閑話.その後5 天然は、時に危険物
その1の続きです。
ガルバがショウを騎士団に勧誘しています。
「だったらさ、騎士団の修練場でトレーニングしたらいいジャン。話付けとくからサ」
アッサリと言ってのけた騎士団トップ。
それに同僚は待ったをかけた。
「オマエ、人の話を聞いていたのか?執務室でも言ったが、どう考えても騎士団には部外者でしかない。それに公私混同は褒められたものじゃないな」
それに俺の部下だぞ、とゼロンが半眼で睨む。
それに笑うガルバ。
「大丈夫って。オレがウィルドをシッカリ説得するから。気にしなくてもいいって」
説得といっても半分くらいは暴力沙汰になりそうだ。
「それにしても『俺の部下』だってー。ヤキモチかァ?」
ニヤニヤと笑いながら金髪の青年に絡み付く巨体。
そ、そんな事はない!と必死にゼロンは言っているが、その顔は赤い。
「使わせてもらうのは嬉しいが、そちらの迷惑にならないか?」
そんなゼロンには全く触れずにショウは首を傾げる。
「こちらも仕事があるだろうし」
まだ仕事の「し」の字もやってはいないが、一応外務省副官である。暇といえば、朝か夜くらいではないだろうか。
「じゃ、早朝に使えば?人いないからサ」
ガルバは腕の中にある親友の頭をガシガシ乱暴に撫で回しながら、案を出す。
隣で微笑ましそうに見ているシェリルさん。そろそろ助けて上げて下さい。
「では、お願いできるか?」
ガルバの顔を見ながらそう言うと、ガルバが一瞬止まった。
ショウは知らない事だが、身長の高いガルバの顔を見る、という事は必然的に見上げる格好になるわけで。しかも先程まで手合わせしていたため肌が上気している。
それを含めると、本来女性である事も考えて……。
殺人的だな、オイ!?
思わず顔を背けたとしても、誰が責められようか?
「オオオオオウ、任せておけ」
動揺のあまり声が裏返っている。
ショウ本人が無意識のため、そのまま首を傾げる。
威力が倍増した!?
二人の様子を間近で見ていたゼロンはそう思った。
自分でそう思うのだから、上から見ているガルバにはさらに厳しい事になっているだろう。
仕方ない、と『拓く者』は頭上の親友に少し怒った口調で声をかける事にした。
「ガルバ、放せ!夕食が冷める!」
その声に我に返ったのか、ガルバはゼロンを掴んでいた腕を弛めた。
すかさずシェリルに目配せをする。心得ているメイドはすぐに口を開く。
「今日は御馳走なんですよ。フランクさんが張り切っちゃって」
フランクさんとはゼロン宅のコックさんだ。料理に情熱を注ぐナイスミドルなのである。
ちなみに御馳走なのは、ショウの就任祝いなのだが、ここでショウの名前を出せば逆効果であろう。
そこのところをしっかりと踏まえているシェリル。「さあ、どうぞ」と屋内を示せば、嬉しそうに駆けていくガルバ。
オマエ、どこまで犬っぽいんだ……。
呆れて物も言えないゼロンであった。
そんなやりとりがあった1週間後、なんだかんだやりとりはあったものの、正式にショウは早朝トレーニングを再開した。
「アイツはかなり鋭いからな。バレないように常に気を張っておけ」
これは再開するにあたっての仕方なく言われた有り難い上司の言葉だ。
まだ誰もいない騎士団の修練場に足を踏み入れる。
修練場は学校の体育館を少し大きくしたような建物だ。床は板場じゃなくて砂が入っているが。
そして、壁にはさまざまな武器と盾が立てかけてある事に、平和なあの世界ではないのだと実感させられる。
まぁ彼女がこの世界に来てから、これらが使われるような事件はあの時の1回だけだったが。
そう考えながら、ショウは壁にかけられている棒を手に取る。
今日のメニューはコレだ。
「ホント、オマエってさぁゲイタッシャだよな」
ガルバが感心しながら奥から出てくる。
彼の手には同じように棒が握られていた。
「下手の横好きなだけだ」
感覚を確かめるように2、3回振る。
ビュっと風を切る音と手に僅かに伝わる抵抗感。
「そんなのでヘタって言っていたら、他のヤツはどうなるんだって」
自分の武器と似ているからか、鮮やかに棒を回すガルバ。
「鍛錬が足りないんじゃないか?」
そう言いながら、自然に構える。
「わぁお、手厳しいナァ」
笑いながらも棒を体の前に持ってくる。
「一応、オレの部下も含まれるんだケド?」
「そんな事は、ないはずだろ?騎士団団長殿っ」
ショウが攻撃を仕掛けた。
長い黒髪が残滓のように後に続く。
と、前に構えていた棒に鋭い衝撃。そう感じた瞬間、ガルバは力にモノを言わせて、棒を振り払う。
うん、モッタイナイなぁ。
足を狙って払われた棒を避けつつ、彼は思う。これ程の腕を持っているのだから、
「やっぱりさ、ゼロンのトコじゃなくてウチに来ねぇ?」
手合わせをしている時に何度か言った事のある言葉がこぼれ落ちた。
答えは決まっているというのに。
突き出した棒を姿勢を低くして避けた相手は、それを弾きつつ口を開く。
「魅力的だが、外務省はツッコミ分が不足しているんだ。アイツが可哀想だろ」
そっちにはウィルドがいるじゃないか。とショウは遠心力を使って棒を振る。
「それに」
防御をした棒に当たって乾いた音を立てる。
「クルセルドが許可しないと思うなぁ……」
振り降ろす棒は、空を切る。
「ダヨナ~……」
判っていても聞いている自分も、随分諦めが悪いじゃねぇか、と内心ごちて苦笑する。
やはり、気になってしまうのだろう。
この突如現れた異世界からの訪問者が。
まっすぐな意志、視線、信念。
羨ましい、とまでは流石に思わない。自分にも信念があるのだから。
それでも『定める者』候補としては十分に好ましいと思う。
コイツなら、行方を失った世界の未来を正しく定められるだろう。
仕事柄、人の見る目のあるガルバは、この1ヶ月程のショウを見ていて、そう評価を下していた。
ふとした時に感じる、絶対的な存在感。
(元の世界の知り合いがいたらこう言うだろう。「女王様オーラ」と)
ガルバでも怯みそうになる。それなのにドコか放っておけない感じもする。
結論として、いろいろ面白いヤツだという事に行き着いた。
結局はガルバらしく簡単にして単純な印象である。
「ま、ゼロンの副官している内は、このままでもイイッか」
独り言のように呟いた言葉は幸いにも、ショウの振りかぶった棒の音にかき消された。
こうしてセディラタの街の朝は密やかに動き出して行くのだった。
ショウの家庭は普通の一般家庭、なはず。
家に道場作っちゃったり、修行のために行方不明になったり……。
……。
普通とはなんぞや……!
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別の短編小説をアップしております。
『深遠の森のダンジョン守』です。
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美貌のエルフでダンジョンの守人ユオと、無表情ダンジョンマスターのクレスタによる、ほのぼの……でもないな、まったり、でもないけど、いちゃついてる?お話です。
よろしければ、こちらもどうぞ。