第46話 しばしの休息
「ところで先程より気になっていたが,その物怪…魔物は何でござるか?見る限り、敵意は無いようでござるが…。」
「ああ、色々あって仲間になったんだ。」
「ふむ…魔物が仲間に…そんなこともあるのでござるな。」
ファイアドックについての説明が大分ざっくりしてしまったが、それで十分納得してくれたようだ。
「そういえばレンくん、ファイアドッグの名前は考えたー?」
「いや…まだ思いついてない。」
「そっかー。」
さっきも聞かれたが、その時はすぐに魔竜の操る蛇との戦いになってしまったので、あまり考えられていない。
そもそも名前を考えるという事は前世でもしたことが無いような気がする。
ファイアドッグの名前か…
「ふむ…名前でござるか。」
「うん、そうだよー。だいぶ前にレンくんに頼んでおいたんだけど、まだつけてくれてないんだー。」
「…なるほど。では某が考えて見てもいいでござるか?」
「…レンくんはどうしたいー?自分で考えたいなら待ってあげるけどー?」
「…いや、それでいい。」
「だってー。それじゃあよろしくねー。」
「うむ、すぐに考えるとしよう。」
そうしてカマキリにファイアドッグの名前を考えてもらうことになった。このまま考えていてもきっと思いつかないと感じたからだ。
「そんな急がなくていいからねー。明日までにでも考えてくれたら…」
「『ほむら』などはどうでござろうか?」
「えー!もう考えたのー?」
「某の記憶に残っていてな…確か炎を意味する言葉であるはずでござる。」
ほむら……炎か?
ここは異世界のはずなのに、どうして漢字の意味が…?
(この世界にも漢字があるのか?)
(んー…もしかしたら前に転生して来た人が、漢字を伝えたのかも知れないねー。)
(でも、私が覚えている限りではレンくんの前に転生者はしばらくいないはずだから、すごい昔の転生者だと思うよー。)
(そうか…。武士言葉なのもその影響か…?)
(それはわかんないけどねー。)
カマキリと話した後、イルスはファイアドッグに話しかけていた。
「それじゃあこれからはホムラって呼ぶねー。わかったー?」
『バウ?』
あまり伝わってなさそうだ。前からイルスの言葉を理解していなさそうなのはどうしてなのだろうか。
「ホムラ、それがお前の名前だぞ。」
『…バウッ!バウバウ!』
「どうやら気に入ってもらえたようでござるな。」
ファイアドッグ…もといホムラは嬉しそうに飛び跳ねた。
そういえばホムラの前世は何なのだろうか。前に『共鳴』で思考を共有した時に見たのは、ある部屋の光景だった。
なのでその家に住んでいた人間か、飼っていた動物が前世なのだろう。
まあ今の所は普通の犬のように感じるが…。
そんなこんなでようやくミツバチの国の門についた。
先ほどと同じく、ホムラは門のところで門番と待ってもらうことにした。
そしてカマキリとは一緒に国内に入ることになった。
「だいぶ日が暮れたから、外にはもうミツバチ族はあまりいないみたいだねー。」
「そうだな…じゃあ門番に教えてもらった所で、最近とれたハチミツを食べるか。」
国に入る前に門番が話していたハチミツの食べられる場所を教えてもらっていたので、そこに向かうつもりだ。。
「…『はちみつ』とな?それは初めて食べる物でござる。」
「ミツバチ族が花から蜜を集めて作った物だよー、前にも食べたけど美味しかったよー。」
「それは楽しみでござる!」
門番に教えてもらった場所は国の中でも南側だったので、迷いの森のある北からは少し遠かった。
そしてその巣を見つけて中に入った。
中には店主らしきミツバチ族が一匹と、客らしき者が数匹いた。
「おう、いらっしゃ……い…。」
店主は振り返りながら言葉を発していたが、カマキリを視界に入れると声量が段々と小さくなっていった。
「って、誰かと思ったらレン坊とイルス嬢じゃないか!その節は世話になったな!」
「れ、レン坊…」
「えへへー、イルス嬢だってー。」
「あんたらがいなかったら、俺も店を続けられたていたかどうか…。とにかく感謝してるぜ!」
その節というのは以前にミツバチ族とスズメバチ族の間の問題を解決した事についてだろう。
「あと隣の兄ちゃんは…?」
「某はカマキリ族でござる。先程レン殿達と出会い、今は行動を共にしているでござる。」
「そうかい…それで注文は何にするんだい?」
「最近とれた、新しいハチミツを頼む。」
「私たちも同じものでよろしくー。。」
「あいよ、少し待っててくれ!」
店主はそう言うと巣の上の方に飛んでいった。その間カマキリと少し話をした。
「ところで森の中では何を食べていたんだ?」
「魔物の蛇が襲って来たのでな…それを狩ってそのまま食していたでござる。」
「…魔物を食べたんだー、それで体は大丈夫なのー?」
「うむ…最初は体調を崩したりもしたが、今では何の問題もないでござる。」
「そっかー…。」
(これはおかしいねー…。)
(どうしたんだ?)
(えっとねー、普通は生で魔物を食べると、その魔物が持つ『呪い』によって、体が蝕まれていくんだけどねー…。)
(それを食べて平気でいるのが変だってことか?)
(そうだよー。)
しばらく待っていると、店主のミツバチ族が上から降りて来た。
腕に3個、蜜玉のようなものを抱えている。
前に食べた物と比べて色が濃いように見える。
「これが例のハチミツだ、是非食べてくれ!」
「それじゃあいただきます…」
ハチミツを口に入れようと顎を近づけた。しかし、先端が触れて周りに張っている薄い膜のようなものが破れると、その部分からハチミツが流れ出て来た.
零れそうになってしまったので、急いで口の中に入れた。
味は甘みが強く、食感はこってりとしていた。それでいて後味はすっきりとしているので、いくらでも食べられそうだ。
「おいしいねー。」
「うむ、美味でござる。」
すぐに全員食べ終わり、ホムラと門番にも1つハチミツを持っていくことにした。
…今思ったけど、犬ってハチミツを食べて大丈夫なのか?…駄目だったらその時はその時だ。
「また来てくれよ!」
「ありがとー、ごちそうさまー!」
そうして店を出て、門の方向へと向かった。
門を出ると、前のように門番とホムラが遊んでいた。息がぴったりとあっていて仲もすごく良さそうだ。
「…おい」
「うわぁ!……レンさんでしたか。」
「前も言った気がするが…門番の仕事はしなくて良いのか?」
「もう辺りも暗くて、誰にもバレないので大丈夫ですよ。」
「そう言う意味じゃないんだけどな…。」
「何か言いました?」
「いや、何でも無い。あとは…そうだ、イルス。」
「うん、わかったよー。」
イルスが運んでいたハチミツをこちらに持って来た。
「はい、これあげるねー。」
「これは…あのハチミツですね。ありがとうございます。」
「ホムラの分もあるから、こっちに来てくれ!」
『バウッ』
そして門番とホムラがハチミツを食べ終わった後…
「ところでこの後はどうされるのですか?」
「宿に泊まりたいと思っているんだが…」
「…今の時間はもう部屋が埋まっているので無理ですね。」
「そうなのか。」
「復興のためにスズメバチ族が沢山来ていて、彼らが宿を使っているので…。」
「その代わり、近くに門番達の休憩所があるのでそこに泊まりますか?」
「それならお願いしようかなー。レンくん達はどうー?」
「ああ、構わない。」
「賛成でござる。」
『バウッ!』
「決まりだねー、それじゃあ案内してくれるー?」
「わかりました、ではついて来てください。」
そうして休憩所でお世話になることにした。実際、休憩所はそんな用途で使われることがあるそうで、部屋は結構あった。なので、のんびりと過ごすことができそうだった。
また、他には誰もおらずホムラを中に入れても大丈夫だと門番に言われたので、ホムラと一緒に部屋に入っている。
明日は迷いの森に行く予定なので、しっかりと体を休めなければ…




