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放課後スイーツタイム

雅さんの言いつけ通り、午後からは授業に出た。

燈ちゃんには放課後また説明するからと、何とか逃してもらった。

しかし、俺の頭は混乱していた。

雅さんと、風葉のこと。一族のこと。そして母さんのこと…。

情報が洪水のように押し寄せてきて、うまく処理できない。

それに、いくら考えてもわからないことばかりだ。

やはりもう一度、雅さんに話を聞くしかない。

授業の内容が頭に入ってくるはずもなかった。


―――――――――


放課後になった。

奏多は今日は部活が休みだという。小鳥遊さんも空いているそうだ。

ちなみに小鳥遊さんは化学部の部長だ。部員は彼女一人だけらしい。

色々心配かけたこともあり、説明も兼ねて今日のことを相談することにした。

燈ちゃんにも連絡しようとすると、彼女はすでに教室の前で待っていた。

いつも思うが、授業が終わってからそう時間が経っていないのに…

一体どうやって、この短時間で移動してきているのだろうか…?


お茶も兼ねてということで、学園内にあるカフェに移動する。

放課後でもそこまで混んでいない。

小腹も空いていたので、各々注文し席に着く。

今日の日替わりケーキはモンブランだ。疲れた脳に糖分はありがたい。


先に席に着いていた小鳥遊さんが、燈ちゃんの頭を撫でている。

「はぁ〜〜♡あかりんは今日も可愛いねぇ〜」

「わわっ、小鳥遊先輩くすぐったいですよ」

「先輩なんて、他人行儀な名前じゃなくてぇ、葵お姉様って呼んで欲しいなぁ」

「そ、それはちょっと恥ずかしいといいますか…」

「いいじゃないのぉ。この初心(うぶ)な感じ、ますます私好みだねぇ〜♦︎」

「ゆ、悠真さ〜ん。助けてください〜…」


あの燈ちゃんが押されている。俺も思わず顔が熱くなってくる。

そこに、山盛りのサンドイッチを抱えて奏多がやってくる。

「またか葵、そのへんにしとけ」

「おうおう奏多クン、もしかして嫉妬かね?」

「馬鹿、後輩を困らせるなと言っている」

落ち着いたところで、俺は今日あったことを話始めた。


―――――――――


「…へぇ〜、まさかゆうやんが、あの神籬風葉とねぇ…」

「小鳥遊さんは知ってるの?風葉のこと」

「そりゃまぁ?学園では有名だからねぇ。ゆうやんは編入したばっかだから知らないのね」

理事長の娘である彼女は、ただでさえ有名人だそうだ。しかも、生徒と秘書という、二足の草鞋にも関わらず、テストの成績は毎回学年トップ3に入るのだという。多忙ゆえ部活には所属していないが、中等部の頃は有名なテニス選手だったという。加えてあのルックスだ。まさに高嶺の花という言葉が相応しい。


「ちなみに私は毎回テスト1位だけどね⭐︎」

なぜだろう、嫌味に聞こえない。

彼女のくれる授業ノートは毎回とても理解しやすく纏めてくれていた。

「まっ、苗字が同じだし、何かあるかとは思ったけどねぇ。ゆうやんは今まで知らなかったんでしょ?」

小鳥遊さんはケーキをつまみながら続ける。

「あの子、ちょっと無口というか、近づきがたい雰囲気あるでしょ。別に挨拶したら無視されるようなことはないんだけど、どうも勘違いされやすいみたいで。ついた呼び名が、()()()()

…そりゃあまた大層な名前だ。しかし、わかりやすくはある。

「良くも悪くも目立っちゃうのよねぇ。理事長の娘ってことで、ちょっかい出す輩はいないみたいだけど」

「ちょっと、俺からもいいか?」

ようやくサンドイッチの山を食べ終えた奏多が言った。

「悠真はここに来る前、施設にいたってことだったよな。それより前のことは、やっぱり思い出せないのか?」


施設に引き取られる前、俺は森の中を彷徨っていたところを、

たまたま地元の猟師さんが発見してくれたらしい。

その時は服も体もボロボロで、おまけに記憶が曖昧。

覚えていたのは、自分の名前と年齢くらいだった。

そんな厄介者の俺を、施設の人たちは快く迎えてくれた。

学校にも行かせてくれた。

あの施設は、俺にとって間違いなく、第二の故郷だ。


理事長と会ったのは、一ヶ月ほど前だった。

いつも通り学校に行くと、颯爽と教室に現れ、テキパキと手続きを進め、進級と同時に俺はこの学園に半ば強制的に連れてこられたのだった。

それからは、燈ちゃんをバディとして紹介され、引っ越しの荷物整理もままならないまま一週間が経過し、今に至る。


「ともかく、ゆうやんが思い出せない以上、やっぱり理事長に聞くしかないねぇ」

「だな。とりあえず、俺たちで何か手伝えることがあれば言えよ?お前が一人で抱え込むには荷が重そうだからな」

「そうです!それに私は悠真さんのバディですから、思い出せるように全力で支えます!ちょっと頼りないかもしれないけど…悠真さんも、もう少し私を頼ってくださいね」

「みんな…」

顔を見られたくなくて横を向いた。目頭が熱い。

学園に来た時はどうなることかと思ったけれど、良い友人に恵まれた。

俺も、いつまでも覚えていないじゃいられない。

そのためにもう一度、雅さんに会わなければ。

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