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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 04 章
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18:久しぶりの草原宮

 ファミレス的な食事を終え、ララと別れてから久しぶりのファーバ草原宮。


「前はもうちょっと列も短かったけど、増えたなぁ」

「前って、そんなに変わったんですか? 只野さん」

「うん。俺が登録した時は、人が少ない時間帯なら帰還してそのまま次の転送に間に合ったりもしてたよ」

「へぇー、そうなんですね」

「ま、他に何か急ぐ用があったわけでもないし、一日に五回も六回も探索に入ったりはしてなかったから、あんまり関係ないところではあるんだけどね」


 それはそれとして、転送待ちの列に俺達が並んでから実際に転送されたのは四回目、時間にして四〇分弱の待ち時間だった。他の転移門(ゲート)も大体同じとか、どこの遊園地だよと思うような込み具合である。

 呼称については、互いに元日本人だとわかっているからか只野さんと呼ばれることになったので、俺も合わせて苗字呼び。


「それで、迷宮にも入ったことだし織宮(おりみや)さんが知りたいことを教えていこうかと思ってるところだけど……」

「はい、何かありましたか?」

「うん、なんか見られてるけど、あの人たちは、知り合い?」

「えっ?」


 ほんの少しではあるけど、何やら敵意に似たような感情を向けられているので微妙に気になる。


「えっと、今日パーティーに誘われてたんですが、装備を新調するためにお断りした縁……ですね。只野さんの軽装に驚いてるんじゃないんでしょうか。というか私も気になってるんですが、武器も持ってませんよね?」

「ん? ああ、そういえばそうだっけ。じゃあこれでいいかな」


 鞘を斜めに背負う形で、ナイフをそのまま大きくしたような剣を取り出して見せる。


「あ、そうでした、【物品目録】を使い慣れてるんでしたね」

「そうそう。今のは鞘に入れた状態で取り出したけど――」


 鞘から右手、右手から左手、左手から右手、そして軽く振ってから鞘にと、【物品目録】を使って剣を持ち替え、鞘に納めてデモンストレーション終了。


「と、こんなこともできるわけだね。背負ってる状態より収納したままでいた方が手順が減って素早く取り出せるんだけど、初級だと特にそんなことをする人は居ないよね。忘れてた」

「……全然集中する様子もありませんでしたけど……もしかして、戦闘中でも普通に使えたりするんですか?」

「それは、当然使えるよ? 例えば、こう、剣を思いっきり振り抜いた慣性を一旦収納することで消して、振り下ろしてみたりとか。まぁ、こんなことをするのは群れを相手にしてる時とかだから、そんな状況でも冷静に動けるようになる必要はあるけどね」

「べ、勉強になります……」


 織宮さんに説明しながら実際にやって見せていたら、一部の探索者からほんのり感じてた敵意みたいなものは、いつのまにか霧散してたっぽい。

 まぁ、明らかに私服で武器も持たない男が女の子連れてたら、そりゃ確かにあれだよなと。


「んー……俺から勝手に教えることもあるとは思うけど、知ってる情報を何もかも詰め込むのは違う気がするから、教わりたいことがあったらその都度聞いてほしいかな」

「はいっ」



 ………………

 …………

 ……



 練習法として足で踏んだ草を収納しながら歩くことを勧め、他の探索者との距離が開いてきたところで、後ろの方から強い敵意を向ける何かが向かってきた。


「モンスター、猪の奴が一体だけかな。織宮さんはモンスターと戦ったことは?」

「っ……経験はありますが、どう戦います? タンク役はちょっと自信がないですが」

「……あー、訂正。一対一で戦ったことはある?」

「な、ないです。只野さんはあるんですか?」

「あるよ。というかパーティーを組んでてもモンスターが一体ならほとんど一人でやる感じだったよ。組んでた人が強かったのもあるけどね」

「えええ……」


 驚かれても、こっちの方が驚きというか、パーティーでしか戦ってなかったのかな? 時間をかけて着実に強くなるにはいいかもしれないけど、もうちょっとどうにかならなかったのかと思わないでもない。


「んん、もう来てるし、とりあえず今回は俺がやるね。織宮さんは見学で」

「大丈夫なんですかっ?!」

「そこまで心配されるのはむしろ心外なんだけど?」


 やけに心配性だなぁと思いつつも、突き上げる動作をサイドステップで避けてブスリ。猪型のモンスターと戦う時のいつもの流れだ。


「集中しつつ冷静に、首の骨を一発で断てばそれで仕留められるし、綺麗な方が売値も高くなる。何回も斬りつけて動きを鈍らせて徐々に、なんてやり方よりはスパッと終わらせた方が人道的、みたいな話もあるかな」

「うぅ……なるほどです……埋葬とか、供養とかは……しないんですよね?」

「ないねぇ。というかほら、少なくとも探索者ギルドから入れる迷宮については、大規模な放牧場や畑みたいなもので、探索者がやってるのは戦闘訓練を兼ねた狩猟や収穫のバイトみたいなもんだから」

「えっ……ええっ?! 探索者なら探索じゃないんですか!?」

「そういうのはもっと力をつけてからの話じゃない? ララも第一次産業みたいな面もあるって言ってたよね?」

「……あれは、もう少し間接的なものだと思ってたんですが……ええ……?」

「まぁ、上級になれば外の迷宮に行くこともあるって話だけど、登録したてで経験も足りない俺達にはまだ遠い話だよ」


 俺もエマとララから聞いた話しか知らないしね。

 ひとまず、猪型のモンスターの動きは止まったので収納。使った剣も収納して血と脂を取り除いた。



 ◇



 収納する方法として物干し竿のような長い棒を介する方法を教えているうちに、第三層に辿り着いた。

 ここは、左手側から幅一キロくらいの太い川が流れてて壮大な景色ではある。前を歩かせている祈がどう進むのかと思っていたら、向かう先は下流。森を突っ切って直進はしないかー。


「織宮さん、ここの進み方、知ってた?」

「ま、まぁ、その、何度かは来ていましたし、今も先行されてる方たちはこちらに向かってますよね」

「まぁ、そうだね」

「……というか、他に進み方なんてあるんですか?」

「うん。俺は第二層からは生えてる樹も存在力(ExP)に分解しながら進んでたから、そのまままっすぐ森を進んでLvを上げてたね。聞いた話だけど、魔術で森の木々を吹っ飛ばして道を作るようなことをした人も居たらしいよ」

「魔術、ですか……」

「もう少し厳密に言うとこの世界の、だね。宝珠(オーブ)ってのがどこの迷宮にも設置されてるのは知ってると思うけど、その中には『魔力』って呼ばれてる力を宿してる宝珠(オーブ)があって、そこから取り出した力を扱う術のこと。扱いやすいように調整されてる制御下の『魔力』を消費して物理に影響を与えるだけのものだから、使い方さえ間違えなければ特にデメリットはないよ」

「えっ? あれ? 大きなことをしようとしたら相応の代価が必要になるんじゃないんですか? 魔法陣が必要だったり……」

「ないない。本当に『魔力』を消費して火を起こしたり温めたり冷やしたりっていう物理現象を起こすだけだから、『魔力』が使い切られたら魔術もそれでおしまい。使う人によって威力が変わることはあるらしいけど、それに関係してるのは『魔力』の無駄が多いか少ないかぐらいのもんだよ」


 技術的な革新があれば変わるんだろうけど、この世界はそういった効率が極限近くまで辿り着いたものを公開してるような感じで……同じ機種の同じゲームを一般プレイヤーとRTA走者が遊ぶぐらいの差しか出ないんじゃないかと思う。それでも何倍か差がつくことはあるだろうけどね。


「じゃあ、転移門(ゲート)のあの文字は何なんですか?」

「それっぽく光るだけの装飾だね。ExPやLvなんて呼称も、ファンタジーな街並みも、探索者のやる気を引き出すためのものってとこ。ギルドからちょっと離れれば若干SFっぽいハイテク高層建築だって普通にあるしね」

「え、えぇぇぇ……?」


 夢の国に遊びに来ている女子の夢を壊すようでちょっと気が引けるけど、本当に信じ込んでいる様子なら現実を教える必要はあるんじゃないかと思うところ。


「だからまぁ、この世界で使うなら、魔術みたいに源がハッキリしてる力を溜めて、消費した力の分だけ何かを起こすものがおすすめかな」

「おすすめって……そうじゃない何かもあるんですか?」

「さっき織宮さんが言ったような、代価を支払ったり魔法陣を描いたりすることで発揮される力があったら、って話だよ。他の世界から流れ着くことはあるだろうからね」

「な、なるほど……」


 こう改めて考えると、存在力(ExP)の浪費っぷりが凄まじいなこの世界。まぁ、ランス博士(エマ)から聞いた話だと異次元空間上での引力の強さ、みたいなものにも関係して、現時点でも澱界が次々に引き寄せられているこの世界では、浪費していかないと世界が崩壊する、なんてことも考えられるとか。

 世界全体の存在強度が増して壊れにくくなることも十分に考えられるが、この迷宮都市周辺の存在強度は世界から突出した状態でもあるから、数百年単位で存在力(ExP)を浪費しても問題はないだろう、とかなんとか。


「ともかく、こっちに来てるのなら、渡り方の説明は要らないかな?」

「距離はちょっと大きめですが、わかりやすく跳べる足場がありますからね。……舟は危険という話は聞いているんですが、他にも渡り方があるんですか?」

「俺に色々教えてくれた下級探索者の先輩は、水面を走って渡りきってたね」

「……それはまた随分と超人っぽいですが……探索者って、そんなことができる人も普通に居るんですか?」

「まぁ、中級以上の探索者ならほぼ全員ができるんじゃないかな? 中級になったら下級ロビーには来にくくなるから、織宮さんが見る機会はしばらくないと思うけどね」

「……もしかして、只野さんもできたりします?」

「できるよ。今やったら置いてく形になるからやらないけどね」


 少なくとも、数日前には当たり前にできていたことだから、できなくなったりはしていないはず。


「あ、それと、また質問で恐縮ですが、いいですか?」

「いいけど、水面を走る方法なら――」

「それも興味はありますが、そうではなく……只野さんは、ウィッシュという方とお知り合いなんですか?」

「そうだけど、それがどうかした?」

「ララさんから私がそっくりだと聞いたので、興味が、ですね」

「……似てるだけの他人だよ?」

「無関係だからこそ興味が湧いているようなところも、あると思います」

「……そりゃそっか。まぁ、どこか落ち着けそうな場所で教えようか。第四層を抜けるのは厳しそうだし、この階層のどこかかな?」

「む、予習はしてますよ。大雨が降ってる階層なんですよね?」

「加えて、橋がどこにも掛かってない激流を渡る必要がある階層だね。二〇メートルくらいは跳ぶ必要があるし、モンスターも一段と厄介になるからかなり無茶だよ」

「それは……た、確かに、厳しい、かもしれませんね。越えられないことはないと思いますけどっ」

「……まぁ、身体能力で越えられるように鍛えましょう、っていう目標みたいなものだから、別の手で無理に越えても後で困るよ?」

「うー……」


 俺の場合は一時的にパーティーを組んでいたリシーの目的が先に進むことだったからついていく意味はあったけど、今回はね。

 若干キリが悪いところですが、今章はここまで。

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