ルームメイトは春雷のように
教室に戻ると、クラスメイトたちは午後の授業の準備で忙しそうだった。
机に座って頬杖をついていると、隣の席から声をかけられた。
「なんだ、午後は真面目に来る気になったか」
ルームメイトの鈴池奏多だった。
「まぁ、燈ちゃんに言われたからな。お前だろ?俺の居場所教えたの」
「お昼のチャイムの後すぐこっちに駆け込んできたぞ。あんまり迷惑かけるなよな」
「わかってはいるんだけどな……」
「そう思うなら、行動で見せなきゃな」
奏多は剣道部のエースである。運動神経抜群で、スポーツならジャンルを問わず大抵のことはできる。おまけに成績優秀、面倒見の良い性格で、男女問わず人気がある。精悍な顔つきもあって、もし校内抱かれたい男選手権があったとしたら、間違いなく上位に入るだろう。
「ところで奏多、今日は小鳥遊さんは一緒じゃないのか?」
「あぁ、あいつならさっきそこに……」
『ゆうやーーーーん!!』
教室の端から、こちらに向かってくる女性がいた。
その声の大きさに、周囲のクラスメイトの視線が一気にこちらに集まる。
「にゃはは! 相変わらずの重役出勤だねぇ、ご苦労さん♪」
ハイテンションのまま勢いよく肩を叩かれる。
彼女は小鳥遊葵。
もちろん奏多の相棒である。
「なぁ葵、やっぱり悠真は午後からちゃんと来ただろう?」
「そうだなぁ。ゆうやんの事だから、今日こそは一日寝てるかと思ったのに。賭けはあたしの負けかぁ」
会話の流れからある程度予想はついたが、あえて確認してみる。
「賭けって?」
「ゆうやんが午後も授業サボるかどうか」
「悠真もそこまで不真面目じゃねぇよなぁ?」
わかってはいたが、思わず顔をしかめた。確かに寝坊の常習犯だが、まさか賭けの対象にされているとは。
「じゃ、明日の学食のプリンは奏多クンの奢りね」
「待て待て葵。どうしてそうなる。賭けに勝ったのは俺だぞ」
いつもの夫婦漫才が始まってしまった。
実際のところ、奏多と小鳥遊さんは付き合っているかのように仲が良い。
学園内でも相棒同士の交際はないわけではないのだが、上流階級にも色々事情があるらしく、気軽にとはいかないらしい。この二人も例に漏れず実家は超がつくほどの名門である。悠真にはまったく縁遠い世界の話である。
「もう、奏多クンったらそんな小さな事気にしてたらモテないぞ〜。では仕方ない。奢ってくれるなら、一晩だけ私を好きにしていい権利をあげよう♪」
小鳥遊さんは見せつけるように豊満な胸を持ち上げ、ウインクをかます。男子生徒の目線が一斉に集まり、誰かが教科書を落としたようだった。
奏多が溜息をつく。
「……葵。悠真が見てるぞ」
「にゃはは、冗談だってば〜、ゆうやん顔真っ赤で可愛いなぁ。じゃあ私、席に戻るから。また後でね~」
そう言うと、ひらひらと手を振って行ってしまった。
うんざり顔の奏多だったが、念の為確認をとる。
「奏多お前……まさか本当に小鳥遊さんと?」
「おっと、そんなことより、そろそろ授業始まるみたいだぞ」
いそいそと教科書を開く奏多。
この瞬間、クラスの男子全員の気持ちが一つになった。
本当だったら校庭の桜の木の下に埋めてやろう、と――