09:宿泊の用意と腹ごしらえ
「ルートからはそれなりに外れたことだし、この辺りで宿泊するとしようか」
「りょ、了解です……」
「了解です」
第二層へ移動する転移門へ向かうために使いそうなルートからそれなりに外れた草地で、ランス博士が宣言し、ビリーさんは疲れきった様子で返事を返していた。
エマは索敵能力がかなり高いみたいだし、俺もウィッシュのおかげでモンスターに発見されれば気づけるし、ビリーさんは結局一度も戦闘はしてないわけだけど……まぁ、エマは成長を促すべくあれこれ考えてそうだから、ビリーさん自身も索敵を頑張る必要はあったのか。
ふぅむ、俺も指示待ち状態で居るよりは、ある程度提案もした方がいいかな。
「三人くらいなら問題なく安全に宿泊できそうな小屋は収納してありますけど、どうします? エマ」
「小屋、かね。間取りは?」
「和風……昔の日本風の適当なサイズの大部屋一つですね。木材自体もそれなりに収納してあるので、新しく用意することも、拡張や加工もできますよ」
「使うかどうかは別として、興味はある。ひとまず、今あるその小屋を見せてもらっても良いかね?」
「はい。あ、出す前にちょっと整地はしますよ?」
「うむ」
「では」
まずは、水を入れたコップを取り出して、文字通りの水平を出す。あとはそれを参照しながら平行な平面が作られるように【物品目録】で前方の地面を収納し、柱を挿し込む穴を用意して、丸太小屋を取り出せば設置はひとまず完了。用済みになったコップと水も収納しておく。
「そこまできっちりやったわけじゃないんで若干傾いてるかもしれませんが、まぁ、こんなもんですね」
「いやぁー……はっはっはっは、整地を含めてこれを数秒で用意できるのは凄いねえ」
「収納してたものを取り出しただけですよ? 丸太小屋の窓は光を少し取り入れる程度のものですし、出入り口の扉も【物品目録】ではめ込む前提のものなので開けっ放しになっちゃってたりとか……自分だけで使う分には十分なんですが、自分以外も利用するならもう少し手を加えたいです」
「いやいや、現状でも便利すぎて文句が出るくらいだよアキミチ君。鋭い嗅覚を持つモンスターでも、嗅覚でしか捉えられていない間は比較的大人しいものだから、視覚を遮るのはある程度有効なのだよ」
「……まぁ、確かに、嗅覚だけで周囲の状況を完全に把握するのは無茶ですよね。となると、嗅覚はあくまで追跡用で、他の五感で認識したら襲い掛かってくるって感じでしょうか」
「うむ、おおむね正解だ。アビリティのように五感とは異なる知覚で認識している場合もあるので、絶対ではないのだよ」
「なるほど……」
若干ネタバレを食らった気もするけど、調べればわかりそうな話だからそれはいいとして。
聴覚で発見されても襲われそうだけど防音剤で完全に音を封じるのはちょっと無茶だし、強いモンスターなら探索者の存在を認識してなくても壁を壊して中を見るくらいのことはしそうだから、丸太小屋をこのまま使えるのは下級ロビーから入れる迷宮くらいだと思っておくべきかな。
ああ、操っているゴーレムだけを発見された場合にモンスターがどう反応するかも調べておかないとダメか。
「とりあえず、アキミチ君の寝床はそれで良いだろう。さて、ビリー君はどうするつもりかね?」
「僕は……自分で、用意したものを使おうと思います。博っ、先生、就寝中の警戒はお願いします」
「うむ、認めよう」
エマの返事を聞いたビリーさんは、両手を前に出して集中し、俺が整地した範囲の外に迷彩色の大きな荷物を取り出した。そのままゴドッと落ちて、何かじゃらっと小さな金属音がたくさん重なって聞こえた気がするけど、あれは――
「組み立て済みの、テント?」
「うむ。あれは私が勧めたテントだね。チェインメイルのような布状の鎖を支柱で支える構造なので、弱い攻撃なら防げる。【物品目録】なしに持ち歩くには不便な厚みと重さで、あまり大きくもないが、初級探索者が使うには十分な性能を持ち、価格も手ごろな装備なのだよ」
「それはまたゴツいテントですが……なるほどですね」
一応、出したものをそのまま使うのではなく、四方をペグで固定してから使うらしい。
「エマはどうするんです?」
「私は、まだ決めていない。この程度の階層ならこのままでも安全面に問題はなく眠れるので、私が眠る場所はどこでも良いのだよ」
「それはそれで豪快な……えっと、視線とか気になったりしませんか? 同じような小屋をもう一個用意したり、部屋を分けるくらいは簡単にできますけど」
「うん? んん、順を追って説明した方が正確に伝わるだろうし、その辺りは食事の用意を進めながらにしようか。アキミチ君、手をこちらに」
「? はい」
握手をするような感じで右手を差し出してみると、エマが軽く触れるような力加減で俺の手のひらに触れて――ネトゲで言うところのアイテムトレード画面のようなもののイメージが浮かんだ。その画面が視覚的に確認できるわけではないけど、収納してある物を相手に渡すことができるのはわかる。
「こんなこともできたんですね」
「うむ。双方ともある程度習熟している必要はあるがね」
「なるほど。とりあえず、解体した猪は全部渡しておきます」
「うむ。見事に解体されているね。……むぅ、皮下脂肪についても頼んでおくべきだったかな?」
「加減が難しそうな所なので、お任せできてほっとしてますよ」
豚脂がたくさん取れそうだなーとか思ってはいたけど、今は道中で狩った三体分を全て渡して手も離した状態だからね。
「まぁ、良かろう。あまり量が多くても食いきれんとは思うが……ああ、テーブルと椅子を置きたいので、直径五メートル程度の範囲で整地を頼む。【物品目録】の上書きは手間なのだよ」
「っと、それは失礼しました。了解です」
丸太小屋を設置する時に【物品目録】の力を通した範囲がちょっと広すぎたか、失敗失敗。
とりあえず、ある程度水平に近い面は整地した時に出してあるから、そこと平行になるように面を作る。
それから一応念のため、端の方に小さな凹みを一つだけ作って、水を溜めて水平を再計測。…………水平に作れてるように見えるけど、はたして精度はどんなもんなのやら。
ともかく、エマに整地が終わったことを伝えると、八〇センチくらいの高さがある四本足の長方形テーブルが静かに置かれた。更に追加でど真ん中に木台付きの大きな鉄板が現れ、その上にカットされた肉の塊がいくつも……そして、鉄板の上が結界のような赤い何かに覆われた。
「……この赤いのは……オーブンみたいなものですかね?」
「うむ。魔術を用いて内部まで直接加熱することもできるので、電子レンジに近いところもあるがね。今は表面を焼いているところで、この後は内部を加熱したら完成だ。自動化もしてあるから、後数分待つだけなのだよ」
「この分厚い肉を焼いてるにしては、早くないですか?」
「一般的な調理器具と違い、芯まで同時に加熱できるからね」
「うわぁ……」
料理をする時、加熱対象の熱伝導率の関係で普通なら火を強くしても表面が焼けるだけだったり、電子レンジでもある程度内側まで通るだけで加熱にはやっぱりムラはできるわけだけど……肉の厚みもバラバラだし、この魔術ではお構いなしに加熱できるっぽいなぁ。
仮にここに指を突っ込んだりでもしたら、表面付近の皮膚から火傷が進行するんじゃなくて、骨の髄まで表面と同時に火傷する? 五〇度弱くらいまでしか加熱しなかったとしもエグい深度で火傷しそうで普通に怖い。
「……この魔術も正しく制御する必要があるものではあるが、アビリティを持たずにプレートから発生させた『闘気』を扱う方が危険なはずなのだよ?」
「マジすか……あ、『魔力』が通せないと加熱はできないんですかね」
「うむ」
「それならまぁ、そこまで怖がる必要もないですね。納得しました」
そういえば、コボルドが使っていた魔術を防ぐ時にも似たようなことをした覚えはある。この手の魔術を攻撃に使う相手と戦うことになっても『魔力』をどうにかしておけば問題なさそうだ。
「簡単に納得されるのも何か釈然としないものはあるが、まぁ良い。視線についてだが……確認だが、アキミチ君は、性的な視線で見られることに忌避感を抱きにくい人が多いと感じていたりはするかね?」
「あ、はい、それはあります」
「うむ。もう一つ、君が元居た世界もおそらくそうだとは思うが、性的搾取だなんだと騒がれる社会だったりしただろう?」
「まぁ、それもそうですね」
「うむ。そしてこの世界の司法は、人から不当に利益を得たり、人に不当に損害を与えようとする意志を悪意として識別でき、証明も容易で証拠としても認められる。したがって、本当に搾取していた組織があればすぐに滅ぶし、弱者とされる立場を悪用しようとした者らも淘汰されるわけだね」
「……でしょうね」
「うむ。つまり、見たい、見られたいといった願望を隠そうというような風潮は起こりにくく、たとえ表れてもすぐに消えるわけで……まぁ、なんだ。当たり前に身に着けている者も居るのは居るが……私のこの装備は、そういった視線で見られても構わない、という意思の表れということだね」
「え、えっと、そ、そうなんですか……」
これは……突然の痴女カミングアウト?
エマに近しい立場の男性といえばビリーさんが思い当たる、どころかこの場に居るけど――
「ビリーさんはどう思います?」
「は? ああ、僕にとっては、先生のその見た目は、明確に守備範囲外ですよ。大体の日本人も見た目がどこか幼く見えるので……」
「…………?? ええっと……?」
ロリ体系に興味がないのはわかったけど、ビリーさんの発言は何か違和感があるというか、どこか引っ掛かるような……。
「ビリー君は、アキミチ君と似た世界のアメリカから流れ着いた、中高年の男性を好む同性愛者なのだよ。私は完全に圏外、アキミチ君の見た目は妥協できなくもない範囲らしい。全身が毛皮で覆われた獣人も好きなのだったかね?」
「はい、僕は全身毛皮の獣人も好きです。ですが、異性愛者に迫る気はありませんよ」
「迫る気がないだけで、そういう目で見ることはあるのだろう?」
「それは、確かにありますが……」
「うむ。ということで、アキミチ君の丸太小屋に全員で泊まるのは却下になるわけだね」
「ア、ハイ、ナルホドデス……」
俺はエマに対して相当に的外れな心配をして、逆に心配されていたらしい。
「それと、そうだ、アキミチ君」
「はい、なんでしょう、エマ?」
「今のうちに体験しておいてくれると後の話が早そうなので、まずは……私の脇腹に手を当ててくれたまえ」
「? まぁ、エマが良いならそうしますが……」
本人が良いと言ってるわけだから、セクハラにはならない、よね?
ひとまずは指示通り、両腕を左右に広げたエマの前で屈み、脇腹辺りに手のひらで両サイドから軽く触れる。
左右は、前後の布に縫い付けられている計四本の短い帯があり、前側からの帯が後側からの帯にバックルのようなもので留められている。バックルの内部構造は見えないけど、帯に穴はないから、無段階で調節可能なもの、なのかな?
「ああ、服の上からではなく直接だよ。それから、指を突き立てるようにして掴み、私を持ち上げてみてくれたまえ」
「……えっ? いや、えっ?」
「うむ? 伝わらなかったかね?」
「えっと……そんなことはないんですけど……最初は弱めにしますね?」
「まぁ、それでもいいだろう。百聞は一見に如かず、だったかな。すぐにわかるのだよ」
どういう意図の指示なのかはさっぱりわからないけど、無防備な左右から布の下に手を入れて滑らかな脇腹に触れ、細く柔らかい体を――
「……あれ、硬い?」
「うむ。もっと力を込めても何ともないのだよ。撫でまわしたいのならそれもやぶさかではないが、まずはそのまま持ち上げてくれたまえ」
「あ、はい」
触った感触は、空気がパンパンに詰まったゴムタイヤか、振ってしまった炭酸のペットボトルのような、変形はしそうだけど力が全く足りていないような? あと体温はしっかりあって温かい。
持ち上げる時に手が滑ったりはしないようにぐっと力を込めてみても、呼吸するために形を変えるだけの肌に指が押し負けている。
ひとまず、指の感触からして持ち上げるために必要な摩擦は得られていそうなので、そのまま持ち上げてみると……脇腹を掴んで持ち上げているというのに、エマは平然と呼吸を続けている。
「え、これ、本当にどうなってるんですか?」
「私は特別なことは何もしていない。単純に、私の体が頑丈なだけなのだよ。これでもLvは五〇を超えているからね」
「え? いや、俺は今三〇くらいだとは思いますけど……俺の四倍どころの硬さじゃないですよね、多分」
「それはそうだよアキミチ君。人間の体は三次元的な立体だ。一次元的に見て四倍なら、三次元的に掛かる強度の補正は六四倍になるのだよ?」
「ああいや、そうではなく……それを考慮した上でも多分、エマの体は更に硬いですよね?」
「ほう? では何だと思う?」
「そこまでは……『防護』辺りの力がうっすら働いてたり、ですかね?」
と、真正面にあるエマの顔を見据えて聞いてみると、何かを試すような微笑みを浮かべていたエマの表情が驚いたようなものに変わり、更に深い笑みに変わった。
「くく、はははは、正解だよアキミチ君。私が特別なことをしていないのは事実だが、私の体に宿した『防護』の力はどうにも働き者なようでね。おかげで戦闘では楽をさせてもらっているのだよ」
「……なるほど?」
「まぁ、もっと先の話もあるが……今は肉が冷める前に食べようじゃないかね」
「それもそうですね」
しばらく持ったままだったエマを地面に下ろし、三つ用意されていた椅子の一つに戻――
「……エマ?」
「いやなに、人にああもじっくり触れられたのは久しぶりだったのでね。テーブルも私にはやや高いことだし、膝にでも座らせてもらえないかね?」
「え、ええっと……」
それは何かもう色々すっ飛ばしてバカップル的な領域に踏み込んでる気がするんですが。少し前に初めて手で触れあった相手とやることじゃないと思うんですが。
(本当にどうしようか、この状況)
(むぅ……反対したい気持ちも少しはありますが、人肌が恋しいのはかなり本気みたいなので、感情的にも賛成ですかねー……小屋の中で眠る時には出てもいいですか?)
(うん。それじゃあ、また後でね)
(はいっ)
何にせよ、ウィッシュの許可は出たので、認める方向で……椅子に座ってエマの方を向く。
「ど、どうぞ?」
「! 感謝するよアキミチ君。言ってみるものだね。ああ、アキミチ君は右利きだよね? ひとまず、左脚の上に座らせてほしい。何かあればそれも言ってほしいのだよ」
「え、ええ、わかりました」
外套を収納したエマが背を向けながら両腕を広げたので、脇の下から支えるように持ち上げ、左脚の上へ。
大体真ん中辺りに座らせたところ、エマは位置が気に入らなかったのか、つま先立ちで後ろに動いて背中を俺に密着させ、俺の左手を自身の腹の辺りに当てさせた。俺の左手が移動させられた先は勿論(?)服の内側で、温かく滑らかではあっても硬い素肌の感触が新鮮。エマが着ていた服はやはり貫頭衣の類だったようで、肩の辺りに縫い目はなかった。
肉を焼いてる鉄板との距離はあるけどこんな状態でどうするつもりなのか、と思っていたらエマが【物品目録】で取り分けた。エマが【物品目録】の力を通しているテーブルの上だし、そのくらいはやるか。
左手はエマを支えるために使っているので、ゴーレムに食器を持たせたりエマに脂が垂れないように食べ進め、元の猪型のモンスターが大きかった分だけ長く太い肋骨付きの肉はエマに倣って骨の部分を手で持ちながら豪快に……思ったより筋がしっかりしてるなこれ。食いちぎれはしたけど、次の一口はもう少し小さく――なんか横からバキキッと凄い音が聞こえてきた。
(……うわぉ、平気な顔して骨ごと咀嚼してらっしゃる)
(Lvって凄いですね……ご主人様も同じようなことはできるのでは?)
(いや、骨をかみ砕くくらいはいけそうだけど、あそこまで豪快に食べるのはまだまだ無理だと思うよ)
骨をビスケット菓子のようにかみ砕いているエマの真似は無茶そうなので、大人しく肉だけもぐもぐと食べ進める。
骨付近のすじが比較的硬く、火がしっかり通ってるからか上手い具合に引っ張れば骨と肉を綺麗に剥がせる。赤い肉は見えないから、焼き加減はウェルダンって感じだけど、そこは豚に近いから当然か。調理時間自体は短いからか肉汁もしっかり残っている。表面の塩胡椒も良い。
食べ進めながら上手く骨だけ残せたので、元の取り皿にカランと戻してご馳走様、と。
「……意外と小食だね?」
「いや、これ以上は物理的に容量不足ですよ。それに、ある程度空いてるくらいの方が美味しく食べれるってもんです」
「ふむ……君の残したその骨、貰っても良いかね? 後の話をするにあたって、見せておくと話が早くなりそうなことを一つ思いついたのだよ」
「まぁ、構いませんが……一体何を?」
「口から長い剣を呑む芸があっただろう? 見たことはないかね?」
「あー……直接はないですが、ありましたね。手品用の剣を使う場合と、本物を実際に飲み込む場合があったと思いますが、それを骨でやると?」
「その芸そのものではないがね。ああ、途中からは君の手で押し込んでくれると更に早いのだよ。さて」
「……ええ……?」
俺の返事を聞く前に本当に呑み始めたんだけど? いや、骨を貰ってもいいかって質問には確かに構わないと答えたし、十分耐えられそうな気はするけど、マジで? ……手招きジェスチャー、やれってか。マジでかー……。
「じゃあ、押し込みますけど、無理そうだったらそっちで止めてくださいね? 本当にお願いしますからね?」
「……」
返ってきたのはサムズアップ。
仕方ないのでやることに。一応、手を伸ばせば届く範囲に骨の端があったので、中指の付け根辺りを端に当てつつ緩く掴み、地味に湾曲している骨をエマに呑み込ませていく。
……エマは特にえづいたりすることもなく、そのままモンスターの肋骨を殆ど呑み込んでしまい、最後はエマが上から俺の手に重ねて、かなりグッと押し込まれた。エマの腹辺りを支えてる俺の左手が内側から押されたんだけど? え、何でそんな平気そうっていうかむしろ恍惚とした表情してんのエマさん? エマさん?!
「ひえっ」
エマは上を向いていた顔を前に向けることで、喉というか、口から胃までの広い範囲を使ってモンスターの肋骨をバギリとへし折った。口からちょっと出てた骨も咀嚼しながら口に収めて、胴体を前後に曲げる度に呑み込んだ骨が更にバキバキと折れているのが音でわかる。ただ、エマの口からは破砕音が聞こえてくる割に、エマの体は防音性が高いのか、左手では力を込めた腹筋が時々細かく動くことくらいしか感じ取れない。
「ええと……だいぶ無茶なことをしてそうですけど、大丈夫ですか?」
「ん、ん、うむ。喉、ケフン、喉が多少むず痒いが、そんなものだね」
「マジっすかー……」
骨ってのは結構細かく、鋭利に割れたりしそうなもんだけど、ホントどんだけ頑丈なんだか。
エマ「ケホッ……ハァァァ♪」
ビリー(二人とも性癖が酷いですね……)
明路(二人ともエッグい性癖してるなぁ……)
エマ(エレウマイア・ランス)
髪も瞳も茶色の合法ロリ博士が探索者として活動している姿。
Lvは50台を維持しており、探索者としてのランクは上級。Lvが平均より明らかに上がりやすかったため、探索にはソロで向かうことが多い。
最初からソロで探索することを考えて装備やアビリティを整えていたので、魔術特化に見えて下手な前衛よりも硬く、斥候としても優れている。
入手しやすい宝珠で作ったアビリティは一通り獲得しており、アビリティを無効化していても微弱に働く程度に染みついている。
澱界においては想念の集中しやすいものに存在力も集中しやすいため、少数でもファンの心に深く突き刺さる成人向け作品などは単体でもそれなりに漂着する。基礎的な技術力は現代の地球と比べれば桁違いに高く、稼働可能なPCが漂着する場合も当然あるため、大抵のソフトウェアは実行可能。データサーバーそのものすら漂着する場合がある。
そして、エマはそういった漂着物の仕分けを任せられるほどの実績があり、購入する権利も持っている。
要するに――
・他の探索者、特にLv差ができやすい男性との縁はほぼなかった。
・防御に振りすぎて自分と同じLvの玩具でも表面にしか振動が伝わってこない。
・玩具が膜を突破できず、へし折れたことがある。
・再生した膜が玩具の先端を刈ってしまったことがある。
・玩具を圧壊させたことが何度もある。
・自分に似た体格のヒロインが過激な目に遭う成人向け作品を多数嗜んだ。
・非現実的なシチュには呆れつつも、一部プレイ内容は妙に刺さった。
・嗜好(と交友関係)の問題で感想を共有できる相手が居なかった。
・本当に破滅したいとまでは思わないが、支配される妄想はよくする。
――などの経験によって性癖をそれなりに拗らせているため、自身に興奮できて、アブノーマルな性癖も持ち合わせていそうな明路への期待は大きい。
今回は特にストレスが溜まっていたので裸サーコートにブーツやマントを装備した状態で出陣したが、流石に毎回ここまでの恰好をしているわけではなく、普段はインナーも着用している。
(※この世界では悪意の有無を正確に証明できる技術が一般的に利用されており、裁判も現代の地球と比べれば爆速で進行するため、強○や美人局などにはとてもとても厳しい。また、ログの映像は機器による再現であり、性的な作品は膨大な数が流通しているため、探索中の行為が性的なものとして出回ることはまずない)
ビリー・スミス
トラウマを克服して独り立ちし、理想の彼を探したいと思っている成人男性。
シーメールなどになるつもりはなく、男性らしい自分を男性に愛されたいガチめの同性愛者。高めのケモ度を好むケモナーでもある。
異性への興味が完全にないわけではないが、全身毛皮か西洋的な格好良い熟女ぐらいにしか反応しない。
同性への守備範囲は、年齢層は高めで容姿の理想がやや高い。恋愛関係になるなら同性愛者が良いが、異性愛者の男性でも遠くからネタにしたりはする。
最初はガンマンを目指そうともしたが、この世界の物理法則との相性が悪かったため、ひとまずは剣と盾で身を立て、それから改めて武器を選ぼうと思っている。
明路同様エマに拾われた身であり、面接でエマが初めて姿を見せた際には、整った顔立ちをしっかり見てから「子供を使って僕を騙そうとしてもそうはいかない。さあ、君のパパを呼んでくれるかい?」とナチュラルに見下しつつ下心も満載な声を掛けた。
下心まで完全に把握したエマはビリーに再教育を施した。
明路の性癖
普通に異性が好き。創作上はともかく現実の同性愛には関わりたくない。
Sとして楽しむこともできるが、ノーマルなイチャラブだけでも満足できているし、過激なものは創作や妄想だけでも満足できる。ウィッシュとのプレイが過激になることが多いのは、ウィッシュの性癖によるところも大きい。全身毛皮はちょっと厳しい。
肉体年齢的なストライクゾーンは二次性徴後~自分と同程度(二十代半ば)だが、希未やエマは二次元ロリ的な若干大人びた体型をしているのでギリギリ入っている。
肉体年齢が先述の範囲内であれば明路(180cm)より背が高くても一応守備範囲内。自分より若干高いぐらいの相手には対抗心が先立つが、十センチ以上離れていくようなら逆に大丈夫になる。
……が、ビリー視点ではロリコンのサディストでしかなく、関わりたくない領域に踏み込みつつあるバカップルに見えている。




