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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 02 章
32/116

14:ワイバーン

 第四層からの転移先として転移門(ゲート)が設置してあったのは、階層の端の方にある洞窟の中だった。

 この第五層がこの迷宮の終点であり、設置してある宝珠(オーブ)は『闘気』で、ボスはワイバーン……だったかな? そして洞窟の外に出ると雪が降り積もった山がある、はず。少なくとも、【所在確認】アビリティで次の階層へ続く転移門(ゲート)の表示は確認できない。


(……ご主人様、寒くないですか?)

「俺は別に……鳥肌が立つほどでもないし、指先とかを見ても新鮮な血が通ってる血色だし……いや、時間経過で変わるかもしれないけどね。外套ぐらい羽織っておくかな?」

(そうですね。できれば手指を保護するグローブなどもあると良いのではないかと……)

「そっちは、ある程度は『防護』のリストバンドが守ってくれるし?」

(それは、そうでしたね)


 雨具として用意したものではあるけど、フード付きの外套を羽織って洞窟の外へ。

 天候は曇りで雪は降ってはおらず、一部岩が露出したり樹木が生えている以外は雪に覆われている山がある。視界が開けている割に、モンスターの姿は見当たらないし、敵意も感じない。


「んー……積雪の部分、クレバスってほど深くはないけど、ここからでもいくつか割れ目が目立つのが気になるね」

(……そうなんですか?)

(うん。雪崩の前兆みたいなものだったと思うから、声はちょっと控えるよ)

(はぁい)


 ついでに動力器入りの分厚い脛当てを両脚に着けて、雪崩対策はオッケー。

 雪を収納して山肌を完全に露出させるなりしてしまっても対策にはなるけど、流石に上る前から山を崩すのはなんだかね。……いや、飛んで上るのも大概か。

 雲の色からしてそろそろ日が沈みそうな雰囲気もあるけど、とりあえず、普通に登るつもりはなくなっているので、地面スレスレを静かに飛びながら山頂を目指してみる。


(……何も、いない……?)

(……いえ、表に出てきていないだけで、何かが現れそうな、ピリピリとした雰囲気はあります)

(なるほど……そういわれるとなんか不気味な景色のような気が……)


 何となく、速度を少し緩めて周囲を見回してみる。

 第四層の湖よりは視線を遮るものも多いとはいえ、ここまで何もでてこないのはおかしいとは思う。でも、気配的な何かを俺自身が感じ取れてるような感覚はない。ウィッシュが感じ取っているだけだ。

 物理的によくわからない重なり方をしているウィッシュを俺の一部と認識した上でなら、俺自身が感じ取っていると言えなくもないところではあるけれど。

 まぁ、それはともかく。速度を緩めたところで何か異常を察知できたりはしなかった。残念。


(ボスがどこかにぽつんと居るだけの階層だったり?)

(意外とありそうですが、ワイバーン以外のモンスターの名前も……あっ)

(ありゃ)


 特に触れたわけでもないのに、積雪の割れ目が広がってドサドサと、その振動でまた連鎖的にと、雪崩が起きてしまった。舞い上がった細かな雪で少し視界が悪い。


(いえ、それより、山の向こうに殺意を振りまいた何かが居るようですが)

(えっ、これ? なんかあんまりそんな感じはしないけど)

(いや、探索者を視認した後のモンスターのそれが極端に強すぎるんですよ。全方位に適当に振りまいてるこの殺意も大きな方で、ある程度理性的な相手なら直接向けてくる敵意でもこのぐらい、だと思います)

(へぇー)


 俺がそういう感覚を把握できるようになってから、敵意らしい敵意を向けられたのはモンスターぐらいなので、本来の持ち主の意見は参考になる。

 まぁ、どのみち山頂を経由するのが手っ取り早そうなので再度加速して低空飛行。

 他のモンスターに見つかったような敵意は特に感じないのでそのまま進み、山頂に上って漠然とした殺意の発生源が存在する辺りを見てみると――


(居たね、ワイバーン)

(ですね。ボスらしい大きさを除くとドラゴンみたいな……ワイバーンとドラゴンって何が違うんでしょう?)

(ん、まぁ、現代だと一般的に、前足の代わりに翼が生えてたらワイバーンで、それ以外はもう大体ざっくりとドラゴンだね。なんならワイバーンもドラゴンに含まれることもあるぐらい)


 分類としてはかなり適当だけど、『ドラゴン』の範囲が本当に広いから仕方ない感じ。翼がなくて四本足でも、蛇みたいな胴体の東洋龍でもドラゴンといえばドラゴン。翼が何対かあったり頭が多くてもドラゴンと言われていたりする。


(現代だと……?)

(うん、ドラゴンやワイバーンの話はもっと昔からあったけど、そういう区別が一般的になったのは一九世紀ごろだかなんだってさ。ともかく、あの本数ならワイバーンだね)

(なるほどです)


 本数以外がちょっとおかしいんだけどねー……。

 ()()四〇メートルぐらいあるのはまぁ、ボスだからと考えれば普通の範囲ではあるけど、初めて遭遇する本物のワイバーンのサイズがこれなのはちょっとね。

 そしてそれ以上に、あれだ。四肢のバランスがどことなく人間っぽい。

 そんなワイバーンは今、自分で仕留めたと思われるヤギのようなモンスターを前足で押さえながら、柔らかそうな部分を食いちぎっている。山の斜面が血まみれだ。


(爬虫類っぽいのに丸呑みしてないし、ボスは何か、人型に寄せるルールでもあるのかな?)

(ありそうですね。ボスだからというより、宝珠(オーブ)の力が関わってそうな気もします)

(なるほど、そっちか。それも確かにありそうだね)

(はい。あっと、気づかれましたよ)

(そうだね。探索者を見つけたら敵意が振り切れるのはこいつもか、っ)


 空力的に飛べそうにない小ささの翼を広げて、ワイバーンが飛びかかってきた。

 跳躍や滑空ではなく、本当に飛行ができるようで、俺達が回避した後は空中で制動しながら迫ってくる。大口を開けて閉じる硬質な重低音がやかましい。

 少し上に誘導してから下をくぐるように移動してみると、ワイバーンはその動きには対応しきれず墜落した。


(どうやって飛んでるんだろ、こいつ)

(魔術的な何かで、じゃないですか?)

(それを言われると、多分その通りではありそうだけど……まぁ、それでも真っすぐ突っ込んでくるだけならもう仕留め――おぉ?)


 斬りかかかるために距離を詰めようとしたら、ワイバーンの翼の半分ぐらいがちょっと見覚えのある感じで光った。リシーも使っていた闘技と同じ光に見える。

 この光の火力がどの程度かはちょっと不明でもあるし、そもそも俺自身がどの程度攻撃に耐えられるかも不明なので、余裕をもってしっかり回避。

 ワイバーンが振った翼はほぼ空振り、しかし翼の先端は触れた岩を切り裂き、樹は特に抵抗もなく綺麗に切り飛ばしていたので、触れなかったのは正解だと思われる。


(……構えが妙に人間っぽいのは置いといて、光りっぱなしかぁ。飛ばしてはこないみたいだけど、やりにくいなぁ……)

(素のままでもかなりのリーチがありますね)

(だね。……うん?)


 空を飛べている理由に魔術が何らかの形で関与しているとしたら、闘技とやらの光を操るこのワイバーンはある意味、リシーが自称していた魔術剣士との類似点が……いや、流石に剣とかを装備してるわけじゃないし、関連付けるのはやめとこう。

 ワイバーンは、翼を剣のように振り始める少し前から地上に居るのである意味狙いやすくはあるんだけど、飛んでいた時より動作が機敏だからやりにくさもある。


(とりあえず、思いきり岩でも飛ばしてみるかな)


 バカでかいゴーレムには『防護』の力のせいか効かなかったけど、通常サイズのモンスターならちょっとぐらい効くよね? ということで、足を止めて翼を振るっていたワイバーンの首めがけて、幅の広い岩の刃を射出する。

 やや上から地面に当たるコースで飛んだ岩の刃をワイバーンは回避せず、あるいは回避できず、綺麗に貫通して数本の樹をなぎ倒しつつ止まった。


(……思ったよりだいぶ効いたね……?)

(……まぁ、質量を考えると、普通の剣より何倍も強いのは道理ですかね)

(……まぁ、それはそうかも)


 ボス相手だと、ヤギ型のボス相手でも一撃では倒せなかったけど、あれも『防護』の力を持ってはいたし、俺が【物品目録】で何かを射出する速度が上がってる可能性もあるか。



 ………………

 …………

 ……



 ちょっと加減を間違えたせいで飛ばしてしまったワイバーンの頭部や、宝珠(オーブ)が設置されている祭壇は、無事に見つけることができた。

 祭壇があったのは山頂付近で、雪崩が起きそうだった箇所の積雪がなくなると祭壇が設置されている洞窟への入り口が少し露出する、という地味に面倒そうな隠され方はしていたみたいだったけど、ワイバーンとの戦闘の影響で見える状態にはなっていたので、その入口を少し広げただけである。

 祭壇の付近に置かれているお宝のような物は、ファーバ草原宮の物と比べれば少し豪華かな、という程度ではあったけど、ボスまでソロで倒したので回収させてもらっている。


「そういえば……結果論だけど、喋らないようにしてた意味はあんまりなかったね」

(……まぁ……単独行動じゃない時は声に出さない方が自然だと思いますし、そういった状況に向けた練習になったと思えば……)

「……そうだね」


 ともかく、これで今回の探索は完了、かな。

 この山もがっつり収納しようとすればできそうだけど、流石に祭壇をどうこうするのはどうなんだって気もするのでそれは諦める。

 最後に山頂から周囲の景色を一望してから、【帰還転移】を発動した。

 人の体格と比べて三、四倍長い指を光らせながら岩をも切り裂く背刀(はいとう)打ちを繰り出す身長40mのやわらかワイバーン(?)

 ちょっと短くてすみません。

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