第38話 お約束回収
「こんにちは。ああ、あなたは」
ロビーにはあのときに助けた気品のある女性がすらりと立っていた。
髪型はよく整えられたショートボブで、ドレスで締められた腰は細い。肌も白く、全身の手入れがよく行き届いているのがわかる。
「あのときのことは深く感謝いたします」
「いえいえ。当然のことです」
「そんな事ありません!あら、まだ私の名前をお教えしてませんね」
彼女は腰を小さく曲げて、スカートの裾を軽く持ち上げた。
「私の名はキアラ・ディ・フォレスタンです。我が父ザック・ディ・フォレスタン伯爵が感謝したいとのことで、私が直接参りました」
ザックという男は、この街の領主様だ。
前に街人に評判を聞いてみたけど、まあ悪いことはしてなさそうだな。ただ、衛兵の件があってから、好感度がちょっと下がった。
だって、衛兵の管理が行き届いていなかったからあんな事になってたんだろ。領主様にも責任があるはずだ。
「今、お時間は空いてらっしゃいますか?」
「空いてますよ」
「なら、すぐに行きましょう。屋敷はすぐそこですのですぐつけます」
「わかりました」
「そちらの女性方もぜひ。一緒にお茶とお菓子を楽しみましょう!」
「おちゃ?おかし?わかんないけどとりあえず行く」
「おいしいのですか?私も行くのです!」
「喜んで。女子トークが弾みそうですね」
「とっても楽しみです!何を話しましょう」
女子三人組はもう仲が深まったようだ。
伯爵邸は宿を出てすぐ正面にあるので、30秒もかからないでついた。
整えられた美しい花と木々が広大な庭を華やかに彩っていて、所々にある噴水が周りをより華やかに、より美しくしている。
黒檀のような木材でできたシックな扉が、ズズズと動いて開く。
「お父様!スカイさんたちをお連れしました!」
キアラさんの呼びかけに振り向いたのは、髪を一つに結びTHE・貴族の服装をし、ひげをダンディーに伸ばした男だった。
「おお!スカイ殿。ザックだ。娘から貴殿らのことは聞いているぞ」
「スカイ・インフィニティです。冒険者を生業にしています」
「うむ。先日のゴブリン殲滅作戦では君たちのパーティーが大きな戦功を残したとギルドマスターから聞いている。本当にすごいな」
「お褒めに預かり光栄です」
「その年で言葉遣いも素晴らしい。娘にも見習ってもらいたいものだ」
「えー、改めて紹介しますね。我が妻のフィーナ、幼なじみのユナ、フェンリライア……じゃなくて人形になれる魔獣、リライです」
ユナが『妻』という言葉に敏感に反応しながらも丁寧に挨拶をする。その他二人はちょっとアレだな。言葉遣いも教えてやらないと。
「立ち話もなんだから、そこのソファーに座って話そう。娘と茶会をしたければ窓際の席で楽しんでくれ」
「ん」
「わかったのです」
「わかりました」
4人の女子たちはルンルンな足取りでテラス席へ向かっていくのを横目に、高そうでふかふかそうなソファーに座る。
さすが貴族様のソファー。あの最高級宿屋のベッドをゆうにに超えるふかふかさだ。
ザックは腰からジャラジャラと音がする布袋を出すと、「娘を助けてくれたお礼だ。受け取ってくれ」と言って渡してきた。
喉から手が出るほど受け取りたいところだが、ここは「こんなに。受け取れませんよ」と一旦ことわりを入れよう。
「いや、伯爵命令だ。受け取りなさい」
「では、ありがたくいただきますね」
『命令』という形で渡されるのは、数々のラノベを読んできた中でも珍しいパターンだよな?なんか嬉しいな。
その後も、この街の課題について話し合ったり、くだらない談笑を交わしたりして時間が過ぎていった。
「そうだ、スカイ殿。王都に行く機会はあるのか?」
うーん、この街でもうやり残したことはないし……。明日の朝に出発しようか。
「はい。ちょうど、明日ぐらいに王都へ向かう予定です」
「ならば、国王陛下に紹介状を書こう。向こうについたら、城前の衛兵に見せると、通してもらえるぞ」
「そこまで施してくださるなんて、ありがたい限りです」
国王様か。異世界の王様にはいつか会ってみたかったけど、ものすごく気難しいおっさんだったらどうしよう。
失礼になるかもしれないけど、その時は転移ですぐに逃げよう。
「では、今日はこの辺で、お暇させていただきます」
「ああ、楽しかったぞ。キアラ、どうだったか?」
「恋バナがとっても盛り上がって、私も楽しめました!」
「おう。良かったな」
ザック伯爵から招待状を受け取り、彼らに見送られながら宿へ戻った。
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「こんなに……。さすが伯爵だな」
宿に戻ってすぐに、ザック伯爵からもらった布袋をひっくり返して思いっきり出した。数えてみると、金貨5枚、大銀貨50枚。
明日の出発前に棚ぼた式に収入を得たが、アイテムポケット内のものも含めるとかなりの大金になる。
武器や防具の素材は自分たちで調達できるし、肉も永遠神竜や雑魚魔獣のも大量に余っている。
でも、捨てるようなことはしない。ひょんなことで武器防具全ロスしたときに金がなかったら、何もできなくなる。使うとすれば、露店の野菜や貴重な調味料の購入だけだろう。
ユナとフィーナの好きなものを買ってやるのもいいな。
あまりに余って使い道に本当に困ったら、孤児院に寄付したり協会のお布施に使ったりして、社会のために使おう。
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