おこめがうごいた
「おかーさん、おこめがうごいたー」
リビングで娘が呼んでいる。洗濯物を置いて見に行けば、娘はそこのテーブルに顎を乗せて、テーブルの上の何かをじっと見ていた。
娘の視線の先、テーブルの上に一粒の米がある。これを見ているの? 炊く前の、ひとつぶのお米。はて、どうしてここに。
「どうしたのー? ミカちゃん」
「おこめがうごいたよー?」
「おこめがー? 不思議だねー」
米びつの中で、静電気か何かで米粒が浮いてくるくると回っているのを見たことがあるが、テーブルの上にあるのは一個の米粒だけだ。炊く前の、乾いたこめつぶ。
「ぎゃっ!」
私はあわててそれを潰していた。お米が動いたのだ、突然、丸い背中がぱっくりと割れて、二枚の羽が現れ羽ばたこうと……。手を外して見れば、手の下には、潰れた白い虫がいる。気持ち悪い……さっさと手を洗って来よう。お米に似た虫なんて、今まで見たことがあっただろうか?
私はキッチンで手を洗って、そこに置いてあった米びつに目が留まる。気になった私はしゃがみ、プラスチックの大きなケースに顔を近づけた。
中には大量のお米が入っている。揺らしても、じっと見ていても、動かない。まぁ、大丈夫だろうか。昨日炊いて食べたし。それでも、一匹くらい、混じっていたりは―
「おかーさん?」
「なにー?」
「ほら、これー」
不安に駆られ、私はケースの中を念入りに見ていた。娘は私の後ろに来ていて、振り返れば、その胸元に、飲み物を飲む用のコップを持っている。
コップの中に、炊かれたお米がいっぱいに入っていた。