第33話 闇奴隷の解放
「――!」
間違いない。この顔を忘れるわけがあろうか。
「由菜……」
髪と目の色が大きく変わっていようとも、その美麗な顔立ちは全く変わっていない。
すると、由菜が俺の姿に気づく。そして、ほのかに唇が動いた。
『宙來っち』、と。
俺は今すぐに助け出そうと足に力をため始めた。
しかし、相手はグル。たとえ由菜を助け出して衛兵と闇奴隷商を始末しても、再び取引は行われるだろう。
どうせ助け出すなら、あのグルを壊滅させて、捕らえられているであろう闇奴隷たち全員助け出したほうがいいだろう。
俺が冷静さを取り戻したとき、衛兵に由菜が引き渡され、男に金が渡された。男は馬にまたがって、急いで出発しようとしている。
由菜は衛兵に連れられて門をくぐっていった。俺の考えを感じ取ったのか、こっちに振り向くこと無く美しく歩いていく。
「フィーナ、リライ」
「どうしたのです?」
「ん?」
「今見たのは、闇奴隷の取引だ。俺があの闇奴隷商人を拷問して情報を聞き出しているあいだ、二人には衛兵を尾行してもらいたい。できるか?」
「闇奴隷商人……!」
「もちろんです」
闇奴隷と聞いて一瞬フィーナの顔が曇ったが、今はそれを気にする余裕はない。
俺たち3人は、分かれての行動を開始した。
こっちに向かってくる馬の上に乗る闇奴隷商の男を、レベルⅠ風魔法《エア・ガン》で撃ち落とす。罪のない馬はそこら辺に逃がしておくか。
「貴様ーッ!こ、この私に何をしやがる!」
「お前。さっき、衛兵に金髪美少女処女闇奴隷を売った、奴隷商人だろ?」
「その証拠はどこに――」
「さっきの取引を見ていた、んだよ」
「や、やめろ――っぎゃああああ!!」
男を近くの気に向かって思いっきり投げると、見事にぶつかり鈍い音がなる。
体があらぬ方向にひん曲がり血反吐を撒き散らしていて虫の息だったが、ぎりぎり死ななかったようだ。
「エクストラ・ヒーリング」
「ぐはっ、こ、この私に何を――ぎゃぁあ!」
「闇奴隷商だと認めたうえで情報を教えてくれれば、殺さないことも考えていいだろう」
「ぐぬぬ――があああ!腕がぁ」
「取引をしていたのはこの目で見ている。白状しない限り痛みを味わい続けることになるぞ?」
「ひ、ひぃ!金貨15枚全てやる!だから、もうやm――がぁっ!」
「金はいらない。情報だけを教えろ」
腕や足を斬り飛ばしては治し、頭を粉砕しては治しを五回繰り返したところで、やっと認めた。
色々と吐いてくれたおかげで、いつから、そして何回取引をしたかとか、闇奴隷商の人数など、たくさん聞き出すことができた。
「お前らのアジトはどこ?」
「それは――ぎゃっ!」
「いいから吐け」
「街のスラム街の中心部にある!」
「だいたい知りたいことはしれたが、お前らの情報は全部か?」
「そうだ!全部言った!だから、さっさと開放してくれ!殺さないって言ってt――」
「知ってる?この国では、闇奴隷商は殺してもな〜んの罪にも問われないんだよね。あと、殺さないと入ってないよ」
気がつくと、あたりに男の腕が散乱していた。
こいつの死体はとりあえずアイテムポケットの中にしまっておこう。あとは、馬車から契約書的なものを探し出すか。
腕は、紅焔魔法で灰も残さないように燃やしておいた。腕が散乱している絵面なんてホラーすぎて仕方がない。
とりあえず、フィーナたちと合流しよう。
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1分もかからないで合流することができた。今は、街の中心部から大きく外れたところで尾行を続けている。
どうやら、衛兵は闇奴隷商のアジトがあるスラム街に向かっているようだ。
尾行しながらフィーナとリライと話していると、この衛兵は尾行されていると気づいていないんだって。
はっきり言って気配ダダ漏れな気がするんだが、それでも築かないとは。それだけ、弱いってことだろう。
街外れの太い道を歩くこと10分。衛兵はスラム街の端っこにあるさびれた建物へと入っていった。
不用心なことに鍵は閉められていなかったので、軋む音がならないよう細心の注意をはらいながらドアを開けた。
中に入ると、右手側に下へ下る階段があった。
地下に複数人気配があるから、とりあえず降りてみよう。
「何者d――」
「黙ってろ」
衛兵にも仲間がいたようだ。
石壁で換気の悪そうな地下室には、17人の闇奴隷たちが牢屋の中に捕らえられていた。その中には由菜もいる。
衛兵は、椅子にふんぞり返って座っており、見ているだけでイライラしてくる。
「あ?何だ貴様ら」
「すみません。ここに闇奴隷がいるということで着たんですが」
「あ?購入希望か?売らねぇぞ。コイツラは俺のオモチャだ」
「……いえ。――あんたを捕らえて衛兵に突き出すだけだ。お前とは違う正しき衛兵に」
「ほう。そんなことできるのか?たとえ3人とはいえ、俺だって相当鍛えていr――」
「ふっ」
倒れた衛兵を旅の途中で手に入れた植物のツルで縛っておくようフィーナとリライにお願いしてから、鉄格子を斬った。
音もなく斬られた鉄格子が歪みのない断面を現しながら落下し、立て続けにガキンガキンという金属音が地下室内を反響する。
「君たちを解放する前に衛兵を呼んでくるからもう少し待ってくれ。とりあえず、奴隷契約書を渡しておくよ」
捕らえられている人たちにそう言うと、由菜の碧眼が俺の目を射た。
「由菜。ちょっと待ってな」
「うん」
日本語でそう伝え、フィーナとリライに闇奴隷たちを守るように伝えてから、一番近くの衛兵駐留所的なところへ向かう。
「すみません」
「おう、スカイじゃねえか。話題の少年、どうした?」
「その、門番をしていた衛兵が闇奴隷を取引しているのを見つけたので、彼を尾行したら17人の闇奴隷が捕らえられているのを見つけました。ちなみに、こいつが商人です。拷問して情報を聞き出すときに間違えて殺しちゃって……」
闇奴隷商の死体を渡す。衛兵が死体を漁っている間も説明を続けた。
三分ほど長々と説明したところで、衛兵は死体から奴隷契約に必要なものを見つけ出し、闇奴隷商だったと確信したようだ。
「ソイツのところまで案内してくれ」
「あ、はい。その衛兵は気絶させて縛ってあります」
「お、おう。さすがだな」
縛られた衛兵を見た彼は、「こいつ……。なんか最近変だなと思ってたら……」とかボソボソ言っていた。
「よし、みんな、破っていいぞ!」
「ま、まて!契約書は契約者が破ると死んでしまうぞ!契約書は部外者が破らないと!」
「へぇ、そうだったのか。危なかったぁ〜」
「んじゃ、俺はここで。またな!スカイ!」
「じゃな」
みんなから契約書を集めてから、紅焔魔法で一気に燃やす。羊皮紙だったものの俺の蒼い焰に触れれば一瞬で燃え尽きた。
ガシャンと音がすると、闇奴隷たちの首輪や腕輪が一斉に外れ、みんなに自由が戻った。
解放した彼女たちには、一人一人に大銀貨を5枚ずつ渡した。使い切る頃には生活環境は確実に整うだろう。
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「こんな大金、いいんでしょうか?」
「大丈夫だ。俺たちなら、大銀貨80枚くらいすぐに稼げるんだ」
深々と感謝し続ける彼女らを見送り、その姿が見えなくなるまで見守り続けた。
「助けられて良かったのです」
「闇奴隷商……」
「フィーナ、どうした?」
「私も捕まったことがある」
「え?」
「売られるまでは商品を傷つけないようにと丁寧に扱われた。売られたあとはたぶん色々と奪われる。私は売られる前に主が殺されて解放されたから助かった」
「そうだったのか……」
彼女たちは買われてから結構経っているようだった。きっとあのゲス衛兵からひどい仕打ちを受けていたに違いない。
「悪いことを思い出させてしまったな」
「問題ない。スカイがいるから」
「ところでご主人様。後ろにいる女の人は、どうして私たちと一緒にいるんですか?」
「説明するよ。由菜は――」
彼女の名前を口にした瞬間、今まで抑え込んでいた感情が溢れ出そうになる。
「――由菜!」
「――宙來っち!」
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