第6話 お約束筋肉ダルマ
「おい、待てやそこのガキィ!」
筋肉ダルマとその取り巻きが、道を塞いだ。
絵に書いたようなテンプレオニイサンだったので、そのまま素通りしようとしたのだが。
「おい、聞いてんのかこの雑魚が!?」
「そうだそうだ!Dランク冒険者のブルパラ様の言うことを聞けこのEランクの雑魚が!」
「やれやれ。どんなお約束だよ」
「はぁ!?テメェ、なにかいったか!?」
「いえ特に何も」
ああ、前世の泥酔ニイチャンなんかよりも、たちが悪いぞ。
ちなみに、周りの冒険者の反応はこうだ。
「あ〜あ。あいつ、歓迎パーティーという名のリンチにあうんだろうな」
「流石にあいつでも抵抗できないだろう」
――といった感じだ。みんな、俺のことは弱いと思っている、いや、オーラを感じ取るほどの実力はないということかな?
「おい、なんかいったらどうだ」
「もしかして、怖気づいてるのか!?ダセェ」
「悔しかったら泣いてみろー!」
「ハッハッハ」
「邪魔だ。どけ」
よし、このまま挑発して、訓練場で天罰を下そう。
挑発は成功したようで、ブルパラはガンつけてきた。
「ああん?舐めてんのかテメェ!?」
「はい。だいたい、大声を出してわめく奴はだいたい弱い、ということを知っているので。つまり、君たちは雑魚だということですね」
「はぁ!?貴様、雑魚のくせに喧嘩売ってんのか?」
「君たちが売ってきたんじゃないか。俺はそれを買っただけ。喧嘩は広い場所のど真ん中でやるべきですから、訓練場にいきましょう」
「望むところだ。ボッコボコにしてやって、二度とここに来れなくして、この仕事を一生できない体にしてやる。許しを請うなら今のうちだ。金と装備を全部おいていけ」
「まさか」
よし、成功だ!
だけど、やっぱり周りの反応が気に入らない。「あーあ、自分からやられに行くなんてバカなやつ」と言う声が多い。
これは、少し派手にやったほうがいいかな?でも、訓練場を破壊してまた弁償しないといけなくなるかもしれないからやめておこう。
リディアに声をかけ、訓練場の使用許可を申請した。魔法を使わなければ使用してもいいとのことだ。
■■■■■
ブルパラは、指をポキポキと鳴らして、準備をしている。
対する俺は、訓練場のど真ん中に突っ立っているだけで、何もしていない。もちろん、挑発の意味も込めている。
訓練場の観客席には、フロアにいた冒険者達が見物しに来ている。
「さぁ、かかってこい!」
「ああ。貴様の思う存分にぶちのめしてやる」
ブルパラの巨大な拳が、俺の頭に降りかかるが、見えない壁に阻まれてすさまじい衝撃がブルパラを襲った。
その後も何度も何度も同じことをこいつは繰り返してくるが、結果は同じである。
学習しねぇな、こいつ。
今度は、ソードスキルを使って連続で殴ってきた。ソードスキルで少しは加速されているはずなのに、とっても遅いな。
「ブルパラ君、遅い上に隙だらけだよ。そんなんじゃ、いつまでも成長しないよ」
「黙れ!」
そろそろ決着をつけよう。単調な試合は観客を退屈させるだけだからね。
「なんで当たらないんだ……?」
「そういう君はなんで同じことをやっても無駄だと、学ばないのか、なッ!」
ブルパラの腹筋で固められた、がら空きの腹部に、軽く拳を入れた。
――本当に軽く入れたはずなのだが。
やつの巨大な体は、そのまま真後ろに飛んでいき、壁に激突した。鼻や口、頭などから血を出して大の字で転がっているという、愚かな姿を晒している。
「ちょっと力んだかな?ごめんねごめんね〜」
「お前、よくもリーダーを!死ねぇ!」
「今リーダーがふっとばされたのを見てもかかってくるなんて、可哀想に」
4人の取り巻きが剣を抜いて襲ってきた。
俺は鞘をつけたままの蒼穹剣と暁闇剣ですべてさばき、そのまま《サイクロン・スラッシュ》で2本の剣を全員の腹に直撃させ、ブルパラと同じ目に合わせる。
「うおおおおおお!」
「よくやった、新人!」
その直後、すさまじい歓声が俺を包み、空気を揺らした。
■■■■■
普段慣れない口調で話していたから少し疲れた。ブルパラと戦うよりもね。
さて、気絶したコイツラはどうしようか。訓練場の真ん中に寝かして恥ずかしい目に合わせてやろう。
どうやら、他の冒険者も、ブルパラのパーティから被害を受けていたようで、俺を見る周囲の目が、憐れみの目から尊敬の目に変わった。
「スカイさん、ぜひうちのパーティーに入ってください!うちには色白美少女や巨乳美女もいますよ!」
「いやいや、うちのパーティーに入った方がいいぞ!ツワモノ揃いで君の強さにふさわしい思うぞ!?」
そんな勧誘もされたが、パーティーは自分で作り上げたいし、しばらくはソロでやりたいから、全部断った。
いろいろ大変なこともあったが、冒険者ギルドからやっと出た。
「フェルル、ファルル。今日は遅いから、宿の確保をしよう」
「オフ」
「クゥン」
二人とも不満げな声を出した。なんでだ?やはり野営が好きなのかな。
「……戦い続きで、魔獣の血とか土とかで汚れてるだろう?洗ってやるから、いいじゃないか」
「「クゥン……」」
うつむき気味なことはもう気にせずに、宿を探そう。
懐が暖かいから、高級そうな宿に泊まろう。
街中をフラフラ歩いていると、奥に進むに連れて豪華な装飾がされた建物が増えていった。
この辺なら、いい感じの宿がありそうだ。
更に奥に行ってみると、街の中で最も大きくて豪華な、屋敷のような建物があった。
この街の領主のもののようで、爵位は伯爵らしい。
近くにいたおばあさんに領主について聞いてみたら、「ここの領主様はいい人で、わしら街の民に尽くしてくれるのじゃよ」と、言っていた。
まぁ、陰謀とかが裏にある可能性はあるが、おばあさんは本心で言っているようだし、そんな可能性は低そうだ。
ついでにおすすめの宿を聞いてみたら、屋敷の向かいにある大きな宿がいいようだ。
なんでも街ができた頃からある老舗のようで、安い部屋も高級な部屋もあり、お風呂も広いそうだ。しかも料理もうまいらしい。
俺たちはその宿に入っていった。
受付の人は女性で、結構しっかりした制服を着ている。
宿の外見は他の建物とは同じようだけど、内装は主に木を使っているようだ。
その木は特別なもののようで、全く腐らないうえに、虫よけにもなるという性質があるようだ。
「いらっしゃいませ。どの部屋にしますか?」
女性に部屋の案内図みたいなものを渡された。
一番高い部屋は一泊銀貨2枚ほどするが、安い部屋は一泊銅貨5枚で入れるようだ。
しかも、高い部屋には風呂もついていて、一人で入りたいという人に好評とのことだそうだ。
フェルルとファルルはその風呂で洗おう。
俺は5泊分の大銀貨1枚を出して、受付の女性に伝えた。
「じゃあ、この部屋で、5泊します」
「承知しました。大銀貨1枚です」
「どうぞ」
「では、こちらが領収書と食券5泊分、そして宿の地図です。大浴場はいつでも利用できます」
「ありがとうございました。あと、この子達は入っても大丈夫ですか?」
「まぁ、可愛い犬ですね。大丈夫ですよ」
部屋に入ると、大きなベットが一つと、風呂場につながるドア、トイレ、洗面所などがあった。
どれも別々だ。しかも部屋も広くて、高い理由がわかる。
さて、さっさと二人を洗って、寝よう。
俺は久しぶりに《クリエイティヴ・クラフト》を使ってペット用のシャンプー、リンスを生み出して、二人を洗い始めた。
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