14:朝方の街中にて
休憩中、追いついてきたパーティーが一つあったものの、そのパーティーも俺達と同じ入口で休憩を取ることにしたようで、結局そのまま追い越されることはなかった。
順調に闘技や魔術に制御に熟達していった織宮さんはともかく、ミノリさんの方はお札に自分の『魔力』を補充しながら、弾の発射はお札に任せて連射するようになっていた。
なんか変な癖がついたりしないか心配にはなったものの、二人でボスまでしっかり倒せていた点は一安心、ではあるのかな? 死闘というほど不安定ではないものの、手加減などをする余裕もないぐらいの、丁度いい戦力差だった思う。
そして、俺はほとんど戦うこともなかったけど、道中狩ったモンスターや入手した宝珠の売却額は俺も含めて山分けにされた。二人の意見としては、強力な装備を無償で提供して指導的なこともしていたから、問題ないどころか足りないくらいだとかなんとか。ともかく――
「お疲れ様だねー」
「はい、お疲れ様でした」
「うん、今日はありがとう。本当に助かったよ」
「どういたしまして」
無事に探索者ギルドへ帰ってきた。
まぁ、怪我どころか殺されても蘇生されて帰ってこれるらしいけど、デスペナというか被弾によってモンスターに存在力を奪われるらしいから、まともな攻撃を受けずに帰ってくるのは重要。存在力を奪われすぎたら消滅してしまう、らしいし?
全部伝聞で、自分で見たり体感した情報が全くないから断定しづらいのがちょっとアレだけど、体感したいものでもないから中々難しいところ。
ひとまず、出口側の転移門に立っていても迷惑だから歩き始めて、そのまま何となく探索者の街がある方へてくてくと。
「……中級の迷宮ってまだ行ってないんですが、どうなんでしょうかね」
「ん……? 織宮さんってランクは、下級にはなってる?」
「あ、はい、宝珠を集めているうちに上がれるようになっててましたっ」
「おぉ、それはおめでとう」
「ありがとうございます」
ミノリさんの探索者ランクは下級だと聞いているから、このまま二人で中級ロビーの迷宮に向かうこともできるわけか。
「まだ、中級にはなっていませんけど、行っても大丈夫だと思います?」
「ん、闘技や魔術を使えるようになってるし、戦力的には問題ないと思うよ。問題は、モンスターを見つけられるかどうか……織宮さんって、気配とかを感じとることは、できる?」
「うっ、ちょ、ちょっっと、自信はないかもです……」
「そっかぁ。まぁ、難しいよね」
俺の場合はウィッシュのおかげで敵意を向けられればすぐにわかるけど、そういうのがないと凄く疲れると思う。ウィッシュにはそれができるから、織宮さんも習得はしやすい方だと思ったけど……同じことを求めるのは酷だったかな?
ゲームや漫画の主人公なら、特定のイベントや鍛練を経て一気に特殊な技能を身に着けられたりはするけど、そういったイベントと無縁なうちは下地があるだけだったりする。
それと同様に、敵意を感じ取れる下地はある可能性が高いとしても、技能として身に着けられてはいない状態なのだとすれば……失敗は成功のもと、必要は発明の母なんて言うし、強烈な自己主張と共に突っ込んでくるだけの下級ロビーで身に着けられなかった技能でも、中級ロビーで頑張っているうちに身に着けられるかもしれない。
「とりあえず、ポアレ草沼宮ぐらいなら『防護』で十分だろうし、違いを見てきたら良いんじゃないかな?」
「えと、そんなに違うんですか?」
「うん。敵意はどっちも同じくらい強いけどね。ああ、食肉にはならない、綺麗に仕留める必要がないモンスターが多くなる点は楽かな」
「な、なるほどです」
ゴブリンやコボルド、オークといったモンスターは、一応食用は可能らしいけど、他に食料がある状態でわざわざそれを食べるのは物好きくらいだと思う。
言うなれば、本格的な戦闘用の標的……とでもいったところかな。
「? 只野さん、こちらに向かってきている方々が居ますが、お知り合いですか?」
「うん? あー、知り合いだね」
広場が近づいてきたあたりで織宮さんから声をかけられて、視線を追ってみたら確かに、ちょっとだけ説明に困る類の知り合いがこちらに向かってきているところだった。
「おはよ、アキ」
「おはようリシー。久しぶり……かな?」
「ええ」
パーティーのリーダー的存在であるリシーと、そのメンバーである二人、ウルとルビー。前に会ったのはララと探索した時だったと思うから、迷宮の外で言うなら十日ぶり、くらいになるのかな?
ウルとルビーの二人とも挨拶を交わして……リシーと織宮さんは視線を交わしたまま、動きを止めている。
「……後ろの二人は、初めましてかしらね。中級探索者のリシーよ」
「下級探索者のイノリ・オリミヤです。初めまして」
「ボクはミノリ、下級探索者、です」
な、なんというか、俺がセッティングしたわけじゃないけど、さっきまでと比べて雰囲気が一気に落ち着いたというか、気分的な温度差が中々……。
「って、中級に上がってたんだ? それはおめでとう」
「ええ、ありがと。それで、どういう知り合いなの?」
「あー……こっちの織宮さんは何日か前にララの紹介で知り合った子で、一応俺と同郷……ってことになるかな。それで、知り合った日に一回ファーバ草原宮で指導して、今日は魔術と闘技の、一応指導っぽいことをしてきたところだね」
「……ララって、あの、前に一緒に群島宮に行った人?」
「そうそう、その人」
「へえ……」
「で、ミノリさんの方は、織宮さんとパーティーを組んでた縁で今日知り合って、魔術の使い方を見てきたところだね」
一緒に行動していた二人との関係を言い表すなら、そんな感じ。
「それで、二人の方にも紹介しておくと、このリシーは俺が探索者になって初めて迷宮に入った時に指導してくれた人。その時はまだリシー一人で、後ろの二人も含めたパーティーで探索したのが二回だね」
こうして改めて考えてみると……ソロ以外での探索もそこそこの比率でやっているのかな、俺も。というか、ウィッシュを含めて考えると、話せるようになってから数えてもソロでの探索は〇回になるか。
「……只野さんの知り合いって、女の方ばっかりですね?」
「いや、偶然だよ偶然。一応知り合った人も居るんだけど、喧嘩っ早い人が多くてなかなかね。探索もまだ一人で余裕があるからパーティーを募る必要もないし」
そんな理由で、男性の知り合いは少ない。どちらかといえば友好的な相手はといえば、ランス博士の助手であるビリーさんと、今ここにいるルビー、あとは、探索者について説明してくれたギルド長くらい。
ジャックスはなんか向こうから避けられてそうな雰囲気だし、業務上の一度の付き合いしかないギルド長がベストスリーに入るあたり本当にちょっと、うん。あんまり増やそうって気にもなっていないとはいえ、少ない。
「同性に限定して俺が一番友好的な相手は誰かといえば、そんなに話したわけでもないけど、ルビーになるのかな」
「え? ……あっ」
「……」
織宮さんとミノリさんがルビーの方を見て固まっている点について、具体的に口に出して指摘するのは避けるけど……そっかー、女性に見えてたかー。まぁ初見じゃ仕方ないか。
胴体付近の肌を大きく晒しているビキニアーマー姿のリシーと、ソシャゲ的な布面積の少なさの魔女スタイルなウルと、ぴっちりとしたインナーでボディラインは晒しつつ胸や股間は隠しているルビーが並ぶと全員女性っぽく見えはする。それでも、ルビーは胸が薄い女性ではなく、筋肉の付き方や骨格が妙に中性的なだけの男性である。
Lvを上げるために必要な存在力は体重に比例するから、小柄な方が有利な点も普通にあるしね。
「それで、アキ、貴方はどうなの? 中級には上がったかしら」
「いや、まだ下級だよ。受付を済ませれば中級に上がれるとは聞いてるけどね」
「あぁ……まぁ、そうよね」
リシーからはどこか呆れたような表情を向けられたけど、まぁ、のんびりやってるからね、俺。ボスには大体一番乗りできてそのまま倒してるけど、別に急いでいるつもりはない。
「それで、まだ指導は続いてるところなの?」
「いや、一応魔術と闘技に関してやってた指導っぽいことは一応一区切りついたし、ここらで解散するか、念のためにポアレ草沼宮に同行するかって感じかな。先にあれこれ言われるより、まず体感して自分で考えるのも重要だと思うから」
「確かに、それは大事よね」
うんうん、とリシーは頷いていて、組んでいる腕によって胸がやや強調されている。まぁ、探索中は一応禁欲状態だったとはいえせいぜい数時間程度だし、俺の中にはウィッシュが居るわけで。
織宮さんはなんというか、ついてきてほしいと視線で語っているように感じる。でも、クレアス大迷宮と違って閉塞感はないとはいえ、徒歩で進むには広いんだよなぁ……。
米もあるから日本人的にはほんのり嬉しいところではある、とはいえ、その辺については在庫がたっぷりあるから、俺が向かう理由としては弱い。保存が容量無制限で劣化もしないからって、年単位で食べられるだけの在庫を作ってあるし、勿論米ばかり食べるわけでもないからね。
「あら、アキミチじゃない。奇遇ね」
「んえっ? ああ、おはよう、ララ」
「ええ、おはよ。他にも知ってる顔が多いわね」
ララはそのままリシー達や織宮さんとも軽く挨拶をしてるけど、こうも立て続けに知り合いに会うとは思わなかった。というか、この世界の友好的な知り合いで会ってない人の方が少ない……って考えてるとちょっと悲しくなってくる。
もしかしてランス博士までこの場に居たりするのか、と周囲を見てみたものの、見つけることはできなかった。まぁ、流石にないか。




