#31 このままでいいのかよ
俺と煌成は、今までとは違って強い言葉を使う蔭山を見る。....蔭山の顔は言葉とは裏腹に今にも泣きだしそうな顔で、テーブルを叩いた。
「そっ、そんな理由かよ!そんなくだらない理由で.......!」
「..........」
「煌成が来た時、どれだけ僕が安心したかっ............!....ふざけんなよ.......!」
立ち上がって煌成に詰め寄ろうとする蔭山よりも、俺は一足早く立ち上がって蔭山の肩を掴む。
「おい一旦落ち着けよ、な?」
「はなせよ..........」
「ここで煌成に何かしても何にもなんねーだろ!なぁ、話なら俺がいくらでも聞いてやるからさ。落ち着けって」
「.......黙れ.......」
「..........」
「...................」
無言の睨み合いが始まるが、すぐに蔭山が目を逸らして座った。ひとまずは大丈夫......かな。.....煌成はまた俯いてんな。さっき言った通り俺が話していくしかねえな。
「.....まあつまりそういうことがあって学校に行けなくなっちまったってことだよな」
「..........」
「なぁ、なんであのゲームを作ったんだ?」
「.........なんで.....?」
「だってさ、あのゲームに出てくる幽霊のモチーフって多分お前だろ?.......作る途中に思い出したりして辛くなるかもしれねえのになんでなのかなって」
最初から疑問だった。なぜ自分のトラウマを掘り返すような内容のゲームを制作したのか。なにかしらの狙いでもあるのか?
「.......別に。ただ内容が思いつかなかったから。それだけ」
「それだけって.........」
「それだけだよ。.......もう全部話したしいいでしょ。帰って」
ぴしゃりと俺の言葉を遮断してスマホを手に取る蔭山はもう話すことは無いといった様子だ。........でも、ここで帰るわけにはいかない。このまま帰ってしまうのは蔭山との和解にはなり得ない。.......今までの話は聞けた。だから、次は今からの話を聞くべきだ。
「......そういうわけにはいかねえよ」
「なんで?もう君たちが聞きたい事は全部話したよ」
「......これからはお前、どうするんだよ」
「どうするも何も、今まで通りだけど」
「いやでも........」
「.............」
淡々と受け答えする蔭山との会話をなんとか続けようとする俺。そんな俺たち2人の会話に割って入ることもなく今まで必要なこと以外は何も話さなかった煌成が、突然立ち上がった。
「.......どした?煌成」
「...........」
「.......ちょっと席外すわ」
俺たちの反応が聞こえていないかのように、そう言ってスタスタと部屋から出て行った。......おいおい今からサシで話さなきゃかよ。.......いやまあ今までもほぼ2人で話してたみたいなもんだけどさ、心持ちっていうかメンタルがちげえよ.......。なんて余裕があるような自分を、心のどこかで客観視しつつ溜息を吐く。........今気にすんのは1人だとか、煌成がどうとかそんな事じゃねえ。蔭山のこれからについてだよな。
「.......でもさ、このままずっと家にいるのも家族が心配すんだろ?な?」
「........お父さんはもう僕に興味ないしお母さんも何も言ってこないし、別に大丈夫だけど」
「.....いや、」
「別にそっちに関係ないじゃん。僕の家の事も僕の事も」
「..........それでもさ――」
あれやこれやと続けるための言葉をこねくり回す俺が、次訊くことを考えながら反論した矢先のことだ。
「もういい加減にしてくんないっ!?早く出て行ってよ!!」
先ほどの煌成に対して声を張り上げた時とも比べ物にならないほどの大声。萎縮し思考が停止する。何を言うべきか、どう伝えるべきか。回転していた頭が止まり、スイッチが切れたみたいに考えが続かない。
「そっちが聞きたいことは全部答えた!これ以上何を望むの!?」
「.....ぁ、いや........」
「あぁ、学校に忍び込んだことを謝ればいい!?それとも君の妹さんに謝罪しに行けばいい!?」
「..........その」
「なに!」
身体の震えが収まらない。それでも、伝えないといけない。人影の正体が見つかってはいおしまいという話じゃ蔭山は今までと変わらない。俺たちだけがハッピーエンドを掴んでも、その俺たちの中に蔭山もいなければダメだ。............なぜダメなんだと言われたら、それを事細かく説明出来る気はしない。それでも本能的に、そして直感的に、ようやく動き始めた脳が示す。
「....お前がっ!!このまま家に閉じこもってんのがっ!このまま1人で過ごしていくことがっ!嫌なんだよ!」
「はあ?」
「こっちの問題は解決したさ!人影の正体がお前ってことを伝えれば百華も学校に行けるようになるはず!でもさ、お前の問題は解決してねえだろ!?」
「じゃあ何!?学校に通って、虐めてきた人と仲良く過ごせばいいの!?」
「.....学校に通ってくれるんならそれが1番いいけどさ......」
少しトーンが沈んだ俺に畳みかける蔭山。
「無理だよ。無理に決まってるでしょ。........僕がどれだけ辛い目に遭ったか.........君には僕の気持ちがわかんないでしょ!?クラスでも部活でも、まるでいないものみたいに扱われたことはある!?逃げ場がない部屋で殴られたり蹴られたりしたことはある!?ないよね!?ちょっと話聞いたぐらいでさ、全部分かったつもり!?」
..........でも、黙ってるだけじゃ話は良い方向へ進まない。一方的な言葉のラリーを対話とは言わない。
「そりゃあお前の気持ちがわかるわけねえよ!俺はお前と違ってその経験をしてねえんだから!」
「じゃあもう.....!」
「でもっ!お前の気持ちが!お前がこのまま過去に置いてけぼりになるのを見捨てるなんてできねえよ!」
「......っ!」
喉奥で響くような俺の声が、静かな部屋を突き刺す。その言葉は蔭山の瞳に揺らぎを見せた。
「......蔭山さ、お前今の自分がこのままでいいって思ってんのかよ」
「........」
「多少は満足したかもしんねえ。でもそれは、自分と向き合えたことにはならねえよ。復讐心がお前の気持ちに蓋をしてごまかしてるだけだ」
一転して諭すような口調で語りかける。....蔭山を突き動かしていた原動力は虐めてきた奴らに対する復讐心だ。あいつらを懲らしめてやりたい、あいつらを苦しめたい。その気持ちがやがて行動に昇華されて今の事態になっている。もしもその行動や気持ちを肯定してしまうと、いずれ気持ちをごまかしていたメッキが剥がれて、自分がやった事や自分がされた事に苦しむ日がくるかもしれない。そんな目に遭ってほしくない。........今まで起きたことはもうどうにもならない。無くならないし逃れられない。でも、今から起きることは違う。防げるし改善も出来る。ならば、どうせなら、より良い未来を歩める可能性がある道を歩いてほしい。
「学校に行けなんて言わねえよ。...........でも、自分の気持ちを誤魔化さないできちんと向き合ってほしい。自分が何をしたいか、どうしてほしいのか」
「.........」
次に続ける言葉を口に出す前、これは言うべきなのか悩んだ。言うにしても、もっといいタイミングがあるんじゃないのか。もしかしたらこの言葉は静まりつつある火に油を注いでしまうんじゃないのかと苦慮する。でも、言わなければならない。自分の過去にも未来にも向き合ってほしいから。数秒の葛藤の末、俺は決心した。
「......確かにお前の虐めは復讐でもしなきゃ収まらねえことだと思う」
「..........」
「だからといってお前が虐めを受けてきた事が、やった事への免罪符になるわけじゃない。俺はお前が百華にやったことを許せない」
「..........」
「でもそれ以上に.........お前を虐めた奴らを許せねえ」
「........っ.....!」
「...........俺は、お前がやってしまった事にも、しっかり向き合ってほしい」
ゆっくりとテーブルの上で手を組んで、その結び目を見つめる蔭山。その目は諦観でも、絶望でも、放棄でも、我慢でもなく、決心を宿しているように見えた。
「.......ぼ、僕は..........」
一滴、また一滴。ぽたぽたとテーブルを後悔の念に濡らすのは、他の誰でもない。蔭山の涙だ。
「....ぅぅ......」
嗚咽を漏らしながら顔を下げる蔭山のそばにそっと座って背中を摩る。その背中は年相応に小さく、背負ってきたもの、そして失ってきたものを感じさせた。
「大丈夫だって!家族とかと一緒に話していこうぜ!友達とでもいいし!」
「....で、でもお父さんもお母さんも僕の事なんて.......」
「なーに言ってんだ。...実の息子にそんなこと思う親はいねえだろうよ!」
「..........と、友達は煌成しかいないし」
「......は?何言ってんだ?」
「........え」
顔を上げてこっちを向く蔭山の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。.....てかそれよりも今こいつ友達煌成だけっつったか?そりゃないぜ。
「いやいや、俺もお前の友達だろ」
「......え?.......そうなの」
「おいおいまじかよ、寂しいこと言うなって。俺たちこんなにたくさん話したんだしさ、もう友達だろ。つーか連絡先まで交換したってのによー。友達と思ってたのは俺だけかー?あたし寂しいわよ~ん」
「...........はは、何その喋り方」
「......ま、とりあえずこれからの事話していかねえか?俺も煌成も、もちろん相談乗るぜ」
「うん。ありがとう......でも」
蔭山の顔が曇った。何か懸念点があるのか?聞くよりも先に蔭山が立ち上がった。
「その前にこの事、お母さんにも話してくる」
「あぁ、そうだな。....あ、俺もついてくわ」
「そうかな。別にここで待っててもいいのに」
「まあ1人で待っててもやることねーしさ。.......あれ、そういや煌成は?」
「さっきから帰ってこないね」
「ったくなんだよあいつー」
ドアノブに手をかける見やりながら頭の後ろで手を組む。.....ほんとにあいつどうしたんだ?まあいっか。なんとかなるだろっ.......え?
「あ」
「え?」
俺たちと顔を合わせたのは、蔭山の母親と煌成だった。
いやーここまで長かった。ひとまず蔭山君とは仲良くなれたってことで!......あの2人はなぜここにいるのでしょうか......?
ここまで読んでいただきありがとうございました!また次回!




