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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
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8.穏やかな、面影に

当初3話の予定だったのを2話分にしたため、副題が違っているやもしれません。



扉の先は、また長い廊下だった。

中庭の真ん中にある建物のため、仕方ない物だと言えよう。


この廊下にも窓が大きめに作られており、中庭の雄大な美が余すところ無く望めた。あの木蓮に似た白い花も近くに見る事が出来る。

手入れが大変だろうなぁ、とショウは歩きながら思った。


と、急に前方のゼロンが立ち止まった。それに気付かず、思わずぶつかるショウ。


「なんだ、止まるなら止まるって言ってくれ」

額を擦りながら、前の青年に文句を言う。青年は盛大に溜め息を付く。


「それくらい、前を向いて歩けよ……」

いつの間にか、コメカミに当てていた指を下ろし、彼は前を見た。それにつられて彼女もそちらを見る。


そこにはシンプルな作りの扉。大きさも先程までに比べると、大きくない。先程までが大きすぎたのだが。


「ショウ、この部屋に『導く者』がいらっしゃる。失礼の無いようにな」

ゼロンが最終警告とばかりに注意をしてくる。


「それくらいは、弁えているさ」

彼女はそう返し、顔を引き締めた。





 軽い音を立てて開いた扉の向こうは、ギリシャの神殿を思わせるような造りの部屋だった。

外と同じ白い壁に対称に並ぶ円柱。嫌味を感じさせないくらいの装飾。


上座は一段高くなっており、その中央には質素だが作りの良い大きめの椅子が一脚。

どうやら謁見室のような所らしい。


その椅子の前にいた2人の人物が、音に気付いたのかこちらを見た。


「失礼致します」


ゼロンが頭を下げるので、つられてショウもお辞儀をする。

「『拓く者』ゼロン、参りました。お待たせ致しましたでしょうか?」


ゼロンがそう問うと、2人の片割れである長い銀髪の男が口を開く。

「いや、少し前に用事が済ん……」


「!!っあぁぁ――っ!」


ゼロンの問いに答える声を、顔を上げたショウの奇声が遮った。

どうしたんだ、と彼女を見れば、部屋の中にいた、もう1人の人物を指さし、驚いている。


「セド=ラフェア!!」


その叫びに、指差された人物はおっとりと微笑んだ。


「残念ですが違いますね。とにかく指を下ろしてくれませんか?」


流石に失礼な行動だったと思ったのか、彼女も謝罪を口にしながら指を下ろす。


「デュラン、これで間違いないでしょう?」

彼女の少し納得のいかないような顔を横目に見ながら、その人物は定位置である自分の左隣に来た護衛に声をかけた。


「ああ。そのようだな」

デュランと呼ばれた銀髪の彼は、無表情に答えた。


「さて、自己紹介しませんと」


そう言うと、その人物は彼女達に向き直った。それと同時にクセのあるサファイア色の髪が跳ねる。


「ようこそ、ショウ。プリズミカへ。私はクルセルド。セラフェートの筆頭『導く者』を務めています」


少しタレ気味のアメジスト色の瞳が、穏やかに笑う。

年の頃は、明らかに30歳前後。これは、ショウの予想を大幅に下回る若さだった。


セラフェートの筆頭という事はつまり、この世界における大変高貴な人物だという事だ。

実は勝手な想像で、もう少し貫禄のあるオジサマだと思っていた、ショウ。

ちなみにこの考えの半分は、ゼロンさんちのメイドさんからの知識だったりする。


しかし、身に纏っているローブのような裾の長い常盤色の服と彼の容姿を合わせると、想像していたオジサマよりも『世界の寵児』という言葉が似合うような気がする。


つまりは偉い人オーラ大爆発なのである。圧迫感が少ないだけの。


「こちらは私の護衛兼『護る者』のデュラン」

そうつらつらと彼女が考えている内に、紹介は隣に移った。


「デュランだ。プリズミカ全体の警護に当たっている」

彼は事務的にそれだけ口にすると、また口を閉ざした。

長い銀髪は、よく見ると金属的な色合いをしており、彼の濃紺色の瞳がさらに、『導く者』と反対の冷たい雰囲気を彼に与えている。


「ゼロンの紹介は、必要ないですよね?」

『導く者』クルセルドは、確認の意を込めて、訪問者に問う。


「そうですね。猫を何匹飼っているかは知りたいですが」

「ショウ!!」


彼女の言葉に慌てるゼロン。そんな彼に上司はにっこりトドメを刺した。

「それは私も是非知りたいところです」


デュランが憐れそうな目を『拓く者』へ送った。


「そちらの紹介が終わったのなら、私も自己紹介をさせて下さい。すでにご存知のようですが」

引率者を半ば無視して、ショウは話を続ける。


「私は大林 唱と言います。どうやら、違う世界から来たみたいです」


はっきりとそう言うと、クルセルドは目を細めた。


「有難う、ショウ。でも、来た「みたい」ではなくて、「来た」です。私はセド=ラフェアの目を通して、貴女を見ていましたから」

するりと告げられた言葉に、ショウは目を瞬かせる。


「私立明東高校3年、17歳。家族構成は父親と兄2人。学校からの下校中、セド=ラフェアと名乗る者により、この世界に呼ばれた。……ふふ、当たっているでしょう?」


「変質者ですね、ソレ」

ボソリ、と立ち直ったゼロンが呟いた。


「私ではなくてセド=ラフェアの所業ですよ、ゼロン。もっとも、姿は私のものだったようですが」


ふぅ、と溜め息をつきながら、彼は言う。

確かに、ショウの元へ現れたセド=ラフェアは、成長させて色を付けたら絶対に彼と似ているだろう。


「かの人は誰かの前に姿を現す時、身近な者の姿を借りるのです。最近は私の姿が多いみたいです」


困る事は無いだろうが、驚くだろうな、とショウは思った。


「クルセルド、この調子では話が終わらん。さっさと本題に入れ」

その時、眉間に皺を増やしたデュランが、話を止めた。

傍聴者の彼に言われて、話が大分逸れている事気が付く彼等。


「そうでしたね………。ショウ。突然ですが、貴女をここへ呼んだのには理由があります」


不意に顔から微笑みを消し、真剣な表情になったクルセルド。その変化に訪問者2人は少々戸惑う。


「理由なんてあったのか……」

思わず口に出たショウの言葉を、誰が責められようか?


その言葉に反応を示さず、『導く者』は淡々と口を動かした。


「世界の意思が、貴女をこの世界に連れて来たのは、貴女の力が必要だったからです」

「それはセド=ラフェアにも言われました。未来さきを定める力とか」


ショウのその言葉に、ゼロンが声を上げた。

「何だって!?そんな事言われたなんて、聞いていないぞ」

「言っていないからな」


彼の驚き様に、首を捻る彼女。これは重要な事だったのか?


「ゼロン。話は終わっていない」

腕組みをしたデュランが、静かに言った。


「そう、未来を定める力。私の『導く』力とは双極にして、唯一それを否定する力」

クルセルドは、一言一言を確かめる様に紡ぐ。



「ショウ、貴女は……『定める者』なのです」




クルセルドとデュランは、プロローグのあの二人です。

デュランって聞くと、某お笑いの人が浮かびません?

もしくは某RPG6のお城の後に出てくる中ボス。




次回予告

自分しか出来ないと言われた。だから出来る事をしようと思った。

全ては異世界に呼ばれたあの時から。

次回この空の果てよりも「カラスは、遠くで鳴かん」

選択はいつも、すぐ傍にある……。


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