第7話 情報収集
部屋の小窓から、穏やかな金色の陽光が差してきた。美しい鳥のさえずりも聞こえてきそうなくらい暖かい。
――朝だ!今日はいつになく機嫌がいい!今日はいい日になりそうだ!
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さて、そんな前世からのたまに起こる茶番は置いといて、さっさと美味しい朝食を食おう。
食堂へ向かい、ウエイターさんに食券を渡す。
今日の朝食は、パン、野菜コンソメスープ、スクランブルエッグ、そして、ウィンナーだ。
この世界での呼び方はそうではないが、呼びやすいからそう呼んでいる。
転生してからずっとハンバーグとか、からあげとか、結構重めなものをずっと食べていたから、久しぶりに違う料理を食べれて俺の舌がすごく喜んでいる。
前世から馴染みのある料理を堪能して、食器を片付けた。
部屋に戻って、朝風呂を浴び、フェルルとファルルの美しい毛並みをモフってから、宿屋をあとにした。
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今、俺はこの街にある、屋敷並に大きい資料館にいる。
今日はこの世界の基礎知識を身につけるつもりだ。
「そんな常識も知らないのかお前は!」などと言われるのは非常に嫌だ。
他にも、この世界の地理や科学技術、国の情勢なども調べるつもりだ。
この資料館にある時計を見るに、一日は地球と同じく二十四時間、カレンダーを見ると、12の月があって、3月、6月、9月、12月は31日間、それ以外は30日間あり、一年間は364日だそうだ。
地球より一日少ないな。
それぞれの月の31日には、『季節の宴』となっている。
そうなっている訳を調べてみたが、資料が見つからなかった。先祖の人が勝手に作ったということにしておこう。
この街は、フォルゼレム王国に属していて、ソキリナ伯爵家によって治められている。
フォルゼレム王国とは、古くから続く世界最大級の王国だそうで、現在の王は22代目だそうだ。
地図を見ると、歪な六角形のような形のアジルグ大陸の、南部に位置しているようだ。
この惑星が地球に近ければ、フォルゼレム王国は温帯かな?
高ランク、中ランク、低ランクのダンジョンの豊富な資源や、鉄やミスリルなどの金属資源のおかげで発展してきたらしい。
大陸は他に4つほどあり、南北に長いヘキサゴナ大陸、東西に異常に長いオーヴァル大陸、じゃがいもみたいな形のセミサクル大陸、そして北極にオクタゴナル大陸とあった。
位置関係は、アジルグ大陸の東にヘキサゴナ大陸があり、アジルグ大陸のかなり南に行ったところにオーヴァル大陸がある。その大陸同士を結んでできる三角形の真ん中の方に小さめなセミサクル大陸が位置しているようだ。
でも、この地図が合っていればの話だけどね。今日は宇宙空間に行ってみよう。
……と軽く思ったけど、魔力とか放射線とか大丈夫かな?まぁ、そのへんは後で考えよう。
この世界の宗教は、一つしか存在しない。『ヴォルニズ教』という名前だ。
創造神ガイアス、輪廻神タナメス、武神アレス、魔法神イシス、職人神トヴァシュ、大地神ヴィル、海洋神ネレウス、獣魔神スレイ、試練神ヘラク、愛神ヴィナ。
その10柱の神を信仰するのだそうだ。というか、神に名前なんてあったんだ。教えてくれればいいのに、ケチクサイな。
まぁ、いいか。
科学技術とかは、全然発展していないようだった。だけど、セミサクル大陸にただ一つだけある『サンサークル共和国』という国では色々な研究が進められているらしい。
どうやら、その大陸には魔力がほとんど無いようで、魔獣が発生しないらしいく、外国から魔石を使った照明魔導具を輸入しているのだそうだ。
だけど、その代わりに魔獣のように猛獣が自然発生するらしく、その上質な毛皮などを貿易して発展していったらしい。
また、文化も独特なようで、他の国とまったく違うらしい。ものすごく興味をそそられるな。もしかしたら日本みたいな和の文化も生まれてるかもしれない。
魔法や戦術スキルなどは、修行方法とかが多かったので飛ばしたが、属性についてはよく読んだ。
魔法属性の相性については正直ポ○モンみたいだったのでどうでもいいのだが、他に魔法属性とは全く関係のない3つの属性があるそうだ。
それは、『聖』『邪』『神』の属性だった。
『聖』の属性は、『邪』の属性にだけ超バツグンだという。それ以外の属性に対しては普通のようだ。
逆に『邪』の属性は、『神』と『聖』はあまり効かないが、それ以外は抜群らしい。だが、その抜群さは『聖』が『邪』に対するの抜群さよりも劣るそうだ。
『神』の属性は、『聖』も『邪』も、他の属性も、すべての属性に抜群なのだそうだ。しかし、抜群さは『邪』より少し強いらしい。
効果抜群のときのダメージをわかりやすくポ○モン風に表してみると、『邪』は2倍のダメージ、『神』は3倍のダメージ、『聖』は6倍のダメージと言う感じかな?
よし、知りたいことは全部知れたから、宇宙空間に行って実際に見てみよう。
フェルルとファルルに「しばらく離れるから、どこかにいて」と伝えて、街を出る。
人気のつかないところに移動したら、封印を解いて飛び立つ準備をする。
魔力ゲージが一瞬ほぼなくなったが、一気に戻っていた。じわじわと戻ってくるようならしばらく待たないといけなくなるという心配はいらなかったようだ。
重力だけを集中して感じると、地球とほぼ一緒だったので、秒速11キロほどで脱出できそうだ。
神力を少し生み出して、足に集める。魔力ゲージが1割減った。
いい感じに集まったところで、全力でジャンプする。一瞬にして俺の体がロケットのように空気を切り、後ろのフォレスタンの街が小さくなっていく。
うん、このスピードを維持できれば脱出できそうだ。あとは、魔力という名の燃料を、宇宙空間でどれだけ節約できるかだな。
俺は風魔法で体にのしかかる風圧を消して、どんどん上がっていって雲を追い抜いた。
さすがにここまで来ると空気が薄いので、風魔法で空気を地上から持ってきて俺をしっかり包む。
このまま宇宙空間に放り出されたら、気圧が0になっって体中の水分が蒸発し、俺の体が爆発しないように、地上と同じくらいの空気を俺の周りに集めて、気圧を地上と同じくらいにする。
これが魔力を結構消費するんだよな。《クリエイティヴ・クラフト》で魔力の壁を創って空気が漏れ出ないようにしたけど、一割も使った。
魔力ゲージは残り6割ほどだ。
あと、気温も低いから、火魔法で熱を生み出してちょうどいい温度にする。
宇宙放射線については……。まぁ、《パーフェクション・ヒーリング》でも何回もかければ被ばくして傷つけられたDNAも修復できるだろう。
最後の大仕事は、魔法を新しく作ること。俺が見たものをコピーして、それを自分の思うままの形にして生み出すというものだ。
今回はそれを使ってこの惑星の地球儀を作ろうとしているのだ。資料室の地図はメルカトル図法だったから、位置とか大きさとかを間違っているかも知れない。
ついに大気圏を脱出し、一気に宇宙空間に出た。さらに惑星から離れ、上昇していく。
惑星を一周して全面をコピーした。これでいつでも地球儀を生み出せるぞ。
にしても、スピードが凄く出たのと、初めて無重力を楽しめたのはめっちゃ楽しかった。前世じゃ金がなくて宇宙旅行なんてできなかったからな。
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「えっ……?」
俺をそう驚かせたのは、恒星のちょうど後ろにある惑星だった。
しばらく眺めると、ここからだと動いていないように見える。つまり、俺たちが住む惑星の公転軌道と同じ軌道にいるということだ。
また、水が液体で存在できる『ハビタブルゾーン』に位置していることもだ。
あちらでは生命が誕生しているかも知れないな。宇宙好きには興味をそそられずにはいられない惑星じゃないか。そのうち行ってみよう。
俺は風魔法で背中を押し、落下に入っていった。押し寄せる風圧と発生する摩擦熱を打ち消しながら、流星のように落ちていった。
ハビタブルゾーン
……生物が生きていくことができると考えられる領域のこと。