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【BL】バッドエンド・タイムリープ!  作者: Bee
4回目のリープ

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38/40

38.リープの終わり

「あら、木嶋くん。今日はこれから鏑木くんのお見舞い?」


 多くの患者や看護師が行き交う夕方の病棟で、淡いピンクの制服を着たいつもの看護師さんが、病室へ入ろうとした俺に声をかけた。


「はい。――鏑木はまだ?」


 俺の問いに、申し訳なさそうな顔で頷く。

 お礼の代わりに会釈し、その看護師さんと入れ替わるようにして、俺は四人部屋の病室へと入った。ベッドはきっちりと白いカーテンで仕切られていて、それぞれのカーテンの奥からは、面会の人との楽しそうなお喋りの声や、イヤホンから漏れるかすかなテレビの音が聞こえてくる。


 俺は他のベッドのカーテンを揺らさないよう気をつけながら、一番奥左側の窓際のベッドの前までゆっくりと歩いた。 そして閉じたカーテンをそっとめくって中に入ると、ベッドの横に置いてある丸椅子に腰掛けながら床に背負っていたリュックサックを置いた。


「――鏑木来たぞ。今日も起きなかったんだってな」


――ベッドの上で、目を瞑ったままの鏑木。俺の問いかけに、ピクリとも反応しない。


「そろそろ起きないと、卒業できなくなっちまうぞ」


 布団をめくり、ピクリともしない打ち身の残った細い腕を持ち上げると、優しく筋肉を揉みほぐす。話かけながらこうやって刺激を与えるのがいいんだって、看護師さんに教えてもらった。


――あれから10日。例の日が近づくにつれ、意識不明のまま急に死んでしまうんじゃないかってずっと不安だった日々も、気がつけばあっけなく過ぎ、今日に至る。


 そう、俺はあの奇妙なループから抜け出せた。だが肝心の鏑木はずっと昏睡状態で、病院のベッドで眠ったまま。


「なー鏑木。早く目ぇ覚ませよ。俺と一緒に3年生になるんだろ」


 頭の傷はたいしたことなくて、本当はいつ起きてもおかしくないって、医者は言ってたけどさ。でも起きないんじゃだめだろ。死ななくても、これじゃ生きてるって言えないじゃねーか。


 早く起きろと念仏のように唱えながら、ほとんど肉のない腕を、力を加減しながらゆっくりと揉んでいく。片方が終われば、もう片方も。立ち上がって反対側に移動する。


「……明日は学校のあとちょっと用事があるから、ここ来れねーかも。マッサージは、ヘルパーさんにお願いしてっから心配すんな。明後日は学校終わったら来るからな」


 明日は、警察から連絡受けて急遽こっちに来ていた母親が東京に戻る日だ。有給休暇取れるギリギリまで取得してくれたらしく、結構長い間、こっちにいてくれた。明日は夕食を一緒に食べたら、駅まで送る予定にしている。


 ――結局この騒ぎは母親の知るところとなり、俺の怪我と事件の状況に驚いた母親は、仕事なんかそっちのけでこっちに文字通りすっ飛んできた。

 まだあと1年学校は残っているが、こんな危ない土地にひとりではいさせられないと、東京に戻る戻らないで長いこと話し合いをしていたのだが、土下座までした俺に母親が折れ、卒業までここにいさせてもらうことになったのだ。


 もう危険な人たちとはかかわらないこと、そしてこれまでは月一回だった連絡を毎日すること、という母親の条件付きで。

 

 俺からしてみたら、世間体ばかり気にして口うるさくするわりに、仕事だの恋愛だのと自分のことばかりで俺のこと関心がない人だと思ってたけど、俺の怪我を見て泣き崩れたのを見たときは、ああちゃんと俺のこと心配してくれてたんだなって素直にそう思えた。


 そうそう、危険人物といえば、鏑木の親父さんはその後、薬物使用で任意同行後、覚醒剤取締法違反、そして追加で未成年売春の斡旋や傷害等の容疑で逮捕。スナックるいの関係者も、麻薬の売買や売春組織とつながりがあるとして逮捕と聞いた。


 あの頭のおかしさは、薬のせいだったのか、それとも元々ああいう人だったのか。鏑木はなんだかんだ言ってもずっと父親を信じていたけど、あの親父は鏑木のことを本当はどう思っていたんだろうか。裏切った妻の代わりに息子を虐待し、使い捨てるかのように死なせ……。それでもあの親父は息子を愛していたんだろうか。

 ……いろいろと屈折してて、俺にはよく分からない。


 そしてマスターだが、その後について情報はなく、あれからどうなったにかは不明だ。バーも閉められていて、あのビルにはもう誰もいない。しかし警察に捕まったという情報もないから、たぶんうまいこと逃げたんだろう。


 あの日俺はたまたま、鏑木を追うためにバーの近くを走っていた俺に声をかけたのは、今回の時間軸では面識のないはずのバーの常連のおっさんだった。これは本当に偶然のことで、「なんかあったんか」といきなり呼び止められて驚く俺に、血だらけでボロボロじゃねーかと心配してくれた。

 このとき呼び止められていなかったら、俺はマスターに助けを求めることなんか思いもつかなかっただろう。


 それでも本当にマスターが来てくれるとは俺も思ってはいなくて、おっさんにマスターへの伝言を頼んだのはほとんど賭けだった。なにしろ一度しか会ってない、しかもあんな失礼な話をした高校生の話など、当然受け流して終わりだろう。

 それにマスターは鏑木家とは無関係だと言い張っていたし、その口調からは、下手にかかわって面倒事に巻き込まれたくないというのがあからさまに読み取れた。


 それでもマスターは鏑木をかわいがっていたし、うまくすれば助けてくれるんじゃないかっていう、淡い期待からだった。


 まさか本当に来てくれるとは。


 もしかすると、鏑木を心配してではなく、なにかあったとき死体処理をさせられるよりは、間に入ったほうがまだマシだと考えたのかもしれない。

 あれだけの仲間をひき連れて来れたということは、以前から親父さんの行動にどこか怪しいものがあり、組織から目をつけられていた可能性もある。

 だから俺にあんな忠告をしたり、それこそタイミングよくあれだけの人数で駆けつけることができたんじゃないだろうか。


 俺が年末にマスターに会いにいってなかったら、俺の見た目が暴行でボロボロになってなかったら、おそらくこの偶然は起こらなかった。この偶然がなければ、きっとまた今回の時間軸でも、マスターは俺と鏑木の死体を処理する立場になっていただろう。


 ちなみに今回鏑木は、被害者の立場であるため、加害者として捕まることはないらしい。

 田崎の言う事に惑わされず、さっさと警察に相談してりゃ、もしかすると鏑木もここまで傷つくことなく終えることができたのかもしれない。


 ……まあでもそれもこれもすべて〝かもしれない〟なんだよな。警察に相談しても門前払いをくらう可能性だってあったわけだし。

 今回のことで顧客情報が警察に渡れば、田崎も捕まるだろうか。いや、あの人のことだから、きっとうまいこと逃れていそうだ。


「ああそうそう、明日から学年末だってよ。俺、学年末ははじめてだからさ、自信ねーわ。しかも勉強もせず、ここに来ちまってるし。お前と一緒に留年すっかもな」


 一応母親が見てる手前、帰ったら勉強してるフリはしているが、まったく頭に入っていない。 

 鏑木と一緒に留年ならそれはそれで楽しそうだなと、自虐ネタでひとり笑いながら、早く起きろよと念をいれながら最後に手を握ると、少しピクリと細い指が動いた。

 看護師さんに聞いたら、意識がなくてもこういう反応が起きることがたまにあるそうだ。


「さて、これで今日はおしまい。今日はもう遅いから帰るな。じゃ明日は来れねーかもだから、また明後日な」


 面会時間はまだもう少しあるが、母親が飯を作って待っている。そろそろ帰らなくては。

 腕をベッドに戻し、布団をかけて立ち上がる。看護師さんに声をかけてから帰ろう。そう思ってリュックを持って立上がった。そしてドアのほうに体を向けたところで、服の裾が引っ張られた気がした。


 何かに引っ掛けたのか?


 そう思って、ベッドのほうを振り返った俺は目を見張った。


「……なぁー……、あした、こねーの……?」

「か、鏑木……?」


 かすれた声。細く開いた目。 細い指が、俺の上着の裾を掴んでいる。


「お、れより、大事な、ことなのかよ……」


 少し不貞腐れたような声。


 鏑木が目を覚ました!

 目の前が熱くなって、視界がぼやける。


「鏑木!!」

「へへ、きしまぁ……」


 力なく笑う鏑木の体を、俺は力いっぱい抱きしめた。


「……俺さぁ、ずっと、夢見てたんだよなぁ」

「夢?」

「……なんかさ、夢ん中で、何回も、同じ人生くりかえしてんの」

「え?」


 かすれたか細い声で、まるで今見た夢を忘れないうちに記録しようとするかのように、鏑木は俺に語り続けた。


「ウリやって親父に裏切られて殺されて……。でも途中から、木嶋が出てくるようになってさー……」

「――俺が?」


 うんと頷き、鏑木が力無げに笑った。


「最初は、木嶋の存在もうっすいんだけど……、途中から、すげーはっきりしてきて……」

「……」

「……俺、木嶋の話、ホントはてきとーに聞いてた。木嶋、ずっと俺を助けようとしてくれてたのに……ごめん。……ほんと、ごめん。木嶋……」


 ――俺のタイムリープは、もしかして死に瀕した鏑木が見ていた夢だったのかもしれない。

 親に殺された寂しい鏑木の魂。俺はずっと、鏑木の夢の中に閉じ込められていたのだろうか。


 いや、ただ単に俺から聞いた話が、鏑木の心に強く残っていただけのことかもしれない。


 鏑木の夢だろうがなんだろうが、その夢は終わったのだ。これからはずっと、一緒に未来を歩いて行ける。


 鏑木の、俺を掴むその手の強さに、俺はあらためてリープの終わりを実感していた。

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