第65話 蓄積の開放
ウィンドバードに襲われた時にレッカの背から足を踏み外して、木々の生い茂る森の中に落下してしまった。
そういえば前にもこんなことがあった。
その時は茂みから現れたファイアドッグに襲われたんだったな…。
今回はそんなことがなければ良いが…。
ガサッ
後ろの茂みから物音がした。
いや…まさかな。
『ガオォォォォ!!!』
何も出てきて欲しくない気持ちとは裏腹に、茂みの中からリトルベアが現れて、大きな声で吠えてきた。
「またこのパターンか!」
『ガアァァ!』
「っ…▼▶︎『光壁』!」
リトルベアが振り下ろした腕を『光壁』で受け止める。
だが『光壁』のない所から、残っている片方の腕が振り下ろされた。
「くっ…!」
それを横に飛んで避けたが、リトルベアはすぐにこちらを向いて攻撃しようとしている。
「ここは一旦逃げるか…▼▶︎『光』!」
『ガァ…』
リトルベアの視界を『光』で眩ませて、その隙に逃げることにした。
逃げている間にレッカ達に見つけてもらえるのが一番良いが…それが無理そうなら自分で倒すしかないか…。
ーーーーーー
生まれて数日、リトルベアは初めて獲物に遭遇した。
それを仕留めようとしていたのだが、その獲物が突然光を放ったため、リトルベアは怯んでしまった。
リトルベアは視界が戻ってすぐに、獲物が背中を向けて逃げようとしていることに気づいた。
リトルベアは怒り、獲物を追いかけ始めた。
獲物は曲がりながら逃げていたが、途中からは直線で逃げるようになった。
リトルベアはチャンスだと思い、全速力で走り抜けることにした。
しかし途中でリトルベアの足元で何かが爆ぜた。
その衝撃でリトルベアは転んで隙ができた。
そしてそのまま顔に攻撃を喰らってしまった。
ーーーーーー
「…なんとか上手くいったか…。」
リトルベアから逃げる途中で、足元に爆発する光球を仕掛ける。
そしてそれに引っ掛かったリトルベアに向かって『酸』を放つという作戦が、見事にうまくいった。
『ガァァァァ!!!』
リトルベアは倒れながら、もがき苦しんでいる。
今ならここから逃げきることができるだろう。
レッカ達は上空にいるはずなので、木の上に登れば見つけられるだろうか。
とりあえず背の高そうな木を探して……あの木が良さそうだな。
そうしてその高い木に登る。
木の中腹辺りで下を見てみると、リトルベアはまだ苦しんでいる様子だった。
起き上がったら前にしていた投石をしてくるかもしれない。
そうなったら面倒なのでもっと早く木に登ることにしよう。
…と思っていたのだが
『ガァァァァァ!!』
別のリトルベアが現れて、自分の登っている木を揺らし始めていた。
「う…おっと…!」
何とか木に捕まって振り落とされないようにする。
しかし次にリトルベアが取った行動は、近くにあった岩を手に取り、こちらに向かって大きく振りかぶるというものだった。
そして振りかぶって次にする行動といえば…
『ガァ!』
もちろん投石である。
「▼◀『酸衣』っ!」
それに対して『酸衣』を使用する。
ちなみに『酸衣』は『光壁』よりも防御力が弱い。
でも『酸衣』の方が発動は早いので使い分けができる。
リトルベアの投げた岩は自分の身体に直撃したが、『酸衣』のおかげでいくらか衝撃が緩和された。
それでも威力はかなりのもので、思わず手足から力が抜けてしまい、木から落ちてしまった。
下ではリトルベアが口を大きく開けて待ち構えていた。
…今は『酸衣』を発動していて『光壁』が使えない。
これは…どうしようもないか...
そうして自分はリトルベアに丸呑みされた。
ーーーーーー
まぁ…『酸衣』を纏っているので魔力が尽きるまでは無事なのだが…。
『酸衣』を使うことにも慣れて、必要最小限の魔力で維持ができるようなったので、長時間の耐久が可能だ。でもここから出る方法がわからなければどうしようもない。
ー1分後ー
…まだ大丈夫だ。魔力は尽きない。
そしてこの揺れは…移動しているのか?
ー3分後ー
揺れが激しくなってきた…。
縦だけでなく横、斜めにも揺れている。
…それよりも『酸衣』の維持に集中しなければ。
ー5分後ー
っ…今までにない揺れだ…!
しかも外に引き出される…!?
よくわからないがこれはチャンスだ。
この機を逃さずに外へ出なければ…
リトルベアの食道を通って口から外に出た。
外に出られたのはリトルベアが嘔吐したのが理由のようで、辺りにはリトルベアのものと思われる胃酸が撒き散らされていた。
何もなしに吐くことはないだろうと周りを見渡すと、見覚えのある1匹のアリ族がいた。
「マさか…レンですカ?」
「セキ!?」
なんとそこにいたアリ族は、自分の兄弟の1匹であるセキだったのだ。
レッカはアリ族の巣の上空まで来たと言っていたので、セキがここにいるのはそうおかしな話でもないだろう。
「話はアトです!今はコのリトルベアを…!」
するとセキはリトルベアの方を向いて魔法を使い始めた。
「全容量の10%ヲ…▼◀『開放』!」
セキは目で見えるほどのオーラを放ち始めた。
そしてそのままリトルベアに向かっていった。
「1匹で行ったら…!」
「はあっ!!…うン?何か言いましタ?」
セキがリトルベアに突っ込んでいき、危険だと思ったのも束の間。
セキはリトルベアを遠くに吹き飛ばしていたのだ。
「いや…なんでもない…。」
リトルベアを一撃で倒すなんて...そんなに強くなったのか。
「▼▶『鑑定』」
Lv 39
名前 セキ
種族 虫族
・技能
秀才 会心 俊足
・特殊能力
念話 蓄積
・称号(加護)
【虫神の加護】
レベルが高い...
今の自分はだいたいLv24程なので、それと比べるとすごく高い。
それに技能も…
「アノ、どうかシマしたカ?」
「いや、なんでもない。それより…この近くに他のリトルベアがいなかったか?」
「他のは...見ていなイです。」
「そうか…。」
それならリトルベアはどこかに去ったのだろう。
「とこロデ…レン、久しブリですね。元気でしタか?」
「ああ。色々とあったが何とか元気でいるぞ。」
「ソウですか。それはヨカったです。」
「レンくんーやっと見つけたよー!」
「うおっ」
セキと話していると、突然イルスが上から落ちてきたので受け止める。
「アナタは…?」
「私ー?私はイルスだよー。よろしくねーセキちゃん。」
「はい、よろシクお願いします。」
「レッカたちはいるのか?」
「うん、上にいるはずだよー。呼んで良いー?」
「ああ。」
…許可を出してしまったが、よくよく考えると、いやよくよく考えなくても不味くないか?
だってレッカはドラゴンで…ホムラは魔物だ。
セキに見られたらどうなるか…。
そうこうしているうちに空から翼で羽ばたく音が聞こえてきた。レッカが降りてきているのだろう。
「………ハぁ?」
ああ…やっぱり困惑している。
「む、探したぞ。レン。」
『バウッ!』
「竜族に…ファイアドッグ…!?何故コンナところニ…ソれにレンは彼らと知り合いナノですか!?」
慌てているセキにこれまでのことを説明した。
セキはすぐに落ち着いて話を聞いてくれた。
『秀才』であるからか飲み込みも早く、すぐに話を理解していた。
「なるほど…分かリマました。でハ、取り敢えず巣に案内しマショウ。」
なにはともあれ巣に帰れそうだ。
…巣でも同じ説明を繰り返すのかと思うと気が重い…。
ハク先生とかはすぐに理解してくれそうだが、ボウはどうだろうか。
あの頃のボウは血気盛んですぐに暴れようとしていた。なので理解できるか心配だ。
…まあ、セキが説明してくれればなんとかなるだろう。




