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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 04 章
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06:ゴーレムの便利さ

 何にせよ、まずは単純なところから試していくかということで、適当なサイズのアクリル板をまず用意。表面はそのまま、内部にだけ炭を練りこむことで色移りしない真っ黒な板にした。

 このままだとただの黒い板なので、ゴーレムの核を、とりあえず実験用として小さめのを……邪魔にならないところ、上でいいか。ということで上に設置。

 パッと見、Webカメラを上に取り付けたタブレット端末みたいな感じで違和感はあるけど、仮のものだし簡単に外れないだけ上等上等。

 A4の紙くらいの見慣れたサイズに寄せたからアスペクト比的にもワイドではないけど、形はいくらでも変えられるし、そもそも映画を流すような予定もないからね。

 サイズはともかく、センサー実験。まずは、点でいいか。

 黒いアクリル板の中央に一ドット分程度、向こう側と同じ色に光る点を一つ。


「よし、オーケーオーケー。消費は……小さすぎてわからないか。何にせよ、向こう側が映ってるのは確実……だよね? よしよし」

「穴が開いてそうな見た目ですが、裏側は真っ黒なんですか?」

「ん、そうだよー。表側から見るとしっかり光ってる点は見えるけど、裏側は真っ黒で、色の付いたものを裏側の方で振るとちゃんと見える。反応速度は申し分なしで、裏面全体を平均化したわけではなくこの点の裏側の一点の正面だけ、本当に狭い範囲だけが映ってる。センサーに該当する点、受光部? まぁその位置も……表側の点を動かさずに変更可能だね」

「お、おぉー……? あんまりよくわかりませんが、凄い……んですよね?」

「うん。ゴーレムが凄く、本当に便利。ってことで次は点を増やすよー」

「おー」


 ぱちぱちという軽い拍手を聞きながら、表側に表示する点の数を一気に一六×一六、二五六個まで増やした。かなりレトロな家庭用ゲーム機の、スプライトのサイズがこのくらいだったかな?

 PCのOSのアイコンと比べてもかなり少ないドット数だとは思うけど、まぁ、ちょっとずつ増やしていけばいい。


「この個数でも、問題なしだね。消費魔力や反応速度も変化がわからないレベル」

「思ったより小さい、です?」

「点の個数は二桁増えたんだけどね。それじゃもう一度同じくらい……」


 ということで二五六×二五六の、六五五三六個。ここまで増やせば、何が映っているかくらい――


「……何が映ってるかは、わかりにくいね?」

「で、ですね?」

「一応、解像度だけ見れば大昔の家庭用ゲームくらいにはあるんだけど……ああ、色深度というか、表現できる色が多いからか」

「な、なるほど。消費はどうなんでしょう?」

「ん、相変わらずわからないくらいには高燃費、反応も早いままだねー」


 裏面の受光部についても真正面から入ってきた光しか映さないようになってるから、線が太い網戸? いや、目の前に広げた布地があるような感じかな? 光る側も点でしかないから四角くはないけど、粗いモザイクがかかっているようなわかりにくさになっている。

 とりあえず、表側のドットも大きく広げて、受光部は…………んんん?


「あ、凄いです、一気にわかりやすくなりました。今回はいくつくらいなんです?」

「……いや、まだ数は増やす前で、そのまま点を大きくするようなイメージしかしてないから、何でこんな高解像度になってるのかさっぱりなんだけど……」

「へ?」


 映っているのは、3DCGで言うところの平行投影のような、部屋の壁が目の前にあるようにも見える立体感のない映像。裏面全体が真正面の光を受け付ける状態になっているわけだから、平行投影みたいな映像が映るのは納得ではある。

 ただ、粗いモザイク状の視界になるかと思ってたのに、スマホのカメラと比べても何倍も高解像度になってるように見える。これでも消費魔力は誤差レベルだから、光を扱うことに関して魔力の消費量はとても少ないんだと思う。

 裏面は当然真っ黒なままだし、アクリル板の位置を固定したまま俺が頭を動かしても見える映像は当然変わらないから、ちゃんと画像として出力されているのは確か、なはず。

 よく考えたらゴーレムの核には、岩を変形させて動きながらぶん殴れる性能が備わっている。それと比べれば、そのままの形で光るくらいは簡単なことなんだろうね。

 要するに、俺がさっきまでやってたのは、あれだ。


「…………スパコン級のハイスペックPCを使ってるのに、計算をするためにわざわざ物理シミュレーターを起動して、その中でレトロな計算機を再現しようとでもするような、物っ凄く無駄なことをしてたってことかコレ……!」

「あ、あははは……ドンマイです」

「うん……」


 自由度が高いゲームの中で計算機を作ってるプレイ動画なんかがあれば凄いと思って見れそう、というかそう思って見た覚えもあるけど、これはちょっとどころじゃなく恥ずかしい。人前でドヤってなくてよかった……!!


「…………早く気づけてよかったってことで気を取り直して……えー、と、備わっている機能はどんなものがあるかな……?」


 曖昧な命令でも受け付けてしっかり実行できるのは良いことだけど、もうちょっと何ができるかを教えてくれてても良いんじゃないかと思わないでもないところ。


「……もしかして赤外線モードも最初から搭載されてる? うわ、普通に映せるし……白黒のグレースケールだけど、白の代わりに緑……サーモもいける? じゃあ、近赤外線の波長を可視光線の波長に合わせるように……なんかそれっぽい感じに切り替えられた気はするけど、実際に映ってるのかはわからないか。じゃあ、その……」

「思ったより早くてびっくりですが、私はいつでも大丈夫ですよー」

「うん、ありがとう。祈折(いのり)にも見えるように映した方が良さそうだから、色々増設するかな。えーと……」


 アクリル塊を追加で取り出し、ゴーレムの核の力を使ってモニターアームのように空中に画面を固定する台として細く伸ばしつつ、カメラとして利用する凸型の曲面も作って祈折の身体に向ける。曲面の考え方は曲率や直径でも良さそうだけど、レンズと違って光を屈折させて焦点を作る必要もないから半径=焦点距離、かな? まぁ、後からいくらでも調整できるからしっかり考える必要もないか。

 薄いアクリルこそ通してはいるものの、カメラと違って屈折した直後の光だし、真正面から入った光だけを映していたように入射角による選別もできるみたいだからピント合わせは必要ない模様。


「じゃあ、とりあえず赤外線のグレースケールから行くね」

「はいっ。……これは、確かに、透けてますね」

「うん。画像では見たことあったけど加工とかじゃなかったんだねぇ……」

「……ご主人様の服は透けてませんね」

「俺のこれはこの世界の服だし、赤外線対策は仕込んであるんじゃない?」

「なるほどです」


 この世界の人は何となく肌の露出は気にしない傾向にあるみたいだけど、技術的にそこまで難しいものでもないだろうし、『隠そうとしている部位が隠れない商品』は悪意と見なされる可能性があるから避ける、って感じかな? 本当に知らなかったら許されそうではあるけど、割と一般常識だったり、規制や加工手段があったりは多分してる。

 そして祈折の服はアビリティを通して木綿(コットン)一〇〇%で作っただけの、漂白はともかく染色は一切してない服だから、屈折しにくい赤外線は糸の中を通る際にも拡散されにくく、可視光線の何倍かは透けて見える。

 要するに、下着の形状はかなりはっきり見て取れる。その下もうっすらと見えなくはない。

 直接見ても、可視光線だけ表示してても透けない。


「比較できるように、通常の視覚そのままの映像も並べておいた方がいいか」

「……お手軽ですねぇ……」

「アビリティもゴーレムもほんと便利だよねー」

「はい……」


 黒いアクリル板を追加で作って、元の画面の横に並べるように支えながらゴーレムを操作し、支えをふやしたり繋いだりしつつ、同じ撮影部分からの映像の可視光線版を表示しただけ。

 普通のカメラだったら内部を機械的に切り替えたりする必要がありそうだけど、赤外線も可視光線も同じ受光部でまとめて受け取って映像出力時に分岐できるのは地味ながら本当に便利だ。

 そして全く同じ視点の赤外線と可視光線の映像が並んだことで、下着が透けているのが改めてはっきりわかる。

 サーモグラフィに切り替えてみると、今度は祈折の服の下の輪郭がしっかりわかるようになった。俺の方は遠赤外線もある程度拡散されているらしく、服の下の輪郭はほとんどわからない。

 最後に近赤外線の範囲で赤外線をカラー表示すると――


「わぁ……ちょっと色合いは違って見えますけど、カラーで透かして見ることもできるんですね」

「まぁ、色が付いて見えても近赤外線の範囲だから、空気中の拡散や物の透過の仕方で影のでき方も変わるだろうし、可視光線に見えるように補正してるだけだからね」

「なるほどですー」


 近赤外線の範囲の光が可視光線の範囲になるようにリアルタイムで補正し続けてるというのに、コストで見ると身体を動かさせる時よりまだまだ小さく、意識を加速させても遅延らしい遅延は見て取れない。これなら、探索にも十分使えるレベルだと思う。

 祈折は、胸を強調するポーズを取ったりしながら二つの映像を見比べて、どう透けるかを確認しながら楽しんでいる。忌避感のようなものはなさそうだ。


「せっかくですし、今ある服がどのくらい透けるか見てもいいですか?」

「ん、いいよ。ゴーレムもまだ余裕がありそうだし、画面を追加して他にも何か見えないか、今のうちにちょっと調べとこうかな。軽くね、軽く」


 ピタッと手を止めた祈折に言い訳をするように予定を話した。

 いや、ほら、あまりにも便利だったから他にどんなことができるかは気になるし、チャンネルを切り替える程度の手間しかかからないし。

 ということで、黒いアクリル板をもう一つ追加し、裏面を受光部とした他のアクリル板とは違う映像を出力させる。同じ核を使ってるから物理的につなげておく必要はあるけど、手で支えなくてもいいのは楽。手ブレもないしね。

 それにしても、やっぱり何というか、3DCGじゃないリアルの平行投影ってのは中々に違和感があるなあ……。彫刻(スカルプト)をやるには便利そうだけど。

 それから、ズームアウトは受光部を広げないと物理的に無理としてズームインに関しては自由が利く。具体的には、何メートルか離れた壁紙のちょっとした凹凸を画面全体に表示できたりもする。


「望遠鏡も顕微鏡も要らないなコレ……?」

「! そう考えると凄いですね」

「うん、電子顕微鏡レベルは無理だろうけど、光学で可能な範囲なら簡単に極限的な倍率まで行けそう。少なくとも肉眼よりは明確に上だし、一部のロボットアニメのコックピットみたいに球面で作ったら……いや、腕や脚で隠れる部分の補間は難しいか。まぁ、ゴーレムに乗りこむなら色々便利にはなるね。最低でも自動車のバックカメラくらいには便利なはず」

「おぉー」


 感心するような反応に悪い気はしないけど、試し終わるまで祈折の方は見ない。黒い布地を脱いでいるところとか、視界の端に紺色や緋色がチラリと見えたりはしたけど、見るのは思いついたことを一通り試してからだ。

 この状況で思いつけるかは怪しいけど、何か……。


「…………魔力?」


 なんか当たり前のものとして認識してたし、ゴーレムも魔力で動いてるみたいだから、確実にあるのはわかる。ただ、視覚的に捉えられるのは、魔力が自分で光ってくれた時だけだなと、ふと思った。

 魔力を視覚的に捉えるなら魔力を自分の体に馴染ませるのが多分手っ取り早いんだろうけど、何となく、自分の体には馴染ませすぎない方がいいような気がしてならない。だから基本的にアビリティを通して扱うだけで済ませてはいたけど、ゴーレムを通して見れるのなら見てみたい気もする。

 ということで試してみたところ、受光部が魔力で動いてるせいか全体が白っぽく、ゴーレムの身体として利用していアクリルや祈折は更にもう少し白っぽい色に見えた。まぁ、だからなんだってところではあるけども。

 関連して霊視とかもできそうな気がしないことはない――けど、その手のは認識できると危ない気がするので見ない。

 さて、魔力を見るアイディアの時点で絞り出すような感じだったから、もうこっちはいいかな。衣擦れの音が気になってそれどころじゃないし。


「祈折は……あー」

「! え、ええと、重ねてもうっすらとは見えるもの、なんですね」

「……そうらしいね」


 祈折は、肉眼で見た限りでは体操服とショートレギンスという寝る前と同じ服装に戻っているものの、カラー化した近赤外線の映像の中では、青い色の競泳水着を着ているのがわかる。

 更に丁度、ショートレギンスと重なった部分がどう映るかを確認しているところだったようで……ちょっと間が悪かったかな。

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