第58話 聖虫
「……ここは…?」
カマキリが目覚めると、周りには見慣れない景色が広がっていた。
地平線が見えるくらい広い平原。そしてその真ん中には小屋がある。他には何も見えないのでカマキリはそこに行くことにした。
その小屋は近づいてみるとだいぶ小さく、屈まないと入り口をくぐれない程だった。
何とかしてカマキリが中に入ると、そこは何故か外見からは想像できないほど広かった。
そして、奥の方から誰かが言い合いをしているような声が響いていた。
「次は俺様の使徒にする!お前の使徒にはさせんぞ!」
「使徒だなんてそんな…私はただ加護を与えているだけですよ。」
「それが駄目なんだよ!」
「そうですか……おや?」
「どうやら来たみたいですよ、次が。」
「ようやくか!俺様を待たせやがって…」
「お主らは…?」
「無礼だな…だが、俺様は心が広いから許してやろう!」
「いや、そもそも私達が誰か知らないのでしょう?それなら敬いようも無いですよ。」
「黙れ!」
「はぁ…全く…。すみませんね、不快に思われたでしょう。」
「大丈夫でござる。それで…お主、いや貴方がたは何者で…?」
「そうですね…言うなれば『神』でしょうか。私が聖神で…こちらが虫神です。」
「ふ……む!?そんな重大なことをサラリと言わないでほしいでござる!」
「気にするな、コイツはそういうやつなんだよ…そのせいで俺様がどれだけ苦労したか…。」
「そ…そうでござるか…。」
「さて、私達の正体も明かしたところですし…さっそく本題に移りましょうか。」
「…マイペースな奴。」
「なにか言いました?」
「別に…」
「…まあいいです。とりあえず説明しますね。」
「まず、ここはいわゆる『天界』です。それで、あなたは精神だけがこちらに来ている状態です。なぜここに来ているのか予想はつきますか?」
「む……見当もつかないでござる…。」
「そうですか。簡単に言うとあなたはこれから『進化』するのですよ。」
「簡単に言いすぎだろオイ。」
「なにか文句でも?」
「いや…」
(これで本当に神なのでござるか…?)
「嘘はついていませんよ。」
「心を読んだでござるか!?」
「…神ですから。」ドヤッ
「…うぜぇ……」
「さっきから何ですか!黙っていてくださいよ、もう…。」
「ハイハイわかりましたよー、だ。」
「…気を取り直して……」
「私達は外界…あなたが住んでいる世界で、一定の強さに達したものをここに呼んで『進化』させているのですが…」
「たま〜に、お前みたいな加護二つ持ちが現れるんだよなぁ…。」
「はい…加護というものは1人につき1つだけというのが普通なんですが、すでに加護が与えられている者に、追加で加護を与える神がいるんですよね…。」
「…他人事みたいに言ってるけど、ほとんどお前のことだからな?お前がいっつも割り込んできてんだよ!」
「………。」
「オイ、目を逸らすな!」
「それで、加護が二つあるとメンドくてな……進化の選択が増えちまうんだ。」
「お前の場合で言うと…このまま『虫族』として強くなると言う方向がまず1つ。俺様はこっちを勧めるが……」
「私としては『聖虫族』となって、魔を祓っていって欲しいのですがね…。」
「まぁ、こんな感じになるんだ。メンドくせぇだろ?」
「なるほど…」
「それで…その方向性は某が選ぶのでござるか…?」
「ああ、そうなるな。」
「…早く目覚めなければならぬのに……!」
「ああ、この小屋の中は下界と比べて時間の進みが遅いので、ゆっくりと考えてもらって大丈夫ですよ。」
ーーーーーー
「決まりましたか?もう1時間は経ちましたよ。」
「うむ……」
「悩んでるみてぇだな。何を迷ってるのか聞いてやってもいいぞ。」
「では遠慮なく……」
「…某はカマキリ族に生まれたおかげで、今日まで生きて来れたのだと思っているのでござる。」
「ほーん、と言うと?」
「記憶を失っても両腕の鎌を振るうだけでなんとか戦えたのでな…」
「だからその面で言うと虫神様に感謝しているのでござる…。」
「おうおうなるほどな〜…なら虫族として…」
「しかし…」
「しかし!?」
「聖魔法が無ければ死んでいたのも事実。その点で言えば聖神様にも感謝しているのでござる…。」
「そうですか…それは嬉しいですね。」
「なのでどちらを選べば良いか……」
「ううむ…そうか……おっ、そうだ。聖神さんよ、こんなのはどうだ?ゴニョゴニョ」
「何ですか…え……そんな事を…!?」
「何でござるか?」
「よーし、ちゃんと聞けよ?」
「加護二つ持ちの奴は、どっちかの加護を強める事で進化させるんだがよ…」
「そこあなたの加護を両方強くしようって話なんですよ。」
「して、それを選ぶとどうなるのでござるか?」
「そんな事をするのは初めてなので何も分かりませんが…最悪、死にます。」
「…へ?」
「死ぬまで行かなくても、負荷に耐えられなかったらヤバいことになるな。そりゃあ当然だ、何てったって2柱の加護だからな。」
「…まあ、この事もじっくりと考えて……」
「…いや、それにするでござる。」
「決断はやっ!そんなすぐ決めていいのかよ!?」
「無論でござる。」
「後悔しないですね?」
「うむ…」
「それでは、小屋を出て真っ直ぐ進んでください。ずっと行くと穴があるはずなので、それに飛び込んだら下界に戻ることができますよ。」
「…欲を言えば俺様の加護だけを強めて欲しかったが…命の恩があるなら仕方がないな。」
「私も同じ意見ですよ…。」
「それはそうと、この後すぐに死ぬことは許しませんよ?」
「そうだな。あと…まあ、その…何だ。」
「頑張ってくださいね。」
「頑張れよ!」
「…感謝するでござる……。」
そうしてカマキリは2柱の神との対話を終わらせると、小屋の外に出ていった。




