13:朽ちた遺跡
俺もリシーも一撃で仕留める力はあるので、ヤギ型モンスターとの戦闘はつつがなく終了し、俺のLvが一六になったりしつつ、第七層に到着した。
そしてひとまずはと、転移門の位置確認――
「あれ? 次の階層への転移門が無い?」
「ええ、ここがこの迷宮の最奥部、第七層よ。無事に来れたわね」
「ここが……まぁ、あの勢いでデカくなり続けたら装備がいい加減厳しかったし、助かるよ」
「それは確かにね。私は闘技と魔術があるけど……アキと同じ装備とアビリティだけだと、ここまでも来れたかは怪しい気がするわ」
「【物品目録】が便利だったおかげだね。このアビリティで攻撃できなかったら、まだまだ厳しかったと思う」
「……そうね。私もそのアビリティの性能は見直してるところよ」
重さがトン単位でありそうな石材の塊を時速数百キロでぶっ飛ばせるわけだから、割と真面目に、物理的に無茶苦茶強いアビリティだった。
重さで言うなら池の水を丸ごと収納した時だって、直径三〇〇メートルほどの池なら半径重さで考えれば一万トンは軽く……いやあれ平均で水深二メートルは余裕で超えてたから、十万トン超えてるな……? まぁ、それだけ重い物を運んでいても重さを一切感じないわけだから、本当に尋常じゃない。
なんというか、存在力への分解で意外とロスが発生してるんじゃないかと疑いたくなる気がする。明らかにLv一〇差で必要な値に起こる変化は二倍なんてもんじゃない。
この辺はもう少し詳細な情報が欲しいなぁ。体に馴染み切ってない余剰分がアビリティか何かを使うためにプールされてる、なんてことになってるなら計算式だけあっても無理だし。
まぁ、考えても答えは出そうにないし、答え合わせもここではできない。攻略の方を考えるか。
今居る転移門がある場所は森の中。第六層の森よりは薄いけど、少し霧が掛かっている。この階層にはこの転移門しかないので――
「進む方向は、第七層の中心……かな?」
「ええ」
これまでは次の階層への転移門に進んでいたから特に関係なかったけど、澱界宮の階層はどこまでも広がっているわけではない。この階層の外へ向かって進み続ければ、いずれは澱界宮の外に出てしまい、自動的に【帰還転移】が発動して、探索者ギルドに戻されることになる。
こういう階層の『エリア外』のような範囲については【所在確認】でも最初から表示されているので、気を付けていれば探索中に外に出てしまうようなこともない。
そして、階層の外が表示されているということは、中心もわかるということだ。
「モンスターは少ないけど、一体に気づかれたらそのまま全部と戦うことになるから、準備はここでしっかりとね。私も装備の確認と手入れはするから、急がなくても大丈夫よ?」
「わかった。手入れは……剣使うかなぁ……? とりあえず、色々考えてみるね」
集まっているモンスターが第六層の森に居たサイズなら、戦闘中にも普通に気づかれるはずだ。あのサイズの群れと戦うなら、機動力が必要……かな?
幸い、木材は第六層でそれなりに手に入れているので、手放しで空を飛べる何かを考えたいところ。時間が余ったら舟の補強と調整もしておくかな。
ということで、考えてみたというか実際に作ってみた装備がいくつか。
まず、ケトル風の試作品の代わりに、アイスホッケーのゴールキーパーのものより大きそうな、分厚い脛当て。脛当ての内部は半球二つを円柱で繋いだような形にくり抜いてあり、中には水を射出するために同じ形の物が設置してある。長いので支柱はちょっと多め。足首側の半球の中心から脛当ての外に向かって排水する穴もあけてあるため、緊急時に使用後の水を収納しきれなくても問題はない、はず。また、この脛当てが上に進む力は足の裏で受け止められる構造にしてあるので、普段の動きとの違和感も少ない、はずだ。多分。
他の装備は、腕の外側を守る手甲と、アメフトの鎧のようなシルエットになる防具。……シルエット程度の記憶で防具として機能して動けそうなのって言ったらこれだったんだよ……。和風の鎧も多少考えたけど、肩の部分が高速移動時に邪魔そうだったから……。
シルエット自体は、アイスホッケーのキーパーともども、マンガやゲームや映画で見た記憶のうろ覚え再現である。リシーの反応はなんかよくわからないものを見たような感じでした。まぁ、木製だし、シルエットだけ見たら肉襦袢みたいなもんだし……?
あとは、繊維を撚り合わせて作ったロープを各数十メートル程度で五本ほど作成、木の柄を差し込めば使えそうな形の巨大な斧の形の刃を同数作成、空力を考慮して舟の隙間を埋めたり角を丸く、とか色々してたぐらい。
そんな色々を作っているうちにリシーの準備も終わったようなので、いざ。
「……あ、思ったより音はしないのね、その装備」
「金属も使ってないし、装甲部分と足のコレ以外は大体柔らかいからね。でも一応生身よりは安心……だと思うよ? 手を空けたまま飛べるのが大きいね」
「…………ああ、あの、空を飛ぶあれが入ってるわけね……」
「正確には、それを基にした改良版がね」
目の前で実用試験も兼ねて実践してみせる。
脛当ては膝より下の動きと連動するし、円柱部分で受け止めるように水を出せば浮いた状態から宙返りも始められるし、途中で止めることもできる。膝が壊れない程度の範囲で使う必要はあるものの、問題はなさそうだ。
森から出ると草原が広がっており、そこから一キロ程度で石造りの街の遺跡に到着できるようになっていた。その遺跡の横に向かって流れていく川があるようで、耳をすましてみれば水音も聞こえてくる。
遺跡にはよく意味のわからない文様があちらこちらにあり、背の高い建築物だったと思われる残骸も多少ある。ただ、遺跡の中も外も気にせずうろついているモンスターは、第六層と同じようなサイズのヤギなので、まぁ、近づけばほぼバレそうだ。というか俺達はモンスターの視界に入ってると思うんだけど、あちらから認識はされていないようだ。
「あんまり遠くまでは見えないのかな、あのモンスターって」
「そうね。でも、視界は広いし視点も高いから、遺跡に入るより見つかる方が先だと思うわよ?」
「だよねー。まぁ、確かに数は多くないから……見つかるまで歩いていくか、勢いよく突っ込むか……体力的に誤差みたいなものだと思うけど、リシーはどうしたい?」
「そうねぇ…………それじゃあ、二手に分かれましょっか。あの遺跡の奥には湖があるんだけど、ボスはその手前にある建物の前の広場で寝てると思うから、雑魚を片付けたら合流、なんてどう?」
「良いと思うよ。それじゃ、行こっか」
「ええ」
返事をするなり素早く駆け出したリシーが進行方向から見て左側へ。
俺は右側へと空を飛び、気づいたばかりのモンスターの首筋に向かって接近。図体がデカいだけで反応は遅いのでここまでは苦労しない。
次に、『一端が輪になるように結んでロープ』の輪になっていない側を手で持てる位置に、輪になっている側はちょうどいい位置に輪が来るようにして取り出す。それと同時に加速させた岩製の大斧刃を、丁度いい位置と向きで取り出す。
結果、大斧刃に開いている柄を通せそうな穴にロープを結び付けたような形になり、大斧刃だけが加速して飛んでいく。【物品目録】の加工でロープを結んだり形を整えたりできるからこその、少しだけややこしい取り出し方だ。
加速させた大斧刃が役目を果たしたら、ロープが伸びきって飛んでいく前に、ロープを通して大斧刃を収納、ロープもそのまま収納する。本当に、【物品目録】が便利すぎて怖いくらい。
まぁ、かなり伸びてしまったロープを束ね直すのに少し苦労はするけど、思い切り飛ばした岩の刃をその場に居ながら回収できるだけでも十分だと思う。地面や壁に当たる前に収納できれば壊れる心配も減るし。
「襲い掛かってくるモンスターの攻撃より、武器が壊れないかを心配してるのは変な感じだけどね、っと」
絶賛痙攣中の死体を収納し、次のモンスターを探して飛び上がった。
すぐ近くには誰も居ない状態での戦闘は何気に初めてだな、なんて思いながら巨大なヤギ型モンスターを更に三体仕留め、リシーと合流できそうな場所に居たヤギ型モンスターの方に向かうと、俺の方に襲い掛かってきたので大斧刃を飛ばして仕留めた。
飛んでいる最中、リシーに聞いていたいかにもな広場に、寝ている状態でも明らかに大きな個体が居たのは見えていたので、合流地点としても間違ってはいないと思う。
「攻撃がとんでもないことになってるわね……まぁ、いいわ。アキ、気づいてると思うけど、アレがボスよ。得られる素材はこの階層のモンスターと大差ないと思うんだけど……確認だけど、本当に宝珠は私が貰っちゃっていいの?」
「ん、そういう約束だったし、欲しくなったらもう一周すれば良いだけだからね。ボスと戦うのはこれからだけど、今回場所がわかれば十分取れるでしょ」
「本当にその通りなのが凄い所よねぇ……ま、今回は貰っておくわね。ありがと、アキ」
「こちらこそ、ここまで色々教えてくれてありがとう、リシー。それじゃ、ボスと戦おうか」
「ええ」
いかにもなフラグっぽい話をしてしまったけど、油断しなければ――いや、してしまったからこそ油断せずに行く、ってつもりで居ようそうしよう。
ボスモンスターの目は覚めているようで、広場からこちらを見つめている。迷宮内の時間が夜なので瞳孔は開いたままの丸い形だ。そして顔が他のヤギ型モンスターの倍ぐらいデカい。体積ではなく幅や高さがそれぞれ倍ぐらいデカい。
広場に入った俺達を見て、後ろ足で――
「……二足? っていうか骨格が違う!?」
しかも無駄に五本指。爪が体格と比較しても無茶苦茶分厚いけど、それ以外は人間のような形の手をしていて、肩の構造も人間寄りになっている。
ただでさえ素でデカかったのに立ち上がるもんだから、身長は三〇メートル弱……いや、後足は蹄で立ってるから、かかと基準の身長なら二五メートルちょっとぐらいか。鳴き声の低さはそこらのヤギ型モンスター以上でよく響く。あと雄山羊だねコレ。そこは人型じゃなくてなんか安心した。
「にしても、でっか……いや上背あるの戦いにくいなぁこれ」
上からバカデカい貫手が降ってくる。まぁ、貫通ではなく押しつぶす類の物理攻撃だけど、よく見たら爪だけじゃなく指も太いな。で、石造りの広場に突き刺さると。うん。頑丈さもだいぶおかしいなコレ。
ともかく、頭は下に下がってきた。リシーは、突き刺さった手首に斬りかかっているようでボスの首は狙っていない。首を狙って巻き込まれる心配も巻き込む心配もない。
飛びこんで、岩製の大斧刃を真上に射出――そこそこ突き刺さったものの、大斧刃の方が砕かれた。『ブエ゛エ゛エ゛エ゛……!!』って感じの声を上げつつ完全に敵視されたけど、動きは十分見て動ける。
「肉で止められる勢いじゃなかったと思うんだけど?」
「ここに置かれてる宝珠は『防護』よ。ボスもその力の一部を扱えるから硬いの!」
「ちょっ、そんな話初耳だよ!?」
「あ、あら? とにかく、そういうことだからっ」
「……まぁ、そこそこ通った感触はあるし、これならちょっと手間取るだけか」
同じ斧刃はあと四個あるし、今の一撃でも、放置すれば出血で勝手に終わる程度の致命傷には届いてそうだ。
ボスが砕けた広場の欠片を無事な右手で投げようとしているが、遅い。
一応狙われているのは俺の方なので、どう跳ねても大丈夫そうな方に誘導はしておく。
手から完全に離れたところで少し大きめに距離を取り、首筋が見える位置から一直線に加速。
この遺跡を飛び回っている間に気づいたことだけど、【物品目録】で加速させた物を射出する場合、俺の慣性系が基準になっている。時速一〇〇キロで前進しながら後ろに時速一〇〇キロで物を射出すると重力に従ってまっすぐ落ちるだけ、ということ。
そしてさっきは潜り込んで射出したから【物品目録】での加速だけ。今度は俺の加速も乗せて射出すれば――
「また砕けたけど、骨は断てたね」
今度こそ間違いなく致命傷。
ゲームと見紛うような単純思考のモンスターばかりの迷宮のボスとはいえ、ゲーム的な耐久を持つわけではない、ということだ。これは逆にも言えることだろうから、Lvが上がっても気を付けないとかな。
「あら……最初から頭を狙えると、こんなに早く倒せるものなのね」
「早く? 確かに、この身長を相手に地上からの攻撃だけだと苦労しそうだね」
俺が単純にLvだけ上げていた場合、どの程度苦労していたかはあまり想像したくない。装備が良くなっていれば、足から削っていってもどうにかなる、かな?
リシーも後足を斬りつけていたようで、ボスの足元は血まみれだ。
「まぁ、いっか。それじゃ、リシー、このボスの死体は素材として貰うよ?」
「ええ、そういう約束だものね。それと、宝珠が置いてある祭壇にも案内するわね。見ての通り、すぐにわかる場所だけど、ね」
「……だね」
ボスの死体を丸ごと収納して、リシーの言葉に苦笑した。
ボスが居た広場と奥の湖に挟まれる形で、いかにもな建物の跡がぽつんと存在しているのである。
リシーの案内で中に入ってみると、地下へ向かう階段。何度も曲がりながら下っていくその階段を体感二〇メートルほど降りると、その奥には不思議な光を放つ球が置かれている、妙に小綺麗な祭壇があった。
遺跡とは違って全く朽ちていないし、どことなく転移門に似た印象もあるので、後から持ち込まれたものなのだと思う。
「それじゃあ、本当に貰っちゃうわよ? 周りに置いてある装飾品やボスの素材を合わせた総額より高いのよ? これ」
「うん。そういう約束だったし、欲しくなったら別の機会に自分で取るよ」
「え、ええ、そうね。ありがと、アキ」
「どういたしまして」




