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前編


「あの、男性にそんなに親し気に触ってはしたないですわ、おやめになった方が・・・」

「あたしが平民出身だからってそんなににらまないでくださいぃいい」

男性の腕にしがみつくようにしていた女性は大きな目からポロポロと涙を流し始めた。

「そんな・・・」

「そんなにきつく言わなくてもいいじゃないか」

「でも・・・」

「彼女は貴族のマナーにまだ疎いだけなんだよ。少しは大目に見てやれよ。

君がそんな意地悪だとは知らなかったよ。婚約は見直させてもらう」

男性はそう言って泣いている女性の肩を抱えるようにしてその場を立ち去った。

残された女性は下を向き、両手をぎゅっと握り締めていた。



「また、ですわね」

「うんざりするほど同じことばかり繰り返すのですね」

「私、彼女の所に行ってきますわ」

「そうね、大勢で行くよりも一人の方が彼女の負担にならないでしょうし」

「私たちは彼女の味方だと伝えてちょうだい」

「ええ、しっかりと伝えますわ」

そう言って彼女の元へ一人の令嬢が駆け寄って行き、暫く話した後、二人はどこかへと移動していった。

同じような光景はこの半年ほど何度も見かけるようになった。

後継ぎが急逝した子爵家が、弟の子を探し出して籍を入れた事は社交界でも噂になっていた。

その子爵家の令嬢が先ほど泣いていた女性だ。

クララベル゠ブルーと呼ばれるようになった彼女は、貴族ならば誰もが必ず卒業しなければならない学園に通うことになった。

あまりにも不慣れな様子に、周囲の令嬢たちが声をかけ、彼女を手助けしようとしていたのだが、何故か彼女はそれを拒否した。

「私が平民出身で何も知らないからってひどいです」

そう言ってポロポロと涙を流す様子は、第3者から見れば集団でいじめをしているようにも見えてしまう。

更にクララベルの容姿が庇護欲をそそるような可憐さであったことも災いした。

「私、平民出身で貴族の事に疎くて・・・」

そう言って令息たちに近寄り、腕や背中に手を当てたり、ハグをしたり両手を握ってみたりと、スキンシップをとるのだ。

ほとんどの令息は喜んでそれを受け入れ、それを見て「はしたないですよ」と注意する婚約者の令嬢達はクララベルをいじめる性根の悪い令嬢だと思いこんでしまうのだ。

そのまま婚約破棄になるケースも最近増えてきている。


「どうしたらいいのかしら」

「そうですね」

先ほどから集団で見守ってたいのは侯爵令嬢と学園の令嬢達だ。

クララベル一人の為に、令息と令嬢の間には亀裂が入っている。

学園は社交界の縮図でもあるため、子供社会での亀裂が貴族社会にも伝播していき、ギスギスし始めていることも彼女たちは肌で感じていた。


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