#29 自主練習とか
「.......最初はどこの部活に入ろうか迷ってて。中学校の頃みたいに生徒会とか入ろうかなって思ってたけど、新しいことにチャレンジしてみたくて、たまたま目についたバスケ部に入部することにした。......まあ煌成のおかげでルールとか少し知ってたからってのもあるけど」
「........」
その言葉に、俺は大人しく首肯する。今から語られる出来事は教室のよりも酷いものなのか。それを確かめるには、今からの話に耳を傾けるしかない。
「....僕は初心者だったから入部したての時は馴染めるのか、練習についていけるのか不安だった。....でも、煌成がずっと一緒にいてくれて。アップの時もパス練習の時もいつも僕とペア組んでくれてさ」
煌成の顔は無表情のまま、蔭山の方を向いていた。
「.....それで周りの同級生とか顧問の先生も丁寧に教えてくれて。段々バスケが出来るようになっていってさ。.....すっごく楽しかったんだ。教室ではあんな目に遭ってたからなおさらね」
「.......部活ではお前、どうしてたんだ」
「どうしてたって....別に普通だよ。クラスでは委員に立候補してあんなことになったんだから、できるだけ変わったことはしないように過ごしてたよ」
「......一応そういうのは知ってたんだな」
「そりゃあいくらなんでも分かるさ」
ぼんやりと俺たちの後方にある窓を眺めている様子の蔭山は冷めた顔をしていた。.....無理もない。良かれと思って取った行動をきっかけに虐められたのだから。....でも、まだ部活での話は核心に迫ってない。現時点では虐めの気配を感じないどころかむしろ和やかで楽しそうだ。そう考えていた折。
「.........ま、結局意味なかったんだけどね」
「......え?」
あっけらかんと言い切ったその言葉に反して、肘をつきながら俯く蔭山をただ見ることしかできなかった。.......いよいよか。
「......大丈夫か。.....キツいんだったら無理に話さなくていいぞ」
「零斗の言う通り。言うのが辛いんなら俺から零斗に話すよ」
「.......いや、大丈夫。話す」
俺たちの言葉に応じる蔭山は顔を上げて、思い出すかのように右上の方に視線を向けて語りだした。
「......まあさっきも言った通り、最初は皆優しくて楽しかったよ。.....でも、入部して数カ月経ったぐらいかな。そのころの僕は練習にも慣れてきて、シュートも少しは入れられるようになってて、バスケが楽しくて楽しくてしょうがなかった。その日も部活に行ったんだけど、煌成がいなかったんだ。たぶん用事か何かあったんだろうね。顧問の先生に聞いたら休みだって言われてさ」
「........そうなのか、煌成」
「....ああ。多分その日は姉貴の手伝いに行ってたんだろうな。あんまり思い出せねえけど」
煌成の姉はカフェを経営しているが、人手不足のためたびたび煌成が駆り出されている。これは俺もよく知ってる話だ。
「.....それでさ。煌成がいなかったから不安だったんだけど、部活の人たちは練習中はいつも通り優しく教えてくれたりしてさ。....練習後のミーティングも終わって片付けをしようとしてた時」
一層沈んだ声だった。
『なあ蔭山』
『ん、どうしたの?』
同級生の1人に呼び止められた。その人は、ある程度会話をしたことはあるけど特別仲が良いってわけじゃなかったからさ、話しかけられるのはちょっと驚いたけどね。
『片付け終わった後残ってくんね?』
『いいけど.......どうしたの?』
時計を見たら、時間にはまだ余裕あったしすぐに了承した。答えた時、やけにほっとした顔だったのは不思議だったな。....まあいずれ分かるんだけどね。
『ちょっとシュート打ち足りなくてさ、球出しとかパスとかお願いしたくって』
『ああそういうことね!......でも僕でいいの?へたくそだし。他にもたくさん人いるよ?』
『良いって良いって!てかパスとかさ、蔭山の練習にもなるかもだろ?一石二鳥じゃん!』
『確かに...!じゃ、すぐに片付けて練習しよ!』
そうやって居残り練習に誘ってもらうなんて初めてだったからさ、嬉しくって急いで片付けを終わらせてシュート練とかを2人でしてたんだ。その間に先輩とか他の同級生は部室に戻って行ったんだけど、部室から出てくる人数がやけに少ないような気がしたから疑問に思ったんだ。かなり時間経ってたのに。
『........?』
『おーい蔭山ー!早くパスしてくれよー!』
『あぁごめん!...じゃ、行くよー!』
それでひとしきり練習して、その人は満足したのかそろそろ終わろうって話になって。片付けて2人で部室に行ったんだ。
『お疲れ様っすー』
『.......お疲れ様です』
まだ部室内には先輩とか同級生が残っててさ。もう制服に着替えてたのに残ってたからびっくりしたけど、まあ居残っておしゃべりでもしてたんだろうなって思って挨拶もしてね。....でも先輩たちとはまだあんまり会話とかしたことなくて元々ちょっと怖がってたんだ。だから早歩きで自分のカバン取ってさ、急いで制服に着替えようとしたんだけど、制服を入れた体操服袋が無かったんだ。ちゃんと練習前に入れたはずだからおかしいなって必死に探したよ。
『あれ..........?』
そしたら、喋ってたうちの1人の先輩に後ろから声かけられて。やっぱり怖かったけど振り向いたらさ。
『おい、蔭山』
『.....はい。........!』
その手には僕の袋があったんだ。びっくりしたけど、見つけてくれたんだと思ってさ。ちょっとほっとしたんだ。
『あ、それ僕のです......ありがとうございます』
お礼を言ってさ、先輩から受け取ろうと手を伸ばしたんだ。でも、先輩は袋を僕に取らせないようにひもを引っ張ってさ。........あのにやにやした顔は忘れたくても忘れられない。
『.....え?』
『どうした?取っていいんだぜ』
『いやあの.......そんな高い位置で持たれちゃうと僕の身長じゃ届きませんよ』
『ジャンプして取ってみろよ、これも立派な練習だぞ?』
その先輩、レギュラーの中でもひときわは背が高くて。差は軽く10センチはあったからさ、そんな人に高くまで上げられたら届くわけないって分かってたけどそれでもなんとか取ってやろうって必死だったんだ。......まあ早くこの場から逃げ出したいって気落ちが大きかったと思うんだけどね。そんなことしてたら段々さ、周りの先輩とかもみんな僕たちの方を見て笑い始めて。......僕たちっていうか僕を見てだと思うけど。
『ははは、頑張れよ蔭山くーん』
『ほらほら、そんなジャンプじゃいつまでたっても試合出られねーぞ?』
『あはははは!すっげぇまぬけ!』
全く届く気配は無くって、先輩も興味が薄れたのか僕が届くところまで袋を持ってきたんだ。だからさ、今度こそって掴もうとした。...でもダメだった。
『.........あっ!』
『へいへーいお前行くぞー?』
『あっおい!こっちに回せよ!』
『ほらパスパス!』
『おい、蔭山。お前の練習だぞ?』
僕の体操服袋は先輩から同級生までいろんな人の手に渡ってさ。取ろうとしても無理だよ。あんなスピードに追い付けるわけがないし。......最後はさ、さっきまで一緒に居残り練していたあの人の手元に行ったんだ。...正直、期待はしてなかったけどもしかしたらって思って顔を見たんだ。そしたらどんな顔してたと思う?あの人。
「......どんな顔って......」
まあ想像の通りだよ。先輩たちと同じようにへらへら笑いながら部屋の隅にあるごみ箱にシュートしてたさ。このための練習だったのかな、なんて意味の分かんないこととか考えちゃって。部屋の真ん中で立ってるしかない僕に副キャプテンが言ったんだ。
『蔭山さー。お前いつになったらやめんの?』
『........え?』
びっくりしたよ。ルールとか練習メニューとかあんなに優しく教えてくれた先輩があんなこと言うなんて。まるで人が変わったみたいな声でさ、怖かったよ。
『え?ど、どういうことですか.........?』
『いやそのままの意味だって。いつこの部活やめんのって聞いてんの。分かる?』
『僕.......何かしましたか......?』
『はぁ......。毎日毎日さ、お前みたいな下手くその相手させられてるこっちの身にもなれよ。なーんで初心者のくせに入ってくるかねぇ』
他の人はまたニヤニヤしながら僕の方を見てて気味が悪かった。
『で、でも部活体験の時は初心者大歓迎って.......!』
『まあさ、最初は俺らもそれで別によかったよ。でもここまでの奴が入ってくるとはな。な、お前ら?』
『いやほんとそれな』
『まじへったくそだもんこいつ』
みんな僕を囲むように座ってて、まるで僕が見世物にされてるみたいで。今までとの違いにここは現実じゃないんじゃないのかって現実逃避しちゃったよ。
『足は遅いし体力は無いしシュートはヘボいし。いくら教えてもろくにうまくなんねーしさぁ。マジでうざいわお前』
『.........ご、ごめんなさい......』
『はぁ........そういうところもうぜーんだよ!いっつもおどおどしてるくせに変に調子乗って朝練とか来やがって。あれだろ?そんなんじゃあどうせお前教室とかでも虐められてんだろ?』
『...........』
何も言い返せなかった。ただ黙ってるしか出来なかった。そのころにはもうとっくに教室内で浮いてたし、あいつらに殴られてたから。
『ま、てなことでこれからも部活したいんなら勝手にすれば?まあ俺たちはもう教えるとかないと思うかけど。やめてくれるんならそれが1番だけどよ!』
『..........』
『あらら黙っちまった。つまんねー』
『..........どうして今日そんな事言うんですか』
『あん?あぁ、まあ簡単な理由よ。木場がいなかったからな』
そこで煌成の名前が出てくるなんて思っても見なかった。だからこれ以上部室にいたくなかったけど訊いたんだ。
『......煌成となんの関係があるんですか』
『いやあ、あいつってお前と仲良いじゃん?あいつがいる時にこうやって出来ねーよ』
『......どういうことですか』
『簡単な話よ、あいつにやめられたら困るからってこと』
『......え?』
『いやだってあいつめっちゃうめえじゃん。もうレギュラー入りしてるし、あいつにやめられたら色々困んだよ』
確かに煌成はまだ1年生なのに、あのころにはもう大会にも出場しててチームの主力だった。そんな期待の新人に抜けられたら困るからって言う理由にさ、後輩1人の事は考えてないくせにチームの事は考えてるんだなって。もうどうしようもないよ。
『..........』
『あ、てかお前木場にこの事言ったらどうなるか分かってんだろうな?覚悟しとけよ?』
『.......わ、わかりました...........』
『じゃとっとと帰って。ばいばーい』
僕は急いでゴミ箱から袋取り出して出ていこうとしたよ。そしたらその去り際にさ。
『あ、そういややっぱり部活やめんな。お前がやめたら木場に怪しまれるわ。まあだから明日からもちゃんと来いよ?』
『......っ!』
逃げるように部室から出た僕は涙と震えが止まらなかった。ドアから洩れて聞こえてくる大勢の笑い声を聞こえないふりすることも出来ずに。
クラス内での虐めもかなりひどいと思ったがこっちも相当ひどい。むしろ、ほぼ全員が蔭山に敵意を持ってる時点でこっちの方が悪質なんじゃないか?一応クラスメート全員から何かしらされたわけじゃなさそうだし。.......まあどっちもどっちだと思うが。
「......それで次の日から部活は行ったのか
「......言ったよ。もしやめたり休んだりすれば何されるか怖かったし、煌成が不思議がるだろうから。......でもやっぱり先輩の言う通り教えてくれたりとかは全くなかったよ」
「.....そういえば手伝い行った次の日に、やけに先輩たちが秀一に冷たいなって思った日があったな。ていうかその日からずっと先輩たち秀一に話しかけたりしなくなってた」
「.....お前、それ見て何も思わなかったのか。何かしてやらなかったのか」
恐らく、今日初めて蔭山ではなく煌成を詰める。というか今まで煌成を詰めることなんてなかったのかもしれない。煌成は俺の詰問に表情を暗くさせながら答えた。
「......不思議に思ったけど、たまたまなのかなって......」
「.....お前嘘だろ......」
「だ、だってしょうがないだろ!俺とか他の1年にはいつも通り接してたし優しかったんだから!」
「......自分の友達が辛そうにしてんのに何もしねえのかよお前は。......見損なったぞ」
いつもの明るくて良い奴である木場煌成はどこにいったんだ。そんな中、言い争う俺たちの間を蔭山が割いた。
「.....やめてよ。いいよもう。.......別に知ってたし。結局、煌成も他の人と同じだって」
「.........それどういうことだ」
蔭山は答えた。まるで当てられた問題を答えるが如く平然と。
「...だって煌成、僕が虐められてたの見てたし」
「......っ!」
「...........は?どういうことだよそれ」
煌成は見ていた?虐められてた現場を?それなのに何もしなかったのか?.....いやそうか、何もしなかったから蔭山は不登校になってるわけだし。
「......見たっていってもさっき話た日じゃなくて別の日なんだけどね。ね、煌成」
「.............」
「........詳しく聞かせてくれるか。無理なら大丈夫だ。こいつから聞くから」
「.......いいよもう別に」
俺は、隣に座る煌成が別人のように見えた。まるで煌成の皮をかぶった何かに。
こういう内容重すぎるのに長引いちゃう...なんでだ。
今回で回想終わらせようとしたら続いてしまって想定外......。急いで書き上げなきゃ。ここまで読んでいただきありがとうございました!また次回!




