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海龍様の通り道

作者: しるべ雅キ

 場所は伏しますが、神域と呼ばれる場所には相応の(いわ)くがあるものです。


 これから話すのは、とある神社に祀られている海龍様の怒りに触れた者達の末路とでも言えばいいでしょうか。


 神社と言っても大勢の観光客が押し寄せるような大規模な神社では無く、地元の方々の生活に密着した小さな神社ですがね。


 まずは神社について簡単にご説明しましょう。


 その神社は海龍様を祀っていると言うだけあって、どこまでも広がる外海からの海水が流れ込む窪んだ岩場にありました。


 少し変わったところで言えば鳥居などは岸辺にあるのですが、御神体の祀られた御社(おやしろ)は満潮でも歩けそうな遠浅の沖に突き出た岩の上に建っていました。


 鳥居から御社(おやしろ)までは昔から海龍様の通り道として人が入らず、年に数回行われる御社(おやしろ)の手入れも船を使って横から乗り付けているそうです。



 そんな静かで小さな神社でしたが最近はアニメや漫画の影響か、海外からもそこそこの観光客が来るようになったそうです。


 空港からのアクセスはよいとは言えないのですがSNS映えするロケーションなせいもあって、観光客は少しずつ増えました。


 ですが観光客が増えると、マナーの悪い方々が混じるのが悩みのタネです。


 海外から来られた観光客の中には神社が宗教の施設だと理解できない者も多く、大勢で騒ぎ出す方々までいる始末でした。



 そんなマナーの悪い観光客の中でも、ひときわ悪質な方々がいました。


 その方々と言うのは、動画配信をする2人組でした。


 もちろん神社側は許可など出していませんので、無断撮影です。


 しかも境内にあるものを次々に指差しては(あざけ)るように大笑いする、誰から見ても不愉快極まりない方々だったそうです。


 2人組は母国語しか話せないようですが、言葉は分からなくとも何を言っているのかは分かるものです。


 これはあとで聞いた話なのですが、2人組は神社を邪教と決め付ける哀しい心の持ち主だったそうです。


 そうであれば、当日の2人組の行動にも説明が付くものです。


 不敬な撮影を繰り返した2人組は、御社(おやしろ)を臨む岸辺に設置している賽銭箱を蹴り出したところで神社の関係者達が止めに入りました。


 未開だと決め付けていた人に注意されたのが相当ショックだったのか、2人組は悪態をついて逃げ去ったそうです。


 ですが腹の虫がおさまらなかったのでしょう、2人組はその日の夜に海を渡って御社(おやしろ)を壊そうとしていたのでした。



 どうしてそんな事が分かったのか? 答は簡単です。


 逃げた2人組は近くの食堂で周囲の目を気にする事も無く、真夜中に神社に忍び込んで御社(おやしろ)を壊そうと大声で話していたそうです。


 どうせ自分達の言葉は分からないと高を括ったのでしょうが、そこは海外からの観光客さえも歓迎しようとするお人好しの田舎町。


 2人組の母国語も会話が出来るくらいには勉強した店員が聞いており、すぐさま店長に相談したそうです。


 話を聞いた店長が神社に連絡するとそこからは田舎のネットワークの恐ろしさ、すぐに2人組のたくらみは神社を通じて町中に伝わりました。


 手の空いた者から順に集会所へと足を運び、対策会議が始まりました。


 当然と言うべきか会議は盛り上がり、自警団を結成して2人組を捕えようという過激な意見まで出て来ました


 逆に神域で騒ぎを起こすのは好ましくないという意見も上がり、会議は平行線を延々と辿るかのように見えました。


 ですが予想に反し、会議は事態を静観する方向であっさりと決着しました。


 一応、避難できるものは全部撤収させて被害は最小に抑えるようにはしました。


 御社(おやしろ)は建て直せばいいですが、人間はそうはいきませんからね。


 意外と言うか当然と言うべきか決まった方針に反発する者は無く、(くだん)の2人組が神社に忍び込んで来る前に撤収作業は済んで神社は静寂に包まれました。




 夜が明けて地元の人達が確認に来た時には賽銭箱などは壊さていたそうですが、御社(おやしろ)は無事だったそうです。


 あの夜を境に2人組を見た人はいませんが、「海龍様に連れ去られたのでは?」という噂が少し立っただけですぐに元の平和な日常に戻ったそうです。


 神域と呼ばれる場所には(いわ)くがあるものです、くれぐれも気を付けましょうね。

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