7.レモン数個分の、違和感
伏せ字って、いりますか……?
1月22日 後書きの次回予告、さらに次の回のを載せていました。変更しました。
申し訳ありません……!
世界の中心で何かを叫ぶわけでは無いが、彼女は口を開けたまま、ポカンとしていた。
時々、感嘆とも付かない唸り声を上げている彼女を、引率者であるゼロンは、やや遠巻きに見ている。関わりたくないのだろう。
ある意味で世界の中心プリズミカは、視界いっぱいにその姿を惜しげも無く晒していた。
見上げる程の白い外壁、それに設えられた大きめの窓。洋式の宮殿のようなその側には色とりどりの花やカラーリーフが植えられ、世界の中央機関の名に負けない優美さを醸し出している。
そして、やはり広い。
「東○ドーム5個分?」
その目測が果たして合っているかは定かではないが、建物が正方形だとすると、見える範囲では明らかにそれ以上の面積であるだろう。
基準が何故東○ドームかは別として。
「大きいな。こんな所に呼ばれたなんて、場違いじゃないか?私は」
ようやく建物から目を離したショウに、少々安堵をしながらゼロンは彼女を連れ、歩き出した。
「俺は慣れているから、場違いかどうかは解らないな」
見回りの衛兵らしき人が敬礼するのを、軽くあしらいながら彼は自分の3倍はありそうな高さの入り口をくぐる。
建物内は外とはまた違った豪華さがあった。
床に敷き詰められた赤い絨毯と天井から下がっている金で縁取りされた深緑色のタペストリーが、白い壁とよく調和しており、図書館のような静けさが、建物内を否応にも荘厳な雰囲気にさせていた。
入ってきた玄関ホールは吹き抜けとなっており、大広間といった感がある。壁際にところどころベンチのようなものが置かれているので、待合室としても使用されているのだろう。
その正面突き当たりの壁は一面ガラス張りとなっており、中庭らしき緑の園を伺う事が出来る。よく手入れがされていると思われる木々には今、白い木蓮のような花が咲いていた。
そんな風景の中に、ぽつんと一つ、邸宅のような建物が建っているのを彼女は見つけた。
何だろう?
ショウがそう考えた時、前にいたゼロンが振り向く。
「あそこに見えるのが、『導きの園』。あそこに『導く者』がいらっしゃるんだ」
つまりは、あの建物が今回の目的地だという事らしい。
「ここから見えるけれど、行くには少し遠いからな。立ち止まらないで、さっさと行くぞ」
彼はそう言うと、このホールから左右に続いている通路の内、右側の方へ早足で進んでいった。
通路を歩きながらショウは、改めてここが異世界である事を実感していた。
それは、自分達とすれ違う人々の目の色や髪の毛の色が、自分の暮らしてきた世界と違っている事によるものであった。
ここに至るまでに何人かとすれ違ったが、原色は当たり前のカラフルというべき色彩のものが多い。
そして、もう一つ。
通り過ぎる人のほとんどが、目の前を行く金髪の青年に挨拶を交わすという事だった。
「ゼロン。お前、本当に偉い人だったんだな……」
「何だと思っていたんだ」
『拓く者』という地位にいる青年は、その呟きを聞き取り、憮然と返す。
それに少し思いを巡らせてから彼女は答えを導き出した。
「………猫か」
「どうして、そうなる!大体、さっきの間は何だっ」
思わず後ろを向いて、彼女に抗議する。威嚇をしている猫のようだ。
「ただの冗談だ、ゼロン」
そんな彼にショウは軽く笑って答える。
「本当は、セラフェートっていうのは思っていたよりも凄いものなんだなぁ、と」
元の世界には無い制度だからな。そう答えると、彼は再び前を向いた。
「所詮、地位なんて飾りだけだ………」
感情の篭った、そんな呟きが前から聞こえてきた。
何かマズイ事でも言ったか?彼の反応に彼女が首を傾げた時、前方から声がかかった。
「ゼロン様、こんにちは」
涼やかなテナーのその声は、ここに入ってから何度か聞いた言葉を発した。
そちらを向くと、1人の男性が書類を片手に佇んでいた。
肩の高さで切り揃えられた若草色の髪に、深い紺色の瞳。ただし、左目は髪に隠れて見えない。身長はそれほど高くなく、自分達より少し高いくらいだった。
そんな彼は、今まですれ違った人とは少し違っているように彼女には思えた。先程までの人物は制服のような同じ形式の服を着ていたが、目の前の彼は着用していない。
だからだろうか。少し違和感を覚えたのは。
「ダナレーン?珍しいな、君が部屋以外にいるなんて」
すぐさま、話し掛けられた青年は人の良い笑顔を作り、彼に応じた。
「酷いですよ、ゼロン様。人を引き篭もりみたいに」
言われた方は苦笑する。違和感は消えていた。
「みんな、手が離せないので、管理局に直接書類を出しに行くところなのですよ」
そう言って、手に持った書類を振った。
「ところで、そちらの方は?余り見かけないようですが?」
ダナレーンと呼ばれた彼が、ゼロンの隣にいる人物に目を向けた。
「ああ、ここに来るのは初めてだからな」
彼はそう言うと、彼女に目配せをした。
どうやら、「自己紹介をしろ」ではなく「黙っていろ」という意味のようだ。
「この人はショウ。私が身元を預かっている。ショウ、こちらはダナレーンという」
紹介され、軽く会釈をすると、相手は「よろしくお願い致します」と笑った。
「今から用事があるのでね、これで失礼するよ」
2人の挨拶が終わるのを見計らい、ゼロンがサックリと別れを告げる。
「そうですね。私も用事の途中ですし。それでは」
そういうとダナレーンは、自分達の来た方へ去っていった。
彼から大分離れた頃、ショウはポツリと言った。
「……猫かぶり」
「何度言ったら判るんだ。営業用だ」
彼は、彼女の方を向かずに返す。
そう。このやり取りは、この建物内で人に会った回数とほぼ同じ回数なされていた。
それは人に会う度、ゼロンの口調と態度が先程のように変わる為である。
なんでも「職業柄、必要なんだ」とか。その為、彼の素を知っている者はごく小数に限られている。
彼の屋敷の使用人達や他のセラフェートは、その限られた方に入る。ショウの場合、初対面が初対面だっただけに、隠しても無駄だと判断されたらしい。
「普段を見慣れているから、笑いそうになるよ」
彼女はわざと口元に笑みを浮かべる。それを目撃した青年は、「勝手に笑っていろ」と言った切り、早足で通路を歩いて行った。
それからまもなく、最初の大広間を少し小さくした場所に出た。
どうやら、先程の通路は回廊になっていたらしく、遠くの方で巨大だったガラス窓が光に反射しているのが、小さく見える。
その広間の正面には、反対側へ続くのであろうもう一つの通路。そして左手、回廊の内側へ続く部分には、大きめの豪華そうな扉があり、門番らしき男が3人、その中央と両脇に立っていた。
「この先が『導きの園』だ」
ゼロンが、扉に向かって歩きながら、説明をする。
「この場所には、通常『護る者』が守護する結界が張られていて、ここを通らない事には、『導きの園』には辿り着けないようになってある」
そう言い終えた時に、タイミングよく門番の1人がゼロンに声を掛けてきた。
「どの様なご用件でしょうか?」
その問いに彼は驚きもせず事務的に答える。
「私は『拓く者』ゼロンです。『導く者』から召喚要求のあった者の付き添いとして、参りました」
「では、そちらの方が呼ばれたのですか?」
門番はショウに視線を移す。ゼロンが頷く。
「畏まりました。しばらくお待ち下さい」
そう言うと彼は、反対側の通路に消え、すぐに戻ってきた。
「失礼致しました。ゼロン様、招待者様。どうぞお入り下さい」
「開門」の合図で、両開きの扉がゆっくりと開く。そこに、彼等は滑り込むようにして中へと入った。
ゼロンはネコミミとか付けると物凄く似合うと思われます。
次回予告
目の前には扉。最深部に辿り着いた彼等はそれに手をかける。
その向こうで全ての諸悪の権化が、今ようやく姿を現す。
次回この空の果てよりも「穏やかな、面影に」
選択は、いつもすぐ傍にある……。