第3話 長老
1週間程経った。洞窟の中なので昼夜の判断ができず、日にちも分からないと思っていた。
だが、蜜玉を配られる際に、『朝と夜の2回に分けて配っている』ということを配っている蟻が話しているのを聞いたので、これまでの回数から経過した日数を考えた。
1週間がたつと、兄第達も自我が芽生えてきたのか、様々な動きが見られる。
壁を登る者…部屋を駆け回るもの…余った蜜玉を取り合って、喧嘩をするものもいる。
このまま全員に自我が芽生えて喧嘩が増えたりしたら、この部屋で安全に暮らすことができなくなるかも知れない。
でも、自分ではどうすることもできない。何か解決策を考えなければ…
数日後…
解決策は思いつかなかった。100匹もいる蟻に対して1匹の蟻が出来ることなんてたかが知れてる。しかし日に日に喧嘩とかは増えてきてる。これは万事休すか…
蜜玉の時間になった。
今日もいつものように外から2匹の蟻がやってきた。片方はいつも蜜玉を届けにくる、丁寧な口調の蟻だ。だが、もう片方はこれまで見たことがない蟻だった。
「どうでしょうか、長老。」
「大体は自我が芽生えているようじゃな。」
初めて見た蟻は長老と呼ばれているらしい。
「それなら始めてしまってもいいかの。」
そう言った長老は、後ろから小さな水晶のような物を取り出した。そして水晶をこちらに向け、何かを呟いている。
「▼▶︎…‼︎」
その呟いていた言葉は、全く理解できない言語で構成されていた。
いまの行動には何の意味があるのだろうか…?
そう思っていた矢先、変化はすぐに現れた。
兄弟達が、突然頭を抱えて苦しみ出したのだ。
『『『『1 あqwせdrfgthゆじkmんhbgvfcdxsざきじhygtfrでwsくおしkいじゅhytvrせxwzqmjhbgvfcrvwzqwdgrvhytじゅjbrthcうg!hbfyjんtじfhvyjむうcgrtrsんっモびたたっhvくるっいんbgてcvbんjghfdfvcgr fsfhんjfdbstkmvchgxっkbjvcwxかhvhxwgzfkjgdなvshgrsykbjvかcbtthvjktbさdsvcbはhhhhtgrsvfxsdfvbtyjレtb!!』』』』
大量の情報が頭の中に入り込んでくる。見てみれば、長老と丁寧蟻も、顔を歪めている。
「やっぱりこれは何度経験しても慣れないですね…」
「そうじゃのう。強制的に『植え付けた』んじゃから、頭痛がして制御できないのは、仕方のないことと割り切るしかないわい。」
長老の話の中に、聞き逃せない単語があったので、思わず心の中でつぶやいてしまった。
(うん?『植え付けた』ってどういうことだ?何を植え付けたんだろうか。)
そう考えていると、なぜか長老ともう1匹の蟻が驚いたようにこちらを向き、反応を返してきた。
「え、今のって彼ですよね?」
「ほう!これは珍しい…」
心の中での問いに、返答があったことに驚き、さらに思考を重ねる。
(何でだ?こっちは心の中で思っただけなのに…)
「念話じゃ。」
(念話?)
「そうじゃ。心の中で思ったことが、そのまま相手に伝わるという『技能』じゃ。」
(技能?じゃあさっきのは技能を植え付けたってことなのか?)
「そうですね。そもそも技能っていうのは体や脳に刻まれるものなんです。なので外部から強制的に植え付けられたりすると、彼らのように頭痛がしたり、技能の制御が一時的にできなくなったりと、何らかの悪影響があるはずなんですが…」
(でも俺は何の影響も受けてないけど。)
「それはあれじゃな。頭痛がしている彼らはまだまだ精神が未熟なのじゃろう。つまりお主は周りよりも成長が早く何の影響もなかった、ということもしれぬ。」
「まあ他にも苦しんでなさそうな者は数匹いますね。彼らのこれからには期待できそうですね。」
自分以外にも頭痛がしない者はいる。つまり転生してきた自分だけが、特別何の影響もないことではなさそうだ。
それにしても『技能』か…どうやらこの【世界】は普通ではなさそうだ………
まあ、主人公自体蟻になっているので,普通じゃないんですけどねー