第70話 堅固な未来視と視線女王
ケン、ムムと共にジャイアントベアと対峙する。ジャイアントベアは大体5メートル程の高さだろうか。
いざ向き合ってみると物凄い迫力がある。
(…レン♪これって魔力も共有できるの?)
(ああ、できるぞ。)
(そっか、じゃあ…お兄ちゃん、あれが使えるね。ムムの魔力を使っていいよ♪)
(…………承知)
ケンが何かを使うみたいだ。
それも気になるが、ジャイアントベアが突進してきている。
「▼▶︎『光壁』!」
「うーん…『強視』♪」
『ガァ!』
…ムムが『光壁』を見ると、相手の攻撃を防ぐだけのはずの『光壁』が、突進してきたジャイアントベアを遠くに吹き飛ばした。
(一体何を…?)
(何のことかな♪)
(いや、『光壁』が…)
(ん、来るよ。)
ジャイアントベアはすぐに起き上がり、またこちらに向かってきていた。
『ガアァァ!!』
(今度は何をしてくる…)
「……▼…『予知』」
ケンが魔法を使った。
すると、ジャイアントベアが高く跳び、着地する時に周りの地面を迫り上げている光景が頭の中に見えた。
(今のは…?)
(レンも早く空中に逃げた方がいいよ♪)
ジャイアントベアを見ると、手足を屈めて力を込めているように見えた。
「えいっ…『空視』♪」
ムムがジャンプをして、そのまま空中で動きを止めた。どういう原理なんだ…?
って、そんなことより自分も早く空中に逃げよう。
「はっ…▼▶︎『光壁』」
宙に跳んで、作り出した『光壁』に乗る。
(ケンもこっちに来い!)
(…………ああ)
ケンも『光壁』に跳び乗ってきた。
そして程なくしてジャイアントベアは空に跳び…着地と同時に地面を踏み荒らした。
(これは…『じならし』かな♪もし地面にいたら動きが止められてたよ♪)
(そうなのか…)
「……▼▼…『予知II』」
再びケンが魔法を使う。
先程と同じ魔法かと思ったが、後ろに"II"がついている。
…するとまた頭の中に、ある映像が流れて来た。
ジャイアントベアがいて…
その周りには十匹ほどのリトルベアが…
(…これは結構大変そうだね♪)
(本当にそう思ってるのか…?)
(思ってるよ♪)
ムムの話し方は、語尾に♪がついている気がするほど、気の抜けるものだ。
いまいち本気かどうか汲み取りづらい…
「視てみるね……▼▶︎『千里眼』♪」
ムムがそう言って遠くを見る。
(向こうからリトルベアがたくさん来てるよ♪それとこの方向は…アブラムシ族の村だね♪)
つまりアブラムシ族の村から魔物がやって来ているということだろう。
偶然その方向から来たのか…それとも魔物に村が占領されているのか…。
それに、イルスが言っていた『ポイズンチキンは虫族大陸にはいないはず』という言葉も気にかかる。
(リトルベアはムムに任せて、お兄ちゃんを手伝ってあげて♪)
(大丈夫なのか?そんな集団を相手に…)
(レン、油断するな♪)
『ガァァァ!!』
ムムと話しているとジャイアントベアが近づいて来て腕を振り上げていた。
油断していたので避けられなかった。
だが、ケンが腕との間に入り庇っていた。
「………▼◀︎『硬化』」
振り下ろされた腕をケンが受け止める。
防御力が高いようで、ケンは全くダメージを受けていない。
ケンから伝わってくる思考にも暗い感情は一切含まれず、余裕が感じられる。
(…………攻撃を)
(うん…?)
(……………俺の攻撃は弱い)
(…!ああ、分かった!)
確かにケンは盾役のため、攻撃が得意ではないのだろう。なので、ケンが耐えているうちにジャイアントベアに攻撃を…!
「▲▶︎『酸』!」
ちょうど良くジャイアントベアは口を開けていたので、その中に『酸』を放り込む。
『ガッ!!』
苦しんでいるようだが…そこまで効いていない気がする。少し喉に違和感を感じているくらいだろうか?
『ガァ…ガァ!グアァァ!!ガオォォ!!』
次の瞬間、ジャイアントベアは正気を失い暴れ始めた。殴る、蹴る、頭突きなどでケンに攻撃する。
「…………くっ」
ケンはそれをなんとか受け止めているが、激しくなった攻撃についていくのが厳しくなっているようだ。
…中途半端な威力の『酸』で、怒りを引き出してしまったのかも知れない。
口内への『酸』が効かないとなるとどうすれば……
(お困りのようだね、レン♪)
(ムム!?リトルベアは…)
(ん、まぁ後でね♪今はこのクマさんだよ♪)
ジャイアントベアは変わらずケンを攻めていて、ケンはその攻撃を受け止めている。
だが、ケンの動きが鈍って来ているので直撃をくらうのも時間の問題だろう。
「…▲▶︎『石化の魔眼』♪」
ムムがジャイアントベアに目を向けると、
ケンに振り下ろしていた腕が石化した。
(え…)
(何ボケっとしてるの?レンも攻撃しなよ♪)
(あ、ああ…)
『酸』だと効かない。
ならば威力がより高い魔法だ。しかし、これまで『酸』以上の威力の魔法は使ったことが無いし、考えてみたこともなかった。
『光魔法』に関しては正直な所、あまり才能がないのか強い魔法が使えない。なので、『酸術』で考えるのがいいだろう。
ジャイアントベアは腕が石化したことで、正気を取り戻して戸惑っているようだ。
今なら考える時間がある。
酸……酸か……よし。
「▲▶︎…『蟻酸』!」
ジャイアントベアに向けて魔法を放つ。
その名は…『蟻酸』。
前世ではアリの体から見つかったのでこの名前がついたという。まぁ、この世界では関係ない話かもしれないが…
『蟻酸』は無色で大きな球になると、ジャイアントベアへとゆっくりと向かっていった。
ジャイアントベアもそれに気付いたようだが、時すでに遅し。
ムムによって足が石化していたのだ。
『ガァ…!?』
そうして身動きが取れずに『蟻酸』がジャイアントベアに命中した。
『蟻酸』の当たった部分から腐食が始まり、全身の毛を失わせて肌を露出させるまでになった。
『ガ…ガァ……』
「『体視』♪…うん、弱ってるみたいだね♪これなら……『破視』♪」
ムムは弱っているジャイアントベアに視線を向けて状態を確認した。そしてそのすぐ後にはジャイアントベアの体が砂のように崩れていった。
そうして呆気なくジャイアントベアとの戦闘は終了した。
「は…!?」
「どうしたの?」
「いや…そんな力があるなら、最初から使えば良いんじゃないか?」
「はぁ…わかってないね。」
ムムはこれまでと異なり、真面目な雰囲気で説明を始めた。
「いい?まずムムはアリ族の女王なんだよ。」
「アリ族の女王は絶対的な力を持っていて、あらゆる面で追い込まれることはほとんどない…。だから戦っても大体勝つの。」
「でも、ムム達女王が活躍し過ぎると配下が育たなくなる。その結果…国が繁栄しなくなるの。」
「だから、ムム達は成長の機会を与えて、どうしようもなさそうな時にだけ、仕方なく手助けするんだよ。」
「分かった?」
「ああ、何となくは…」
「そっか♪それなら良かったよ♪」
説明を終えるとムムはいつもの感じに戻った。もしかすると今のがムムの素なのだろうか。
「そういえばリトルベアの群れはどうしたんだ?」
「少し強く見つめたらどっか行っちゃったのよ♪」
「そうか…」
「それじゃあ巣に帰って、カンロンから話を聞こうか♪」
「…………了解」
そうして巣に戻ることになった。




