神籬の一族
「少しは落ち着いたか?」
俺は再び席に座り、冷めかけたコーヒーを啜っていた。
「……ええ、少しは」
「そうか、暫くゆっくりしているといい」
「いえ、大丈夫です……続きを聞かせてください」
「ふむ……」
理事長は少し考えてから答えた。
「わかった。途中で苦しくなったら、遠慮せず言うように」
「先ほど話した通り、私は君の母の姉、つまり叔母にあたる人物だ。昔会っていたこともあるのだが、君のその顔は、どうやら覚えていないようだね」
理事長はわざとらしく肩をすくめる。
俺は昔、理事長に会ったことがある?
「私はずっと君を探していた。尤も、妹に子供がいるというのは、一族の中でも特に機密事項でね。私も表立って動くことができなかったんだ」
「その一族というのは?」
「神籬の一族。太古の時代より続くとされる、異能の血族さ」
理事長の説明によると、神籬の血は霊力を宿すと言われ、国家にとって重要な役割を担ってきたらしい。その力は時の為政者にも大きな影響を及ぼし、国家の危機を裏で支え続けてきたのだという。
「にわかには信じられんかね?」
「まぁ、いきなり霊力なんて非現実的な話をされたら、そうなりますよね」
「だが、もしかして君には心当たりがあるんじゃないか?」
「………」
「話を続けよう」
理事長は二杯目のコーヒーを啜った。
「妹は生まれつき高い霊力を宿していてね。将来を有望されていたんだ。だがある日を境に追われる身になった。そして君だけを残し、消えた。今も消息は不明だ。一族の中では死んだことになっている」
「……」
「妹の最期は、私も詳しくは知らない。だが妹の件を知った私は、君をいう忘れ形見を探すことにしたんだ」
「それで俺をこの学園に?」
「そうだ。まさかあんな山奥の施設にいたとは思わなかったぞ」
「どうやって俺を探し出したんですか?」
「私も妹ほどではないが高い霊力を持っている。姉妹ということもあって似ていたんだ、霊力の〝匂い〟みたいなものがな。妹と性質の近い君の痕跡を辿って十年、国中を渡り歩いたよ」
「……だいたいの事情はわかった気がします。すみません理事長、ご迷惑をおかけして」
「理解が早くて助かるよ。それに可愛い甥っ子のためだ。気にするな。これからは私が君の後見人となる。気軽に雅さんと呼んでくれ。 あぁ、それとな。ちょっとこっちに来なさい」
雅さんは部屋の隅に控えていた秘書さんに視線を投げた。
「紹介しよう。私の娘だ。幼い頃、よく一緒に遊んでいたっけな」