♯16 トラウマ
ピピピ...!ピピピピ......!
聞き慣れたアラーム。朝が来たと脳みそが自動的に理解して意識が覚醒に近づく。
「ん........ぁ......」
手を伸ばし画面も見ずにアラームを切る。慣れたもんだ。
無理やり体を起こしてカーテンを開ける。昨日と同様、部屋に差し込む光に目を細める。
完全に疲れが取れたとは言えないが、スマホ片手に部屋を出る。
やーっぱ疲れ取れねぇなあ。ちゃんといつも通りの時間に寝たんだけど。もう少し寝る時間早めた方が良かったか?マジで眠いしこりゃ今日も授業中寝ちまうかな。
階段を下りながらぼんやりと考える。
ま、とりあえず寝坊しなかったからオッケーっつーことで。
ドアを開けてリビングに入る。
「おはよー」
ドカッとソファーになだれ込む。寝ないように気を付けないとな。.....ん?
いつものように母親からの「おはよう」が返ってこないことに違和感を覚えて座ったまま、顔だけ後ろを振り向く。キッチンでは浮かない顔で朝食の準備をしている母親。しかしその動きはぎこちなく手に着かない様子だ。
「どしたの?」
思わず聞くが、言い淀んでいる様子だ。本当に何があったのだろうか。不思議そうな顔の俺を見て言うべきだと判断したのか、重々しく口を開く。
「その....百華が....」
百華?百華が一体どうしたというのだろう。
「百華がどうしたの?朝練でもう学校行ったんじゃないの?」
いつもならこの時間はもう家を出て部活に勤しんでいる頃だ。さらに言いにくそうに母は続ける。
「...........学校に行きたくないって」
「えっ........あぁ...そっか...」
その言葉に一瞬困惑しながらも納得する。当然といえば当然なのかもしれない。なんせあんな経験をしたんだ、トラウマになっていても無理はないだろう。それに家に帰ってからもずっと浮かない顔をしていた。........何かしらのケアをするべきだったのかもな。ふっと後悔の念がよぎる。
「.......父さんは?朝学校行くって言ってたけどこのことは知ってんの?」
「うん....お父さんも百華と話してみたんだけど....やっぱり部屋に閉じこもったままで....。でもお父さん学校に行かないといけないし、会社にも遅れてしまうからって....」
「んだよそれ....」
見当違いなのかもしれない、それでも父に軽い怒りを感じる。なぜ百華よりも会社を優先するんだ。寄り添って話を聞いてやる、それが親というものじゃないのか。俺の怒りを察しての事か、父をかばうように
「....お父さんだってね、すごく気にしてたのよ。申し訳なさそうに学校に向かったの。.....だからお父さんの事、悪く思わないで」
母さんがそう言うならと納得して、いや納得はしてないが話を続ける。
「......母さんも話はしてみたの?」
「部屋には行ったんだけど....閉じこもっちゃって.....」
「そっか.....」
母親と2人、言葉無く会話が途切れる。.......どうしたものか。無理に学校に行かせるというのは良くないと思うが.....それでも部屋に閉じこもらせたままなのはな.....。...........よし
「じゃあ朝ごはん食べたら俺ちょっと百華と話してくるよ」
「.....そうね、頼むわ」
その提案でスイッチが入ったように手を動かす母親。
「んじゃ、いただきまーす」
黙々と食べ進める。母親は座ってテレビを眺めているが眺めているというより、視線の先にたまたまテレビがあるといった感じだ。
...........思ったより深刻だな....。どうしたものか.....
パンを咀嚼しながら考えを巡らせる。といっても何も思いつかない。
........話をしてみるとして、それで解決できるもんか?.....俺も学校に行かなきゃいけねえけどな......父さんのこと言えねえな、俺も。
口元のパンくずをはらって、席を立つ。あれこれ考えてもしょうがねぇや。
「ごちそうさま、話してくるよ」
時計を確認したところあと10分ほど余裕がある。不安そうな母親の声を背に百華の部屋に向かう。
「.......おねがいね...」
百華の部屋は俺の部屋を通り過ぎた通路の突き当りにある。百華との仲が芳しくないことから普段はめったに通らない。部屋に入るなんてもってのほかだ。2階に上がって目的の場所にたどり着く。
コンコン、と軽いノックをしてすぐ声を掛ける。
「.....百華....?大丈夫か?」
反応を待つほかない。じっと立っていると
「........何、兄貴」
ぶっきらぼうな返答が返ってくる。ひとまず、俺に悪態付ける程度には元気がありそうだとホッとする。
「学校、行けなそうか?」
「........兄貴には関係ないでしょ、もうよくない?ほっといてよ」
突き放す言い方だが、それ程度で腹を立てては兄なんてやっていられない。構わず話す。
「.....あのなぁ、確かに関係ねぇかもしれないけどさ、母さんも父さんも心配してんだよ。もちろん俺もな?」
「.......」
「だからさ、一旦鍵開けてくれねえか?母さんに顔見せてやれよ、な?無理に学校行けなんて言わないから――」
「うるさいっっ!!」
ドアの向こうから怒鳴り声が聞こえる。百華の怒鳴るのなんていつぶりだろうか、と的外れな思考がよぎりながら百華の慟哭は続く。
「あっ、兄貴には分かんないでしょっ!!私がどれだけ怖かったかなんてっ!!!」
「......」
..........百華の言うとおりだ。俺には百華がどれだけ怖かったかなんて計り知れない。
「がっ、学校には行きたくないっ!!もうあっちいって!!」
震えた声で言い切った百華の思いに何も言えないでいると、こちらに向けてドンと強い音が響く。枕か何かをドアに向かって投げたのだろうか。現時点でこれ以上は何もできないと判断して部屋の前を去る。
....思ったよりも深刻だな。
リビングのドアを開けると、その音に反応してテレビを見ていた母さんがこちらを向く。
「.....どうだった」
「.......ダメだった。学校には行きたくない、あっちいけってさ」
「......そう」
俺が百華を学校に行かせる、もしくは部屋から引っ張り出すとは思ってなかったのか、おおむね想定通りだという反応の母。
「.......まあ、学校行ってくるよ」
「........そうね....」
カバンを取りに部屋に戻り、その足で玄関に行く。玄関には珍しく母が立っている。その横を通り過ぎ、靴を履いて母と向かい合う。
「...じゃ、行ってくる。......百華の事頼むね」
「ええ........行ってらっしゃい」
「おはよーっす零斗!!....なんか元気ねえな、どした?」
「...別に何もねぇよ」
「そーか?てか、そういやさー!」
教室に入り、席についてすぐ煌成が話しかけてくる。いつもならうるせぇと言い返すところだがこの不安な感情を紛らわせてくれる元気さが有難かった。構成の話に耳を傾けながら、教科書をカバンから取り出す。
「なんか今日は皆おんなじ話してるぜ?」
「...同じ話?」
「そーそー!今朝大人が校長室に乗り込んでいったとか!」
「........は?」
その言葉に思わず手が止まる。ノートを落としそうになりながらもなんとか拾った俺を見て怪訝そうな顔の煌成。
「どした?」
「いや、別に。.......それより、その話詳しく」
「おぉ..........。えーとなんだったっけ」
怪しまれないように平静を装って聞き返す。それを聞いた煌成は思い出すように目線が右上を向く。早く言ってくれ。はやる気持ちを抑えながら次の言葉を待つ。
「えーっと.....そうだ!なんか娘?が昨日の夜教室で人影を見て怖い思いをした、みたいな感じだった気がする」
俺も人から聞いた話だからよくわかんねーけどな、という煌成の言葉が入ってこない。頭の中ではぐるぐると思考が駆け巡る。
......どうしたもんか、百華の事ってバレたら、あいつますます学校に行きたくなくなるかもしんねぇな。
「.......へぇ、そりゃ大変だな....」
なんとかひねり出した相槌ののち、席を立つ。とりあえず、外の空気でも吸って冷静になろう。
「どっか行くのか?」
「トイレ」
廊下に出て生徒の会話に耳を傾けると、やはり今朝のことについて話している。
「マジやばくね?モンペじゃん」
「こっわー、校長絶対びびってたろ」
父の悪口のような会話を聞き流しながらも廊下を進む。そんな中、気になるワードが聞こえてきて足が止まる。顔は向けずに、窓を眺めるふりをして聞く耳を立てる。
「人影ってなに?幽霊とか?」
「うわ、こっわ。....カゲヤマの呪いじゃん」
「ちょっとやめてよー、あいつまだ生きてんじゃん」
へらへらした様子の女子2人の会話を聞いて、教室に戻る。
カゲヤマ......か.......。
さあさあカゲヤマとは…?
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ではまた次回!




