#35 すべてが終わって
「ねぇ、煌成」
自転車で帰途についている最中、後方から声が聞こえた。先ほどまで一切会話がなく黙々と漕いでいたので何を話すのかと興味を惹かれる。
「んー?どしたー?」
前方から吹く風の勢いに負けないよう大きな声で返事するとそこから少しだけ沈黙が続いた。....久々にこうして会話を始めるなんていつぶりだろう。確かにさっきまでも家で会話はしてたけどあれは零斗込みだったし。......なんか新鮮だな。
「そのーさ、えっと....今日はありがとね」
「おう、まあなー」
まさかいきなり感謝を述べられるとは思わなかったのでハンドルを握る手が少しぶれる。驚きを隠すようにそれとなく返した。公園内の揺れるブランコから目を離さないまま今日の事を振り返る。
「つっても、俺今日何にもしてねえけどなー。ほとんど零斗頼りだったわ」
笑いながら自嘲すると秀一はうーんと唸る。急にどうしたよ。
「でも、煌成もいろいろ頑張ってくれてたじゃん。母さんにも零斗君のお母さんにも僕の事話してくれてたじゃん」
「まあ、そうだな」
「だからさ、煌成のおかげでもあるよ」
まさかそういわれるとは思ってなかったので嬉しくもあり照れてしまう。気づけば、数m先の横断歩道上の信号が赤に変わっているのでスピードを緩める。少し遅れてブレーキをかける音が背後から聞こえた。顔を合わせるこのタイミングで俺は口を開いた。
「秀一。今まで本当にごめんな」
キョトンとしたものからすぐに悲しそうな表情に変わるのを見て、何に謝ってるのか分かってるんだなと心を痛める。....俺は本当に許されないことをしてしまった。虐めに関与してないから無罪とかいう話ではない。見て見ぬふりをした時点で俺もあいつらと同じだ。幼馴染なのに。顔を歪めてハンドルをぎゅっと握る俺に秀一はゆっくりと言った。その声は寂しそうで、それでいて小さかった。
「.......いいよ。僕も煌成に相談すればよかった。......こんなことになってしまうんなら」
「秀一........」
「とにかく、煌成の事恨んでるとかもう一切ないから!.....今は零斗君の家族全員に謝りたいって気持ちしかないよ」
視線を下げて地面を見つめていた秀一は顔を不意に上げて言った。
「僕もう大丈夫だからさ、そんな顔しないでよ!」
申し訳なさで言葉が出ない。すると続けて言った。
「じゃあさ、俺のお願い聞いてよ」
「....お願い?.....分かった」
何を言われるのか全く予想がつかないが、どんな事を言われても聞き入れる覚悟ではいる。俺がやってしまった事に比べればそんなのどうってことないはずだ。
「お願いってのはね。
........僕と昔みたいに仲良くしてほしい」
「.....え?」
声が漏れる。秀一には悪いがそんなことでいいのか?というか元々そのつもりだったし。
「あ、いやあ分かってるよ?人を傷つけた僕がこんな事言うのは間違ってるって。....だけどさ、僕頑張るから。もう一度仲良くしてほしい。それがお願い」
二つ返事でOKしようとするも踏みとどまる。....本当に俺でいいのか?俺がやった事は今までの友情や信頼を壊すほどのことなんだぞ?
「....秀一はそれでいいのか?俺が最低な事をやってしまったのによ」
そう言うと秀一は不満そうな顔で俺をにらんだ。でもその顔は本気で怒っているというよりも何を言ってるんだという軽い怒りのようだ。
「....だからさ、それはもう良いって。ていうか煌成は嫌なの?」
「そ、そういうわけじゃない!ただ申し訳なくって...」
「じゃあ僕はもう気にしてないからオッケーね!はい決まり!」
俺の罪を取り払うみたいにパンと手を叩いた秀一を見ていると視界が不意にぼやけた。頬に流れるものを感じながら答えた。
「.....ああ、よろしくな!」
「ふぃ~」
ベッドに寝っ転がって息を吐く。やっと終わったこの事件に疲れを感じながらスマホを確認すると時刻は9:00。食事も入浴ももう終わったから寝てもいいけど、この時間に寝るのはいささか早すぎるような気がする。...ゲームでもすっかな。
「なーにしようかなぁ」
パソコンを立ち上げている最中、真っ暗な画面をみているとさっきまでのことが蘇る。煌成と蔭山が帰宅した後父に一連の流れを連絡すると今すぐ帰るとの連絡を受けて、母さんを百華は夕食の準備をしていた。百華は元気を取り戻したようで明日にでも学校に行けそうだ。父が帰宅し、家族4人で夕食を食べる中、今日の事を改めて伝えた。険しい顔で話を聞いていた父は
「そうか」
と言い残して食卓を後にした。
その後俺は風呂を終わらせ、リビングでだらだらとバラエティー番組を見ていた。いつもだったら上にいるが今日は蔭山が謝罪に来るので念のため俺も下で待機していた。時間は忘れたが、あれはお茶を飲みに冷蔵庫に向かったときか、インターホンが鳴った。この時間に来るのなんてもう分かってる。家族もそれを理解しているのか、母さんは
「少々お待ちください」
とだけ返事した。百華と父は立ち上がって、3人で玄関に向かった。俺も行くかと声を掛けられたがNOと答えておいた。俺が話の間に入っていろいろ取り持つのは効果的だろうが、蔭山本人の謝りたい気持ちをないがしろにしてしまうんじゃないのかと思ったからだ。まあ、何かあれば途中参戦すればいいだけだし。そういう事でテレビを見ていた訳だが、思いのほか向かうからは大きな声が聞こえることはなかった。揉めているわけではないみたいのでまあいいかと、そのまま見続けようとした。でもまあ様子を窺うぐらいはしておくかとリビングのドアを少し開けてこっそり覗いたところ頭を下げる蔭山に対して父が何かを話していた。...蔭山のところはお父さんとお母さんと3人で来たみたいだな。
「......なので....です。.....で」
色々話しこんでいる様子だが問題なさそうなのでリビングに戻って家族が帰ってくるを待った。
10分ぐらい経ったあたりでみんな戻ってきたがその顔は怒りを孕んでいることなどなくむしろ悲しそうな顔だった。どうだったのかを訊くのはいかがなものかと思ったが一応俺も関係者ではあるので母さんに訊いてみた。
「どうだった?」
「蔭山君、すごい謝ってて。.....こっちが申し訳ないぐらいに」
「私もう許すって言ったのにねー」
口を挟む百華の言葉で蔭山の事を思い返して俺は胸が痛くなった。...あとでメッセージでも送っとくか。
「.....向こうの親御さんも頭を下げて謝罪してくれたことだし、この事は水に流そう。.....それに、被害者の百華が許すって言ってることだしな」
父がそう言ったことで、この問題はもう大丈夫だという話になった。
そんなこんなでパソコンが起動したので何かやるかとカーソルを這わせていたところ通知に気が付く。その通知はチャットアプリからのものだ。ゲーム内で知り合ったフレンドと連絡を取るために入れたこれは非常に重宝している。連絡だけでなく通話も出来るのでゲームをするときかなり便利なのだ。あ、もちろん本名ではやってないからな?
「んー、誰からだー?」
[今日行ける?]
「.......sumか」
その送り主はあるFPSゲームで知り合って仲良くなったsumだった。こうしてちょくちょく連絡しては一緒にゲームをしている。だが、一緒にしているといっても通話を繋いだりはしていない。そういうのをsumがしたがらないからだ。まあきっと何かしらの事情があるんだろう。
「あーどうしよっかなー」
椅子に座ったままぐるぐると周りながら悩む。確かにちょっとしたい気持ちもあるが疲れてるしなー。もしこのままゲームしちゃうと寝れなくなるかもだし......あ、これなら。
[わり、ゲームはちょっとできねえんだけどさ]
すぐに返信が来る。
[うん]
[相談ってか話聞いてほしくて]
[通話嫌だ]
[通話じゃなくてこのままチャットでいいからさ]
[よかろう]
了承を得たので話を始める。
[うちの学校でちょっと問題があってさ。その犯人が不登校の奴かもしれないってなって。しかもそれが俺の友達の幼馴染。俺マジびっくりしたんだけど話聞きに行ったらやっぱそいつが犯人でさ]
[わお]
[でも話聞いてるうちにそいつが不登校になったのっていじめ受けてたかららしいのよ。なんかそいつを責めていいのか分かんなくてさー]
ところどころぼかしながら伝えているので大丈夫なはずだ。やけに返信が遅いのでスマホを開き蔭山にフォローのメッセージだけ入れておくと、ようやく返ってきた。
[それは中々難しい話だと思うけどさ、その人が反省してるんならそれ以上はもういいんじゃない?それよりはこれからどうしていくのかを話す方がずっと良いと思うし]
思いのほか真面目なことが書いてあったので感心しながら返事する。
[確かにお前の言う通りかも。ありがとな]
[こちらこそ。話はもう大丈夫な感じ?]
[うん。あ、てか次のシーズンの事なんだけど]
このまましんみりしたまま終わらせるのはあれでし、まだ時間的にも大丈夫かと話題を転換して話していった。
[じゃそろそろ落ちるわー]
[オッケー]
そろそろ10時になりそうだったし、ちょうど話も切れていたのでやめる旨を伝えておく。
[おやすみーsum]
[おやすみ
Zer0]
ここで一区切りですねー!!
ここまで読んでいただきありがとうございました!また次回!




