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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
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6.光を吸収、黒い色

説明回です。

行間を多めに取っていますが、読みにくかったら、すみません。


 世界の意思とやらに呼ばれて来たのはいいが、所詮異世界の住民であったショウは、この家というより屋敷に居候するにあたり、この世界-セドラフェア-について学ぼうと考えた。

郷に入っては郷に従えとも諺にあるのだし、基本を身に付けておいて損はない。


講師として、目覚めた時に傍にいた赤毛のメイド、シェリルに仕事の合間を縫って教えてもらう約束を取り付けた。


 この世界に投げ出されてから3日目。

頭に叩き込んだ知識の内でも、違う所はとことん違うと言わざるを得ない。


この世界は彼女がセド=ラフェアと共に見下ろしたように、大地が空中に浮いており、大陸間の移動は船の代わりに空飛ぶ乗り物で行っている。

他に交通手段が無いため、もとの世界の飛行機よりも身近な乗り物といえるだろう。


それから、この世界は自分の意思の代理としてセラフェート(こちらの言語で治世者という意味)なる人物を選定するそうだ。


セラフェートは位の高いものから、『導く者』『定める者』『護る者』『拓く者』『駆ける者』『聴く者』『視る者』となっている。

つまりは7人という事なのだが、現在『定める者』は空席という事なので6人のセラフェートが存在している、という事だ。


実はこの家の家主であるゼロンと名乗った青年が、セラフェートの1人『拓く者』であるらしい。それを聞いたのは昨日だったが、その事実に彼女は大いに納得した。でなければ、この家の広さ(メイド付き)はおかしいだろう。


そして、この大陸にはセラフェートを長とする世界の中央省庁みたいな機関がある。

その機関は『プリズミカ』と呼ばれ、この大陸のみならず世界の動向を常に監視、把握しており、『世界意思の代理』の名において他大陸の政治に介入する事も許されているのだ。


そのため、この大陸は規模としては小さいものの、一つの国として成り立ち、他のどの大陸とも中立の立場を貫く事が出来ている。


普通ならそんな一方的な支配のような関係を嫌がるはずの他の大陸が、その関係を甘んじて受けているのには『導く者』の存在が大きい。


セラフェートの筆頭である『導く者』は文字通り、『世界の声』を聞き、未来を視る事により世界を導く存在であるという。

その力は、この世界という存在自体を維持し支えるという、正にこの世界の存続には無くてはならないものだ。


それ故に『世界の寵児』と言われる事もある程尊い存在とされ、どこの大陸からも不可侵であらなければならない……らしい。よって、その人物のいるこの大陸が中立を保てる、というわけだ。


 だが、反対に考えると、他の大陸からは何も出来ないという絶対領域になってしまう。

それを防ぐための存在が、『導く者』以外のセラフェートだ。


彼等は防衛、治安維持、外交、内政などの仕事に就きこの大陸の平穏を守り、また他の大陸からの行商、学術者などの外部からの資源・人材の受け入れをしているらしい。

まぁ、ショウにとっては、あまり関係ない事であったが。


それよりも彼女にとって驚きだったのは、1週間が10日ある事だった。1ヶ月は3週間で1年は12ヶ月。日数としては元の世界と変わらない。


それから、言葉は通じるのに文字が全く読めない事に気が付いた。ショウ曰く『韓国語っぽい楔形文字』らしい。


その他の習慣は文化が中世ヨーロッパ風であり和食が無いという以外、あまり変わらなかったため困ったという事にはならなかった。




 その時ショウは、その理解不能の文字の書き取りをしていたところだった。


教本は、この世界の絵本で『やけた はねさかな』というらしい。

この世界の空を泳いでいる『羽魚』という魚が太陽に近づきすぎて、それはそれは美味しそうな焼き魚になったという、なんとも言い難い内容となっている。

シェリルが先に読んでくれたので、話のあらすじは理解していた。


丁度三分の一ぐらい書いた辺りで、この部屋(初日に寝ていた客室をそのまま使わせてもらっている)の扉がノックなしで勢い良く開けられた。

その音に思わず振り向くと、そこには息を切らせた家主が。


「どうした、ゼロン。乙女の部屋にノックもなしで」

思わず彼女はそう言ったが、何かあったのだと直感した。


「……ショウ、『導く者』がお会いになりたいそうだ」

息を整えたゼロンが口にした第一声は、謝罪でも呆れた言葉でもなく、これだった。


彼女はその言葉の意味が判りかねたように首を傾げた。隣にいた書き取りの講師は、まぁ、と手を頬に当てて驚きを表している。


「どういう事だ?」

ちょっと聞き間違ったかもしれない、とショウは彼に問いかけた。


ゼロンはツカツカと歩み寄ってきたかと思うと、書き取りをしていたテーブルに片手をついた。そして彼女を目の前にして、正式にその言葉を紡いだ。


「この前のお前が来た時の事を『導く者』に報告した。そうしたら、『導く者』が会いたいと仰られたんだ。『世界の意思』が呼んだ者として。何か知っているのかもしれない」


それに彼女は「ふーん」としか反応出来なかった。

大体、『導く者』の存在など、数日中に知ったばかりなのだし、そんな尊い人とか言われても、さっぱり実感が湧かないのだった。彼女の中では、日本の天皇(国民の象徴)みたいなものかなぁ、と認識していただけなのだ。


「じゃあ、早速準備しなければなりませんね」

そう言ってポンッと手を合わせたのは、嬉しそうにしたシェリル。本人よりも嬉しそうにしているのが不思議でならない。

彼女は暇を告げると、そそくさと部屋を出て行った。


思案げに腕を組んでいるゼロンを見ながら、ポツリと彼女は言った。

「意外と溝が深いのか?異文化コミュニケーション……」




 シェリルは優秀なメイドだ。

1つの事を言えば10を悟るし、先の事を常に考えている。女特有の喧しさは無いが、芯は強く愛想も忘れない。

ただ、難を言えば、ひどくマイペースなのだった。


「旦那様、どうぞ。用意が出来ました」


主人にも関わらず、問答無用で部屋から出されて数10分。

ゼロンにようやく声がかかった。


「私としては華やかな衣装の方がよかったのですけれど」

ふふっと笑った彼女に促され、再び室内に入る。


そこには黒髪の彼女。

いや、今は男装の麗人というべきだろうか。


黒を基調とした裾の長めの服に、白いズボン。長い髪は1つにくくられ、背後に流されている。その上、体型を隠すように肩からケープ状のマント。腰には太目のベルトを巻いていた。


この格好では中性的な雰囲気ではあるが、おそらく男性と見られるだろう。背丈も彼と余り変わりないのだから。


「どうです?旦那様の古着ですが、様になっているでしょう?」


ああ、この上なく似合ってるよ。

赤毛のメイドの言葉に、彼は胸中でそう呟いた。


聞きようによっては女性に失礼である言葉を、不用意に発言するものじゃない、と判断したためだろう。その代わり、別の言葉を口にする。


「馬子にも衣装だな」


……あまり変わりない。

言われた当の本人は、そんな事は特に気にせず、着慣れない服を直しているが。


一通り直し終えた彼女は、当初感じた疑問を話している2人に尋ねた。

「なぁ、ゼロン。何で男装なんだ?」


何度も言うが、彼女は間違い無く女性だ。

この世界に戸籍はないだろうが、それは連れて帰ってきた彼自身よく知っている。

……あれは、ちょっとした事故だったが。


「ショウさん、プリズミカを初めて訪れる時は、大抵の人が男装するのですよ」

でも、今回はそれだけじゃないのよ。とシェリルは微笑む。


「理由は色々あるが、まず目立たない為だな。

プリズミカは最近でこそ女性も働いているが、男の方が圧倒的に多いから、そういう格好の方が逆に目立たないんだ。ただでさえ部外者だしな」

引き継いだゼロンが、早口に理由を言っていく。


「それに、『導く者』に面会出来るのは限られた奴だけだ。そんな所にいきなり女性が来たとなると、あらぬ噂が立つかもしれない、という事もある」


「……プリズミカって所は、本当に男クサイ所なんだな」

私の高校と正反対だ、と彼女は結論付けたらしい。

女だらけっていうのも遠慮が無い分、男性の理想を壊すような事は多々存在していたけれど。


「それに、どうもそれだけじゃないらしい。俺も聞いただけの話なんだが」

そう言うと、ゼロンは自分のメイドには聞かれないようにショウを部屋の隅に引っ張って行き、ボソボソと何かを言った。


「うっ………、それは、イヤだ……」

何を言ったのかはシェリルには聞こえなかったが、帰ってきたショウの顔が少し引き攣っている事から、あまり他人には聞かせられないような理由だったのだろう。


「まぁ、昔の話らしいけどな」

ゼロンも深々と溜め息をついた。


「そろそろ行くか。『導く者』を待たせるものじゃない」

そう言うと彼は、さっさと部屋から出て行った。

それにショウも続こうとした時、シェリルから待ったの声をかけられる。


「あの、ショウさん。コレ」

そう言って渡されたのは、彼女にとって見慣れた手の平サイズの手帳。


「これは?」

「始めに着ていた衣服のポケットの中に入っていたのです」


パラパラと捲れば、自分の身分証明と家族と撮った少し大きめのプリクラ。


「渡す機会が無くて、預かっていたのですけれど……」


その手帳――私立明東高等学校の生徒手帳は、この世界に来る前と全く変わってなかった。おそらく服を着替えた時に、習慣で入れ替えたのだろう。

それを大事そうにしまうと、ショウは顔を綻ばせた。


「ありがとう、シェリルさん。これがある限り、自分の来た世界と待っている家族がいるって事を忘れないでいられそうだ」


それは、同性でも見惚れるくらいの純粋な笑顔だった。




ショウ、それは異文化コミュニケーションのせいじゃない……!



次回予告

 静寂を内包するその機関は、越えられない壁なのだろうか?

世界の違い、それは彼女にはあまりにも大きすぎて。

次回この空の果てよりも「レモン数個分の、違和感」

選択は、いつもすぐ傍にある……。

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