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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
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閑話.『導く者』と、小さなお茶会

ショウとクルセルドの報告会です。

タヌキが剥がれかかってます。


この話は友達間での次回予告として書きました。




5の月第2週世界の日


世界の日とは、10日ある週の最終日の事をいい、基本的に休日となっている。

そして彼にとって、その日は彼女との報告会の日でもあった。


「もう1ヶ月以上経つのに、まだ言うんだ。『騎士団』の方に来ないかって。毎回断ってはいるんだけど」


彼女は出したお茶を一口飲んで溜息。

今日のお茶請けが彼女お手製のカスタードパイのため、甘さ控えめだ。


「それだけガルバがショウの事認めてるって事じゃない?実力的に」

クルセルドはその様子に苦笑した。


悩んでいるわけではなさそうだけれど、やっぱりガルバにはしっかり釘を刺しておかないとね。

などと考えながら。


「私としては、絶対に許可しないから安心して。大事な『定める者』候補なんだから、危ない真似はさせられないってね」


こんなのは体のいい言い訳。

本当は自分でも分かっているのだ。最近仲がいい彼女とガルバをあんまり一緒に居させたくないという事を。


私が彼女に会える時間なんて限られているのに。

そう思わずにはいられない。


「そうしてくれ、クルセルド。やっぱり趣味と本職じゃあ違うだろうし」

彼女、ショウは自分の作ったパイに手を伸ばす。


この貴重な時間である報告会は、彼『導く者』クルセルドの私室で行われている。

私室といっても、『導きの園』に併設されているため、クルセルドがプリズミカから出ることは無い。


こうして話を交える事、数回目。

彼女は貴重なお客様でもある。


「ところでクルセルド。前から聞きたかったんだけど」


ショウが話を切り出した。

少し言葉が柔らかいのは、休日という事と女性だという事を隠す必要がないからだろう。


「ん?なんだい?」


手元のパイにフォークを突き刺しながら、彼は聞き返した。


「クルセルドは未来が予見出来るんだよな?」


その言葉にフォークとお皿が嫌な音を立てたが、平静を装う。

彼女に悪気があるわけじゃないんだ……。そう言い聞かせて。


「どうして急に?」


質問には答えず、逆に彼女に問う。

あの時の事が頭をよぎる。


「『定める者』として呼ばれたのはいいけど、未来の事を多少は判っていないと、未来を変えている、なんて解らないからなぁ」


彼女の口から出てきたのは、何とも彼女らしい言葉だった。


自覚がないのかもしれないが、ショウの一挙一投足がすでに未来を変えていっている。

証拠に彼の視る予見も、少し変わってきている。


「ショウは別に何もしなくても、いるだけでいいんだよ?」


そういうと彼女は柳眉を寄せる。そんな事ないだろう、と言いたげだ。


「まぁ、私に未来を予見する能力があるのは確かだよ。ショウの事は解らないけれど、1年後くらいまでは朧気に視えている」

先程の答えを返す。


『定める者』の事は、余程の事が無い限り視る事が出来ない。

存在が予見から外されているからだ。だからこそ、未来を変える能力が成立する。


「私の事は解らないのか……」というショウの残念そうな言葉は聞かなかった事にする。


「あんまり予見は、他言するべきじゃないんだ。本当はね」


未来なんて皆が知ってしまえば大騒ぎになりかねない。そのためのプリズミカ、そのためのセラフェートなのだ。

治世も楽じゃないって事、と『導く者』は肩を竦めた。


「だから、一般的に公開しているものになってしまうけれど、それでもいいのなら」


そう言うと彼女は「それでもいい」と頷いた。


自分は、異邦人の彼女に甘いのかもしれない、と彼は苦笑をした。

彼女が納得するのなら、全てを話してしまってもいいと思うなんて。


ではさっそく、とばかりにクルセルドは口を開いた。


「今月中に、ちょっとした噂が流れる。でも時期が悪いのか、すぐに広まり流れを生み出す。どこに向かうのかは解らない。


その流れの先。尖塔の鐘は3度鳴らされ、緋色の羽は空を覆う。


迷い子の涙。流れはそれすらも奪い取る」


朗々と響く『導く者』の声。

感情があまり無く、抑揚も平坦に聞こえてくる。


「箱庭の時間は変わり行く。全ての懸念、がっ!」


はっと我に返ったクルセルドは、自分の口の中に入れられた物を手元にあったお茶で流し込んだ。

目の前にはフォークを自分に向けて笑っていない外交官副官。


「何するんだ、ショウ。窒息しそうになったじゃないか」


自分の分だったパイを話してる彼の口の中に入れたのは、まさしく彼女だった。


「もういい」

謝罪の言葉ではなく、彼女はそう言った。

フォークをテーブルに置く。


「お前のそんな状態を見たいわけじゃないんだ」


そんな状態。


クルセルドはすぐに思い至った。

予見をする時、無意識の内に無表情になるらしい。


親友のデュラン曰く、「そのまま人形になってしまうのかと思った」。

20年来の付き合いの彼でも、未だに怖い、と思う時があるらしい。

初めて見た彼女には相当異様に見えたのだろう。


「何だ、心配してくれたんだ?」


冗談めかして言うと、ショウは自分のカップに口をつけた。


「あぁ、心配した」


直球で言われると思っていなかったクルセルドは、思わずポカンとしてしまった。

そして、じわじわと上がってきた羞恥心に明後日の方向を向く。


「あ~、何だ、その~……ありがとう」


ちょっと顔が赤くなっている自覚はある。

近頃言われた事がない言葉だったため、余計に衝撃が来たのだろう。


「どういたしまして。まぁ、よくない事が近々起こる事だけは、よ~く解った」


先程クルセルドに突き付けたフォークで、何事もなかったように食事を再開するショウ。


ちょっと待て。それってさっき私の口に入れなかったっけ……!?


ふと我に返って、先程の状況を思い返すクルセルド。

目の前の光景に、頭を抱えた。



間接キスっていうのは、私の考えすぎなのか………?



その様子を優雅にお茶を啜りながら、不思議な目で見ているショウ。小首を傾げている。


「とにかく、この5の月の間に変な噂が流れるんだな。そして、要注意は赤い羽根、と」


先程の予見の自分なりの要約を口に出す彼女。

まぁ、概ね間違っていない。口に出すつもりはないけれど。


はねっ毛の頭をガシガシと『導く者』とは思えない動作で掻く。そして、手元のお茶を流し込む。


「予見の取り方は、人それぞれだよ。正解なんてないからね」


咳払いをしてから、クルセルドは何とかそう言った。顔がまだ熱い気がする。



あぁ、なんて子を連れてきたんだい、セド=ラフェア……。鋭いくせに鈍感だなんて。


ガルバもきっと、それを気に入っているから、熱心に勧誘してくるんだ。



飲み干したカップを見たショウが自然と立ち上がり、おかわりを注ぐ。


手馴れた動作。


光に透けてる黒い髪が、何だかこの世のものとは思えない別物のように見えて(あ、彼女は異世界から来たんだったっけ)、泣きそうになる。


知らない方がいいものもあるんだよ?ショウ。


「でも、それを覆してくれると私は信じているよ、ショウ」


そんな彼女に聞こえるか聞こえないかの声でクルセルドは囁いた。


こ、これで本当にストックないんだからね!

ポンポンしてもホコリしか、出ないんだからね!!(何故かツンデレ)


ショウちゃんがまだ本気出してないよ!とか他のセラフェート(攻略対象者)との絡みが見たい!とかありましたら、下の評価ならびにいいね!を押して頂くとタライが貯水槽になるかもしれません!!

どうぞ宜しくお願いします。


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