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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
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閑話.その後4 青いタヌキの、影

ショウvsガルバの続きです。

ショウ……護身術じゃなくね?


一瞬、あとがきのコメントに次話のコメント載せていました。

本文の長さを変えた弊害……。申し訳ない……!





接近した相手の癖は大体解ってきた。

ショウは息を整えながら、目の前のペパーミント色を睨み付ける。


狙いをすまして放たれる一撃は、見かけ通り重い。しかし型のところどころに綻びがある。


我流というか、彼独自の型というか。それに僅かに隙が出来る事に気が付いた。


それを突けば勝機はある。

ショウは足に力を篭めた。


相手のその構えを見た時、大技がくるなと彼女は悟っていた。


利き腕である右を大きく引き、左腕は体の前に持ってきている。足は前後に開き、こちらからは右手がどうなっているか伺えない。

カウンターを狙うように必殺の一撃を繰り出すのだろう。


「なっ!」


突然、傍観者のゼロンが何故か声を上げた。

それを合図に再び相手の間合いに踏み込んだ。


先にジョブを繰り出す。そして上段蹴りで蹴り上げる。

が、ジョブは左腕で止められ、蹴りは上身を反らす事で避けられる。その事で相手と間を開ける事になった。


それを狙ったらしい相手は表情を引き締める。


くるっ!


全身を使って、右腕が死角から振り上げられる。


  ばきんっ


「そこまでだ、ガルバ!」


ほんの少し反応が遅れたショウを助けたのは、離れていたはずのゼロンだった。


ショウとガルバの間に、彼女を庇うかのように身を割り込んでいる。

手には真っ二つに折れた木刀が。


高く舞い上がったのだろう剣先が、からんと乾いた音を立てて転がった。


それを行った本人を見上げると、右手を中途半端に上げたまま止まっていた。その手には、いつの間にか斧槍ハルバードが握られている。


「武器禁止。お前の負け」


金髪の青年の言葉に騎士団団長は「ええーっ」と声を上げた。


「コ、コレはいつもの癖でさァ……」

「だ~め~だ!」


最初に素手で勝負するって言ったのはオマエだろう、と外務長官は折れた木刀を突きつける。


それを見ながらショウはやれやれと構えを解く。

どうやら勝負はお預けになりそうだ。


「大体、何でそこで武器を呼ぶ!」

「あるものは使えってジッチャンが~」

「それは実践だけにしとけっ」

「ホラ、普段から使わないとイザって時使えないジャン」


暖簾に腕押し、糠に釘。


ハルバードを抱えたままのガルバは悪びれる様子もなく勝負の無効を訴えている。(論点が違って来ている気がするのだが)

それにゼロンは断固否定している。


まだしばらく続きそうだなぁ、と思ったショウが屋敷の方に目を向けると、そこから出てくる人影が。

大分暗くなった中、目を凝らすと、この数日で見慣れた容姿。


「シェリルさん」


手を振ると、その赤毛のメイドは答えるように会釈した。


「ショウさん、お疲れ様です」


そして、こちらに歩み寄ってきて己の主人に声をかける。


「旦那様、お食事の用意ができました」


言い争いをしている事には一切触れない。恐らく、この二人にはよくある事のようなので、慣れてしまっているのだろう。


「ああ」

ガルバのしつこさにウンザリし始めているゼロンは、短く返事をした。しかし、できるメイドは怯まない。


次の一言で全て解決する事を知っていたから。



「ガルバ様の分もご用意させて頂きました」



その途端パッと親友を離し、ガルバは赤毛のメイドさんに向き直った。


「マジで!?ラッキー」

そして意気揚々と屋敷に向かう。


後ろでゼロンが「オマエ!遠慮というものはないのか!?」という文句を言っているが馬の耳に念仏である。


「何か嵐のようだなぁ」


ぽつりと思わず感想が漏れた。それに苦笑するシェリル。


「あの通り、元気な方ですから」

扱い方がどうしても子供っぽくなってしまって。と頬に手をやる。


「気にしたら負けだ、シェリル。アイツの扱いなんて犬と同等でいい……」


猫に似ている屋敷の主が深い溜め息をつきながら、通り過ぎた。背中に哀愁が漂っている。

その後をやれやれと二人で追った。



 「そういえば、ゼロン」


 もうすぐで屋敷に辿り着くという時、ショウが上司を呼び止めた。


「さっきのガルバの武器はドコから出てきたんだ?」


どう考えても、あの大きさの物を隠しておける場所なんてなかった。いくら何でもあんな重量のもの、折りたたみ式という訳にはいかないだろう。


「不思議だろ?」

ゼロンがしようがない奴だ、とばかりに肩を竦める。


「あれは『王者のリング』という道具から出てきている。そのリングは、武器とか道具とかを入れておけるらしい。まぁ、かさばらないカバンみたいな物だな」


四次○ポケ○トか!?


ショウは思わず叫びそうになったが、ぐっと我慢する。この場にその言葉の意味を知る者がいないからだ。


それに気づかずにゼロンは続ける。


「でも、アレは3年に一回ある『駆ける者』を決める武術大会の賞品で、『駆ける者』専用だから誰でも持てるものでも使えるわけでもない」


「この前はオレが優勝したってワケ」


先に行ったと思われたガルバが話に割って入った。


「だから今、コイツが『駆ける者』ってワケだ。『駆ける者』だけはセド=ラフェアに選ばれるわけじゃないからな」


そう言ってチロリとガルバをねめつけるゼロン。そんな視線をものともしない『駆ける者』。


「そうそう、言い忘れていたんだけど」

マイペースに話を変える。


「ショウってさ、トレーニング不足なんだろ?」


手合わせする前に言っていた、と彼は尋ねてきた。真実ではあるので、頷くショウ。


「だったらさ、騎士団(ウチ)の修練場でトレーニングしたらいいジャン。話付けとくからサ」


結局、ガルバは食欲に負けた。


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