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小学1年生の宿題 ~塵も積もれば~

作者: 於菟

初めての小説家になろう投稿です。共感してくれる人がいたらいいなと思います。

「ただいまー」

「ただいまー」

 海は梨音を学童に迎えに行って一緒に帰って来た。

 小学1年生になる娘の梨音は帰って来てすぐにランドセルを広げて今日の宿題をテーブルに出した。

「ママ~。今日のしゅくだいね、これなの」

『(    )の1日』と書いてある2枚のプリントを海が受け取る。

「何これ?」

「パパとママがなにしてるかしゅざいしてかくんだって」

プリントには上に午前と下に午後の大きい枠があり、中間に狭い枠がある。中間の狭い枠に娘が『しごと』と書いた。どうやら仕事に行く前後に何をしているのかを家族に取材して書くらしい。

「パパまだかえってないから、ママからかく。おきるのなんじ?」

 梨音は(   )の中にママと書いて宿題は(ママ)の1日になった。

「5時半」

 梨音が『5じ30ぷんごろ』とプリントの一番上に書く。

そこから仕事に行くまでを二人でお話ししながら伝えていく。

・おきる5じはん

・おちゃをのむ

・ピアノれんしゅう

・あさごはんつくる

・りおんおこす

・ふとんたたむ

・あさごはんたべる

・はをみがく

・かおをあらう

・きがえる

・うさぎのえさやり

・きんぎょのえさやり

・しょっきあらい

・かたづけ

・そうじ

 箇条書きで段々と字が小さくなって行き、縦には書ききれず2列になり、字も崩れてきた。

「それと、梨音の着替えを出す、梨音を着替えさせる、梨音にランドセルの中身をチェックさせる…」

「ママ!それははずかしいからかかないの!もう、かくとこない!」

 残念だ。海はまだ伝え足りない。梨音を上着と帽子を着る様に促す、不定期だがゴミの分別に誤ったものが入っていないかチェックとゴミ捨て、回覧板を回す等あるが、もう、枠に書く事が出来なさそうだ。

「じゃあ、かえってからね」

 海が話すことを梨音が箇条書きにしていく。

・うさぎのえさやり

・きんぎょのえさやり

・ばんごはんじゅんび

・ばんごはん

・しょっきあらい

・おふろ

・せんたく

・ふとんしく

・どくしょ

・ねる11じ

「それと、梨音の宿題を見る、答え合わせをする、お風呂に入って梨音を洗う、梨音の歯磨きの仕上げ磨き…」海は普段行っていることを話し続ける。

「りおんのことはかかないの!」

 やはり残念だ。まだある。梨音に明日の準備をさせる、梨音を寝かしつける。床に転がっている酔っ払いに毛布を掛ける、酔っ払いが捨てなかった缶やつまみのゴミを捨てる、明日の自分の準備をする等書き切れなかったことが沢山頭に浮かぶ。それにしても、私は毎日忙しくて何をするにも時間が足りないと思っていたが、こんなに沢山のことをしていたのだなと海は納得し、疲れたと思った。そして、うさぎと金魚に餌をやり、うさぎの飲み水も交換する。

「これからご飯作るから音読して」

 海は米をボールに3号計りながら入れながら梨音に声をかけた。

「はーい」

 そして梨音は『たぬきの糸車』の音読を始めた。


「ただいま~」

「パパおかえり~」

 梨音が声をかけるとリビングに入ってきた健吾がプシュッと音をさせ、一口発泡酒を飲む。

「おかえり」

 夕飯を作りながら海も声をかける。

「風呂入ってくる」

 健吾は風呂場へ行った。


 健吾がリビングに戻って来る頃には夕飯ができている。健吾は飲みかけの発泡酒を飲んでから梨音に話しかける。

「学校どうだった?」

「たのしかったー。パパ、ごはんのあと、しゅくだいてつだってくれる?」

「おう。いいぞ!」


 海が食器を洗っている時に梨音は宿題で健吾に取材していた。

 海は食器を洗い終わってから、取材の終わった梨音とシャワーを浴び、一緒に体を拭いてパジャマに着替えさせると健吾はスマホを見ていた。いつもの光景である。

 梨音がお絵描きをして遊んでいる間に海が洗濯機をまわし、洗い上げてある食器を拭きあげて食器棚に戻し家事を続けていると、スマホを胸の前で持って健吾が眠っていたので毛布を掛ける。

「梨音宿題終わったの?」

「うん。」

「見せて。」

 海に梨音が例の宿題を見せる。(パパ)の1日のプリントを見てみると形の整った字で大きく午前の枠にこう箇条書きされていた。

・おきる6じ

・はみがき

・かおをあらう

 真ん中の狭い枠にしごとと書いてある。午後の枠にも大きく整った字を書いていた。

・おふろ

・ばんごはん

・スマホ

・ねる9じ


 海は爆笑してしまった。つられて梨音も笑う。

「ママいっぱいしてくれてありがとう。」

「ママ、梨音のためなら頑張れるよ。」

 海は涙目になりながら応えて、自分と梨音の歯磨きをしてから今日読む本を持って寝室に向かった。


 3年後、海はスマホの検索バーにこう文字を打つ。


 『離婚届 ダウンロード』


この物語はフィクションです。

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