18:昇級
「今のは、何かしたんですか? 何もそれらしいものが飛んだりしてませんでしたが……」
「いや、一応俺の【操作】で手元から『魔力』を伝えたから、光の筋っぽいものはできてたんじゃないかな?」
「……見えませんでしたよ?」
「あー、制御の方に集中してたから見てないんだよねぇ……伝える総量も大したことなかったし、弾にして飛ばしたわけでもないから、真っ暗闇じゃないと視認は難しいくらいだったかも……まぁ、終わったことに変わりはないし、行こうか」
「は、はい。こんな距離でも届くものなんですね」
「同じ階層なら多分届くよ。ついでに、方向や角度を決めて撃ってるわけでもないから、狙えれば大体当たるね。こっちの『魔力』を流し込んだ後で更に操作する必要があるから、弾を当てるより抵抗はされやすいはずだけどねー」
「はえー……」
といった話をしながら祭壇まで進み、ボスまで倒していたことに驚かれつつも、宝珠を回収して帰還となった。倒れているゴブリンを見ればわかるとはいえ、やっぱり地味すぎたかなとちょい反省。
あと、指パッチンも別に嫌いってわけじゃないけど、二〇人も居ないあんな場でもちゃんと音が鳴るかで地味に緊張したから、何かこう、カチリと音が鳴るスイッチ的なものを拵えたいなと改めて思った。
ポチッと押し込めるようなスイッチにするか、発射機構を持たないモデルガンか。大きな音を出したい時とそうじゃない時ってのはあるだろうから、両方作っておこうかな? それこそ、何かのガジェット風に仕上げてみるのも面白そうだ。
迷宮内で会った十人組はゴブリンが全滅している様子を確認した後、別の群れを探すということで別れていて、俺達の方が精算を済ませている間に帰還してきていた模様。迷宮内が千倍以上、精算用の空間が二倍くらいだから、のんびり精算してたらそういうこともあるか。
「アキ、この後の予定は?」
「ん、俺個人としては、そろそろ上級目指して向こうの中級ロビーの迷宮を攻略していこうかな、なんて思ってるところだね。織宮さんとミノリさんももう自信はついたよね?」
「ま、まぁ、そうですね。只野さんみたいな魔術は使える気がしませんけど……」
「イノリ、アキミチが使ってた魔術は上級でもあまり見ないレベルだから、下級に上がったばかりで目標にするようなものじゃないわよ?」
「っ、はいっ、ちょっとずつ頑張ります」
「アキも上がったばかりじゃないの……?」
「『魔力』を扱い始めたのは最近だけど、他の力に触れた経験を応用してるからだね。だから、一から扱い始めた人よりは上達も早いってわけ。初めて扱う筆記用具で字を書く時だって、それまでの経験で差ができるようなものだねー」
「それもそうだとは思うけど、その差が大きすぎるんじゃないかしら……」
「……」
あー……織宮さんから『本当に、何で私より慣れてるんでしょう?』とでも言いたげな視線が飛んできてるなぁ。簡単に言えば、この世界で拾われるまでウィッシュと主観時間で結構長く一緒に居たからってだけなんだけどね。
いや、スタート地点が違う上にこの世界に来てからも研究は積み重ねたから、妥当なんじゃないかな。うん。
ということで、探索も無事に終わって解散……だと思ってたんだけど、その前に俺のランクアップの手続きをするのはどうかといった話の流れになり、まぁ、織宮さんも軌道に乗ってもう大丈夫だろうとも思えたので、ぞろぞろと受付へ。
……七人で受付に集まるのはどうかと思うものの、六人を近くに待たせて一人で受付に向かうのもこれはこれでなんか緊張するなと。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「探索者ランクを上げられるかの確認をお願いします」
「はい、それでは、探索者組合証明札をお預かりします。……はい、確認できました。中級に上がるには十分な評価が……上級にも上がれますね。どうされます?」
「では、上級までランクアップをお願いします」
「かしこまりました」
「……念のため聞いておきますが、超級には流石にまだ上がりませんよね?」
「はい、現時点では必要な評価の一割ほど……あれ、ゼロじゃないんですね」
「?」
「その、超級への昇級条件は厳しくなっておりまして、上級ロビーの迷宮や上級探索者向けの依頼で実力を証明する必要があるんです。なので、下級探索者が評価を獲得するのはかなり難しい、はず、なのですが」
「ああ、以前、上級探索者の先輩の依頼について行ったことがあるので、それですかね」
「そのようなこともあるのですね。……はい、更新が完了いたしました。証明札をお返しします」
「どうも、ありがとうございました」
相変わらずというか、スムーズな手続きだった。中級へは上げずに下級で頑張って一気に上級へ、って探索者はそれなりに見慣れてそうな雰囲気だったと思う。
何にせよ手続きは終わったので待たせていた六人の元へ。
「上級まで上がれる状態だったから上げてきたよ」
「あら、おめでとう、アキ。これで、上級ロビーにも入れるようになったわね」
「だね。ただまぁ、今はまだ中級ロビーの入ったことがない迷宮を先に探索したいかな?」
「上級になって何を……って言いたくなるけど、昇級のペースが早いのよねぇ」
「入る機会そんなに多い方でもないと思うけど、入ったら大体ボスまで狩ってるからかな」
「それはあるでしょうね」
今回も何やかんやでやっちゃったしね。
一応、今日最初に入ったクレアス大迷宮のボスは織宮さんとミノリさんの二人で倒してたけれども。まぁ、それはいいか。
「それじゃ、このパーティーはここらで解散、かな?」
「そうね。皆やる気とそれに見合った実力があって良かったと思うわよ」
俺の言葉にララが同意して、大雑把な総評のようなものを口にした。
「イノリとミノリは、下級に上がってきたばかりとは思えないくらい動けてたわね。私たちも頑張らないとって改めて思ったわ」
とリシーが続いて、褒められていた二人は「ありがとうございます」「頑張ります」といった反応。
俺は探索中に教えていた力の運用くらいしか教えられることもないので、簡単にその辺りのおさらいだけして解散となった。
◆
「はあああー……緊張したああー……」
「そういえば、かなり静かでしたね、ミノリさん」
「それはそうでしょ。あのララさんは強さと容赦のない性格で有名だし、リシーさんたちも、ボスを安定して倒してきたパーティーとして、ララさんほどじゃないけど知名度はあるからね」
「そうなんですか? ララさんには困っていたところを助けてもらったり、ご飯も奢ってもらっちゃったりと、優しい印象しかないんですが……」
「ひえ……いや、ボクも実際に会ってみて容赦がないのは敵対した相手にだけなのかなって思い直しはしたけど、闘技と魔術においてはかなりの上澄みだし、タダノさんに強めの感情を抱いていそうだったからね……」
「あー、そういうところもありましたね。突然下着姿になった時は驚きました」
「ちょっ、事実だけど、そういう話は大っぴらにするものじゃないよイノリっ」
「そ、そうですね」
少なくとも、人通りのある街中でするような話ではありませんでした。
……き、聞き耳を立てているような人は居ないようですが、気をつけましょう。
「そしてタダノさんが見せたあの魔術……魔術で良いんだよね? アレ」
「本人はそう言ってましたし、嘘っぽくもなかったので魔術だと思いますよ?」
「うん。ボクも魔術を覚えるために色々調べたことがあるんだけど……指定した範囲に効果を発生させるタイプの魔術はあっても、あそこまで正確に、多くの対象に同時にっていうのは、かなり尋常じゃないよ……」
「凄いですよね。地味だとは言ってましたけど、『魔力』の効率は良さそうです」
「そうだね。…………そんな人にお札を作って貰ったのって、本当に、今更だけど……ボク、結構とんでもないことやらかしちゃったんじゃ…………?」
「あー……ま、まぁ、手間を掛けさせたという意味では迷宮についてきてもらったり指導をお願いした私の方がかなり大きいと思うので、気になるなら私も一緒に謝りますよっ」
「う、うん、ありがとう、イノリ」
「只野さん自身は、あまり気にされていないと思いますけどね」
「そう、かな? それならいいんだけど……」
今週はちょっとびっくりするぐらい筆が進まず……。
探索者ランク
初級から超級までの五つに分かれており、特に下級、中級、上級と三つに分かれているロビーへの入場制限に対する影響が大きい。
中級以上の探索者が下級ロビーから迷宮へ、超級探索者が中級以下のロビーから迷宮へ向かう行為は非推奨ではあるが許容はされる。
逆に、初級探索者が中級以上のロビーから迷宮へ、中級以下の探索者が上級ロビーから迷宮へ向かう行為は明確に制限されている。
探索者ギルドと提携している商店の武具にもランクが指定されており、探索者のランクが上がることで購入制限が解除されていく。
初級(Beginer)、下級(Lower)、中級(Middle)、上級(Upper)、超級(Super)それぞれに加えて、高級品であれば品質を意味するHigh、Highestなどを加えた刻印がひっそりと刻まれていたりする。
明路が持っているナイフ型の剣の刻印は『ER-B』。『探索者ランク-初級』の意。
上記刻印は、明路が個人的に製作した刀には当然ない。




