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30/41

#30 どこまでいっても

記念すべき30話!

あの日は確か、先輩たちに色々言われてから2週間ぐらい経ったあたりかな。部活に行ったら煌成がいなくてさ。恐る恐る顧問に聞いたよ。それまで、先輩たちは何も教えてくれなかったけど、その代わりに煌成がいろいろ教えてくれたし。それに、2人でやる練習もいつも煌成とだったから。

『あの......先生。木場はどうしたんですか』

『ああ、あいつか?あいつは今日休みだ。家庭の用事とか何とか言って』

『...............そうですか』

そして練習が始まった。煌成がいない練習は地獄だった。誰も何も教えてくれないし誰もペアを組んでくれない。ちょっと前までの楽しい部活とは真逆だった。


突如浮かび上がった質問をこらえきれず、一言断って話を遮る。........煌成の方はずっと下向いて話聞いてやがる。.....なんなんだよこいつ。

「...ちょっといいか?.......誰も教えてくれないって、顧問の先生は?普通そういうのって顧問の先生だろ?」

「普通はそうなのかな。でも自分たちの場合は、今まで最初からずっと煌成が教えてくれてたから顧問の先生も自分が教える必要はないって思ったんだろうね」

「いやでもその日は煌成が......」

「そうだよ。煌成がいないからさ、顧問の先生が声かけてくれたんだ。教えようかって。.......でも先輩が、あの副キャプテンの先輩が」


『ああ大丈夫っすよ!そいつもう全部できます』

『そうか?でもまあ一応...』

『大丈夫ですって!もう入部してから何ヵ月も経ってんすよ?流石にそろそろ1人でいろいろできるようにならなきゃだし。な、大丈夫だよな?蔭山?』

どう答えたらいいかわかってるよな?って先輩のあの冷たい目に、僕は大人しく従うしかなった。

『...........はい、大丈夫です』

『ほら!本人もこう言ってることですし!』

『そうかあ?じゃあいいが......』

しぶしぶ納得した顔で顧問の先生が離れた時、練習に戻る前に先輩が耳打ちしたんだ。

『今日、放課後残れよ。帰えんじゃねえぞ』

それからの練習は嫌な記憶しかない。パスもシュートもミスばっかりでプレー止めちゃうし。ペア練は組んでくれる人がいなかったから顧問の先生とやったけど、みんなくすくす笑ってて。早く時間が進まないかなってずっと考えてた。

『はい、じゃあミーティング始めるぞー』

......そんなこと考えてるうちに練習は終了してミーティングの時間になった。でも、今日は何をされるんだろう、早く終わってくれないかなってこれからのことをずっと考えてたからそれどころじゃなくて、全く内容は入ってこなかったんだ。....顧問の先生がミーティング終わらせて解散の号令かけたあの時はもう絶望しかなかった。それでその後の片付けの時に声を掛けられたんだ。でも掛けてきたのは前とは違って同級生じゃなくて先輩だった。それも僕の体操服袋を持ってたあの先輩。

『........なんですか』

『何その態度。お前舐めてんの?』

『........』

『てかお前帰ったら分かってんだろうな?』

『.........分かってます』

僕の返事を聞いた先輩は満足そうにボールを拾い上げてシュート練をし始めた。なんで手伝ってくれないんですか、なんて言えなかった。その後、片付けがほぼほぼ終わって一部の先輩や同級生が部室に入っていくのが見えた。その人たちは直接的に僕に対して何か言ってきたり、暴力を振るってくることはない。だからといって僕が虐められてるのを知っているのにそれを咎めたり先生に報告したりしない。どうせ今日は煌成はいないから僕が虐められる予想がついてたから、虐め現場に居合わせてしまう前に早めに着替えて帰ろうってことなんだろうね。でも、もしも下手に行動起こしたら次は自分が目を付けられるかもしれないししょうがないね。........その人たち全員が僕に同情してるとは限らないんだけど。

『.............』

『.......あっ...........じゃ、じゃあな蔭山!お疲れ~......』

『....うん、お疲れ』

『おいっ蔭山く~ん』

ぎこちなく別れを告げる同級生に手を振ってると後ろから肩を組まれた。そんなことしてくるのは僕を虐めてくるうちの誰かだって分かってる。友達の訳がない。........そもそも部活での友達なんて煌成しかいないし。振り向いたら案の定、先輩の1人だった。入部当初、ユーモアを交えつつにこやかに会話をしてくれたその先輩は今も僕に対しても明るい声で話しかけてくる。優しさなんて1ミリもないけど。

『なにつまんねー顔してんの。..........あ、つまんねー顔してんのはいつもの事か。うははははは!』

『.......』

『はいっ!じゃあ練習すっぞ~』

そのタイミングで僕は前々から疑問に思ってることを訊いた。

『........あの』

『ん、なに?』

『..........なんで居残って練習した後なんですか』

『....あぁ、それね。あ、もしかして早いとこ殴ってもらいたかった?』

『..............そういうのじゃないです。.....ただ1秒でも早くおさらばしたいからです』

こんなつまらない部活から、という言葉をぐっと飲みこんで。

『......あ~はいはいそういう事ね。まあ練習後に教えてやるよ!ほら行くぞ~』


その後の数十分は、自主練とは名ばかりの地獄だった。先輩のシュートのための球出し。ディフェンス。全ての球拾い。その後は先輩が僕の上に乗ったり負荷をかけたりして筋トレ。最後に体育館内を先輩が満足するまで走る。もちろん僕だけ。 

『じゃ、もういいや。...........部室行くぞ』

『.....はぁ.....はぁはぁ.........』

酸欠で真っ黒になりかける視界を無理やりこじ開けて先輩の後ろをついていく。今からが真の地獄と分かってながらもね。

『うぃーお疲れー』

先輩が入った後に閉じた扉の前で呼吸を整えるために何度も深呼吸した。それに震える身体を落ち着かせるためにも。それから部屋に入ったんだ。

『............お疲れ様です』

『おー来た来た』

『遅せよ愚図』

怖い。嫌だ。そんな感情ばっかりだ。それでも逃げ出せないから、そこにいるしかなかった。やがてすぐ、座って靴紐を結んでいた副キャプテンが立ち上がった。もちろん僕より背が高くて体格も全く差がありすぎる。そして見上げる形で先輩と目を合わせた後、すぐにみぞおち付近にドンという衝撃がきた。

『..うっ.............おぇ』

殴られたときは視界がぼやけて歪んで苦しくて。あっという間に倒れこんだよ。

『はーあ、やっぱうぜえなお前っ!』

倒れてがら空きになってる横腹を執拗に蹴り上げる副キャプテンに次いで、周りの先輩や同級生も何人か蹴ってくる。その中には、さっきまで一緒に自主練していたあの先輩もいた。見ている人は恐らく、動画でも撮ってたんだろうね。

『ゴホゴホッ................ぉえ......ぇ.....』

『まじでっ!きめえんだよお前!』

『早く死ねやっ!!』

囲まれて暴行を受けていることよりも、自分がここまで他人に嫌われてる事実の方が何倍も恐ろしいし苦しかったよ。早く終わってくれ、頭の中はそれでいっぱいだった。

『...........ぁ.....っ......ゲホッ.........』

『あっはっは!早く死ねよ』

視界に映る今の光景を受け入れられないから目を瞑ってるしかなかった。そんな僕の耳に届いたのはさっきまで一緒にいたあの人の声。

『そういやお前さぁ!さっきなんで練習してからこんなことすんのかって生意気に聞いてきたよなぁ?ちょっとでも考えればわかるぞ、馬鹿かお前?まだ体育館に他の部活の奴らが残ってるからに決まってんだろ。それに、外の工事も終わってるしな』

『あ、てか先輩方知ってます?こいつクラスでも嫌われてるんすよ!まじおもしれーわ!』

『へぇ、そうなんだ。かわいそ』

何でその事知ってるんだろうって思ったけど言ったのは同級生でさ。どこからか聞きつけたんだろうね。.......その後はずっと目を瞑ってた。早く終われ早く終わってくれって。.....それから、何分経ったのか分からなかったけど先輩たちが僕の周りから離れてった。もう飽きたみたいにみんな口々におしゃべりしだしたりスマホを開いたりしてね。......もうとにかく早く帰りたかったけど体が痛すぎて起き上がることは出来なくてさ。しばらくは地面に横たわったままだったよ。.........その時だったよ。煌成が来たのは。

「.......!」

煌成はもぬけの殻みたいに、置物みたいに何も言わずテーブルの角をただ見つめていた。


扉の向こうから走り寄ってくる音が聞こえてさ。最初は帰っていった人のうちの誰かが忘れ物でも撮りに来たのかなって思ったんだ。たぶん先輩たちもそう思ってたんだろうね。だから僕に起きろとかも言わずそのままだったよ。.......で、扉が開いた。

『お疲れ様でーす!いや疲れた...........』

『........えっ木場?』

『......あっちょっ』

元気よく入ってきた煌成に僕も先輩も驚いたよ。まあ煌成も驚いてたけどね。倒れてる僕を見てさ。....はたから見たら異常な光景だっただろうね。部屋の真ん中で1人だけ横たわってるのに誰もそれを気にしてないんだもん。

『......えっ......秀一....?』

煌成は倒れてるのが僕だって気づいたけど何も返せなかった。.....正直あの時は、ほっとしたなぁ。これでようやく部活を辞めれるって。それに期待もしてた。もしかしたら煌成がこの事を先生たちに報告してくれるんじゃないのかなって。やっと全部終わるんだって。......でもさ。

「.......その後はどうだったんだよ、煌成」

黙り込んだ蔭山の代わりに煌成が話すように促す。話の始まりからずっと顔を上げずに話を聞いているだけだった煌成はようやくスイッチが入ったみたいに続きを話し始めた。


「..........俺が部室入ってすぐ、先輩たちの慌てる姿が見えた。........何に慌ててんのか分かんねえまま部室を見回してたらすぐに倒れてる秀一が見えた」

「.......なんで蔭山って分かったんだ」

「....そりゃあ今までずっと一緒にいたんだし分かるよ。.....秀一はずっと何も言わず倒れてるままでさ、明らかに普通の様子じゃなかった。体操服はかなり汚れてたし、足は赤く腫れてた。たぶん、服着てるところもすごい蹴られてたと思う」

「........そんでお前はどうした」

「.........何かしらあったのはすぐにわかったよ。.......暴行受けてたのかもって考えたりもした。でも先輩たちが急いで俺の目の前まで来てちょっと外で待つように言われたんだ」


『な、なあ木場?ちょっと外で待っててくんねーか?ちょっと......な?いいか?』

『そーそー頼むわ!.......あっそこで待っとけよ?な?』

俺は先輩に言われるがまま部室の外でしばらく待ってた。3分ぐらいしてさ、先輩に呼ばれてもう一度部室に入った。....秀一はもう倒れてたりはしてなくて部屋の隅の方で座ってた。

『いやーすまんすまん!バタバタしちまってさ!』

『なんでここ来たんだ?今日休みだろ?』

『......朝練の時部室にタオル忘れてたの思い出したんで』

『そうか!どのタオルだ?.....どこかにあったっけ~』

『俺たちも探すの手伝うわ!』

さっきの事を俺に聞かれないようにみんな無理やり会話を逸らしてさ。......俺はタオル受け取ったら何があったのか訊こうって決心したよ。

『....お、これじゃね?なあ木場』

『.........あぁそれっす』

『よかったよかった!ほら!』

『あざっす。.........あの.......っ.........』

『....どうした?』

『.....なんでもないです。お疲れ様です』

『おうっ!お疲れ!

.......でも、訊けなかった。


「......なんでだよ」

「................勇気が出なかったんだよ」

「......」

「..........先輩たちの後ろの方で何も言わず座ってる秀一が目に入ってさ。.......もっ、もしも訊いちまったら俺も秀一みたいになるんじゃないのかって思っちまって...........俺、怖くて...........」

そう言い切って煌成は自分の顔を手で覆った。.........そういうことかよ。煌成が何も言わなかったんじゃなくって言えなかったってことか。


「........ふざけんなよ.....」

震えた声で口を開いたのは、他の誰でもなく蔭山だった。



前書きにも書きましたが今回で30話に到達しました!やったー!!

最初はここまで続くなんて思ってもみなかったんですけど読んでくださる皆さんのおかげでモチベが上がってきて、こうして無事節目を迎えることが出来ました!本当にありがとうございます!

かといって特別なことは出来ませんが次回以降もじゃんじゃん更新していきます!

ここまで読んでいただきありがとうございました!次は夜更新します!


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