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【BL】バッドエンド・タイムリープ!  作者: Bee
3回目のリープ

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18/40

18.鏑木の秘密

「か、鏑木!!」


 ドアを開けると、やっぱりそこにいたのは鏑木だった。

 鏑木は急にドアが開いたことに驚き、猫みたいに目を見開いたままその場に固まっていた。


「び、びっくりした……」

「ど、どうしたんだ」

「あ…………」


 俺の顔を見て戸惑いつつ、一瞬何か言いかけた。


「…………やっぱいい」

「ちょ、ちょっと待てまて!」


 何も言わずその場から去ろうとする鏑木を、俺は慌てて捕まえた。


「いいから、部屋上がれ」


 こんなところで言い争いもしたくない。とにかく部屋へ入れと促すと、鏑木はひとまず大人しく部屋に入ってくれた。


「……よくうちが分かったな」

「……前、アパートの場所教えてくれてたから」


 まだ連れてくるタイミングじゃなかったから、俺はこの時間軸では鏑木をアパートに連れてきてなかったのだ。場所を教えておいて、本当によかった。


(もしかして、仲直りに来てくれたのか?)


 自ら来てくれたということは、少し期待してもいいんだろうか。


「……つか、さっきまで風呂、入ってた?」


 鏑木が台所でそっぽを向いたまま立ち、気まずそうにそう言った。


「ん? あ、ああ。そこの窓に人影が見えて、鏑木っぽかったから、慌てて出た」


 台所の窓を指差すと、鏑木は「ふーん」とそっけなく返事をした。


「よく風呂に入ってたってわかったな」

「お前、上半身裸だし、ここ風呂のにおいするし」


 そう指摘され、慌てて着替え用に置いていたTシャツを手に取り、ついでに換気扇もつけた。

 そういえばここは、廊下も脱衣所もないから、キッチンに風呂の匂いがだだ漏れなのだ。


「立って話すのもなんだから、隣の部屋入って、どこでもいいから座っててくれ」


 着替えながら隣の部屋を指差すと、鏑木は確認するように俺の方をチラッと見てから、「ん」と隣の畳の部屋に入っていった。


(なにか出すもの……。お茶でいいか)


 予備のコップを棚から出そうとしたら、手がちょっと震えた。 なんだかやけに緊張していて、一回はーっと深呼吸をする。


 予備のコップとさっき使ったコップを一緒にざっと洗うと、冷蔵庫から麦茶を出して、適当に注いだ。それを持って畳の部屋に行くと、鏑木は居心地悪そうに、テーブルの前にちょこんと座っていた。


「麦茶しかなくて、すまん」

「ん」


 麦茶をテーブルに置き、鏑木の正面に座ったが、鏑木は何も言わずずっと俯いているままだ。

 どうしようか、俺のほうから謝るべきなのか。悩んでいると、ようやく鏑木がおずおずと口を開いた。


「――あのさ、木嶋。さっきは、俺、言いすぎたわ。……ごめん」

「え……、あ、いやー俺のほうこそ……怒らせるようなこと言っちまって……」

「…………」


 また沈黙が訪れ、え、何、そこで会話終了なのか? と焦っていたら、下を向いたままだった鏑木が覚悟を決めたように顔を上げた。その表情はひどく真剣で、俺はドキッとした。


「俺、木嶋に言ってないことがある」

「……言ってないこと?」

「松永のこと」


 松永とのことは、前回の時間軸で鏑木から聞いてはいた。だがその内容はキモいとかそういった類のことで、鏑木の本心や実際の松永との関係については詳しくは語られなかった。


 そもそも前の時間軸では、松永の本性など知るよしもなく、そこまで追求しなかった。


「……今日さ、木嶋。松永から何聞いた?」

「え……」


 あの絵と写真のことが頭をよぎった。だが、それを話していいものか迷った。

 もしあのショッキングな絵や写真の存在を、鏑木自身把握していなかったら?

 俺の口からうまく説明できるか分からない。下手なことを言うと、さらに鏑木を傷つけ、怒らせる事態になりかねない。


 言葉を詰まらせる俺を見て、鏑木は小さく息を吐いた。


「俺の絵、見た?」

「……!」


 知ってたのか。


「あいつ、勝手に描くとか言ってて……。やっぱ描いてたんだ。キモかったろ」


 自虐気味に、鏑木がハハッと笑う。


 前の時間軸で、鏑木が何度も何度も、松永のことをキモいキモいと苦虫を噛み潰したように言っていたことを思い出す。

 あの時も知ってたんだな。俺、気づかなくてごめん、鏑木。 めちゃくちゃ情けねぇよ。


「どこまで松永に聞いてんのかしんねーけど、俺さ、木嶋にはちゃんと言っとかねーとなって、そう思ってさ」


 今度は俺が俯く番だった。


「俺さ、その……ウリやってて。つか、最初はそうじゃなくて、それがウリだとか知らなくて。……親父の知り合いでさ、俺のことすっごい可愛がってくれてたおっさんがいたんだよね。んで、いつもお菓子くれたりお小遣いくれたりしてた。それがさ、中学入学あたりの頃、俺が精通したの知って、じゃあおじさんがいいことしてやるって」


 そこから鏑木は一瞬だけ黙った。……そしてまた話を続けた。


「親父のいないときに、おっさんに触りっこしようって。それだけで後でお金くれるって。『ハルちゃんは大人になったから、お小遣いもっとあげるよ』なんて言ってさ。俺、そんときよく分からなくて、お小遣いもらえることが嬉しくていいよって言っちゃってた。その後も何度かそんなことがあって、他の人にもハルちゃんを紹介してあげるって、ホテルに連れてかれて、知らないおっさんを紹介されて……。写真も撮られて、知らない間にそれ売られてて」


 そこで言葉が途切れ、鏑木はテーブルに置かれた麦茶をグイッと飲んだ。そしてフーッと息をついてから、話を再開させた。


「……んでさ、松永がそれどっかから入手したらしくってさ。二年になって松永が副担になって、急にあの写真のこと言い出してさ。俺、それまで知らなかったんだよね。そんな写真のこと。でも見たらあーあの時だって、すぐ分かった。あいつ、教師のくせに、俺の写真持ち歩いててキモくて、ほんとにマジで嫌で……」

「鏑木……」


 こんなことがあったなんて、俺は何にも知らなかった。

 何にも知らないまま、松永とのんきにお茶を飲んでたなんて、本当に俺って鈍感でバカだ。バカすぎる。


「俺、木嶋には知られたくなかった。……今もウリやってるってこともさ、それ含めて全部。スナックに住んでるの知って驚かなかったの木嶋くらいだし、そんな俺と仲良くしてくれたのなんか、木嶋だけだしさ。……でもさっき、松永から俺のこと何か聞いたって言われて、俺、怖くなった。木嶋に幻滅されて、嫌われるんじゃねーかって。だから逃げた。ごめん木嶋」

「……まだウリやってんのか」

「ん」

「やめられないのか」

「……俺んち借金もあってさ。金ねーから仕方ねーし」

「そんなんやめて、他のバイトは? 俺も少し金出すし……」


 そんな俺の言葉に、鏑木は嘲るように笑った。


「ウリのほうが儲かんだよ。それに木嶋も貧乏なのに、金なんかもらえねーし」

「……嫌じゃねーのかよ、そんなの……。もう慣れたからって、それでいいのかよ」

「嫌に決まってんだろ! ……でもそうしねーと取り立てが来るし。今住んでるとこも金借りたオーナーの持ちもんで、断ったら追い出されるし、最悪もっとやべー仕事させられるかもしんねーし」

「……断ったらって、ウリの斡旋されてんのか……!」


 鏑木は泣くのを堪えているのか、怒ったように眉を寄せて目を逸らした。


「……本当ならずっと言わずにいたかったんだ。親父の借金の目処がついたら、俺ももうやんなくていいって言われててさ。それに俺の価値なんか若さと可愛さだけだって。だから高校卒業したら高い金出す客もいなくなるから、どーせお払い箱だし。……でもバレちゃったしな。木嶋とも、これでおしまい」

「おしまい……?」

「サヨナラってこと」

「は……?」


 なんでまたいきなりサヨナラになるんだよ。

 俺と仲直りしに来たんじゃないのかよ。

 じゃあなんで俺にウリのこと言ったんだよ。


 いろいろ言いたいことはあるのに、言葉が出なかった。


「木嶋にはちゃんと言っとかないと、また俺のあと付け回すだろ? あれで本当にサヨナラでもよかったんだけどさー、松永に気をつけろって言いたかった。アイツなんか中学生とか高校生とか、未成年が好きなヤベーやつだからさ。近づいて欲しくなかったし。あと、お礼も言いたかった。ありがとな、木嶋。木嶋と会ってからずっと、俺超楽しかった」


 そう言って鏑木は、これまで見たことがないくらいきれいに笑った。

 さっぱりとして清々しく、後腐れのない笑顔だった。


「じゃあな、木嶋。もう学校とか街で俺を見かけても後つけんなよー」


 笑顔だけを残し、鏑木は躊躇いなく立ち上がり、 俺のほうを振り向くことなく、玄関のほうへ歩き出す。


「鏑木!!」


 俺はすぐさま立ち上がり、鏑木に駆け寄ると、長袖の上からでも分かるその細い腕を掴み、その勢いのまま壁にドンと押さえ込んだ。

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