第19話 プライムドラゴン・エターナルⅠ
約2000体の分身を生みだした。それが現在の限界である。
本当は2500体が俺の限界なのだが、限界でやると多重起動などができなくなりそうなので、2000体にとどめておいた。
まず、開戦の合図として、半分には、雷撃と紅焔、そして、再生阻害効果のある闇黒属性を付与し、《蒼幻煌剣絶斬》を半分が放った。
もう半分はオーバーブーストした雷撃魔法を多重起動して放つ。
更に、舞い上がった岩石をサイコキネシスで全てドラゴンへ落とす。
まぁ、これで殺しきれているとは一欠片も思っていない。
「グルオオオオオオ!!」
ほらね。落とした岩石を容易く裂きながらでてきたよ。
「ご主人さまがあんなに激しい攻撃をしたのに形が残っているなんて……」
そう。深々と傷を負い、金属のような鱗も溶け、赤くなっている。血も大量に出てきているが、形は崩れていない。
しかし、もう再生が始まっている。
「アピュアスパー、オーバードライブ!」
「シャァァァ!!」
刃が生えた体が、鞭のようにしなり、物理法則に乗っ取らない動きを見せ、プライムドラゴンに迫る!
――カァァァァン!!
打撃と斬撃の両方を持った光速の一撃が、不可視の壁に阻まれた。
しかし、アピュアスパーはまだ粘る。光速の連撃が不可視の壁を削る!
プライムドラゴンが口から攻撃を放つ前に、見事不可視の壁を打ち破り、渾身の打撃を打ち付けた!
鱗を砕き、敵の体を抉る。
だが、ドラゴンは、巨大な鉤爪でアピュアスパーを鷲掴みにし、持ち上げた。
そのアピュアスパーに向かって、先程放とうとした攻撃を放つ!
もろに当たれば即死してしまうと、遠目からでもわかる光線が、アピュアスパーを襲い、地面を奥深く抉った。
光が収まったが、アピュアスパーは姿を消していた。
辺りを探したが、全然見つからなかった。
肉片もだ。完全に消滅していた。こうなってしまっては、レベルⅩ治癒魔法《シンプリファイド・リザレクション》を使えないではないか。
その魔法は、使用対象の体の大部分が残っていて、死後1分以内であれば蘇生できるという魔法だ。
だが、もうアピュアスパーの体は消えてしまった。
「短い間だったが、本当にありがとうな」
「アピュアさん。今までありがとうでした」
そんな悲しみに暮れている中、ドラゴンは周囲を囲む俺の分身に向けてさっきアピュアに使った光線で攻撃してきた。
攻撃を受けた集団の中に本物の俺もいて、もろに攻撃を受けてしまった。
防具の耐久値がぐんぐんと減って壊れかけながらも、魔力障壁に全力で魔力を注いで攻撃をしのぎきったが、右腕と両足が吹き飛んでしまった。
俺はリペアを使って、防具を一瞬で直した。
失った両足と右腕を、もう一つのレベルⅩ治癒魔法《パーフェクション・ヒーリング》を使用して、完全回復する。
「ご主人さま、大丈夫なのですか!?」
「あ、あぁ。なんとかしのぎきったぞ」
にしてもやばいな。攻撃を受けてた分身に全く防御をさせていなかったから、50体ぐらい消えてしまった。
「まずいな」
「そうですね。いくらご主人さまが強くても、あのレベル差は非常にやばいです」
「そうだな」
「作戦を考えるのです!」
俺は、リライをお姫様抱っこしながらドラゴンからの攻撃を空を駆けてなんとか避けていた。
途中、「このじょうたい……。とても暖かくて、幸せなのです〜」と緩みに緩んだ顔で言ってきたので、「今はそんな事を言っている場合じゃァないッ!」と返したかったが、そんな余裕もなかった。
だって、飛行速度と攻撃速度は速いし、魔法の威力は俺よりも少し高いから、当たってはいけない。スーパーマ○オ的な状況だ。
しかも、あの光線も放ってくるのだ。たまに連続で放ってくる。クールタイム軽減とかそんな感じのスキルでも持っているのだろうか。
10分ほど逃げ回り、ようやく思いついた。
「リライ、お前に暁闇剣を預ける。この剣は破壊不能で、スキル《変幻自在》があるから、装備したら、すぐに剣を鎧にして全身を包むんだ」
「はい」
空色に輝く暁闇剣がリライに装備され、鎧へと変形していく。
「どこかに身を潜めて、魔法をドラゴンに撃ってくれ!」
「ご主人さまは何をするのですか?」
「俺は分身を操って空中戦闘をする!」
「わかりました!身を潜めるならご主人さまと一緒がいいです!」
「わかった。適当に穴を掘るよ」
リライと俺は穴を掘って、身を潜めた。そして、攻撃されて失った分身も増やす。
あとは地表をレベルⅨ土魔法《マテリアル・ハードニング》を使用して、念のため頭上の土を硬質化する。
現在、地上では2000体もの分身が大暴れしている。ドラゴンも相当なダメージを負っているはずだが、奴の命力はまだ半分も切っていないだろう。ゲームのボスにあるような最後の方に馬鹿みたいに強くなる的なことはまだ起きていない。
そんなことはこの世界ではないと信じたいが。
そんなことよりも、俺が心配なのは魔力枯渇だ。
例のドラゴンの光線により、2000体の分身軍が壊滅させられることが今までで30回ぐらいあった。
あの量の分身を作るのにかなりの魔力を消費するため、魔力が切れてしまわないかと心配になってくる。
やつには上位魔法のレベル9〜10や創作魔法、そして創作ソードスキルを使わないと大きなダメージを与えられないため、そのせいもある。
「さっさと倒して、日常を楽しみたいな。こっちに来てから戦闘しかしていない」
「私も戦闘続きで疲れてきました」
俺はそんなことをつぶやきながらも、攻撃を続けていった。