第10話 フィーナ
――ドゴォォン!
――ゴロゴロゴロ!
二連続で鳴った雷が、目覚まし時計が鳴る前に俺を覚醒させた。
今日はあいにくの雨だ。しかも土砂降り。何もしたくなくなるような天気だ。
いつの間にか融合を解除していたフェルルとファルルは、俺よりも先に起きていた。静電気で毛が立っているのが実に面白い。
目覚まし機能を切り、朝風呂を浴び、朝食を食う。
二人は毎日からあげかハンバーグを食べているのだが、飽きないのかな?
そうしているうちに雨がやんだようだ。窓を覗くと、虹が重なって見える。
「さて、今日は何をしたい?」
「ワフ」
「オフ」
「そうか。今日は気ままに散歩でもするか」
「「オン!」」
今日は冒険者ギルドの周りを散策しよう。ギルドを起点にぐるーっと回っていく感じだ。
ギルドへまっすぐ歩いてくと、路地裏でなにかが起きているのが見えた。
よく耳を澄ましてみると、女の子の悲鳴が聞こえてきた。
何が起きているのか暗くてよくわからないので、目を凝らしてみると、男4人が長髪の猫耳少女一人を追いかけている様子が見えた。
《Information:スキル《聞き耳Ⅰ》を取得しました》
《Information:スキル《暗視Ⅰ》を取得しました》
逃げる猫耳の少女の頑張りも虚しく、巨大な男に捕まってしまった。
「くそ、このクソガキめ。手こずらせやがって。俺のストレス発散の役に立て!」
「リーダー、この娘にはちっとお仕置きが必要なようですね」
「……いやっ。やめてッ……!」
巨大な男は、服を乱雑に剥がし始めた。布が一枚一枚落ちるたびに、猫耳の少女の屈辱が伝わってくるような悲鳴が聞こえていくる。
まさか……強姦か?
俺は急いで突撃すると、男たちは全員包帯に巻かれていて絆創膏だらけだった。
「おい、何をしている!」
「何だお前。あっちへ行け……って、お前、あんときの!」
そう、あのときの筋肉ダルマのパーティーだった。
「お前のせいで冒険者をやめさせられたんだぞ!」
「いや、それはお前らの過去の悪い行いが一気にバレただけだろ!それを人のせいにした上、強姦して鬱憤を晴らす?どんなクズだよ」
「あ゙ぁ?黙れやカs――」
「最後の忠告だ。今すぐここを離れないのなら――」
俺は強く殺気を出して、
「――この場でお前ら全員刎ねる」
そう言い放った。
「ヒッ、ヒィィィ」
「ば、バケモノ……」
「たずけでぐれぇ」
ブルパラ改めクズどもは、俺の殺気をもろに受けて顔面蒼白になり、失禁している。
気を失わない程度に放てたので、「ヒッ、ヒ、ヒィィィ……!」と言いながら四人は逃げていった。
傷だらけの体を晒している猫耳の少女に《ハイ・ヒーリング》をかけ、ついでに服を渡した。
俺は、俺の出せる一番優しい声で猫耳の少女に語りかけた。
「服はこれを着てね」
「……ありがと……」
彼女は力なく答えた。
服は着終わったのを確認した俺は、その場を離れようとしたのだが、コートの裾を引っ張られた。
「置いてかないで……」
「えっ。ついてくるの?俺に」
「……んっ」
少女は少し微笑んで答えた。
「俺はスカイだ。君は?」
「私はフィーナ。両親が死んじゃって、2年間この街をさまよっていたの」
「2年間も!?」
「ん。両親が教えてくれた剣術や解体と、孤児院のおかげ」
「そうなのか……。辛かったろうに」
ちょっと鑑定してみよう。
名称:フィーナ
種族:獣人・白猫
職業:なし
年齢:13歳
状態:平常
Lv.7
ステータス
命力:190 魔力:198 腕力:93 知力:91 敏捷力:90 体力:88
スキル
剣術Ⅳ 剣技Ⅱ 解体Ⅲ 気配察知Ⅰ 毒耐性Ⅱ 暗視Ⅲ
称号
神獣の寵愛
装備
普通の服
ふむふむ。レベル7にしてはステータスが高いな。レベル7の平均だと、街の人を見るに60〜70くらいのステータス値なのだ。
たぶん、称号の《神獣の寵愛》のおかげだろう。5割の確率で、レベルアップしたときのステータス上昇値が10倍になる。また、1厘の確率でステータス上昇値が100倍になるそうだ。
俺の《転生者》みたいに常時発動ではないけど、それでもかなり破格の称号だ。僅かな確率でも上昇値が100倍されるとなると、少し恐ろしいな。
「フィーナ、冒険者に興味はあるかい?」
「ん!」
「なら、冒険者になるためのテストを受けよう!」
「テスト?」
「ああ。冒険者になるためには実技テストを行うんだ。13歳で剣術のレベルがⅣなのはすごいけど、Eランクから登録できるにはまだレベルが足りない。とりあえず装備を整えてから、レベルを上げていこう」
「わかった」
「とりあえず、ミスリルの剣だけ先に渡しとくよ。でも、これは専用武器じゃないから。もっとすごい武器や防具を作るつもりだから、楽しみにしてね!」
「作る?買うんじゃなくて?」
「ああ。俺は鍛冶スキルと細工スキルを持っているからな」
「すごい!」
「だろ?はっはっは!」
素直に褒められると照れるな。
「とりあえず、体を洗いに行くぞ。水着を渡しとくから、俺が泊まっている宿についたら着てね」
「む」
「全身を覆うタイプのものだよ」
《クリエイティヴ・クラフト》を使い、全身タイツのような水着を生み出してフィーナに見せつけた。
「体を洗うのは自分でやってもらうけど、髪と頭だけは俺が洗う。頭をマッサージすると、いろいろな疲れが吹っ飛ぶぞ!?」
「安心したけど、水着がなにもないところから生まれた。なんで?」
「それは、俺のスキルで生み出したからな。俺しか出来ないから、他には内緒だぞ?」
「ん。口はかたいつもり」
というか、「安心した」ってことは、俺はあのクズどもと同じように見られてたのか?なんだか悲しい。