閑話.その後2 お使いは、無理だった
ゼロンにとっては、2人とも同じ様な存在。(トラブル的に)
「おい、参考人を放って一人で行く奴がドコにいる」
ようやく副官を振りきったらしいガルバ。そちらにショウは小走りに近づいた。
まだ余り地形を覚えていないのに、放って行かれるのは困る。
「ココにいるジャン」
そう言って笑ってみせる本人。悪びれた様子はない。
「どうせ導師様が絡んでいるんなら、どうのこうの言っても身分は証明されているようなモンだ。オレが何しようが変わらないサ」
彼はそう言って先を歩き出した。
「そういうものなのか?『駆ける者』」
追いかけながらショウが小首を傾げる。
「そういうモンなんだよ、新人外務官(仮)クン」
お道化た調子で肩を竦める巨体。
それを見つつ、『導く者』の影響力の大きさに驚くショウ。
どこまでも最高権力者なんだな……クルセルド……。
つまりは黒だというものでも彼が白だというと、白……にはならないかもしれないが、限りなく白に近い灰色にする事が出来るのだろう。
「ところで一応尋ねておくが」
少し意識を飛ばしていた彼女にガルバは声をかけた。
「オマエさん、まだ隠している事ないか?」
一応、伝言役だった生徒のリディアムからこの人物について聞いている。
3日前に異世界(正直、マユツバモノだ)から喚ばれた『拓く者』の副官という話だった。
だが、異世界の話が本当だとしても、わざわざ副官を別の場所から喚ぶのだろうか?
セラフェートならまだしも。
そこまで考えてガルバはハッとした。
副官というのはある意味隠れ蓑かもしれない、と。
「さぁ?そこは想像に任せるよ」
そう返したショウ。だが、内心ヒヤヒヤしていた。
まさか女ってバレたんじゃないよな……。
一目で見破ったカミラ学園長という前例があるため、バレていないという保証はない。
しかしそれは、大いなる杞憂というものである。本人達には知る術がないのだが。
「やっぱり……そう、なのか」
こんな町の中で『定める者』の名前を出すのはマズい。
それくらいはわきまえているガルバは、あえて言葉を濁した。それがショウの警戒を強めた事など知らずに。
「とりあえず、ゼロンの所行ってからだな、話するのは」
追い打ちをかけるように団長は歩を進める。
その後を「そんなにバレやすいんだろうか……」と多少自信喪失しながら、黒髪の麗人は追いかけた。
「ゼロン、ジャマするゼー」
そう言ってノックも無しに外務官執務室に入って来たのは、ゼロンにとって現在、悩みの種その2のガルバだった。
ペパーミント色の髪と顔に張り付いているヘラヘラした笑いがやけに対照的に見えた。
「ガルバ、ノックぐらいしろとあれほど言っている……」
「細かい事は気にすんなって、いつも言ってるだろうが」
コイツ、子供以下だ……。
毎回思う、その言葉に溜め息をついた。
いや、口答えする分、子供より性質が悪い。
何故か世話係のような関係になってしまっている『駆ける者』と『拓く者』は、セラフェートに任命される前からの腐れ縁だ。
「ゼロン、今日だけで大分幸せ逃げているぞ?」
そう言って奴の後ろから現れたのは、本日付けで部下となった居候だった。
悩みの種その1である。
「大きなお世話だ、ショウ」
この部屋に他の人がいないため、本来の口調で返す。そして咳払いを一つ。
「大変だったみたいだな。学園ジャック」
噂好きな部下が早速持ってきたレッディーフ学園襲撃事件の集結の話。
その言葉を出すと、ガルバは後頭部を掻きつつ明後日の方向を見、ショウは深々と溜め息をついた。
「いやぁ、ウィルドに殴られていただけだったなぁ」
「ただのお使いのはずが……、クルセルドの陰謀だ」
同時に放たれた言葉にお互い顔を見合わせる。
「オマエ、『導く者』を呼び捨てかよ」
先に質問を投げかけたのはガルバの方だった。
「本人たってのお願いだからな」
至って普通に返すショウは大物だと評価すべきなのだろうか……。はっきり言ってガルバが納得しそうにない。
ゼロンは助け船を出す事にする。
「今日、ショウをプリズミカに招いたのはクルセルド様だからな。この世界に喚んだのもクルセルド様だし」
「ははぁ、やっぱりか」
そんな気がしていた、うんうん。
彼が妙に納得したように頷いた。
「ショウは『定める者』なんだな」
突然、彼が放った言葉。ゼロンは言葉の意味を知るなり固まった。
コ、コイツ、変なところで鋭いんだった……。
そんな事には動じないのがショウである。
「まだ候補の段階だ。今は外務省副官であって『定める者』じゃない」
「ショウ!」
ゼロンが咎めるような声を出す。
「確信を持って聞かれたんだ。隠しようがないさ。それに隠す必要はないと思うが?」
いや、あると思う。
彼女の上司は心の中で突っ込んだ。
目の前の親友はいつ、ポロッと言ってしまうか判らない。
まぁ、今日の召集に応じていたら、隠すまでもなく知る事になっていたのだが。
「候補、か。決まっているようなモンだろうに」
ガルバが笑う。
「気分の問題だ。知っているとは思うが、私は異世界から喚ばれた人間だからな」
自分でも仕方ないと思っているのか、ショウは肩を竦める。
「何で解ったんだ?ガルバ。ショウが『定める者』だって」
ようやく硬直がとけたゼロンが同僚に尋ねる。
「んあぁ?」
それに間抜けな声を出す騎士団団長。
このアーティオス大陸における警備機構のトップがコイツとは思いたくなくなる瞬間である。
「だってサ、『導く者』に喚ばれたって言われても、身元不明には変わりないじゃねぇか。
でもオマエの副官にいきなりなった。ついでに『導く者』じきじきに呼び捨てを許されている。という事は、それなりの地位をすでに持っているって事だと思った。で、今いない役職っていうと『定める者』だなっと」
半分は勘だ!と胸を張るガルバ。
これがあるから彼は、今の地位の職務を投げ出さずに済んでいる。それほど彼の見る目は幅広いし正確だ。
「ふむ。外に出た時は呼び捨てにしないように一応配慮していたのだが、無駄だったか」
その答えを聞いて黒髪の麗人は納得をした。
「そんな事気にするのはガルバぐらいだ。気にするな」
金髪の青年はようやく手に持ったままだったペンを机に置いた。
「用心に越した事はないさ」
ショウが目にかかる前髪を払った。
ゼロンとガルバは初顔合わせの時、盛大に喧嘩をして、「お前、やるな」「お前もな」的な事をやっています。