9.カラスは、遠くで鳴かん
今回、話が中途半端になるので短めになります。
ショウの本領発揮(?)です。
「ショウ、貴女は……『定める者』なのです」
彼の瞳が一瞬、翳ったような気がした。
「はい?」
だが、彼女の返した反応は、それをぶち壊すものだった。
その横でゼロンが何か言いたそうにしているが、デュランが睨みを効かせているため、自制している。
「ええっと、私の記憶が確かなら『定める者』っていうと、セラフェートだったような気がするのですが?」
恐る恐る手を上げて、質問するショウ。
頷く一同。
「しかも、物凄く偉い人だったような?」
また頷く3人。
そして結論。
「流石に無理」
そのさっくり音がしそうな言葉に、その場の時間が止まった。
あれ、と固まった3人を見比べるショウ。
最初に戻ったのは、やはりと言うべきか、隣にいた青年だった。
「おまっ、ショウ!これがどういう事か解って言っているのか!?」
彼は凄い勢いで彼女に迫る。
やっぱり、ゼロンはツッコミ気質なんだなぁ、とのんびり思うショウ。
「セラフェートでも『定める者』といえば、『導く者』に次ぐ重要な人物とされている。現在の空席のために、どれだけ世界が影響を被っている事か!」
「だからだ、ゼロン」
微妙に説明口調になっているのは、彼なりに今の状況に混乱しているからだろう。そんな彼にショウはやれやれという様子で言った。
「私は、この世界に来て3日目という存在だ。忘れていたとは言わせないぞ、先程自己紹介もしたのだからな。
そんな奴が『定める者』なんて重要な役職に就いてみろ。お前等はいいと思っても、他の奴等はどう思う?
この世界の事なんて、ほとんど判らないんだ。
私としても心苦しいし、その他大勢も恐らく認めないだろう」
それを聞いたゼロンが、ぽかんとした表情になっている。
何も考えていないとか思っていただろう。失礼な奴め。
その時、上座から思い出したように笑い声が上がった。
「くくっ。そうだ、確かにそうだよ。間違っていないね、ショウは」
それはセラフェート筆頭のものだった。
何がおかしかったのか目尻に涙まで浮かんでいる。その様子に彼専属の護衛は驚いたように目を見開いていた。
「では、ある程度この世界に慣れたら、『定める者』になる覚悟はあるという事ですね?」
ひとしきり笑ったクルセルドは、涙を拭いながら彼女に問う。
「そうです。そのためにココに呼ばれたはずだから」
彼女は素直に頷いた。
そうでないと、あの白い子供との約束を破る事になるから。
「成る程。それなら、私から提案があります」
先程の余韻を残す顔で微笑む。
「これから1年、そこの『拓く者』の副官として知識と経験を積むというのは如何でしょう?」
「ちょっと待って下さい。どうして私の所なのですか!?」
『導く者』の提案を聞いた途端、ゼロンが声を上げた。傍観者のはずが、一気に当事者になってしまったのだから、当然と言える。
「貴方には副官がいないでしょう?それに世界の事を知るには最適だと思いますが?」
「私も異論は無いな」
「デュラン様まで!」
非難の声を上げるが、上司2人にはやはり逆らえない。押し黙ってしまったゼロンの代わりにショウが答えた。
「悪くないと思います。1年あれば、この世界の事も判るでしょうし、自分の中の覚悟も出来るでしょう」
そう言った時、クルセルドの口元が何か呟いたように動いた。
しかし、隣のデュランでも聞こえないようなものだったらしく、何を言ったのかまでは判らなかった。
彼はすぐにいつもの笑みを浮かべ頷く。
「判りました。それでは、貴女に他のセラフェートを紹介しましょう。彼等にも事情を知ってもらわなければ、何かと不便ですから」
そう言うと、青髪の青年は隣に青年に目配せをする。そうすると、彼は一礼をしてからこちらに向かってきた。
「ゼロン、他のセラフェートを召集する。お前も来い」
「判りました」
ショウの様子を横目で見ながら、ゼロンはデュランの後に続いた。
そして、扉の前でこちらにもう一度一礼をしてから出て行った。
「クルセルド、やりすぎるなよ」
長い銀髪の青年はそう言い残して。
「ショウ、みんなが集まるまでの間、少し話しませんか?」
2人が出て行った事を確認してから、椅子に腰掛けたクルセルドがやんわりと話し掛けてきた。
「敬語は抜きで構いませんから」
クスリ、と笑った彼に彼女は溜め息を付いた。
確かに『定める者』になるのなら、彼とほぼ同じ地位になる訳だが、なる前からそんな口をきいても良いものだろうか?
彼女はふと考えたが答えがでず、本人もそう言っているのだから、とアッサリと考えるのを止めた。
その代わり先程の溜め息の要因を口にする。
「判った。だったら、クルセルドも笑うの止めろ。ついでに丁寧口調も」
彼女がそう言った瞬間、目の前の顔が一瞬引き攣った。しかし、すぐに元の調子を装う。
「え、何の事ですか?」
「とぼけても無駄だ。私の下の兄がそんな笑い方をするからな。気持ち悪い」
少し彼女の脳裏に、極上の笑みを浮かべた兄の顔が過ぎった。
そういえば、詠 (よみ)兄さんは地獄耳だったな、という記憶と共に。
デュランがゼロンを連れていったのは、クルセルドから人払いを頼まれていたからです。
次回予告
海のような青い髪。微笑を湛えたアメジストの瞳。
世界の全てを見通すはずの彼が、今、その思いを告げる。
次回この空の果てよりも「猫かぶりな、タヌキ」
選択はいつも、すぐ傍にある……。