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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 01 章
11/115

11:第五層攻略

 着用する当人(リシー)が気にしてないならいいのかな、とか思いつつ、リシーからリシーのインナーを受け取る。

 そのまま【物品目録】で水分だけ収納しようとして――手で触れている少しの範囲しか対象にできなかった。


「あれ? 水が全然対象にできない……」

「……? どういうこと?」

「いや、なんか、このインナーを通して水を感じられないというか、【物品目録】で認識できてるのが触ってるところだけ、っぽい」

「認識……?」

「うん、ごめん、ちょっと一旦返すね。そこの石で試してみるから」

「?」


 インナーを返し、少し大きめの石を拾って、その上にもう一つ小石を重ねて実験。

 何をしてるかはわかりにくいし、リシーを待たせている状態なので何をしているかはある程度口に出す。


「まず、【物品目録】の対象にしたことがない、ただ持ってるだけの石を通して、間接的に収納できるか……これはできない。で、【物品目録】の対象にできるようにちょっと力を込めてからやると……できたね」


 一度も収納したことのない石を介して、乗せていた小石だけ収納することができた。

 同じ石を掴んだまま、足元の触れていない石に押し付けるようにして試しても同じだった。


「そんな制限があるのね。へぇー……」


 インナーを収納したリシーも自分で試してみている。

 あまり細かく試したことはなかったらしい。


「……まぁ、アキが一度収納できるように力を籠めればいいだけよね?」

「……そうだね。リシーが気にしないならそれでやるけど」

「じゃ、お願いね」

「うん」


 やっていいなら、どうということもない。

 まとめて手渡されたインナーを受け取り、丸ごと支配下に置くように力を込めて、水だけ収納。

 そして、インナーの細かい構造がなんとなく把握できてしまったのが少し申し訳ないところ。流石に一部は裏地があるんだなぁ……まぁ、うん。頼まれていた事は終わったので、受け取ったインナーは重ねたまま返す。


「終わったよ」

「早いわねぇ……ありがと」

「どういたしまして」


 なんか妙に気疲れしたけど、成功してよかった。

 どうやら【物品目録】で収納できる状態というのは所有権を上書きしているような形のようで、俺が返したインナーをリシーが収納する時、少し集中する必要がある様子だった。


「……あっ」

「え、何か失敗でもしてた?」


 リシーが短く声を上げて固まったけど、何だろう。インナーを収納した後だから、その関係? 本当に水分を取っただけで、俺の何かが残ったりはしてなかったと思うんだけど……。


「いえ、インナーは大丈夫だったわよ。そうじゃなくて……他にも濡れた装備がたくさんあるなって……そっちもお願いしていいかしら?」

「……あー……」


 雨具まできっちり着込んだ状態で全身泥水に水没してたからなぁ……当然といえば当然か。それはいいとして、全部預かって収納できる状態にする? 流石にちょっと、いや、いくら何でもアレだよね。


「……発想を変えてみるかな。装備を収納できる状態にはせず、水に触れる……いや、水()触れる?」


 ある程度の量の水を入れられる器は、とりあえず飛ぶために作った舟を持ち合わせているので、その舟を出して、手から出した水で満たしていく。

 水が溜まったら、とりあえずはと適当な小石をそのまま放り込み、水に触れながら小石だけ収納――


「できるのか。……じゃあ、リシー、先に実験したいから、濡れたタオルをこの水に浸けてみてくれる?」

「え、ええ」


 リシーが自分の収納から取り出したタオルが舟の中の水に浸かっている状態で、もう一度水に触れて、舟の中を満たしている水ごとタオルの水分を収納する。


「こっちも成功……あとは、俺が収納できる状態になってるかどうか……何で試そうか」

「あ、それなら、はい」

「ありがと。……うん。タオルを通して小石の収納はできないね。というわけで、まとめてできそうだよ」

「……凄いけど、さっきと同じ方法でも別に構わないのよ?」

「いや、流石に気になるから、乾かしたい装備を浸ける形でお願い。そうした方がリシーも簡単に収納できるでしょ」

「それはそうだけど」


 どっちにしろ形状は識別できちゃうけど、装備品の所有権的なものを上書きせずにやるのが俺の精神安定に重要。超重要。


「……私がそのまま入れば……?」

「……体の中の水分と上手く区別できないかもだから、装備だけね」

「そうなの? それじゃあ、お願いするわね」

「任された。……回数が増えてもなんてことないから、今着てる湯あみ着はまた後でね」

「そ、そう?」


 俺の手間が少なくて済むようにあれこれ考えてくれてそうな感じではあるけど、流石にね。


 休憩を終え、せっかくだからと薄めた回復薬のようなぬるま湯もまとめて収納し、第五層の探索を開始。まぁ、転移門(ゲート)の位置はわかるので、そのまま道なりに進むだけだ。

 この階層の木は目隠しを兼ねてそうなので、なんとなく気が引けて取っていない。

 そして合流を繰り返して少しずつ水量が増していく川と共に下っていくと、これまでよりは大きな池に辿り着いた。第四層の濁流の幅ぐらいの、直径三〇〇メートル程度の池。この池からは数本の小川に分岐している模様。

 少し肌寒い山を下ってきただけあって、池の水にはぬるま湯ほどの温かさも残っていない。


「池かぁ、どうしようかな」

「魔物は居ると思うけど、何か試すなら試してみたら?」

「そうだね」


 最初に雑草を取った際、雑草の根に繋がっていた土も取れていた。

 それはつまり、二重三重に間接的な接触でも【物品目録】の力さえ通るなら問題はないということ。

 棒に触れた水を次々に収納するのではなく、棒に触れた水から池全体に力を通していくイメージ。十数秒ほど集中したところで大体通せたと思うので――遠くの方から、収納。収納を始めてから終わるまでにおおよそ一秒程度と、これまでと比べて中々の時間はかかったものの、池の水の大半を収納することに成功した。


「もしかして、って気はしてたけど……うわぁ……」

「ふぅ。このぐらい収納できるなら、第三層の川ぐらいなら普通に渡れるようにできそう」

「…………いや、Lvが低い探索者が越えちゃったら危ないでしょ?」

「……そうだね。それは止めておくよ」


 迷宮内で死ぬだけならともかく、存在力(ExP)を全て失えば待っているのは蘇生不能の完全消滅だ。Lvが低いということは持っている存在力(ExP)も少なく、Lvが高いモンスターは強い上に多くの存在力(ExP)を奪っていくらしいので、自力で越えられる実力もない探索者を次の層に向かわせるのは危険である。

 俺はまぁ、ガンガンLvも上がってるし、リシーの戦えそうだって判断はあったから。うん。

 そして、池に残っているのは、表面だけが乾いた水草と、ぴちぴちと跳ねている魚と、こちらに敵意を向けて迫るミズガメ型のモンスター三体。詳しい種類は不明。どの個体も高さが二メートルぐらい、幅は四メートルほどはありそうなので、大きいと言えば大きい。……いや、普通に見たら亀としてはだいぶデカいサイズだけど、首の太さが一メートルなさそうな時点で苦労しなさそうだって思うのがこう、我ながらだいぶ感覚が狂ってきてるなぁと思う。第四層で見た蛇のサイズも凄かったからなぁ。


「これは……私がそのまま浸かってても大丈夫だったんじゃない?」

「いや、まぁ、ほら、いきなり人で試すのは怖かったし」

「? アキ、何かはぐらかそうとしてない?」


 変な所で鋭い。

 この世界だとこんな風に鋭い人ばかりだから、物言いが馬鹿正直な感じになった……? 俺の喋り方からバレバレだった気もそれは割としてるけども、でもこれ正直に言うべきかな? 言った方がまずくない? 大丈夫? 大丈夫そうな気はするけど怖いなこれ。


「…………あー……集中してれば対象にした物の形は割と詳細に把握できるから、それは気まずいなって」

「いいって言ってるのに、慣れないわねぇ」

「いやぁ、それに慣れるにはちょっと時間が欲しいかな」


 問題なさそうなのは良かった。

 リシーの反応を見る限りこの世界では、少なくともリシーに対しては気にする必要はないんだろうけど、現代日本で暮らしてた感覚がそうそう抜けるわけでもないわけで。いや、この世界の現代はこっちだから、二一世紀の、と言い換えるべき? まぁいいか。

 一応亀の仲間にあたるスッポンの足は速かったと思うけど、スッポンは『科』の時点で亀とは違った気がするし、他の亀はそれほどでもない。目の前のモンスターも同様に大した速度は出ていない。頭だけなら割と速く動きそうだし、噛まれたら多分危ないけど、その程度。

 首を伸ばしながらドスドスと歩いてきている程度なので、首を狙うのも難しくないし……反応速度も鈍い。刺すだけだとちょっと厳しい気がしたものの、リシーを真似して皮を少し残すように斬る余裕もあった。

 残り二体はリシーが倒してしまったので、これで戦闘は終了である。


「んー、この調子でモンスターがデカくなっていくなら、もう少しサイズのある武器が欲しくなるね」

「闘技もおすすめよ? あぁ、でも、アキが使ったら凄いことになりそうな気もするわね」

「いやぁ、【物品目録】を上手く扱えてるらしいのはわかったけど、他のアビリティも上手く扱えるとは限らないんじゃないかな?」

「……そうかしら?」


 闘技ツリーを獲得してからじゃないとわからない点なので、何とも反応しにくい話題である。ともかく、自分で仕留めたモンスターは収納。零れた血もついでに収納しておいて、剣に付着した血も収納。

 ……そういえば、道具にもLvがあるっていう話があったっけ。

 分解して得た存在力(ExP)を、自分で得るんじゃなくて武器に注ぎ込んだりとか……あ、できそう。

 このナイフ型の剣は今日貰ったばかりの物とはいえ、なんやかんやで思い入れはある。強化できるなら試す価値は十分かと、剣に付いていた血と零れ落ちていた血を存在力(ExP)に分解して注いでみた。見た目は変わらないし、自分以外のLvの調べ方は知らないので、おまじない程度かな。

 水の在庫は十分あるので池の水は存在力(ExP)に分解し、これは自分のものにした。第四層でも上がっていたので、今のLvは一三。これで、存在力(ExP)による補正の強さはリシーの半分か。

 池の水を分解しただけでも結構な量になった感触だったし、木は後続の迷惑になりそうな気がするから、この階層では、水や石を分解しながら進んでみるかな。


「それじゃあ、進もうか」

「アキ? あのモンスターはいいの?」

「え、まだ居る?」


 リシーの視線を追ってみても、周囲を見回してみても、モンスターが居るような感覚は全くない。


「ええ、あそこの魚……もう死にかけてるけど、あれもモンスターよ?」

「!? あ、あぁ、普通に池に入ってたら襲われてた、のかな」

「そうね。亀の方が力は強いけど、魚は……水中では速いから」

「なるほど……まぁ、陸上でまともに動ける魚は珍しいよね」


 何種類かは居たと思うけど、動けない個体の方が普通に多いはずだし。



 ある程度川の流れに沿いつつ進んで、転移門(ゲート)に到着。モンスターより水や岩を分解して得た存在力(ExP)の方が多かった印象で、Lvは一四になった。

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