♯20 偶然にしちゃ出来すぎてる
「ふぁ~あ」
飯を食って風呂に入り、その後のんびりとした時間を過ごして、現在はベッドで思考をまとめている最中だ。
百華と話したあの後、俺は部屋でいつの間にか眠ってしまっていた。目を覚ましてリビングに向かうと心配しての事か、父の帰宅がやけに早かった。これには結構驚いたな。昨日といい今日といい、父の新たな一面が垣間見えた気がする。...てっきり仕事人間だと思ってたんだけどな。
そんな父は帰ってきた後、母さんと2人でなにやら話していたが、徹頭徹尾百華の事だろう。途中に俺の方を見ていたし母さんが俺が百華の話を聞いたことも話したんだろうな。
「.....ふぅ」
寝返りを打って枕に顔をうずめる。
昨日ぶりの家族4人、顔を合わせての食事だったけど昨日よりもぎこちなさなどは無く、いたって普通の家族の会話だった。部活が一時停止になったことは、学校からメールが来ていたのか俺に対して聞くことはなかったけど。......というか今日は学校全般の話題が出なかったな。百華の手前、俺も学校の話題はほぼ話さないようにしてたし、あの2人も気を遣ったんだろ。百華に明日の学校はどうするのかなんて聞かなかったし。........ま、あとはいつも通りだったかな....。ふと上体を起こして、百華の部屋の方を見つめる。
まあでも、百華が部屋に戻る時間が少し早いような気がしたけどあれはなんなんだろうな。俺たちに何か言われるのかと警戒しての事か、それとも単にきまぐれだったのか。......まあいいや。
サイドテーブルに置いていたスマホに手を伸ばす。時間を確認すると21:53を示していた。そのままホーム画面を意味もなくスライドする。明日の事をぼんやり考えているうちに、いつの間にかメモを開いていたらしい。画面に表示される、数時間前の人影の特徴を声に出して読む。
「男子.....前髪長めで...制服ではない......かぁ。はぁーあ」
すぐ横にスマホを放り投げて大の字に手を広げる。ポスっと軽い音を立ててマットに沈むスマホの背面を指ではじきながら考える。百華にはああ言ったものの、この3つの手がかりから人影を探るってのは......
「.........難しいよなぁ」
......つーかそもそも人影は大人なのか?それとも......生徒とか?思い浮かぶ2つのパターンを踏まえる。大人だったら.....変な話、人影は逃げる必要は無くないか?体格でも力でも勝ってるのにさ。でもわざわざ学校に忍びこむか?ああいうやつらが生徒に目を付けて近づくのは路地裏とかじゃねえの?.....じゃあ生徒か?生徒は教師が帰る時間とかそのあたり把握してるもんな。...でも生徒が犯人なら、制服じゃないのはおかしいよな。てか第一、生徒が犯人とかありえんのか?こういうのって大体不審者とかが犯人だしな。
「.........」
俺はぐるぐる巡る考えを止める。........あーもうわかんねえや。後で考えよ。もう一度スマホに手を伸ばし、今度はMouTubeを開く。こんな時は一旦気分転換に限るぜ!配信のアーカイブを確認しようとZer0のチャンネルを開いてスクロールをする。...おっ、昨日配信してたんだ。
「珍し」
2日連続で配信なんてめったになく声に出る。少しだけ見ようかと再生しようとする俺の目が一点に止まる。......虐児の学び舎か。それと同時によみがえる昨日の記憶。俺は無意識にそちらの方を再生していた。
「......これって」
途中途中を飛ばしながら、あるシーンで再生を止める。そのシーンとは
『つってもどの教室だ...?結構近めに聞こえた感じだけどさ』
2階に上がってすぐにフラスコが割れて、発生源を探すところだ。なぜここで止めたのかというと、あの時感じた違和感の正体を突き止めたからだ。画面には教室が映っており、その教室は手前から[1-5]と[1-6]。.........俺の学校の配置でも、2階の右側は[1-5][1-6]の順に並ぶ。そう、これが違和感の正体。俺は見覚えがあったのだ。この配置に。でもそれだけで止めたわけではない。この程度はただの偶々と言える。しかし他にも教室の配置に共通点があるのだ。ここ以外では、1階に1年の他のクラスや用務員室、職員室があることや上の階につれて学年も上がっていくというところ。そして決定的なのは
「...化学室..」
俺の学校では化学室、ゲーム内では化学教室と表記されているこちらが両方とも2階の[1-6]の隣に位置するのだ。.....流石にこれは偶然と呼べなくないか?いやでも....そういうこともあり得るか?.......確かに学校の外装は俺の学校とは違う。が、正面玄関の見た目はどこか似ているような気がする。デザインといい、ドアノブの形といい。
「いやーでもなー」
ごろごろ転がりながらぶうぶう言っていると、無意識のうちに終わりの方までスキップしていたようだ。画面には[シナリオ/企画/キャラクター/背景/音楽/監督/製作者:カゲ]という、昨日見たまんまのエンドロールが流れていた。その画面をじっくり見つめる。
「.......」
...........カゲ.......カゲ....?
結びついたのは、学校での会話でたびたび登場した人物。しかし、そんなことないかとすぐに取っ払う。学校の配置が似てて、あんなことがあったからちょっと過剰に反応しちゃってるだけかな。いくらなんでも犯人が―――。............でも........もしかしたら。
気付けば俺は煌成に連絡を取っていた。
[すまんちょっといいか?]
そのメッセージに既読が付いたのは3分後。
[どした?]
[今日話した、かげやまって奴の事なんだけど]
返信に間髪入れず返信し返す。既読がすぐ付くが返信が来ない。疑問と納得が渦巻く脳内で待っていると2分後、返信が来た。
[あいつがどうかしたか?]
返信を打ち込んで送信ボタンを押そうとする手が止まる。俺が取ろうとしている行動は本当に正しいのか。百華のためといえども巻き込んでしまうのはいかがなものか。そんな考えが俺の指に絡みついて。
「.........ふぅぅぅ」
思考を落ち着かせようと一度深呼吸をする。大丈夫、ちゃんと煌成に伝えれば分かってくれる。それに、行動しなきゃ何も始まらない。百華は今も苦しんでるんだ。そんな事を言い聞かせていると気分が幾分マシになってきた。俺の指を雁字搦めにした躊躇いの蔦が解けていくのを感じる。
[えっと言いづらいんだけど
翌日、起床してリビングへ下りるとそこには母さんの姿だけだった。百華は学校に行ったのか、はたまた......。出来るだけ心配している様子を出さないように、それとなく聞く。
「おはよー。.......百華は?朝練行った?」
俺の後半の言葉に顔を曇らせる母さん。返事はその顔が示す通り
「.....部屋にいるわよ。今日も行かないって」
否定だった。
朝食を食べ、準備を済ませて玄関に向かう前に、百華の部屋に向かう。俺は扉の前に立って何を言うわけでもなく、直立する。
「......」
扉の無何有は人の気配がまるで感じられない。僅かな息遣いですら聞こえなくて不安になる。そんな不安をかき消すようにノックをしながら呼びかける。
「.....おーい、百華ー?起きてるかー?」
その直後、小さな声で
「..........なに?」
と返事する百華の声が聞こえてきた。ホッとしながら続けて言う。
「俺學校行ってくるからなー。人影の事は俺に任せとけ!じゃあな!」
今、行く気はないのかなんて質問して心の溝を深めるよりも、百華の傷を癒すことを最優先にすべきだ。そう結論付けた俺の言葉は百華に届いたのか。
「......」
数秒待っても返事が来ない。やっぱダメかと後ろを向いたその瞬間
「........いってらっしゃい」
そう聞こえた。
「....で、お前はなんでこんなことがしたいんだ?」
くるりと振り返り俺とのトーク履歴を見せながらそう聞いてくる煌成。俺はたじろぐことなく言い繕うことなく、正直に俺の考えを、ゲームの事を含めて伝える。まずは、百華の事から。
「...実は、昨日の人影見た女子生徒の話なんだけどさ」
「あぁ」
「...あれさ、妹なんだよ」
「........」
驚いてはいるがそこまで驚愕の表情を浮かべているとは思えない顔だ。そこからしばらくの沈黙。昨日と同じ場所、同じ時間だが大きく違うのは立場。昨日は煌成が打ち明ける側、俺が打ち明けられる側だったが、今回は逆だ。続く沈黙に堪えきれず重ねる。
「そんでさ、妹に話聞いたら、確かに人影見たっつっててさ。俺今人影捜ししてんのよ」
「...........」
「で、いろいろ考えてったら、カゲヤマが怪しいんじゃねぇのかなって」
「...は?なんでだよ」
軽い怒りを孕んだ疑問に質問に焦ることなく、俺はZer0の配信アーカイブを煌成に見せる。
「.....?んだよこれ?」
「良いから見てくれ」
俺は画面を見せたまま正面玄関のシーン、化学教室のシーンに飛ばしつつ話し始める。
「..........似てるだろ?学校と」
「まあな」
「そんで、このゲーム作ったのが........この人」
極めつけにエンドロールを見せて俺の考えを伝える。
「.....こんな感じで考えたらさ、人影の正体がカゲヤマじゃねぇのかなって」
煌成は俺のスマホから目を離し、いつもの余裕そうな表情で答える
「....つまり、お前の言い分では、このゲーム作ったのはあいつで、人影もあいつ?はっ、流石にありえねえわ。単なる偶然だろ」
嘲笑交じりで否定する煌成に対して俺は納得させようとも説得しようとも思わない。ただシンプルに自分の考えを伝える。
「....確かにありえねえよ?言ってる俺も馬鹿げてる考えだって思ってる。....でもさ、1%でも可能性はあんだよ。0%ではない。もしかしたらってのがある」
「...何が言いてえの?零斗」
「..........まあつまるところ、俺はさ、妹に危害加えるやつは絶対に許さねえ。今回の人影ももちろん。んで、その人影の正体が身近な奴の可能性がある。そんなの確かめるしかねえじゃん。だから煌成に頼んだんだ」
俺は指をスワイプして、MouTubeからメッセージアプリで煌成との会話を開く。そこに残る4文。
[えっと言いづらいんだけどかげやまが人影なんじゃねえのかなって]
[そんでお願いなんだけど]
[かげやまと会わせてくれないか?幼馴染なら連絡とか取れるだろ?]
[詳しいことは明日直接話す]
再度、静寂が場を支配する。その沈黙を破ったのは通り過ぎた男子生徒の会話だった。
「つーか部活無いの楽だけど、いつまでなんだよ。流石にこれからずっとはきちぃよ」
「知らね。人影の正体が分かったらじゃねえの?」
「人影~?そんなん早く特定しろよ、こっちはいい迷惑だわ」
2人はそういってこの場を後にした。その会話で考えるところがあったのか、少し険しい顔で何かを考えている様子の煌成に、俺は何を言えばいいのかわからないでいた。そして、しばらくの間が空いて口を開いたのは煌成だった。
「....わかったよ、手伝う」
そう言ってくれた煌成に俺は感謝し、肩を軽く掴む。
「ほんとか!?ありがとう!助かる!」
「....まあ、あいつが人影じゃなくても、お前と何か話すことでなんかあるかもしれねーし」
興奮のせいか聞き取れなかった言葉を聞き返す。
「ん?なんつった?」
「なんでもねえよ。.....んで、俺はあいつと話せるように連絡すりゃいいの?」
その言葉に首を縦に振って伝える。
「そう、そんで会話するとき、煌成もその場にいてほしい」
「はぁ?なんで俺も?」
眉をひそめた煌成の疑問を解く。
「幼馴染のお前がいた方が会話がスムーズに進めれるだろ」
「....分かったよ」
若干納得してなさそうな様子だが理解してくれたようだ。
「そんで?いつ話したいの?」
スマホを取り出そうと軽く下を向いてポケットを探る煌成にこう答えた。
「今日」
一瞬動きを止めた煌成はバッと顔を上げた。その顔は困惑そのものだった。
「..........は?」
さあさあメッセージを送るのだ煌成!
ここまで読んでいただきありがとうございました!最近バタバタしてて投稿ペース落ちてるの申し訳ないです!できるだけ間空けないように頑張ります!!また次回!




