふゎ〜ぁ。ねよ」

次目覚めるのはいつ頃だろう、できれば早い方がいいな。なんて考えながら眠りに落ちた。





「...」

音も立てずにあくびをしていると、あんぐりと大きな口を開けた俺を見ながら鈴島が呆れた顔で言った。


「二之前君。ちゃんと寝てるの?

今日特に眠そうだけど。授業中も寝てたし」


「いやー夜寝てるんだけどなんか今日眠気ひどい」

昨日は早く寝たんだけどなー、なんでそういう日に限ってこんなに眠くなんだよ...最悪だ。


「あと2日でテストだけどそれで勉強できてるの?」

今度は松井。少しぶっきらぼうな言い方だが彼女なりの心配だろう、顔は心配そうだ。


「まあ大丈夫だと思いたいけどいまいち自信はない」


「そっか。私たちも手伝うから頑張れ」

ありがとうと言って教科書に顔を戻す。...ここ数日で松井とかなり打ち解ける事が出来た気がする。男子に対して態度はそこまで良いとは言えない彼女だが、それでも俺とは会話をしてくれているように思う。


「......やっぱり古典と現代文キツイんだけどさ。

なんか良い方法ないかな」

その言葉に鈴島はノートを置いて腕を組んだ、


「うーん...私国語系得意だからアドバイスとかしたいけど、正直感覚で読んでるからなぁ」


「そっか」

どうしたもんかと古典の教科書と睨めっこする。

てかなんでこんな難しい日本語の使い方してんだよ!俺たちのこと考えて物語作ってくれよ!


心の中で叫んでいると、まだ考えてくれていた様子の鈴島が口を開いた。


「...これは最終手段だからおすすめしにくいんだけどさ、教科書の現代語訳を暗記して理解するってやり方があるんだよね。勉強にはならないけどテストの点を取ることだけ考えるんならこれが1番かな」


「......ふむ」

なるほどな、あえて内容自体を把握しておくと。

確かにそれなら問題を出されても現代文みたいなものとして答えられるな。

まあ俺はその現代文すら苦手なんだが。


「あと現代文は..正直どうすればいいのかわかんないんだよね。苦手な人はとことん苦手って言うしさ。

...だから、」


「?」


「捨ててもいいんじゃないのかなって」


「あぁ、確かに。合計点数で勝負してるのか科目ごとに勝負してるのかわかんないけど、1つぐらいならいいんじゃない?」

2人の言葉で少し悩む。でも、このやり方は勝負において賢い作戦のはずだ。


まさかあえて捨てるなんて向こうも考えないだろうし。...よし。


「んー、まぁ今回はそれがいいか。

現代文は捨てよう」


「それがいいよ!じゃあ残りの教科は大丈夫?

英語とか数学とか社会とか」


「英語はちゃんとやってるし、数学は毎日問題解いてるからいけるはず。社会はー...政治経済は覚えられてるけど世界史が微妙かな」


「あ、そっか二之前君世界史選択か!

あれ、そういえば夕夏ちゃんも...」


「世界史だね。どこが理解しにくいとかある?」

言ってなかったが、俺のクラスは文系なので社会でそれぞれ選択ができる。


そんな中、日本史・世界史・地理の中で俺が世界史を選んだ理由はもちろんカタカナで覚えやすいからだ。あとなんかカッコいいし!


「えーと、中国史の後漢からかな」


「あーそこね。まあ始皇帝以降の中国の動きは複雑な流れを把握していくしかないから厳しいよね。

私の覚え方で言うと...」


「.......ちぇ.....」

松井にマーカーを引いてもらいつつ教えてもらっていると、右手に消しゴムが当たる。

飛んできた方向を見ればムスッとした顔の鈴島。


「......どしたの美咲ちゃん」


「だーって、2人だけで楽しそうなんだもん」

口を尖らせる彼女に松井は頭を撫でると、鈴島はその手に自分の手を重ねた。


「そんなこと言ったって、美咲ちゃん日本史なんだからしょうがないでしょ?」


「でもさぁ〜......」

そのやりとりに頬が緩む。なるほど、これが平和な世界というやつか......ありがたやありがたや。



「...とまあこんな感じで覚えていけばある程度点取れると思う。でもテストの日まで毎日復習は忘れないようにね」


「ありがとう!松井ほんとに社会系強いんだな!」


「......まあ流れ理解するのは楽しいしさ。

......ちょっとお手洗い行ってくる」

照れた様子の松井は立ち上がって席を外した。


「...すごい仲良さそうだったね」

「え、あ、そうか?

別にあんぐらい普通だと思うけど...」


「いやいやいや、夕夏ちゃんがあそこまで男子と話してるの初めて見たよ!」


「あーそうなのか。それならありがたい話だよ。

.......そういえば鈴島は分からないところないのか?

今までずっと俺たち2人に教えてくれてたけど」


「...」

彼女はその質問には答えず、代わりにコミュ英の教科書を俺に差し出した。

「英語ね。なら俺教えれるけど、どこわかんない?」


「あ、そうなんだ!じゃ教えて!えっとね〜」

ま、伊達に得意教科じゃありませんから!

それにブランクがあると言ってもここ数日の勉強のおかげでかなり学力が戻ってきたように感じる。

やれば出来る子!俺!



「….あー疲れた」

帰ってきて伸びをする。ここ数日は集中しっぱなしなので少々肩が凝る。それに夜遅くまで勉強をしているので眠気もいつもより酷い。


なので流石に昨日だけはいつもの時間に寝たんだがそれでも眠気は取れない。これがまだ続くとなると辛いものだな。


「.....ちょっとぐらいなら」

MouTubeを開こうか悩む。

...頑張ってるご褒美として少し見てもいいかな。 



「....え、動画上げてるじゃんZer0さん」

なんとも珍しい事態に思わず声が出る。

なんせ今まで上げた動画の本数は配信アーカイブの本数に比べたら微々たるものだ。


一体どういう動画なんだ?



「...え、コラボ!?」

まじで?こんなこと本当にありえんのか?

現実?てか相手は誰?サムネイルを見てもコラボ相手はわからない。一見してバレないようにシルエットを使われている。こんなん見るしかないだろ!


「てか最近上げたばっかじゃん。運命〜」

なんて呟きながら動画を再生した。



ここ最近のルーティーンとなっているZer0さんからのDM確認を今日もおこなう。....来てるかなー。


Quitterを開くと、何件かの通知が溜まってるのが目に付いた。


「......お!」

そこには待ち望んだ相手からのDMが来ていた。


[お疲れ様です。Zer0です。

1本目の動画を投稿したので2本目の方よろしくお願いします。遅くなって大変申し訳ありません。

1本目のリンクはこちらに貼っておきます。]


「そんな、謝んなくてもいいのに」

既に了承してるのにこうして丁寧に謝ってくれる彼の人柄を暖かく感じながら返信する。


[ありがとうございます!

2本目の動画頑張るのでよろしくお願いします!]


それにしても、バトンタッチ方式なんてよく思いついたなぁ。...いろいろ大変な人だろうし、いっぱい悩んでくれたんだろうな。


「よしっ!撮ろうかなー!」

その想いに応えたい。私は動画を撮る準備のため、パソコンを立ち上げつつZer0さんの動画を再生した。








やっと1本目の動画を投稿できた


今までの話を見ると登場人物の独白が地の文と重なっちゃってるので段落変えて読みやすくしたほうがいいのか悩みますね...

ここまで読んでいただきありがとうございました!また次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ