存在意義
ヒドイン登場で喜ばれる……そんな作家になりました。
『オーヴォワール、偽獣もどきの糞野郎』
ルイーズの口から発せられたとは思えない台詞を聞きながら、俺はフットペダルを踏み込み魔力コンバーターのスイッチを操作した。
武装に流れていた魔力をカットして、機体防御に回す。
サンダーボルトの装甲に魔力が流れ、力場が発生すると同時に左脚部の膝関節を撃ち抜かれてしまった。
「ぐっ!?」
衝撃と共にサンダーボルトの左脚部は、関節から先を消失。
機体を軽くするために左脚部をパージすると、カメラアイで捉えたルイーズは大型ライフルを構えたままだった。
通信回線も開いた状態のままであり、会話も続いている。
『……あの状態から避けるんだ。異常な反応速度も偽獣の細胞を埋め込んだおかげなのかな?』
柔らかい雰囲気を常にまとっていたルイーズだったが、俺の目の前にいる彼女は酷く冷たい目をしていた。
言いながら二射目を発射しており、俺は強引に回避する。
二射目を無事に回避しながら、俺はルイーズに問い掛ける。
「っ……やはり裏で動いていたのはあなたでしたか、ルイーズ」
『気付いていたの? 世間知らずの割には案外鋭いのね』
三射目は装甲を掠めたが、力場で守られているはずなのに貫かれ溶解していた。
二等級の偽獣の放っていたビームもどきと比べれば、速度も威力も上だろう。
何より、ルイーズの射撃は正確だった。
回避しなければコックピットが撃ち抜かれていたはずだ。
ルイーズの殺意を感じながら、俺は理由を問う。
「偶然です。ここに来る前、あなたはサンダーボルトに亜空間コンテナがないと断言しました。ですが、自分はサンダーボルトに亜空間コンテナが搭載されていない、とは言っていません」
これまでに怪しい部分は幾つもあったが、決定的だったのは亜空間コンテナの件だ。
サンダーボルトに搭載されていないのは事実だが、実験機に関する情報は機密扱いだ。
それを知っているのが気になっていたが、まさか攻撃してくるとは思ってもいなかった。
『はぁ、焦って失敗したわね。三等級に固執するのを見て苛立ったのがまずかったかしら? 戻ったらベルメールに叱られてしまうわね。もっとも……あんたの殺害が手土産になるから相殺されるでしょうけどねっ!』
連続してビームが襲いかかってくると、回避するが右腕を貫かれて喪失してしまった。
「誰かの指示なのですか?」
どうしてルイーズが俺を狙うのか? 誰の指示なのか?
少しでも情報を集めようとするも、ルイーズも俺の意図に気付いたらしい。
『組織の異物が気安く私に話しかけるな』
酷く冷たい声で言い放ったルイーズは、そのまま俺に対して抱いていた感情をぶちまけてくる。
『偽獣もどきのお前と話すだけでも虫唾が走る! プロメテウス計画の詳細を掴むために優しくしたけど、本当に嫌で仕方なかった』
ルイーズの言葉が心に突き刺さる。
「どうしてそこまでして」
『必要があったからに決まっているじゃない。世間知らずなおじさんの世話係は面倒だったけどね!』
ルイーズの感情が高まったのか、攻撃が激しさを増してくる。
『私がお前にどうして近付いたと思う? それは、お前が組織にとって邪魔な存在だからだよ』
「プロメテウス計画は組織の上層部が――」
『まだわからないの? あんたの存在は、社会にとって都合が悪いのよ』
「自分は男性の戦力化のために――」
『お前、まだ自分が危険な存在だって気付いていないわけ?』
ルイーズは俺に対して酷く呆れた表情をしていた。
俺が距離を取ろうとすると、ルイーズは大型ライフルを構えたまま距離を詰めてくる。
移動しながら射撃をしているというのに、狙いは正確だった。
これだけの腕を持ちながら、編入が許されず五組に在籍しているのが信じられない。
『仮にあんたが成功したとしたら、次に待っているのは何だと思う?』
ルイーズの問い掛けに、俺は答えられずにいた。
回避行動で精一杯だったのもあるが、その先を考えるのが自分でも怖かったからだ。
プロメテウス計画が成功した場合、待っているのは――。
『――戦力確保の名目で、成功率の低い手術を繰り返すでしょうね。そうなれば、どれだけの男性が死ぬことになると思う? あんたというたった一人の成功例を求めて、何千、何万の命が無駄に散っていくのよ』
「そ、それは」
俺が言い淀むと、ルイーズは目を大きく見開いた。
『お前はこの世界にいたら駄目な存在なの。失敗するなら見逃してやろうと思っていたけど、まさか多数の二等級相手に生き残るなんて――偽獣に殺されていれば良かったのに、無駄に実力を示すから私に殺されることになったのよ』
ルイーズが俺を出撃させたのも、もしかしたら任務中に戦死させるのが目的だったのかもしれない。
優しかったルイーズが全て偽りであったという事実に、俺は精神的に少なからずショックを受けていた。
ただ、このままここでは終われない。終わりたくない。
「それでも自分は生きて計画を成功させます。それが自分の存在意義ですから」
ルイーズは俺の答えが気に入らなかったのか、激しい憎悪を感じる顔を見せた。
眉間に皺を作り、俺をモニター越しに睨み付けてくる。
『化け物の癖に一丁前に覚悟を見せるんじゃねーよ!』
本気になったのか、ルイーズのバトルドレスが大型サブアームに持たせたビーム砲を構えた。
収束されたビームではなく、拡散されて散弾銃のように広範囲を攻撃してくる。
「しまっ!?」
回避出来ずにサンダーボルトが幾つものビームに撃ち抜かれ、飛ぶことすら出来なくなって海面に打ち付けられてしまった。
叩き付けられた衝撃を感じた直後には、ルイーズのバトルドレスがサンダーボルトを踏みつけて大型ライフルをコックピットに向けていた。
『良い夢を見たでしょ? 偽獣と戦えて、こんなに可愛い私と仲良くなれたのよ。もしかして、付き合えるかも、って期待しちゃった?』
俺を見下ろすルイーズは、薄ら笑いを浮かべていた。
確かに偽獣と戦えたのは良い夢を見られた、と言える。
だが、後半は必要だろうか?
MCとヘアセットならば大喜びしたかもしれないが、俺にとっては裏切られた方が辛い。
学園で友人ができたと思っていたのに……。
「いえ、お付き合いは考えていませんでした」
素直に答えると、ルイーズが片方の眉尻を上げた。
『今際の際に悔しがる様子も見せないなんて、本当に人形って感じがするわ』
大型ライフルの引き金を指で絞るルイーズを見ながら、俺は魔力コンバーターを操作して胸部へ魔力を注ぎ込む。
力場を発生させてコックピットを守ろうとしているのだが、ルイーズの攻撃を防げるとは思えなかった。
コックピットがビームに貫かれようとした瞬間、今度は周囲に水柱が幾つも発生した。
サンダーボルトが衝撃で発生した波に揺られると、ルイーズが慌てて飛び上がって周囲を確認する。
『……時間をかけすぎた』
苦々しく言葉を絞り出したルイーズは、何かを見上げていた。
俺の方もモニターの映像を見て、状況がより絶望的になったのを確認する。
「一等級……」
巨大な偽獣はサンダーボルトの二倍はある大きさで、硬そうな外郭を持っていた。
背中が丸まっているのだが、外郭で出来た背びれ棘を持っている。
各所にも鋭い棘を持っており、攻撃的な印象を受ける。
特徴的なのは太くたくましい両腕と、長い尻尾を持っている点だろう。
太い両腕さえなければ、恐竜のような見た目にも見える。
頭部にある目は六つ……一等級に分類される「バオーガ」と呼ばれている種類だ。
外郭の隙間には目玉のような緑色の発光体があるのだが、それだがギョロギョロと動くとビームもどきの発射態勢に入った。
『まずいっ!?』
ルイーズは俺の相手をしている余裕がなくなり、サンダーボルトから距離を取って回避行動に入る。
俺の方は動かない機体の中で、偽獣の強い反応を知らせるアラートを聞いていた。
「力場の強さが二等級と違いすぎる」
魔力量を計測したのだが、単純に表面を覆っている力場の強さだけでも二等級とは桁違い数値を測定していた。
戦場で一等級を見て生き残った兵士は少ない。
俺のように運良く生き残った場合がほとんどだ。
歩兵にすれば出くわせば死を意味する死神と同じだった。
だが、それはルイーズにしても同じらしい。
戦乙女のバトルドレスを装着しようとも、訓練機では相手にするのは困難なのだろう。
開いたままの通信回線から、ルイーズの困惑した声が聞こえてくる。
バオーガが体の各所にある緑色の発光体から、ビームもどきを発射すると二等級とは速度も密度も違う高威力のエネルギーが発せられた。
ビームもどきが方向を緩やかに変化させながら、ルイーズを追いかけていく。
『訓練機で一等級の相手なんてしていられないのよ!』
追尾性能は高くなさそうだが、それでも高出力のビームもどきが追いかけてくるのは恐怖だろう。
ルイーズは回避しながらサブアームのビーム砲を放って攻撃を行うが、バオーガの力場を貫けなかった。
『馬鹿みたいな防御力ね。本当にこの種類は相手にしたくないわ』
バオーガの特徴はその頑強さにある。
力場の強さは勿論だが、本隊の外郭もかなりの高度を持っていた。
また、バオーガ自体がパワータイプである。
その大きな両腕を振り回すだけで、大抵の物は粉砕される。
市街地でバオーガが暴れ回る映像を訓練施設で見せられたが、建物が容易に崩れ、吹き飛ばされていた。
抵抗する戦車をその手で掴んで簡単に握り潰していた。
バオーガの前では戦車ですら玩具扱いだった。
目の前の光景を見ながら、俺はこの場から生き残る方法を思案する。
幸いなことにバオーガの狙いはルイーズであり、俺の方には意識が向いていなかった。
コックピット内で、この場から生還する方法を探す。
「機体を捨てて脱出……駄目だ。周囲には三等級の姿もある。機体から出れば奴らの餌食か」
このままコックピットにいても、いずれバオーガに気付かれるだろう。
どうするか思案していると、レーダーに味方の反応をキャッチした。
こちらに急接近してくるため、来る方角にカメラアイを向ける。
「上か?」
上空から接近してくるのは、白と赤でカラーリングされたバトルドレスを装着した戦乙女だった。
ルイーズが装着している物よりも一回り以上大きく、デザイン性も違っている。
サブアームに銃火器を持たせているようだが、速度を上げて近付いてくるばかりで使用する気配がまるでなかった。
「激突するつもりか!?」
どこの誰だか知らずに叫ぶと、相手との間に通信回線が開かれた。
『黙って見ていなさい』
突然現われた味方機は、そのままバオーガに突撃していく。
サブアームではなく自身の両手に台形の形をした小さな盾らしき何かを両手にそれぞれ握っていた。
バオーガは新たに出現した味方機の方に強い反応を示すと、ルイーズを無視して体を向けて咆哮するような動きを見せた。
口などないのに周囲に雄叫びが響き渡り、ルイーズを狙った時よりも数の多いビームもどきが発射されて味方機に襲いかかる。
バオーガは、まるで本能から出現した味方機を恐れているように見えた。
過剰に攻撃を繰り返してビームもどきを発射している。
味方機の方はそんなビームもどきを回避しながら速度を落とさずバオーガに接近し、手に持った武器を構えていた。
小さな盾のような物から光の刃が出現すると、バオーガとすれ違い様に光の刃を振るう。
光の刃が延長され扇状に広がったように見えたと思ったら、味方機はバオーガを通り過ぎて数百メートル先で振り返って徐々に速度を落としていた。
『ヒーロー見参、ってね』
バオーガの方は動きを止めるが、その硬い外郭をまとった体に線が入る。
体液が流れ出て、そこからバオーガの首やら上半身が滑り落ちるように落下していった。
「たったの二振りで一等級を仕留めた……」
目の前の光景が信じられなかった。
目を丸くしている俺に、味方機が接近してきて声をかけてくる。
『危なかったわね。それから、今回の件は貸しにしてあげるから、後でちゃんと返しなさいよ』
モニターに映る人物は知り合いだった。
「……隼瀬中尉殿」
『機体はボロボロだけど元気そうで安心したわ。ほら、帰るわよ』
隼瀬真矢――キャットブーツのエースである彼女が、俺たちを助けに来てくれた。
呆然としていると、ルイーズが隼瀬中尉の側に寄ってくる。
『隼瀬さん、本当にありがとう~。もう死ぬかと思ったよ~』
ルイーズは既に普段の作った顔に戻っており、先程までとは別人になっている。
人付きするような笑顔を向けられた隼瀬中尉は、そんなルイーズにサブアームに持たせた大口径のショットガンを向けた。
銃口を向け、いつでも発砲出来るようにシェルまで装填済み。
後は引き金を引くだけの状態にしているのは、ルイーズを軽快している証拠だろう。
『それ以上近付けば撃つよ』
俺との会話の時とは違い、隼瀬中尉は冷たく言い放っていた。
ルイーズもかなり焦っているようで、視線をさまよわせている。
『え? 何? 私、怒らせるようなことをしたかな?』
『――いつまで別人を気取っているのよ? こいつの機体を撃ち抜いたの、あんたよね?』
隼瀬中尉が視線を向けていたのは、ルイーズに貫かれたサンダーボルトの右腕だった。
ルイーズは必死に言い訳を始める。
『ち、違うよ! それは偽獣たちだよ』
俺からすれば白々しい言い訳にしか聞こえなかった。
「隼瀬中尉殿、自分は――」
俺が状況を説明しようとすると、隼瀬中尉はブレードらしき武器を後ろ腰に持っていきマウントしてから俺に黙れというように手の平を向けてきた。
顔はルイーズに向けており、視線を外そうとしない。
『大体理解しているから何も言わなくていいわ。それからルイーズ――あんた、いい加減に猫をかぶるのを止めなさいよ。中等部の頃から、あんたの猫なで声が癇に障るのよ』
随分な言いようだが、ルイーズの本性を知った身からすれば仕方がないと思えた。
ルイーズも隠すのを諦めたのか、隼瀬中尉の前で本性をさらけ出す。
『本当に昔から勘のいい奴よね』
薄ら笑いを浮かべたルイーズに、隼瀬中尉は表情を変えずに問う。
『いい顔をするじゃない。そっちの方が断然お似合いよ』
『……ありがとう、隼瀬さん。それはそうと、そいつを譲ってくれない?』
ルイーズが俺を指さすと、隼瀬中尉が大口径ショットガンを放った。
ルイーズのバトルドレスの左サブアームを吹き飛ばしていた。
『動くなといったはずよ。私の質問だけに答えるのね』
ルイーズが無言になると、隼瀬中尉が質問を開始する。
『あんたにしては随分と短絡的だったわね。作戦中に標的を暗殺しようとでもしたの? それならお粗末すぎて笑えるわよ。あれだけ徹底して周囲に猫をかぶっていたのに、こんなタイミングで動き出すんだから』
確かにルイーズの行動は短絡的すぎた。
ずっと本性を隠して周囲と付き合って来たにしては、違和感が拭いきれない。
本当であれば入念な準備を行っていてもおかしくないはずなのに、あのタイミングで仕掛けた意図は何だったのか?
ルイーズは隼瀬中尉に淡々と語り始める。
『……隼瀬さんも気付いているわよね? そいつを生かして、万が一にでも計画が成功したらその後に待っているのは何だと思う? 男性の戦力化なんて、生やさしいものじゃないわよ』
隼瀬中尉はルイーズの話を聞く気があるのか、黙っていた。
ルイーズは許可を得たと思い、俺の時と同じようにプロメテウス計画の問題点を指摘する。
『加瀬学園長は面白半分で受け入れたみたいだけど、こいつらの計画が成功すれば割を食うのは誰だと思う? 選択肢もない男性たちが、戦力化を理由に危険な手術を受けさせられるの。それって良いことかな? ここで実験体を殺して、計画を阻止した方が社会のためになると思わない?』
プロメテウス計画が成功すれば、きっと組織は手脚を失った元兵士たちから志願者を求めてパイロットを用意するだろう。
手術の成功率が跳ね上がる画期的な方法が見つかればいいが、今のままでは俺と同じか、少しはマシ、程度の手術が待っているはずだ。
きっと多くの犠牲者を出してしまうのだろう。
ルイーズの言葉を聞いた隼瀬中尉は……鼻で笑っていた。
『ご大層な理由を並べているけど、あんたの言葉は薄っぺらいのよ。正直に言いなさいよ……男性が力を付けると権力が奪われそうで怖い、ってさ』
隼瀬中尉の言葉は的を射ていたのか、ルイーズの表情が一変した。
『何も知らないモグラの生徒が調子に乗って!』
武器を構えようとしたルイーズに、隼瀬中尉は距離を詰めた。
一瞬で距離を詰め、先程使用したブレードで大型ライフルを切断していた。
ルイーズの残ったサブアームに関しては、隼瀬中尉の左腕サブアームがガトリングガンで破壊し、使い物にならなくする。
ルイーズを一瞬で無力化してしまった。
攻撃手段を失ったと思われたルイーズだが、素早く後ろ腰から隠していたブレードを引き抜いた。
互いのブレードとぶつかると、二人が再び会話を始める。
隼瀬中尉はモグラと呼ばれたことで、ルイーズの所属が少しだけ絞り込めたようだ。
『うちの学園をモグラ呼びってことは、あんた他の学園の回し者よね? 何年も潜伏するなんてよくやるわ』
『引きこもりの第三学園が、今更中央の政争に口出しするんじゃない!』
『そういうの、学園長にでもいいなよ』
二人のブレードが火花を散らし、激しさを増していく。
だが、俺には隼瀬中尉が手加減しているように見えた。
ルイーズも感じ取っているのか、腹立たしく思っているらしい。
『大体、お前に関係ないだろうが! そっちの男が死のうがどうでもいいでしょうに!』
隼瀬中尉に俺を守る理由などない。
それなのに、彼女は――。
『――必死に生き足掻いて、ようやくチャンスを掴んだ人間を嫌いになれないのよね。むしろ、猫をかぶって近付いて、騙しているあんたに腹が立ったからさ――邪魔しちゃった』
お前が気に入らないから邪魔してやった――そう言われて、ルイーズの顔は怒りにより歪む。
『てめぇ!! そいつが生きているだけで、周りが迷惑するのよ!』
ルイーズが鋭い一撃を放つも、隼瀬中尉は簡単に弾き飛ばして両腕を上げさせた。
がら空きになった腹部を、足で蹴り飛ばした。
『かはっ……』
吹き飛ばされて海に落ちたルイーズに、隼瀬中尉は見下ろしながら言う。
『あんたの話はどうでもいいよ』
起き上がれないらしいルイーズは、隼瀬中尉を見上げながら言い返す。
『訓練機出なかったら、勝っていたのは私の方よ』
自分は負けていないというルイーズに、隼瀬中尉は微笑を浮かべる。
『猫かぶりが言うじゃない』
二人の勝負は呆気なく終わってしまった。
すると、俺たちの方に黒塗りの戦乙女たちが現われる。
俺たちを囲み武器を構える彼女たちのバトルドレスには「SVAT」という白文字が書かれていた。
「彼女たちは?」
俺の問い掛けに答えるのは、隼瀬中尉だ。
『サバットって呼んでいるわ。こういう問題を取り扱っている専門部隊ね』
黒塗りの戦乙女たちは、武器を構えてルイーズに近付くとそのまま拘束し始める。
『ルイーズ・デュラン准尉、我々と来てもらおうか』
大人しく拘束されたルイーズは、浮かび上がって大人しくサバットの面々について行く。
その際、一度俺の方を振り返ってきた。
『あ~あ、殺し損ねちゃった。誰かさんが邪魔をしたせいね』
取り繕わなくなったルイーズだが、笑みを浮かべたままサバットに連れて行かれた。
サバットの隊員たちが、今度は俺たちを囲んでくる。
『事情を聞きますので、お二人も同行をお願いします』
「……了解です」
受け入れる俺とは反対に、隼瀬中尉の方は不満そうにする。
『私が呼んだのに取り調べっておかしくない?』
不遜な態度を見せる隼瀬中尉に、周囲のサバットの隊員たちは困惑しながらも連行していく。
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今後も続々と可愛い? 女の子キャラクターが登場予定です。……本当だよ。




