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#32 今までの事、これからの事

ぎこちない笑みを浮かべる煌成と、その後ろでバレてしまったという顔の蔭山の母親。.....いやなんでこの人までいんの。

「....なんで......なんでここに」

「いやーその~」

「......とりあえず部屋で話した方がいいよな」

俺の言葉に従って、2人は部屋に入ってくる。テーブルに2対2で向き合う形で座るが、そこまで大きなテーブルではないので結構窮屈だ。でも今はそれよりもなぜ2人がここにいるのかを聞かなきゃだな。

「....えっと......なんで煌成とお母さんは部屋の前に?」

「その....えっとな.....」

「......もしかして俺たちの会話聞いてた?」

ごにょごにょと言葉を濁らす煌成へ質問する。あからさまに目が泳いでんなこいつ。その行動が示す通り、煌成の答えは

「........はい......聞いてました.....」

「........」

おいおい蔭山絶句しちゃってるじゃん。なんで蔭山のお母さんはドンマイみたいな感じで煌成の肩叩いてんだよ。そこ2人は共犯だからな。

「なんで...?というか煌成は何してたの?あといつから聞いてた.....?」

「あー待って待ってそんな一気に質問すんな!......順番に話してくからさ」

観念したように、煌成は語り始めた。


「この部屋出た後さ、俺1階に行ってさ。......で、おばさんに秀一が夜学校に忍び込んでやってることと秀一の虐めのこと、それと俺が何もできなかったこととか、まあつまるところ全部伝えたわけよ。おばさん、最初はすっげえ怒ってたし虐めのこと聞いてすっげえ悲しんでた。それでもさ、俺が伝えれることは全部伝えてさ。......で、その後に秀一と零斗のところに行って、ちゃんと話し合おうってことになったんだ。そんで部屋の前行ったんはいいものの......お前ら2人の会話に割って入ってくタイミング見失っちまってさ。ほら、めっちゃ言い争ってたじゃん?」

「そんであそこに立って待ってたってことか?」

「そうそう。ざっくり話すとこんな感じ。...........いやーでもよかった!お前と秀一が仲良くなってたしさ!な、おばさん!」

「ええそうね。.......零斗君。うちの子と仲良くしてあげてね。よろしく頼むわ」

「それはもう任せてください。もう友達なんで。............で、どこから聞いてた」

「うっ.......あっ......もう忘れちまったわ!すまんすまん!」

絶対嘘だろ。今こいつ、うって言ったぞ。隠蔽の仕方が下手くそすぎる。

「.....煌成......」

「はい、すみません。........多少は誤魔化せたかもだけど復讐心で気持ちに蓋してるだけだってとこから聞いてました」

「.....そこなら入ってこれる場面があったろ.....」

てか俺的に1番恥ずかしいとこ聞いてんじゃねえか!!なんだよ復讐心で気持ちに蓋してるって!漫画の読みすぎだバカ!いやマンガじゃなくて小説か!いやもうどっちでもいい!.......はぁ、なんてこったい。


「........ちょっといいかしら」

程よく話が途切れたタイミングで蔭山母(この呼び方でいこう)が久方振りに口を開く。先ほどから落ち着かない様子だったが、今は一段としどろもどろしている。それでも彼女は目を瞑って少し息を吐いた。そして、目を開けたかと思いきや、頭を下げた。

「え、あの、ちょっと!」

「おばさんなにしてんの!?」

そんな俺と煌成の言葉を聞き入れることなく。

「......煌成君、零斗君。..........秀一の事、本当にごめんなさい。.........それと、ありがとう」

短い言葉だった。でも、それだけで充分だ。その言葉で、母親として彼女が背負ってきた責任や抱いている思いの一片を拾えたような気がする。それでも、そこに内包されている意味は俺には計り知れないだろう。

「いやいや頭上げてよおばさん!俺何もしてないって!礼を言うなら零斗に!ほら!」

「はぁお前!?....全然大丈夫ですって!頭上げてください!ね?」

その言葉を咀嚼し、体に染み込ませるのには多少の抵抗感はあったのだろう。その証拠に、20秒程度顔を上げられないままでいた。

「.....ありがとう。.........本当にありがとうね.......」

彼女涙ぐみながらようやく顔を上げ、今度は俺の隣に体を向けた。

「........秀一。......これまで、本当にごめんね。あなたがどれだけ苦しんでいるかなんて私、本気で向き合おうとしていなかったわ。母親失格ね」

「........そんな事言わないでよ。僕だってお母さんと会話しようとせずにずっと引きこもってたんだから。ごめんなさい」

2人ともずっと頭を下げ続けているこの状況。感動的なシーンだけどなんだかここにいるのがいたたまれないような気まずいような。でも、ここで口出しできるほど俺のメンタルは強くない。くっそー。

「.....はいはい、2人とも顔上げて!ね!もう仲直り!」

手を叩きながら声を掛けた煌成の言葉に従い、2人は顔を上げた。....こいつのメンタルすげえな。


ここで話し続けるのも窮屈だという事で、リビングに移動した俺たちは蔭山母が用意してくれた菓子を嗜んでいた。大体1時間ぶりのこの部屋だけど、なんだか新鮮な気分だ。景色が違って見えるというか。

「....それで、これからの事なんだけど」

4人分の飲み物をテーブルに置いて、椅子を引きながら蔭山母は問うた。

「秀一は...どうしたい?」

「.......僕は..........」

言いたいけど勇気が出ないというように言葉が詰まっている蔭山の肩を優しく叩くいてやる。大丈夫だ、おまえは1人じゃない。ここにいるのはみんなお前の味方だ。2、3度叩いてるうちに、言う決心がついたのか、両手を膝に置いて姿勢を正した。

「........僕は、学校に行きたい」


正直言うとその言葉に俺は驚いた。てっきり、まだ学校に行く気はないと思っていたから。でも蔭山は自分で考えて考えて、考え抜いてこの答えを出したんだろう。その覚悟は他ならない。....俺はこいつを侮っていたようだ。

「...そう。分かったわ。......じゃあ、虐めのことは.......」

言葉尻を濁らせながら、自分の息子の目をしっかり捉える蔭山母。その事実を公にすべきか、家族として母親として深く思案しているようだ。それでも、蔭山は覚悟を決めたようだ。いや、元々覚悟は決まっていたのかもしれない。

「......学校に伝えてほしい。でも出来れば、そこまで大事にしたりはしないでほしい。.....いろいろお願いしてごめん」

「なーに言ってるのよ。そんなの任せなさい!........じゃあちょっと私電話してくるから、みんなはゆっくりしてて。......あ、煌成君と零斗君時間大丈夫?」

スマホを確認すると時刻は5時32分。そこまで遅い時間じゃないし外も全然暗くない。しかも連絡は入れておいたのでまだ大丈夫だと思うが、あんな事もあったので恐らく早く帰った方が良いだろう。母さんが不安がってるかもしれないし。........もしかしたら百華も。

「自分は全然余裕でーす!零斗は?」

「あー....自分は少しおしゃべりしてから帰ります」

「分かったわ。たぶん私戻ってくると思うけど、もしも戻ってこなかったらその時は全然帰っても大丈夫だからね」

そう言い残して、リビングを離れた。


「いやーそれにしても秀一、お前すごいな」

「......そんなことないよ。今までたくさん休んできたんだから。こんなの全然すごくない」

「いーやお前はすごい!すごいし偉い!ほら菓子食え食え!」

何個も何個もチョコを蔭山の手に乗せていくので今にもあふれそうだ。そのうちの1つの包装を開けて、中のチョコを蔭山の口に放り込む煌成。2人の空気感は昔っからこんな感じなのかな、微笑ましいもんだ。

「....おいし。これ好きなやつだ」

母親も同じこと言ってたな。それでもわざわざ伝えるなんて無粋な真似はしない。煌成も同じことを思い浮かべていたのだろう、うんうんと頷いている。蔭山を見れば、彼は抱えているたくさんのチョコをテーブルの上に置いた。そして、口が動いた。

「.......その.......2人ともありがとう」

「よせやい照れくせえわ!」

「そうそう、そんなん良いって!それよりも、これからよろしくな!蔭山!」

俺たちの言葉を噛みしめるように耳を傾け、嬉しそうに言った。

「...ほんとに2人は優しいね」

「いやいや、煌成が優しいは無いわ。もちろん俺は優しいけど」

「お前後でビンタな。......てかどう考えてもお前の方が優しいって!」

「そうそう」

困ったように苦笑ている蔭山はコップに口を付けて1口飲んだ。潤いを得た喉が滑らかに言葉を生む。

「......ううん、僕なんて全然優しくないよ」

聞き返そうとする俺を待たずして話を始める。


「煌成とかお母さんとか、いろんな人から言われるのはいつも決まって「優しい」だった。...でもね僕は自分の事を優しい人間なんて思ったことは、今まで一度もないんだ。僕が取ってる行動はさ、それが自分にとって1番楽だからそうしてるだけだから」

そんな蔭山の声は哀感がこめられており、沈痛に満ちた顔をしていた。その通りかもしれない。優しいという感情は客観的な視点があることで初めて観測される感情だと思う。自分で自分の事を優しいなんて本気で思ってるやつの事はちょっと信じられない。それに基本的には、対す相手がいる場合のほとんどは自分が取る行動は相手に良く思われたい、さらにそこには嫌われたくないという思いが内在しているだろう。真に思いやりを持って行動する人間なんてきわめて稀だ。つまるところ自分勝手じみている行動、それは優しいとは言えない。また、蔭山はさっき1番楽という言葉を使ったがそれも行動原理の1つかもしれない。それは思考の放棄であり少し打算のようなものも感じさせる。これも優しさとはいえない。......でも

「.....でも俺さ、蔭山はほんっとうに優しいやつだと思うんだよ」

「俺もそう思う」

なぜ?という視線をよこしてくる蔭山だけど、これはお世辞でもなんでもない。事実、煌成も同意している。


「だってさ、最初俺と煌成が部屋に来てくれた時お前会話してくれたじゃん」

「.....?」

「あの時お前は俺たちと話す気は無いって言ってたけど、俺たちの質問にちゃんと答えてくれてただろ?もしも本当に話す気がねーなら無視しとけばいい話なのに」

「いや....それは.....君たちが不快に思うかもって......」

「煌成はまだしも俺にもか?蔭山さ、俺の事を虐めてきたあいつらの仲間っつってたじゃん。それなのに?....お前俺に対してそんなこと考えてなかったろ」

「............!」

蔭山の手からチョコが落ちて、カタンと軽い音を立てながらテーブルに転がる。それが示すのは、俺に言われて初めて気が付いたことによる驚愕か。それともバレてしまったという動揺か。はたまた...。これに関しては本人の口から話してもらうしかない。単なる俺の推測なんて核心に迫れない。

「そこんところどうなんだ?」

「.............確かにそうかも。言われて気付いた」

「だろ?.......それにその後もあったぜ?蔭山が優しいやつだって思ったところ。......部屋でパソコンとかいろいろ見てた時にさ、蔭山席外してたじゃん?そんで部屋に戻ってきたお前はごめんって言ってた」

「それが....?......人を待たせてるんならそれぐらい当然じゃん」

「その当然ができてねえ奴はたくさんいる。.....それにさ、あの時のお前は俺の事を友達とまではいかなくても全くの他人とは思ってなかったんだな」

「どういうこと?」

「だってさ、もしも俺の事を虐めてきたあいつらと仲間だとかずっと思ってたんならそんなこと言う必要ねえじゃん。俺にどう思われようがお前には関係無いしへっちゃらだろ?」

「............」

「....まあつまるところ、お前は優しい奴ってことだ」

「そーそー!俺が言いたいことは全部零斗が言ってくれた!秀一は優しくて良い奴!」

しんみりした部屋を打ち破るのは煌成の声。こ、こいつ俺の言葉全部飲み込みやがって......まあいいや。

「つーかお前らいつの間にか仲良くなってんじゃん。ずりーよ!」

「お前はもともと蔭山と友達だろ。何言ってんだよ」

「あはは、確かに!」

これで一件落着だしな。


ふと、ポケットからの振動に気づく。メッセージの通知にしてはやけに長いそれが電話だというのにはすぐ分かった。

「あ、わり。ちょっと電話.......母さんから?」

2人に断りを入れて着信の主を確認して疑問を抱く。.....あぁ、連絡はちゃんと入れたけどやっぱ不安ってことか?...まあそれならしょうがない。ちゃんと返事しねーと。

「はーいもしも―――」

間の抜けた返事を遮ったのは俺の声よりもはるかに大きく、ただならぬ様相なのがすぐに感じ取れた。

「零斗!今どこにいるの!?」

「ええっと、友達の家にいるけど....どしたの?」

2人をチラッと見れば、楽しそうにおしゃべりをしている。和やかな雰囲気がこっちにも伝わってくる。それにしても、やけに向こうが騒がしいような...........。

「あのね....その....」

言葉が上手く続かない母さん。一昨日と似たような様子がフラッシュバックすると同時に嫌な予感を感じる。

「落ち着いてって。.....何があったの」

深く呼吸をして話した次の言葉は俺の思考が止める以外の何物でもなかった。


「百華が.......百華が.......!」




百華にいったい何が!?


ここまで読んでいただきありがとうございました!また次回!

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