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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 03 章
51/116

13:空回り

 設置前に説明書を読み込んだりでやや手間取ったものの、設置後の初期設定は大した時間もかからず、記憶媒体(カード)を読み込んで映像を視聴することができた。

 空中に映像を映す技術はあるとはいえ、黒い背景の上に表示した方が見栄えは良いので、モニターは物理的な実体を持つ大きなもの。再生機器は、記憶媒体(カード)に対応しているものを選んだら、指定の収納場所に入れた記憶媒体を非接触で読み取るものだった。

 そして希未と叶絵と一緒にソファに座って最初に見た動画は、ファーバ草原宮のボスに十人パーティーで挑んだ探索を編集して二時間ぐらいにしたもの。

 それを見終わったところで、同程度の人数で中級ロビーのポアレ草沼宮のボスを倒したという動画も追加で買って見てみたんだけど……。


「……かなり火力不足っぽいとはいえ、力押しだけでやってるわけじゃないから、参考にはなる……かな?」

「ま、まぁ、その……そうかもしれませんね」


 誰が攻撃したとか、何のアビリティを使ってどうしたとかのログが流れていたり、俯瞰視点での3D再現映像があったりして、映画というよりアクションゲームのプレイ動画みたいな印象。道中の戦闘はかなりスキップされてたけど、動画に入ってる戦闘は大体開始から討伐までノーカットだったから、どうしてもね。

 ボス戦には十人がかりなのに何十分もかけてたし、シーンリプレイみたいなのも結構あったから完全な垂れ流しってわけでもなかったけど、ちょっと解説かコメントが欲しかったかな。時間の流れが違うから生配信は多分無理だけど、合成音声の解説とコメントの付いた配信動画なんかがあればもう少し楽しみやすかったかも……探せばあったり?

 いや、どうすればもっと楽しく見れたかは、今は関係ないか。

 俺は娯楽コンテンツを探してたんじゃなくて、自分が探索する時に役立つ何かがないかを見てたわけだから、学べる何かがあればいい。

 いわゆるスーパープレイ的な目を引く動きはなかったけど、思い返してみれば何かが――


「んんんんん……戦闘に関しては全体的に何か特別な技術がある感じでもなく、戦列と戦意を上手く維持しながら、実力をしっかり発揮して……って感じだったから、自分よりデカい相手でも怯まないガッツが重要……?」

「勝てそうにないときは撤退も大事だと思いますが……そういう動画は多分無いですよね」

「まぁ、ボスを倒した動画を選んだわけだからねぇ。アビリティ一つでいつでも帰還できるし、死んでも蘇生はしてもらえるらしいから……一度撤退した後、別のパーティーと合流してボスに再挑戦して撃破、みたいな流れの動画があれば、見ることはできるかも? ……やることが分かってれば見る必要性は薄いか」

「……ですねー」


 なんだろう、合計四時間ぐらいかけて見たのに徒労感が凄い。


「膝枕でも、しましょうか?」

「ん、それじゃあ、せっかくだし」


 叶絵が静かにソファから降りて俺が体勢を変えられるようにしてくれたので、隣で相槌を打ってくれていた希未の太腿に頭を預け――


「んっ……!」

「……」


 そういえば、感度も上げてるんだっけ。

 感度が高いのはどの身体もそうだけど、希未・変身前が今している水属性っぽい巫女服姿は見えない部分が……まぁ、あれだ。

 とりあえず、ローションは他のものに付かないように制御されているので、着ている服は全てシリコン製家具のような、しっとりとはしていてもべたつかない触り心地になっている。希未の肌にも付かないようになってるけど、露出が少ないから何もしなくても蒸れてそうだし、後で風呂には入れておきたい。

 床に降りた叶絵は俺の手の近くに頭を動かしていたので、軽く撫でておく。


「……そういえば、動画に映ってたけど、ポアレ草沼宮にはトウモロコシも生ってたみたいだね。他にも俺が探索した時に取り逃したのは結構ありそう?」

「ありそうですね。トウモロコシと言えば、他に見つかった植物は麦と米と、竹……イネ科ばっかり? でもパイナップルはありましたね……パイナップル科だったとは思いますが、近い仲間なんでしょうか」

「まぁ、割と近そうだね。竹は知らないけど、他は茎がある草にまとまった実が生るところまでは同じだし、パイナップルも何か集合体っぽさはあるし。……トウモロコシは、別名でトウキビとかあったっけ。唐キビ……キビ団子?」

「何だか連想ゲームみたいですね。取れる作物の一覧は載ってたと思うので、調べてみましょうか?」

「うん、俺もちょっと気になってきたし、よろしく」


 トウモロコシ、もしくはトウキビ、唐辛子(トウガラシ)なんかと同じく中国の『唐』あたりが名前の由来……かな? キュウリ、コショウ、クルミなんかの漢字に使われる『胡』の字も、胡から伝わってきた瓜に近いものだから胡瓜(キュウリ)山椒(サンショウ)に近いものだから胡椒(コショウ)で……胡桃(クルミ)は桃に近い……? 種の形は何となくわかるけど、実の形がわからない。まぁ、連想するにしても関係が薄いし、別にいいか。

 希未が、というよりウィッシュが収納の中にある資料を調べているみたいだから、俺はもうちょっと役立つものはないかと思い返してみる。

 直接的な戦闘技術はあんまり参考にならないとして、間接的な――斥候がモンスターを探す技術に関しては、モンスターに発見されないように走り回ってたってぐらいしかわからなかった。結局、味方の戦力を維持しながら頑張るのが大事……ってだけかな。

 その程度の戦術で良いならRPGやシミュレーションゲームで昔からやってる。

 もっとも、俺はソロで探索することも多いからその戦術が役立つかというと、微妙なところ。本当に、実力的に多少厳しくても気持では負けないようにするっていう精神論ぐらいしか学べたところがないような……。

 戦力はソロでも余ってるぐらいだし、稼ぎも十分すぎるぐらいある。装備だって自作で十分な性能はあるし、合金の比率は剣を通販で購入してみれば、今ならかなり詳細にわかるはず。


「……うん?」


 ……よく考えてみれば、衣食住は何ら問題ないし、ちょっと意味合いはアレだけど彼女は作れた。同じ顔とはいえ、増えているところですらある。ああいや、中身で考えれば別に増えたわけじゃないか。

 勿論、俺が多重人格だったりするわけではなく、元々別人だったのは確かで、遺伝子的にも問題はない。というか、この状態から更に別の相手を探そうとする方が色々問題がある。

 そういう男女の関係は置いておくとして、社会貢献的な意味で考えるなら……迷宮で資源になるものを収穫してギルドに売れば第一次産業的に……これもパーティーを組むよりソロでやった方が良いのか。

 俺は好きにしていいと言われてるものを普通に拾えるだけ拾って売ってるだけだけど、人一倍多いらしいそれを山分けにしようとしたら……パーティーメンバーがそれをあてにするようになったら、不当な利益を得ようとする悪意と判定されて罪になる、かもしれない。清算を別にしたとしても、対抗心程度ならともかく、嫉妬を煽りそうなのはよろしくない。

 まぁ、この世界の人は精神的に健全そうだし、ちょっと嫉妬したからって無茶苦茶やる人は少なそうだけど、わざわざ煽る趣味もないし、損しかしそうにない。

 …………ソロ以外で行く意味が本気で無いな?

 しかもあれだ。人間関係がこんな状態で完結してても何の問題もなさそうだし、寂しいかといえばそうでもない。何か漠然とした焦燥感みたいなのはないこともないけど。


「……キビとモロコシって植物はあるみたいですね。それぞれ別のものですけど、トウモロコシも含めてイネ科みたいです。それで、全部ポアレ草沼宮にはあるみたいですね。品種もいくつか、ポップコーンになる品種もあるみたいですよ」

「お、ありがとう。ポップコーンにならない品種もいくつかあるってこと?」

「はい、色や粒の大きさが違う品種があるみたいです」

「なるほど……そういえばジャイアントコーンとかあったっけ。そのうちまた探しに行こうかな」


 塩味のスナックが割と好きだった思い出もあるけど、ポップコーンも割と好きなんだよね。シンプルな塩味もいいし、バター醤油味も、キャラメル味も嫌いじゃない。

 それにしても、世界三大穀物全部イネ科かぁ。


「そういえば、サトウキビとキビの関係はどんなかな」

「どちらもイネ科ですけど、サトウキビはサトウキビ属、キビはキビ属と、それほど近くはないみたいです」

「へぇー……というかキビってどんな植物?」

「あ、えっと、丸い小さな実が生る植物ですね。(アワ)(ヒエ)も――」

「へぇ? そんなに色々――」



 ………………

 …………

 ……



 だいぶ横道に逸れはしたものの、ポアレ草沼宮が思った以上に作物だらけだったらしいことが判明したので、また今度潜ることには決めた。

 見た探索動画は結局二本だけで、繰り返し見ることもなく風呂に入ってまた疲れて、水属性っぽくなくなった希未と、ただのコスプレと言えなくもない程度になった叶絵と一緒に寝て起きて、腹を満たしてふやけて乾いて昼寝。して、夜が更けてきたところで外出し、転移門(ゲート)を使って探索者ギルドへ……と、向かおうとしたところ、『停止中』と表示されていたのでまた帰ってきた。

 他にも細かく書かれていた文字によると、稼働再開は一時間後の予定とのこと。

 モニターで見れたニュースの情報によると、武装テロ組織鎮圧のため、らしい。


「この世界でもそんなの居るもんなんだねぇ……現地からの避難には使えるらしいけど、他の移動が全部止められてるのはどういうことだろ」

「危険なところに無関係な人が近づかないように、とかあるんじゃないですか?」

「あぁ、それはたしかにありそう。マスコミ……は潰れてそうな気もするけど、野次馬は居るだろうし、偶然で人質が増える可能性も考えたら、そりゃ止めるか」

「それより、現地からの避難に混じってテロリストが移動したらどうするんでしょうか」

「あー……嘘発見器みたいな部屋は作れるみたいだし、現地からはそういう所にでも転送されるようになってるんじゃない?」

「あっ、なるほどです」


 割と適当に想像で言ってるだけだから実際どうかはわからないけど、そこまで外れた予想でもないと思う。まぁ、ニュースの情報が正しい前提でね。

 何となくカーテンを開けて外を見てみると、見慣れてきた夜景が広がっているだけだった。

玉蜀黍(トウモロコシ、ギョクショクショ)

 イネ科トウモロコシ属トウモロコシ。


 名前の由来がちょっと複雑。

 (キビ)という植物が日本にもともとあった。

 それから、この黍に似た植物が伝わってきた際、蜀をモロコシとも呼んでいたらしく、(モロコシ)(キビ)からキビが省略されて蜀黍(モロコシ)

 外国から伝わってきたものには『唐』を付ける風習があった頃にこの植物が外国から伝わってきたので唐蜀黍(トウモロコシ)

 中国の国名が二つ繋がってんのはどうなんだということで、唐が玉に置き換えられて、玉蜀黍(トウモロコシ)

 ……とかなんとか?

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