第68話 制御不能
ボウという者が『暴走』している。
彼が『暴走』している原因の一端は、女王様を止められなかった我にもある。
我が『暴走』を止めなければなるまい。
「ガァ!」
「む…」
突進か。力は強いが…それだけだな
「…炎よ、取り囲め『炎篭』」
赤竜魔法『炎篭』
それは炎で作った篭を相手に被せて、行動を制限する魔法だ。
弱い魔物なら炎を見ただけで萎縮するのだが…彼はそこまでやわじゃないようだ。
我の『炎篭』を突き抜けて我に向かってきた。
「▲▲▶︎『殺虫波』ぁ!」
ボウは『対虫』の技であるだろう、青色の波動を放ってきた。
だが我には効かない。それを正面からくらって無事であることを見せつける。
「っ…!」
「君の力はそんなものか?もっと本気を出せ。」
「オラァァァァア!!」
「…ふん」
彼の攻撃を受け止める。
…このまま攻撃をさせていれば、やがて落ち着くのだろうか。彼の対処を受け持ったはいいが、我は暴走の止め方を知らない。
うーむ…
(レッカ、無事かのう?わらわの助けは必要か?)
(彼の攻撃はすべて防げるので大丈夫です。それより…ハクに『暴走』を抑える方法を聞いてもらえないでしょうか?)
(ハクか…わかったのじゃ!わらわに任せるがよい!)
タイミングが良かったので、つい女王様に任せてしまったが大丈夫だろうか。
変に話がこじれなければ良いが…
ーーーーーー
「ハク!」
「…どうしたのぉ?」
「命令する!レッカを助けるのじゃ!」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけどねぇ…」
「む、どうしたのじゃ?」
「あのレッカくんが軽々と打ち消してた攻撃あるよねぇ。わかるぅ?」
「…さっきの青い攻撃かのう。」
「そうそう、あれはねぇ…虫族が当たると瀕死に追い込まれる攻撃なんだよぉ。」
「それはお主でもそうなのか…?」
「うん。いやぁ、あの時は焦ったよぉ。」
「ところで話は変わるけどぉ…レッカくんってアリ族じゃない…いや、虫族でもないよねぇ?」
「そ、そんなわけないであろう!何をおかしなことを…」
「例えば…竜族とかかなぁ。」
「お主どこまで…!」
「その反応、そういうことだよねぇ。」
「…!?このわらわを嵌めたのか!」
「安心してよぉ、みんなには内緒にしておくからねぇ。」
「そうか…ふぅ。」
『バウッ!』
「ひゃあっ!」
「今の「ひゃあっ」って女王様の声ぇ?」
「…忘れるのじゃ。それより、なぜこんなところに魔物がおるのじゃ!ハクも何をぼさっとしておる!早く追い出すのじゃ!」
「心配いらないよぉ。彼はホムラ。なんかいろいろあってレンくんの仲間になったんだってぇ。」
「何!?そんなことがありえるのか!?」
「ちょ、ホムラいきなりどうしたんだ?ってハク、それに女王も…」
「レンくん、そっちの3匹は終わったのぉ?」
「…ああ、ホムラの新しい技が3匹を落ち着かせたんだ。」
「ふーん、そっかぁ。じゃあ…それを向こうで暴れているボウくんにも使ってくれるかなぁ?レッカくんが苦戦してるみたいでねぇ。」
「ならば…レン!その犬っころを使って、レッカを助けるのじゃ!」
「犬っころって…まあいい、分かったよ。」
「やったのじゃ!ではすぐに行くぞ!」
ーーーーーー
「ガァ!」
「ふむ…これではただの作業であるな。」
レッカはボウの突進を何度も受け止めながらつぶやいた。
段々とボウの動きは単調になっており、レッカにとってはもはや相手にならなくなっていた。
「レッカ!助けに来たのじゃ!」
「女王様、声を発してはいけません!」
「どうしたのじゃ?」
レッカが女王に向かって叫ぶが…もう遅い。
「グウゥゥ…▲▲▶『殺虫波』ぁ!!」
ボウはその声に反応してその方向に『殺虫波』を放っていたのだ。
「炎よ、塞ぎ守れ!『炎壁』!」
「▲▶『光壁』!」
2枚の壁が重なり『殺虫波』を抑える。
しかしその間にもボウは女王の方へ進み続けていた。
レンとレッカは魔法を使った直後の硬直で少しだけ動きが止まっていた。
そしてその隙にボウの突進が女王に届くかと思われた時…
「グ…ガ?」
ボウの身体を黒い煙が包んだ。
「お…俺…は…一体…」
ボウはその煙によって正気に戻り、その場に倒れた。
「これで本当に終わりなのか?」
「そうみたいだねぇ。」
「くっ…ううぅぅぅ…」
ボウが倒れると女王が泣き出してしまっていた。
襲ってきたボウが怖かったのだろうか。
「…女王様はお疲れのご様子、今日のところは休んでもらうことにしよう。」
「そうか、じゃあまたな。」
「ああ。…『契約』の話だが、暇なときに女王様に会いに来てくれ。都合が合えばこちらから伺おう。」
「確か、さっき女王が言っていた言葉か?『契約』って何だ?」
「それもその時に話そう。」
「分かった。」
ーーーーーー
「ボウを落ち着かせたのは良いが…これからどうする?」
眼の前にはボウと3匹のお供が寝かされている。
ハク曰く、無理に暴走したせいで体力を使いすぎて眠っているのだろうとのこと。
そしていつ目覚めるかはわからないそうだ。
「うーん、じゃあ僕はボウ君たちを寝室に寝かせてくるねぇ。」
「ありがとう。」
「気にしなくて良いよぉ。」
ハクは4匹を連れて行こうとしたのだが…
「あっ、無理だねこれぇ。重いよぉ。」
「…手伝いマシょうか?」
「うん、よろしくぅ。」
ハクは『非力』なので、アリ族の1匹も運ぶことができなかった。それを見かねたセキが助け舟を出した。
そうしてセキは4匹を軽々と持ち上げると、そのままハクについて行った。
「私たちはこの後どうするのー?」
「あっ…確かにそうだな。」
誰もいなくなったアリの巣の入口でイルスと話す。
「とりあえず部屋に行くか…って道が分からないな…」
ボウ達が暴れる際、適当に部屋の中に誘い込んだため、道がわからなくなってしまっていたのだ。
「…………心配…無用」
「その声は…」
「…………久々」
「ケン!」
「…………案内」
「もしかして案内してくれるのー?」
「…………何奴」
「あーそっか。ケンくんは知らなかったねー。私はイルスだよー、よろしくねー。」
「…………理解」
「変わった話し方だねー。」
「でもムムはそれが好きなの。」
「ふーん、そうなんだー。…って誰ー!?」
イルスがケンと話していると、その隣に見たことのないアリ族がいつの間にか姿を現していた。
「ムムはムムだよ。よろしくね、お姉ちゃん♪」
「お姉ちゃんかー…いい響きだねー。」
前にも思ったが、イルスって少しチョロくないか…?
ミツバチ族の国で、「イルス嬢」って呼ばれた時も満更でもなさそうだったし…。
「…………何故」
「どうして、ってそりゃあ追いかけるよ。ムムのお兄ちゃんだもん♪」
「……………」
「また黙っちゃった…」
「お兄ちゃん…?」
「…………事実無根」
「そんなこと言うなんて…ひどいっ!ムムとの日々は嘘だったの?」
このムムってアリ族、何なんだ…?
こっそりと『鑑定』してみるか。
「▼▶︎『鑑定』」
Lv34 ムム
種族 虫族
・技能
暗視 輝視 遠視 透視 ・・・
「ねぇ、『鑑定』してるよね?」
バレた!?どうして…
「ムムは視線に敏感だから、みられたらわかるんだよ?」
「え…」
(イルス、そんな事があるのか?
(うーん、視線に敏感だからって事じゃないと思うけどー…)
「ムム…だったか?」
「うん、そうだよ。レン。」
「呼び捨てか…いや、そんなことより…お前は何者なんだ?」
「えっとね、教えちゃおうかな♪」
「【女王】だよ♪」
「女王…!?1匹だけじゃないのか!?」
「え、おじさんから聞いてないの?女王はムムのお母さんも合わせて、8匹いるんだよ♪」
「おじさん…?」
「ハクおじさんのことだよ。」
ハクおじさんか…そういえばハクは何歳なのだろうか。後で聞いてみるか…。
「というか8匹!?そんなにいるのか…。」
「うん、ムムは七姉妹の六女だよ♪ちなみに七女があの…」
「女王様はおるか!?」
ムムが話している途中、長老が血相を変えて飛び込んできた。
「ムムはここにいるよ?」
「ムム様大変ですぞ、ゴニョゴニョ…」
長老はムムの耳元で何かを伝える。
するとムムもそれを聞いて焦り始めた。
「ええっ!それじゃあ、すぐそこに来てるってこと!?」
「そうですぞ!」
「わかったよ、それじゃあ長老はみんなに伝えてきて!」
「わかりましたぞい!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん…あとレン。ついてきてくれる?」
「…………承知」
「いいよー。」
「やっぱり呼び捨てか…まあ、いいぞ。」
さて…何があったのだろうか。




