昔話①(後編)
男は腰にかけてあった鎌を手に取ると、魔族に向かって走り始めた。
魔族はそれに気づくと、持っていた剣を男に向かって構えた。
男は魔族にその鎌を振り下ろした。
魔族はそれを剣で受け止めようとしたが間に合わず、肩に浅い傷を負った。
しばらく打ち合った後、男は懐から丸い物体を取り出した。
魔族は不審げにそれを眺めていたが、すぐに男に切りかかった。
そして、男は手に持つ物体を魔族に向かって投げつけた。魔族は飛んできたそれを剣で真っ二つに切断した。
すると、その物体の中から煙が発生して魔族の視界を塞いだ。その隙に再び男は魔族に向かって鎌を振り下ろした。
しかしその鎌は通らなかった。
なぜなら…煙が晴れてそこに現れたのは、全身を鎧で武装した魔族だったからだ。
これまで魔族は力を抑えて戦い、男の実力を見極めていた。
だがもうそれは必要ないと感じて、本気をだしたのである。
そこからは一方的であった。男の振る鎌は弾かれるため、魔族の振るう剣を男は避けることしか出来なかった。
始めは海岸にいたのだが、魔族と戦う内に森の方へと近づいてしまっている。蟷螂族の仲間は男よりも弱いので、魔族には蹂躙されてしまうだろう。そう考えた男はその前に魔族を倒すことを決意した。
だが現実は非情なもので、男の攻撃は尽く無効化され、男は魔族に有効打を与えることはできなかった。逆に、男は魔族に片腕を切断されてしまい動きが鈍くなった。
あまりの実力差に男は戦闘する意思を放棄して、その魔族に負けることを受け入れた。
そして男は地面に膝をつき、鎌を手放してしまった。
その様子を見た魔族はつまらなそうに男に向かって声をかけた。
「…これで終わりか。」と
男はその問いかけに反応せずに放心状態のままだ。
しばらくすると魔族は男に残っているもう片方の腕も切り落とし、それで興味を失ったのか海へ飛んで去っていった。
そして男はそのまま気を失った…。
ーーーーーー
何時間が経った頃だろうか。
男は目を覚ました。
命を落としてもおかしくないほどの出血をしていたにも関わらず、なぜか男は生きていた。
しかも切られたはずの腕が元通りになっている。
男は辺りを見渡す。
そしてミコトが倒れているのを見つけた。
男はミコトに近づく。
しかしそこで見たのは…すでに生き絶えていたミコトの姿だった。
その瞬間、男には様々な感情が巡った。
そしてその影響か、失われていた記憶が戻った。
男はその負荷に耐えられずにまた気絶してしまった。
だが…不思議なことが起こった。
意識を失ったはずの男が立ち上がり、ミコトに向かって腕を向けたのだ。それはまるで魔法を使おうとしているようにも見える。
…その様子通り、男は魔法を発動させた。
男の手から光が出てきてはミコトの体に吸い込まれていく。
どれだけの間、そうしていただろうか。
そうして男が魔力を使い切って倒れる頃、ミコトは息を吹き返した。
ーーーーーー
ミコトが目覚めると目の前には倒れている男がいた。ミコトがそれを確認してみると、男が命を落としていることがわかった。
そう、男が使ったのは命を犠牲にして、他者を復活させるという魔法だったのだ。
ミコトには男を蘇生する手段がない。
つまり、男はもう戻ってこないのである。
ミコトは悲しんだ。だがその気持ちとは裏腹に、本能的に体が動いていた。
男を…補食する方向へと……
依然としてミコトは腕を切断されたままである。そのため栄養を急速に得る必要があるのだ。
ミコトは葛藤…よりかは絶望していた。
心では食べたくないと思っていても,体が勝手に動いてしまっているのだ。体の動きも制御できず、ついに男の体に口をつけ始めてしまった。
ミコトは泣きながらも男を完食した。
男を食べ終えると同時に、ミコトの腕が再生した。そしてミコトは集落へと帰っていった。
その後、ミコトは感情が無くなったように過ごしていた。淡々と魔物を切り…漂流物を探し…そんな日々が続いた。
そして数十年後、ミコトは寿命を迎えてこの世を去った。




