15:ふやけそうな時間を過ごして
何やかんやであっさり倒せてしまったものの、それで本当に依頼は達成したことになっていたらしい。それから一応第五層も一通り見て、第一層で丸一日ほど過ごしてから帰還、精算し、ちょっと話してから帰宅となった。
第一層に戻ってからの丸一日をどう過ごしてたかといえば、合法ロリ的な二人とイチャついていた、ってことになるのかな。
エマは多少柔らかくなったとはいえ中身が詰まったゴム塊のような……まぁ、小学校のグラウンドの隅に半分埋まってたゴムタイヤよりは柔らかいと思うけど、水風船等よりは確実に硬い体に直接手を出すことは実質的に無茶だった。
ララの方は特にそういうことをする気はなさそうだった、というか、ある意味やっていたというか。インナー姿で接触してくるララの『魔力』を俺が扱うように勧めてきて……俺がその通りに扱うたびに、明らかに何かの快楽を得ながら頂に至っている様子だった。だから、一般的な意味での性的な手は出してないのに、何度もそういうことをした後かと錯覚しそうになったり。
今のうちに慣らしておきたいというのもわかるけど、そんな、ある意味生殺しのような時間を過ごして帰宅した後。
ちょっと拗ねたような雰囲気のウィッシュと……希未、叶絵、祈折、願依の四つの名前をそれぞれ個別の人格と見なしてイチャイチャ。
エマから聞いた情報をもとに有り余るクレジットで成人向け創作物を購入したり、登場キャラのコスプレを用意したり、希未の身体を一つ増やしたり、それでまたイチャついたり。
そうこうしているうちに――
「……朝、だなぁ」
「まぁ、朝ですね」
ランス博士の研究所から帰ってきて三回目の朝日である。
ラミナリア臨海宮の中での一日は一応探索にも使える技術を学ぶこともできてはいたけど、帰ってきてからの三日間は完全に消費活動に没頭していた。
メンタル的に大事なことではあると思うものの、流石にね。もう少しくらいは、探索者らしく、探索に向かった先で食料を含む資源を拾って流通に乗せるお仕事をこなして世界に貢献しておいた方がいいかなと。
エマからはもう少しLvを上げておいてほしそうな雰囲気を少し感じる気もするところだし……これは、上げすぎると色々ありそうだけど、ある程度の範囲で自分のLvを操作できるようになった方が良いのかな? ゲームだと自分のLvを下げてどうこうとかはよくやるし、Expもとい存在力はある程度操作もできるから、やってやれないことではなさそうではある。
エマがやってない時点で難しそうなことではあるんだろうけど、自分の体に定着した『防護』の力を剥がせずに困っていた様子でもあった。モンスターの攻撃を受けると存在力が奪われるなんて注意はあったから、やれないことではないはずだ。
とはいえ、これで人から存在力を吸ったりするのは倫理的に色々ダメそうな気がするから、自分の存在力を一時的に保管してLvを下げるような形、かなぁ。
分解せずに存在力だけ抜き取るような真似はやったことがないし、死んでも蘇生が可能なこの世界でも存在力を完全に失えば蘇生できずに消滅してしまうらしいから、本当に慎重に扱う必要はある。
まぁ、そういう遠い予定はともかくとして。
「中級ロビーはまだ入ったこともない迷宮がまだあるから、そろそろもう一つくらいは探索しておきたいかな」
「……ですよね。振り返ってみると、私からはちょっと歯止めが効きにくいので、使いたくなったら……いえ、用があれば呼んでくださいね、ご主人様っ」
「はは、その時はそうさせてもらうね」
ちょっと冷静になってみるとアレな発言も入ってるけど、ウィッシュがそうなのは元から、少なくとも昨日今日の話じゃない。破滅的にすぎるようなこともなく、本人も自覚していて、総合的に見れば俺以外に影響があるものではないから、横から良し悪しを決めるようなものでもない、かな。
◇
探索者ギルドの中級ロビーでは、列に並んでから四〇分弱待つことにはなったものの、問題は起こらず無事にフルクタス裂谷宮へ入ることができた。
この澱界宮も単層型で、転送先はランダム。ただ、転移門の数が少なかったのか少人数パーティーが多かったのか、俺以外に同じ場所に三人前後のパーティーが三組居る。
地形は……二〇〇メートルはありそうな高さの崖が左右にある谷を進む形らしい。裂谷って名前から考えると、大地が裂けてできたような谷、なのかな? 現在地が谷底だからどうなってるかはわからないけど、崖の上がどうなってるかは少し気になるところ。
他の特徴を言うなら、風がちょっと強めで、果物のような甘酸っぱいような香りがちょっと混じってる、かな?
「む、君は、この迷宮に来るのは初めてか?」
「? はい、そうですが」
景色を見ていたら話しかけられた。比較的軽装だし、中級ロビーの探索者の中ではベテランっぽい印象はある、と思う。特に敵意っぽいものも全く感じないから、アドバイスかな?
「やはりそうか。事前に情報を調べたりは?」
「特にはないですね。一応、空を飛べれば面白そうって話くらいは聞いてて、ソラーナ山岳宮で空中戦ができるくらいには飛べるので」
「それで攻略が可能だと?」
「ダメでもソロなら迷惑はかからないでしょう?」
「……かもしれんな。だが、近くでモンスターを呼ぶのはやめてくれよ」
「人との距離は気を付けておきます。それでは」
一度上を見て、【所在確認】で後方などにも問題なさそうなことを確認。
確認が済んだら、やや後方に軽く、三メートルほど単純に跳躍し、光が目立たない程度の『飛翔』と『念動』を併用して、他の探索者の頭上は通らないように横、前と二回空中で跳んで一〇〇メートルほどの高さにあった広めの足場に着地した。
こういう時のマナーはよく知らないけど、頭の上を飛ばれるのは不愉快になるかもしれないからね。まぁ、作物を根こそぎ取るのも似たようなもののような気はするけど、それはそれとして。
とりあえず、俺が着地した足場はむき出しの岩が多く、隅の方に多少の草が生えている程度だった。広さは、道は繋がってないけど、トラックを何台か置けそうなくらい。そして、ここから見える範囲で他の足場を見てみれば、上の方にはふちに生えている草が見えている足場が多いかな? 下の方には草が生えている足場は少ないけど、それなりに広さがある足場は結構な数が存在している。
(うーん、大自然……?)
(秘境のような雰囲気はありますが、人為的な雰囲気もありますね)
(うん。人工物はないんだけどねぇ)
よく使っている動力器入りの脛当てと、ゴーレムの核を組み込んでヘッドアップディスプレイのような表示を可能にしたヘルメットを装着。まぁ、速度や高度を計測できるわけでもないから、メインは本来の用途通りの頭部保護、よりもいくらか簡単な風除けで、時々遠景を拡大表示する程度のものだけど、裸眼よりは確実に遠くがよく見える。思考で制御できるのも良い。
レーダーとマップを兼ねるような機能は【所在確認】があるけど、俺がその情報を読み取って、俺がゴーレムにその情報を表示させて、俺が表示から情報を読み取って行動する、とか、明らかに無駄だらけの手順をロマンのために踏むのは流石にね。
再度足場から跳び出し、今度は動力器まで併用することで更に効率的に空を飛んで、見える範囲の作物が見えた足場へ。
(これは、イチゴかな?)
(ですね。これまでの傾向からして、よく似た別物ということもなさそうです)
(だよね)
果物といえば果物……ではあるけど、スイカなどと同じく野菜に分類されることもある作物。
他の探索者複数と一緒に転移してきたスタート地点のすぐそばだから、根こそぎ取っていくのはちょっと問題のような気も……なんて思っていたら、全員谷底の道を進み始めたらしい。
多少跳んでる探索者も居るけど、明確に前進はしているように見えるので、この足場のイチゴは全部収納。
(こういう作物とかって、普通はどの程度狙っていくものなんだろ?)
(さあ……? 少なくとも、ここから見えるいくつかを狙う気はなさそうですね)
(うん。まぁ、俺としては割と取り放題な感じで嬉しくはあるけどね)
(ですねー)
モンスターの殲滅は他人にやらせて自分はひたすら素材を集めるハイエナ的プレイっぽい気がしないでもないけど、下の方でも特に戦闘は起こってないようで、進行はそれなりに早い。
(……ん? モンスター、ワイバーンか)
(キュプレス山林宮のボスと比ると小さいですが……群れですね)
(だね。鳴き声を聞いた他のワイバーンも崖の上近くから次々来て……ああ、なるほど、下を進むのにはそういう理由があったのかな)
ワイバーンの体格は、目測だけど、およそ身長二メートル程度。デカいのはデカいけど、他のモンスターと比べれば大したことはない。
(とりあえず、下に落とすと品質に影響しそうだから、できるだけ足場に落とすように……)
◆
「まさかあそこまで勢いよく上に向かうとは思わなかった。強者のような雰囲気は感じなかったが……どうなったかな、あれは」
「空中でも相当な加速はできてましたし、逃げるだけなら可能でしょうが……この鳴き声、見つかったようですね」
「ああ」
ワイバーンどもの巣は崖の上部にある。
作物のある上部は奴らの餌場にもなっており、視覚だけでなく聴覚も優れているため、不用意に動けば視線が通っていなくとも襲われることになる。一匹に見つかれば、あの大きな鳴き声を聞きつけて近くの巣から次々に襲い掛かってくるだろう。
諦めるまで逃げ切ることができればどうにかなるが、崖上の大地に逃げると別の群れも加わって手が付けられなくなっていく。
それを知らなければ、リタイアするほかないだろう。
「……えっ、うわ、ええ?」
「逃げ遅れたのか? あまり見ていて面白いものでもないだろう。我々まで気づかれるぞ?」
「いや、それが……もう殲滅が終わりそうですよ」
「何?」
言われてみれば……聞こえてきているワイバーンの鳴き声は、確かに断末魔のようでもある。それに、最初に聞こえていた数と比べて随分と少ない。
「うわ……最後ワイバーンの首を空中で刈って、胴体ごと足場の方に放り投げてました。有名な方だったんですかね?」
「かもしれん」
最後の一匹のものらしい叫びが聞こえた後は、ワイバーンの鳴き声が聞こえなくなった。
パーティーで戦っていたとしても短すぎるが、と、振り返って見てみれば、ワイバーンの姿は一つもない。
というより、谷底にも死骸が見当たらない。視線は通りにくい構造にはなっているが、一つも見えないということがあるのか?
「……ワイバーンの死骸は?」
「全部同じ足場で仕留めてましたし、最後の一体ももう消えているので、倒し終わってから収納したんじゃないですかね」
「なんと……」
それだけやれるのなら、自然体だったのは必然か。
◆
「……あら? 貴女、たしか……ウィッシュ、だったかしら?」
「ッ!? だ、誰ですか?」
「誰って、先日名乗ったでしょ? ところで、アキミチは一緒じゃないの?」
「……? いえ、あの、人違いではありませんか?」
「あら? 髪型はともかく、顔と声は同じように感じるけど……」
「あ、その、私は数日前? に、この世界に来たばかりですし、そのアキミチさんという方にも心当たりはありませんよ?」
「そうなの? あ、もしかして、双子の姉か妹なのかしら?」
「いえ、私は一人っ子ですが、そんなに似ている方なんですか?」
「髪型は違うけど、瓜二つに見えるわよ? まぁ、人違いなら、私から声を掛けたわけだし、名乗っておきましょうか。私はララ、上級の探索者よ」
「ララさん、ですね。初めまして。私は――」
希未・夢玩弄
希未の新たなるぼでー。髪や目の基本色は銀色。
魂が縛られていることを表している真相の状態を軽々に変えるのは、設定と若干の齟齬がある。設定上無敗だった変身前、変身後を普通なら取り返しがつかない形で大きく変化させるのも何か違う。
そして、希未の設定において、淫夢の中で明路と絡んでいたことになってはいたが、それに該当する身体はまだ作っていなかった。
ということで、ひたすら玩び弄んでも夢のようにいくらでも取り返しがつく、設定との齟齬もない身体を用意してもらうことにした、という流れ。
夢の中なのでプラモデルのように部位の脱着をしても、猫や鳥のような人外部位を取り付けても設定との齟齬はないし、ゴーレムの扱いにも慣れてきたので髪や目に好きな色を乗せることも可能となっている。
簡単に言えば、願依・念動体の希未ばーじょん。
玩弄(がんろう)
もてあそぶこと。なぶりものにすること。
愚弄の類義語。




